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異界転招  作者: 山吹
3/4

転移門の先に3

ジョッキを口に運び中身が空になっていることに気付きピッチャーを覗きこむが、残念ながらそちらも飲み干していた。忙しなく料理や酒を給仕するウサギ耳の店員を呼び止め、幾度目かのビールの追加を注文するGM(ゲームマスター)の様子を、眉間に皺を寄せて見つめる5人。


その疲れたような雰囲気は呼び止めたウサギ耳店員が、筋骨隆々なおっさんだったからだけではないだろう。しかし当のGMはそんな5人を気にした風も無く、早々に運ばれたビールのピッチャーからジョッキに継ぎ足すと一気に煽る。


「くぅ…、この身体を酒に強く設定した甲斐がある!」

「そんな事までいじったんですか?」


大いに呆れた顔で問うシュナイダーに、当然だろう? と逆に呆れた顔で返すGM。この為に態々この世界に転移前に干渉し、転移実験を兼ねてビールの知識を記した書物を送ったのだからなと、胸を張ってムフーと鼻息を吐いた。


「なにやってんすか、あんた…」

「酒は甘露の雫だからな」


薄く色付いた頬と艶めいた唇に笑みを浮かべる姿にシュナイダーたち男だけでなく、元男だったテスラとカミヤもドキリとする。同じエルフ族のアバターのカミヤにしてみれば、内面の差をまざまざと見せられているようで微妙な敗北感を感じてしまう。


「GMさんと同じエルフなのに、色々負けてる気がします。胸か、胸の差か!」

「いや、私はGM専用のハイエルフアバターだからな。胸の最大値はエルフの倍だ」


ハイエルフのハイは胸の標高の事だったのかと、カミヤが己の慎ましやかな胸を揉む横で、真面目な顔をしたGMが話しを切り換える。


「で、お前達の中でどうしても向うに戻りたい奴は居るのか?」


大きくなれと唱えつつ胸を揉んでいるカミヤ以外の4人が顔を見合わせる、全員の答えはもう解っているのだ。自分達5人は実際には会った事すらない間柄だが、社会の枠組みから弾かれた自宅警備員ということは共通している。

そして今この状態こそが、望んで止まなかった状態だということも。


自分達が逡巡しているのは元の世界に帰る帰らないではない、如何にこの世界で目の前のGMから自由を勝ち取るかに他ならない。監視はまだいいだろう、多少の束縛も受け入れねばならないかもしれない、だが排除だけは絶対に回避しなければならない。

ゲーム時代とはいえ24人で組むレイドPTですら、たった1人のGMを倒すことができなかった。かなりの廃プレイヤーを自負しているとはいえ、5人で目の前のGMをどうにかできるなど自惚れてはいない。


ここから先は慎重に言葉を選ばねばならないだろう、テーブルの上に片肘を置き頬杖をついてこちらをじっと観察するGMの視線にゴクリと唾を飲む。長年かけて培ってきたアイコンタクトで頷きあうと、一番冷静なタムタが代表して話し出す。


「自分達は、この世界で暮らして行きたいと思っています」

「そうか、いいんじゃないか、あまりヤンチャしないようにな」

「早!そして軽!?」


あっさりと受け入れられたことに、拍子抜けして本音が漏れる。クスクスと笑いながらビールを煽り、GMが指を1本立てて5人に突き出す。


「最初はとっとと排除しようと思った、だがお前達の存在により幾つか懸案事項が生まれた」


笑みを浮かべてはいるものの、その視線にはまだ油断ならない物を感じ4人は息を飲む。カミヤは未だブチブチと小声で何事か呟きながら、胸をモミモミ。

まず1つ目は他にも不正ログインで此方に来ている者の存在、そして2つ目が不正ログインツール製作者の存在、そして3つ目が他の転移者が起こすであろう混乱。


「俺達の他にも転移に巻き込まれてると?」

「まず間違いなく居るだろうな」


迷い無く断言する様子にゴクリと息を飲む、空になったジョッキを置き足を組み換え腕を組んだGMが、エッヘンとばかりに胸を反らす。


「自慢だが私が組んだセキュリティーはかなりのものだ」

「でも不正ログインされてますよね?」


思わず突っ込むテスラの言葉にギロリと視線を送ったGMだったが、怯む4人を他所にその通りだと同意する。だが、だからこそ逆に引っかかるのだとニヤリと笑う。

ただゲームで少しばかり有利に立ちたいというだけで、不正ログインツールを組み上げるには些か無理がある。しかも一種類だけではなく幾つかの亜種を毎回用意していた、それだけの用意をするには相当量の時間を消費していたはずだ。


ゲームで出し抜くためにゲームをやる時間を割いて不正ツールを組む、本末転倒も甚だしい。本当の目的は他にあると見るのが妥当だろうと、GMは断言する。


「複数犯の可能性は?」

「いやツールの組み方にクセがありすぎる」

「じゃぁ他の目的って…?」

「便乗してこっちに来ることだろうな」


え…と固まる4人にGMは続ける、こいつは『仮想転移門システム』のポイントにも干渉しようとした形跡があるからなと。まぁ、そっちのセキュリティーはサーバー管理の比ではないから、58層の内の1層すら抜けずに撃退されていたがなと、ざまぁみろと嬉しそうに笑っていた。


結局GMが言うには5人が使用した不正ツールは失敗作だったのだろうと結論付けた、何しろGMのすぐ近くに転移したのだ、発見され次第排除されていてもおかしくない。

本来ならある程度の距離、できれば国を跨いだ程度の距離を確保して転移するはずだろう。だが今回は失敗作を引いた事で、お前達はより優位な立場を得た事になるとGMはほくそ笑んだ。


「優位な立場…とは?」

「こっちに来る前に向うで大型アップデートが実装されたのは覚えているな、ちなみに今のお前達のレベルとアイテムランクはいくつだ?」

「制限のレベル100と最強装備のランク10ですけど」


ふむと頷くとGMはゴソゴソと腰の後ろ辺りを探り出したかと思うと、ニュッと巨大な剣と盾を取り出す。その後も次々と長弓や槍、剣と杖等を取り出してはテーブルへと積み上げて行く。その異様な光景に5人だけでなく周囲もザワザワとざわめき出す。


「今回の大型アップデートでレベルは150、アイテムランクは15まで開放されている」

「マジスカ!?」


アップデートでも事前に実装される装備などの告知が少なかった為、アイテムランク15は流石に5人も予想していなかった。目の前に積み上げられた装備達を、胸を揉むのも忘れたカミヤも含めた5人が凝視する。


「残念だがここのあるのはアイテムレベル12の装備だが、お前達の現状装備より遥かに強力だ」

「く、くれるんですか?」

「タダではないがな」

「…条件は?」


ゲーマーの性か、より強い装備を欲する心に逆らえない。その事を理解しているGMの掌で転がされてるのもわかってはいるが、それでも強烈な魅力を放つ装備から目が離せない。

その様子を十分に確認した後、満面の笑みを浮かべたGMが両手を広げた。


「さぁ5人の戦士達よ、この世界での初クエストだ」




世界の秩序を守る勇者(バイトGM)にならないか?






ここまでがプロローグ

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