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異界転招  作者: 山吹
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転移門の先に2

5人と1人が降り立ったゲシュトの大草原から徒歩で8時間程、ゲームのステータスを引き継いだ肉体を得た彼らが走って30分程の距離を移動し、現在の一行は王国首都のとある宿屋でその疲れを取っていた。


「しかし女3人の内、リアル女が1人だけってどうよ?」

「しかもその1人もババァとか…」

「奴隷市場に期待かなぁ」


ハァ…と3人が揃って溜息を吐き出す、色々残念な会話をしている3人であったが、ゲームの中では上位に入る実力者であったことから、事戦闘力だけを見れば突出している。


黒の軽装備を主体としてコートを着込む地味な印象の片手剣の剣士クリム、豪華な装飾がされた派手な長弓を背に軽薄そうに笑うシュナイダー、まだ少年にしか見えない体躯に赤を基調としたセーラー服を着込み杖を持つタムタ。


「しかしシュナイダーさん、草原では随分と帰りたそうにしてましたが、実際どうなんですか?」

「いやいやクリムさん、内心はどうあれ建前的には……ねぇ?」

「当然僕は帰る気なんて更々ないから、GM(ゲームマスター)に何も言ってないよ」


胸を張って帰還の意思がない事を主張するタムタに、クリムとシュナイダーが拍手を送っていると、派手な音をさせて扉が開かれる。


「異世界最高!」


扉が開かれた場所に仁王立ちし、頭上のネコミミを忙しなく動かすネコ娘テスラが、親指を立てた手を付き出す。その姿に男3人は訝し気にするが、テスラは気にする様子も無く男達の元まで進むとドッカと座る。

何があったのかと恐る恐るクリムが尋ねれば、よくぞ聞いてくれたとバンバンとテスラに肩を叩かれた。


「汗を掻いたから女同士で風呂に入ったんだけどさ、もうボッキュッボンよボッキュッボン!」

「な、なんだと!?」

「ナハハハ、俺もボッキュッボンでやんの♪」


セルフ自巨乳を両手で揉みし抱くテスラの胸元を、3人の男達が凝視する。まるで地殻変動かという程に激しくうねる双丘だったが、唐突に床へと転がるテスラで見えなくなる。


女子(おなご)になったのだから、少しは慎みをもたんか」

「了解です、ボッキュッボン師匠」


白金の軽鎧に身を包むGM(ゲームマスター)がテスラを蹴ったであろう足を静かに降ろす、当のテスラは壁まで転がり上下逆さまになった姿で器用に敬礼していた。いつの間にか親密度が増してそうな2人の様子に、裸の付き合い効果かと羨ましがったり驚愕したりしている男達に、ポイッと5人目のプレイヤーであるエルフ娘のカミヤが放られる。


どうにか受け止めたシュナイダーの腕の中で、カミヤの顔は鮮血で赤く染まっていた。余りの自体に一瞬固まったが、直ぐに持ち直し安否を問うシュナイダーとクリム。しかしカッと目を見開いたエルフ娘カミヤは、満面の笑みを浮かべて叫んだ。


「彼女は最高よ!」

「ダメだこいつ…」

「ネタ言えるなら平気だな…」




ガヤガヤと騒々しい宿屋の中の食堂で、丸テーブルを囲む5人と1人はテーブルに並べられた各種料理と酒を嗜んでいた。今回の異世界転移についてGMに経緯を聞きたい5人に、当のGMは話しは腹を満たしながらと、さっさと食堂へと移動し注文を済ませた。

他の人間に聞かれると拙いのでは? との問いには日本語で話せば解りはせんと、ビールを煽るGMにあっさり流されてしまう。


「ふむ、肉を食べて美味いと思えるのは幸せだな」

「ババくさいですね…」

「まぁ実際ババァだからな」


老体に肉は重すぎてな、等と若返った身体にご満悦なGMの様子に場の空気は明るい。しかしその中にあって、タムタだけは神妙な顔で考え込んでいた。何気ない今の会話の流れにあって彼はある事に気が付いたのだ。


「ねぇ、僕達っていつの間にかこの世界の言葉を話してたよね」

「…あぁ、そういえば」

「しかも意識しないと日本語よりも、こっちの言葉が自然にでるくらいに」

「…あ」


一斉に5人の視線が集中する中、ビールを飲み乾すとギリギリ及第点かなと呟くGMが、隣に座るタムタの頭上へと指を動かすと半透明のウインドウが現れる。


「ステータスウインドウ?!」

「そうだ、今は私しか開けないがな」


お前達以外には見えて無いから気にするなと言いながら、指でウインドウ内の表示を上へとスクロールさせると、ゲーム内では見ることができなかった隠しステータスがズラズラと表示されていく。

その圧倒的な項目数に5人が呆然としていると、心底可笑しそうにクスクスと声が漏れ出す。


「異界に移るというのに、単純な項目の調節だけで済む筈が無いだろう? 言葉然り、未知の病気に対する抗体しかり、そもそも魔力という存在すらも毒とも成りうるのだ」


未完成の『仮想転移門システム』で異界のこの世界にアプローチして、色々と対策を取るのは難儀したんだぞと、手酌でビールを注ぎながら自らを労う様に溜息を零す。散々苦労して構築したステータスをポッとでの奴らにも使われて、いい迷惑だ等と愚痴り出す。

絡み酒面倒くせぇと思いつつも、顔には出さずに今回の件の確信部分の質問へと進める。


「そもそも『仮想転移門システム』ってなんなんですか?」

「お前達風に言うなら、惑星サイズで構築された異世界転移用の巨大魔法陣だ」

「……そんなデカイ魔法陣なんていつ描いたんですか? てかそもそも無理でしょう?」

「実際描いてココにきているだろう、それに描いてくれたのはお前達ユーザーだぞ」


盛大に疑問符を浮かべる5人に、骨に付いた肉を噛み千切りながら、あるだろうお前等の大好きな世界を結ぶ線が、と呟くとタムタがあっと何かに気付く。


「インターネットか!」

「御明答」


パチパチとぞんざいに拍手を送るとそこから1時間程語り出す、しかし聞いた事もないような専門用語の羅列に、5人の思考回路のHPはもう0よ状態になっていた。その様子に少しつまらなそうに口を尖らせたGMだったが、しょうがないと大幅に要約して語り出した。


彼女が見つけ出した理論から電脳世界、インターネットで構築された情報構造体の先には、まるで水面を境にするように存在するもう1つの物質世界が観測されていた。時間軸すら異なる2つの物質世界は本来なら干渉どころか観測すら不可能なはずだったが、情報構造体というフィルターを通すことで僅かながら干渉ができるようになっていた。


元々の世界に見切りを付けていた彼女は、新天地としてもう1つの物質世界へ渡る事を決める。その手段として情報構造体を構成するインターネットを使うというのは、至極自然な発想だった。

ただその為には情報構造体の要所に観測と干渉ができる幾つものポイントを構築する必要があった、そこで目を付けたのが数万人規模で構成されるオンラインゲームであった。


彼女は『仮想転移門システム』と呼称したポイント生成プログラムを組むと、過去のゲームデータと最適解で導き出した新要素を組み込み、VRMMO業界に殴りこむと瞬く間に数百万のユーザーを確保した。

当初は笑いが止まらなかった、何しろ勝手にダウンロードして勝手にポイントを増やしてくれるのだから。


後は簡単だ、『仮想転移門システム』で構築したポイントを組み合わせ、情報構造体を通り抜け物質世界を渡る道を創りつつ、ゲームに擬態させながら新天地でも問題なく活動できる新たな身体(キャラデータ)とステータスを組み上げていく。

ユーザー達が好き勝手に暴れるお陰で見つけ難い不具合もサクサクと見つかり、彼女からしてみれば万々歳だったほどだ。


「じゃぁ、課金金額が滅茶苦茶安かったのは…」

「向うの金なぞ、こっちに来てしまえば用は無いからな」

「不具合修正が滅茶苦茶早かったのは…」

「修正するのが目的だしな」

「元の世界に帰れないっていうのは…」

「インターネットないしなココ」


草原から走ってくるよりも、ドッと疲れた5人だった。


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