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異界転招  作者: 山吹
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転移門の先に1

天才とは得てして周囲には理解されにくい。

彼、彼女らにしてみれば、ちゃんと理論に則って組み立てられた方法論も、できる筈が無いという理由だけで否定されてしまう。

そして彼女もその独特な理論から、数々の功績を否定されてきた。残された人類が彼女の理論を理解し、その有用性に気が付くまで数十年、いや世紀を跨ぐ程の時間を有することになる。


残念ながらその時には、もう彼女はこの世界の何処にも存在していない。


常識という檻に閉ざされた世界に拒絶された彼女は、その理論に則った1つのゲームを創り出した。現実世界に産まれ出た電脳世界のその先に、もう1つの世界へと続く扉を見つけた彼女が創りし『仮想転移門システム』を組み込まれたゲームは、瞬く間に世界中で人気を博し数百万のユーザーという被験者を獲得した。


十分な数の被験者を得た彼女の研究は5年という月日を経て実を結び、自らの意思で古く朽ち果てそうな肉体を捨て、新たな世界へと旅立って行った。


この世界を去る最後に、被験者として多大な貢献をしたユーザーにお礼として大規模アップデートを残したのは、彼女にしてみれば奇跡ともいえる心尽くしだったのかもしれない。

自身が去った後には己を否定したこの世界には不要と、『仮想転移門システム』だけを消去し静かに去っていった。


その際に幾人かのユーザーが巻き込まれ、彼女と同じくゲームデータのステータスを得て門を潜ったのだが、それは彼女にしてみれば些細な事柄でしかなかった。





大草原ゲシュトの中心部において、予定座標へと無事に異界転移されている事を確認し、彼女は満足気に頷く。次に自身の左腕に装備された白金の盾と対になった剣、そしてその身を包む同色の鎧を確かめる。

その際にサラサラと靡く金糸のような長い髪と、人の耳としてはいささか長すぎる耳を触り、己の肉体の置換も滞り無く済んでいる事に大業に頷くと、その視線を遥か上空へと向ける。


本来なら見えるはずの無い程の高度には、巨大な浮島を思わせる人口の建造物が、軌道上をゆっくりと周回している様子が見える。確立的には異界転移する上で1番のネックであった、大事な研究施設も無事にその存在を確認できたことに、大きく息を吐き安堵する。


「さて…」

「いや、ちょっとまて!」


当面の問題は無いと納得し行動を起こそうとした彼女に、背後から唐突に声がかかる。出しかけた足を咄嗟に止めた彼女だったが、異界転移したばかりの自分にこんな場所に知人がいるはずがないと考え、納得すると構わず足を進め出した。


「いやいや、無視するなよ!」

「はて?」


今度は声だけでなく肩を捕まれ呼び止められたことに、流石の彼女も呼び止められたのが自分だと気付き不思議そうに振り返る。


「なんだ? 第1現地人」

「いやいやいや、そんなどこぞの旅番組みたいな扱いするなよ…」

「貴女ってGMの人ですよね、前に見た事があります」

「私も見たことあるわ、ねぇこれってどうなってるの?」


振り返った彼女の視線の先には、不安そうな顔で見つめる5人の若者達が居た。






「それじゃぁ何か? 俺達はアンタの創った『仮想転移門システム』? とやらに巻き込まれたってことか?」

「状況から推測するにそうだろうな」

「戻れる…んですよね?」

「無理だな」


彼女は一瞬の間すらなく元の世界、地球への帰還の可能性を否定する。


「ど、どう責任取るつもりなんだ!」

「何故、私が責任を取るんだ?」

「な、なぜって、俺達を勝手に巻き込んでおいて!!」

「私がシステムを起動させた時間はまだアップデート時間中だ。なのに巻き込まれたと言うことは、君達は不正ログインをしていたのだろう?」


重大な規約違反をして巻き込まれた事案を、何故ゲーム関係者側というだけで責任を取らねばならん? と、自分の感知する事柄ではないと当然のように切って捨てる様子に、5人の若者は困惑する。


「まぁそれでも、予期せぬイレギュラーが私以外に5人も存在するというのは、些か問題があるか?」


顎に手を当て思案する彼女に若者達は一縷の希望を抱いたが、向けられた視線にはその背に冷たい汗を流させる何かを感じ取ったのだった。





今から5年前にサービスを開始した国産大型VRMMOには、多くのユーザーが一斉に飛びついた。既存のVRMMOとは一線を隔すリアルなグラフィックもそうだが、その人気を支えたのはシステムの自由度とその圧倒的なまでの安定性と不具合の無さであった。


オンラインゲームに付き物である不具合だったが、事このゲームに関しては例え不具合があったとしても、極一部のユーザーが認識できるかどうかという僅かな時間で修正されてしまう。

運営より先に不具合を見つけて報告できたという事が、廃プレイヤーにとっての一種のステータスにすらなっていた。


不具合報告を書いている間に修正されていたと、2chにスレが立ったという都市伝説すらできたほどだ。


そしてその安定性もずば抜けていた、定期メンテナンスが月に2回しかないにも関わらず、一切のラグが確認されたことがない。


0.1秒のラグが発生したことに運営から謝罪があったと、2chにスレが立ったという都市伝説が(ry



さてゲーム自体も面白く、絶対的な安定性と突出した不具合修正を備えたオンラインゲームがあったらどうなるか? それは24時間戦えちゃう戦士どころか、365日戦えちゃう戦士が誕生してしまうということである。

多くの自宅警備員が集い、骨の髄までしゃぶり付くさんと切磋琢磨しあった。それですら5年もの間人気を維持し切ったゲームの完成度は目を見張るものがあるだろう。


そんな365日戦士達の中に、5人で集う少数精鋭を謳うギルドがあった。


「おい、本当に大丈夫なんだよなコレ?」

「確かな筋から手に入れたから大丈夫だって」

「う~~ん…」


大型アップデートを数時間後に控え他者を僅かでも出し抜こうと出先も不確かな不正ツールを使い、メンテナンス中にログインを果たそうと画策する5人。定期メンテナンスも含め大型アップデートでのメンテナンスでも、作業終了状態から2時間ほどは突発的な問題に即座に対処できるようにと、サーバーを開放しないことは一部の廃ユーザーの間では有名だった。


不正ログインをしてサーバーに対する攻撃でもしない限りはアカウントが削除されたりはしなかった、むしろ不正ログインされる方に問題があるとより強固な防衛を組み上げ2度と同じツールでログインさせない程であった。

だからであろうかイタチゴッコのように不正ツールが作られ、しかしその9割以上が未然に防がれ、また使う側の罪悪感を薄れさせていった。


「じゃぁお前ら使わないんだな?」

「使う!×4」



こうして1人の天才と5人の自宅警備員が、電脳世界から異世界へと乗り込むのだった。


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