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ケイリーが一通り笑い終えた所でフーガとの会話が終わったルウがヒョッコリと顔を出し、先を促しにかかる。
「ねぇねぇ、早く作戦会議始めようよっ、ゆっくりしてるとせっかく集まってくれた皆が帰っちゃう」
幾らか時間をずらしているとはいえ、確かにルウの言う通りあまり時間をかけすぎて仕舞うと、せっかく集まった生徒が業を煮やして帰ってしまうだろう。そんな事を考えている間ルウはなにが楽しいのか「会議っ会議っ、作戦会議っ!」などとのりのりだ。おそらくフーガがルウの気を引くために誇張したのだろうが、まあ、意味合いは同じなので別段気にする必要はないので良しとしよう。
「そうでありますな、このままですと一向に話が進まないように感じますし…では、始めますか」
「早く、はやくっ」
ウォーはルウのことは見て見ぬ振りでやり過ごし、広げられた地図の二か所にピンを刺しそれから現在地を翼で示す。
「ええ、では、今我々がいる場所から公道を通った先、山間に位置するレニウェルの別邸と更に山の少しばかり奥に位置する旧居住区の二手に分けて探索する手筈ですが、ここまではよろしいですか?」
ウォーが本題に入る前に皆の方に目を向けながら聞くと、フーガが声を上げる。
「そういやあ、同時に二か所を探すのはどうしてだセル?確か、旧居住区の方でほぼ確定なんだろう?」
「ああ、それか……そうなんだが、いや、だから二手に分かれたんだ、俺だってこんな面倒なことはしたくないんだよ…そもそも俺達研究者のためにも本当なら諸手を上げて協力すべきだろう…それなのに盲碌な爺どもときたら…――」
フーガに対して説明をしだすかに見えたセルは苛立ちを隠さずブツブツと呟き、少し俯き前髪を抓みいじっている。
「??あれ?これって…」
「ああ、ダメだケイリー、セルの奴またスイッチ入った。説明よろしく」
セルゲイツはこうしてたまにではあるが、会話中に一人の世界に入って仕舞うと事がある。普段から思考に耽る事が多いせいか、セル自身はそれに気付かず喋り続けるのだが。
特にこういった状態に陥る要因が、不満である。セルは行動の障害がある場合、それに対する不満を口にしながら自身を納得させるために理性で一つ一つそうなった事象を検証していく、といった、どうにも面倒な性癖の持ち主なのである。このせいで、彼が学園の生徒や教師から奇異の目で観られていることに本人は気付いて居らず。
今では学園全体で、彼は人には言えない研究をしている、と、在らぬ疑いをかけられているのだ。
セルのスイッチはいつもの事で、対処はいつもケイリーがしている。その手腕はピカイチだが、発揮される事はまずなく、基本的に放置されている。
「チッ、面倒な…。」と、 ケイリーは舌打ちして、未だ自分の世界に入って帰る様子のないセルを見てとり、自分が説明するのと、セルを元に戻すのを両天秤にかけた結果、自分で説明する事にした。
「ここ近辺に警備が入っているからだよ、基本はレニウェルの別邸の警備だけど、旧居住区もその管理下にある。一度警備に捕まったら次からの警備が厳しくなる恐れがあるからな」
いい終えると「はぁ」とため息まで吐いて、手近にあった椅子にどかっと座りひじ掛けに肘を乗せ頬杖をつく。
「そう言えばさ、あそこって私達獣人が護ってる土地だよね?」
ルウはウォーが示した地図の旧居住区がある場所を見ながら言う。
「ああ、代々あの土地は獣人のギギ族が護っている」
これにはフーガが頷きながら答えた。
「なら、フーガがお願いすればわざわざこんな事しなくても通してもらえるんじゃない?」
「それじゃあ、つまらないだろ、ルウ?それに、大人達に話して何かがあってもなくても、何かしら言い訳やら、役所連中に対する事後処理なんかもせにゃならんかもしれん。
これなら子供の戯れ、現状注意と一時の警備強化で終わってくれる。目当ての物が見つかっても、それを知っているのは俺たちだけ…。そしたらセルが思う存分本領を発揮して、なんか面白いことを仕出かしてくれるってわけさっ」
「そうそう、退屈な学園生活における俺たちに許された戯れ。学園という籠の中で、窮屈でありながら、ある程度の自由が許されているこの中で、学徒という肩書きを利用しないてはないだろう」
「そういった増長は容認できないんだけどな。ケイリー。
まあ、私も学園の生徒が危険な目に会わない限りは大目に見るつもりだけれど…」
ケイリーの開けっ広げな言葉に、困った様に言うニコラ。だが、そんな事を言いながらも、どこか楽しげでもあり。この場にいる全員がこれから起こる騒動を思うと愉快で堪らないのだ。