クエスト1 装備をしてみよう
予約投稿したつもりが間違って投稿さてれてました。
ま…いいか。
薄暗い室内の中、ジンジャーの香りが上るカップを片手にコンソールを叩いていく。中空に浮かび上がる文字盤と画面は、実体の無いホログラフ的な様相を呈している。
先端科学技術のようにも見えるが実際は科学と魔法の合わせ技による、新世代技術のプロトタイプだったりする。
「まぁまぁの使い心地か…」
「彼らのレベルが目標値まで達したようです」
プロトタイプの出来にGMが独り言つと、傍に控えていた老紳士が報告を伝えてくる。予定していたよりも数日早いその報告に、今まで打ち込んでいた彼らのデータが表示されている画面を見直す。
クリム
種族 竜種混血人
作成時に外見上の竜種特性を極力消してある為、一見すると人種にしか見えないが肉体能力は高い。魔力を捨て筋力と敏捷に特化させており完全近接職。
主力装備は槍と重装鎧だが普段は片手剣と軽装鎧で擬態している。
シュナイダー
種族 ダークエルフ
自称イケメン、浅黒い肌でブイブイいわしたいとは本人談。敏捷性に優れ長弓を使いこなし遠隔攻撃を得意としているが、隠密技術を生かした暗殺術も得意とする。
主力装備は長弓と軽装鎧、ステルス能力を有したマントも所持している。
タムタ
種族 小人族
種族特性の小柄な身体で子供にしか見えないが、実年齢は5人の中で最年長。比較的冷静な観点をもち、彼らが所属するギルド「腹黒騎士団」のリーダー。
課金アバターの各種制服をこよなく愛し常に着用している、攻撃魔法を得意としているがサポート的な補助魔法も使いこなす魔法職特化型。
制服型ローブと両手持ち杖を使用する。
テスラ
種族 ワイルドキャット
元世界では男だったがアバターが女性型だった為に性別が変わっている虎縞模様のネコ娘、露出度の高い装備の上にローブを纏いブイブイいわしたいとは本人談。回復魔法と補助魔法に特化した後方支援型。
主力装備はエロ防具にローブ、魔法少女型ステッキ。
カミヤ
種族 エルフ
元世界では男だったがアバターが女性型だった為に性別が変わっている、スタンダードな見た目のエルフ少女。課金アバターのドレスで隠れているが全身鎧で身を固め、最前列で敵の攻撃を一手に受けるタンカータイプ。
主力装備はドレスタイプの全身鎧と巨大片手剣にタワーシールド。
自ら打ち込んだデータを確認し、カップを満たす黄金色の液体で喉を潤す。傍で控える老紳士に視線を向け一つ頷くと、一礼して下がり静かに扉を開く。コツコツと床を鳴らし静かに閉まる扉の音を背後に聴きながら廊下を進む、窓から見える光景には遥か数千メートル下に青い惑星が輝いていた。
磨き上げられた大理石のような床の上に、その5人は転がっていた。体育館程の広さの場所には5人以外には他に無く、しかし床には夥しい数のひび割れが広がっていた。激しく上下する彼らの胸と色濃く浮かぶ顔の疲労に、ここで何かしらの激しい戦闘が行われていたようだ。
「騙されたんだって…」
「あぁ、騙された」
クリムの呟きにシュナイダーが同意する、他の3人は無言だったがその様子には同意するような雰囲気が感じ取れる。あの日、この世界にやってきた日にGMから選択を迫られた。
恐らくあの時には他に選択肢はなかっただろう、しかしそれを差し引いても勇者には彼らを惹きつける魅力があった、そしてそれに付随する強力な装備にも。
それでも演技だとバレバレだとしても彼らは悩む素振りを演出した、円陣を組み顔を付き合わせて相談する間も、5人の顔にはニヤケた笑みが浮かんでいた。他にどれだけの奴等が来ているのか知らないが、本来なら自分達5人が1番のハズレクジを引いたはずだ。
だが何の因果か180度回って1番の大当たりに化けている、今までの人生で今この時が大逆転のチャンスなのだと本能が告げている。
GMからの誘いに是と頷いた時に、彼女が浮かべた表情にゾクリと寒気が走った。普通の笑みだ、極普通の笑みだったが何故か悪寒が走った。一瞬自分達の選択に後悔しかけたが、これで良いんだと悪寒を押さえ込む。
そしてつれて来られたこの場所、異世界へと転移した場所から上空に数千メートル離れた場所。GM専用実験コロニー『ギガフロート』、その中にある模擬戦闘用フロアーに放り込まれたのが6日前になる。それから寝食以外の時間はこの場所で何度も何度も魔物との戦闘の繰り返し、体力と魔力の限界になると強制的に回復させられる。
現に今も床に転がる5人の下には、ゆっくりと回転する魔法陣が現れ擦り減り磨耗した体力と魔力を回復していく。
「ん、悪い…ちょっと吐いてくる」
「あいよ~」
のそのそと立ち上がる5人だったがテスラが腹を押さえ部屋の隅へと移動する、既に胃液しか出ないが込み上げてくる吐き気を我慢するより、吐いてしまったほうが幾分か楽になるのは全員分かっている為、心配する様子も無くヒラヒラと手を振り送り出す。
学校や社会に適合できず自分の部屋の中にしか居場所が無かった5人、しかしここに放り込まれ生死をかけた戦いを6日間繰り返した結果、精神崩壊するよりも先に順応していた。
口元を袖で擦りながらテスラが戻ってくると、それに合わせるように5人の前に1つの魔法陣が構築されていく。今まで幾十あるいは幾百の数の魔法陣が同時に現れていたのに今回はたった1つ、5人は最大限の警戒をもって身構える。
「目標達成ご苦労」
「うぉらぁ死にさらせぇ!」
たった1つの魔法陣から現れたのは飄々とした雰囲気を纏うGMであった、労うような言葉とは裏腹にその視線は彼等ではなく手元の資料へと向けられている。そのGMの姿を確認した瞬間、5人は反射的に攻撃をしかけていた。
今まで戦いを忌避して来た存在、しかし自分達をこの地獄の訓練部屋へと放り込んだ存在、理屈ではなく本能の部分で彼等は無意識に襲いかかっていた。
カミラが突進スキルからタワーシールドを叩き付けるが片手で掴まれ身体ごと彼方へと放り投げられる、その影から現れたクリムが閃光のような槍を放つが手の甲で流されそのまま掌底で腹を撃ち抜かれる、眉間を狙って放たれたシュナイダーの矢は指2本で摘まれ投げ返され膝に矢を受けてしまってな、両手に炎と氷の魔法を生み出したタムタが同時に放つが空中で相殺され頭を抱えて悩み、テスラは背を向けゲ〇を吐いていた。
「気が済んだか?」
「はい…」
一瞬でボロボロにされたが、同じく一瞬で治療された5人が諦めたように頷く。そうかと特に気にした様子もないGMは、では話しを進めようかと手元の資料を5人へと渡してゆく。
「これは?」
「お前達がランク12装備が使える適正レベルまで上がったからな、各武器のカスタマイズ数値の確認だ」
「適正レベル? 初耳ですけど…」
皆を代表してタムタがオズオズと手を上げてGMに問う、その言葉にGMは一瞬小首を傾げるが何かを思い出すように顎に手を当て思案する。
「ふむ言ってなかったな、ランク12装備はレベル110からだ、さて…」
「いやいやいや待って待って!」
サラッと流された事柄にシュナイダーが久々に待ったをかける、今までのこの訓練施設での地獄の戦いはパワーレベリングだったのかと、そうならそうと最初に言ってくれれば恨む事も無かったのにと詰め寄る。
大体アンタは最初から色々言葉が足りないんだ、もっちょっと聞くほうの身になってと愚痴をこぼし始めるが、ウッと呻いた後に糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
手刀を収めたGMが改めて話しを再開すると、力の抜けたシュナイダーの身体をクリムとカミヤが両脇から抱え案山子のように立たせていた。
「渡した資料にある武器と防具はGM能力として付加したインベントリの中に入れておいた、確認してみろ」
異世界転移以降、ステータスウインドウだけでなくアイテムインベトリも出せなくなっていた為、顔を見合わせた4人は忙々とインベントリを開けようとする。ポイッと放り出されたシュナイダー以外がインベントリを開けると、ランク12の新装備達がズラリとならんでいる。
基本数値の攻撃力や防御力の数値に嬉々とした声を上げつつ、本当ならランダムで付加される補助ステータスに、理想とされる種類が揃っている事に分かっているじゃないかとGMにサムズアップする。
その中でタムタだけがインベントリ内を凝視して固まっていた、その様子に装備に不備があったかとGMが問いかけると油が切れた駆動系のような動きでタムタが視線を向ける。
「お、おれの制服コレクションが、無いんですけど?」
「あぁ、装備中以外のアイテムはこちらには転移されていないな」
「お、おれの制服コレクションが、無いんですけど??」
壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返すタムタに溜息を付いたGMだったが、見た事もない種類のウインドウを開くと幾つかの項目を操作する。
「個々のデータの記録までは持ってきていないのでな、お前の所持していたアイテムが分からん」
取り合えず今まで実装した制服系アバターとオマケで没になったデザインと未実装分を与えておくと、若干面倒臭そうに対応した。その瞬間次々に自身のインベントリに追加されていく制服アバターを見たタムタは吼えた、両膝を地に付け天を突けとばかりに両腕を掲げたタムタは声の限り吼えた。
その姿勢からどうやって移動したのか一瞬でGMの足元へと移動したタムタは、一生付いて行くアンタは神だと称えた。
与えられた制服アバター郡には見た事が無い物だけでなく女性用の制服も含まれていた、しかも性別限定も解除されている。タムタの男の娘時代という新たな世界が幕を開けた瞬間だった。