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 手に持っていたその紙を次の席へと渡し、内心ではこの宝探しが楽しみで仕方ないところだがそれをおくびにも出さずこの退屈な授業が早く終わるのを待ち続けた。

 授業が終わり急いで仲間達と合流を図る為に席を立つ。


「よっし、やっと終わったか」


 口をついて出た呟きはご愛嬌と言う事で良いだろう、それくらい待ち遠しかったのだから


「おい、これからだろ?」

「そんな事は言われなくても解ってるての」


 俺の呟きに一々水をさすのは同じクラスの人間、悪友とも言える“ケイリー・マーク・ライアン”と共に教室を出た。ケイリーの家系は魔導士で長身長髪、肩で束ねた髪は薄い空色を持ち日にあたると透き通る様に煌き、深紅の切れ長の瞳は彼の白い肌をより際立たせていて。見た目は申し分無い美人ではあるが、普段、学校では優等生のうえ、持ち前の外面の良さで学年委員なんかの役職を降られそうになる度に何やかんやと理由を付けてかわしているが、ケイリーの本性は皮肉屋で、すこぶる捻くれた性格をしている、彼の本当の性格を知る数少ない仲間内では彼のことを八方美人のケイリーと呼んでいる。


「よう、セル、クラスの奴ら来ると思うか?」


 教室を出ると後ろから同じクラスの獣人である“フーガ・グニー”が声を掛けて来る。その隣には何時もフーガの側にいる同じく獣人の“ルウ・マロー”がフーガに寄りかかる様にしてやって来る。フーガとルウは獣人でフーガは族長の息子で次期族長として周りからの信頼も厚く、大柄で屈強克強靱な体駆を持ちそれを強調する様な浅黒い肌と鳶色の髪の毛は短く刈り上げられ彼等の種族のシンボル的な獣耳が伸びている、瞳は野性的な金色で普段は威圧感を感じさせないが、こと戦闘になると一瞬にして纏う雰囲気がガラリと変わりその眼に留まった者は身を竦めて仕舞う程だがメンバーの中ではムードメーカーで尚且つ豪快な男だ。

ルウの方は種族の中では小柄で猫の様な身軽さが彼女の持ち味だ。ルウは赤茶の髪の毛から覗く獣耳に左頬には獣人族の間で昔から続くペイントがされている。このペイントは何十種類かあり、それぞれ意味があるもので、ルウのものは"調和"を意味するものだ。頬の上にはくりっとした大きな瞳は深い緑色で持ち前の愛嬌の好さを助長させ彼女の天真爛漫さや自由人さを緩和してくれている。揃ったこの三人のクラスメートと、違うクラスにいる二人の仲間で今回の企画を企てたのだ。


「?…どうだろうな、来るんじゃないか?俺なら絶対行くし……」


 全くクラスの様子を見て居なかったセルはフーガの問は全然意識していなかった、来る事を前提として事を企てたのだから。


「無駄だよフーガ、セルに聞くなんて、セルってばもう心此処に在らずって感じだったもの」


 そう痛い所を突いて来るルウは愉しげに耳を揺らす。


「そういうお前だって人のことは言えないと思うぞ、ルウ」


 助け船を出してくれたのは人のあしらい方を良く心得ているケイリーだ。

図星を指されたルウは明後日の方を向いてしまった。

癪に障るが俺達の中でケイリーと言い争いをして勝てる奴はいない。

先に言っておくが俺達が馬鹿だとかそういう訳ではない……


「セルは言うまでもないが、ルウはもういつ席から立って行っても可笑しくない程ソワソワしていたしな。因みにクラスメイトの半分位はきそうだぞ」


 構わず話し続けるケイリーに最初は無視を決め込んでいたルウだが、クラスの半分が自分達の計画に乗り気だと聴くや否や物凄い勢いでケイリーにくらいつく。


「えっ!?何でケイリー解るの?」

「お前らはこの紙がまわされている間のクラスの反応を見てないだろ」


 言い終えるとケイリーはあからさまにため息を吐いてみせるが、ここで言っておきたいのはケイリーに口で勝てないのは俺達が皆揃って注意力散漫で、自分達の周りを一切気に止めない所があるせいか、いつもケイリーに挙げ足を取られて終うからだ。ときには挙げた覚えのないものまで……。


「クラスの皆、行くかどうか嬉々として話していたし近くの席の子に声を掛けたら芋づる式で結構な人数が集まりそうだったからな」

「さっすがぁ八方美人のケイリーだね!」

「本当、外面いいもんな」


 ケイリーの言葉を聞いたルウがフーガの肩から身を乗り出しながらおだてているのか貶しているのかどちらか分からない誉め言葉を言うルウにフーガが賛同するように続くが2人に他意はない、ケイリーもこういう明け透けな所を気に入っている様ではある。だが、そこで黙っている訳がないのが俺達のケイリーで


「お前らがもう少し周りに気を使えば俺が外面を取り繕う必要なんてないんだがなぁ…」


 皮肉たっぷりにケイリーは笑いながらその切れ長の紅い瞳で冷やかに一瞥する。目が怒っている。


「わ、悪かったよ、いつも気を使わせて仕舞って」

「フン、解れば良いんだよ」


 慌ててケイリーの機嫌を取り直そうとした俺だったが、考えてみると俺が機嫌を悪くさせた訳ではないのだし態々仲裁して遣らなくても良かったのでは…

いやっ違う、それは違う、ケイリーの機嫌を損ねるのは非常に危険だ。以前ケイリーがキレた時に身を持って、その執念深く的確に相手のダメージの大きい事態を引き起こすケイリーの手管に今思い出しても身の毛も弥立つ想いだ…

思い出したくもない過去は取り敢えず置いておくとしても、つい慌てて仕舞う位ケイリーに迷惑をかけ、尚且つかけられているんだ俺達は。


 紙に書いていた集合場所には行かず、先に図書館の奥に使われていない部屋があり、其処を俺達は使っていた。部屋に着いた俺達を待っていたのは人間の"ニコラ・C・ロペス"と、梟の獣人"ウォー・スン"であった。ニコラとウォーは俺達とは違うクラスで、ニコラは女子にしては珍しく剣術を得意とした魔法剣士として学園では一目置かれていて、それもあり彼女は学園の風紀委員を任されている。肩に届くか届かないかのグレーの髪に青灰色の瞳その右下にちいさな涙黒子が彼女の可憐さを引き立たせており、そんな容姿も相まって校内で人気の高い人物である。それからウォーはルウやフーガと違う世界から渡ってきた種族で梟がそのまま大きくなった様な姿、翼がすっぽり収まる位袖が広いローブと小振りの眼鏡を掛けているもののその眼鏡はいつもずり落ちて仕舞いそうだが、その度に器用に翼を使いもとに戻す。それでも落ちて仕舞う事があるのか眼鏡にはチェーンがついていて落ちても大丈夫なようにしている。

そんなウォーは俺達に気付き小さな体と自らの翼を慌ただしく動かしている、やはり俺やルウと同じでウォー・スンも心待ちにしていたのだろう。


「やっと来たでありますか、さあ、早くこちらに」

「この後の役割をもう一度確認する必要があると思うの」


 そう、言葉を続けたのはニコラだ。ニコラは部屋の奥の机の上に資料を広げる手を休めこちらを見ながら言い、透けるようなグレーの髪を耳に掛ける。


「準備は万端にしなければならないかと思われます。失敗しても成功するにしてもクラスの方々には秘密な訳でありますし」


 ウォー・スンはニコラの隣に地図を拡げる。話を聞いていたルウがそこで不服そうに口を挟み出す。


「え〜、成功したら喋っても良いんじゃないの?」

「おいルウ、失敗なら未だしも成功して喋っちまったらダメだろ、俺達が他のクラスメイトを囮にしてる間にお宝を探すのだから、本当の理由を知られちゃ不味いだろ?」

「それに、俺達が探し当てても独占出来なきゃそこまでする意味が無い。」


 ルウの疑問には淀みなくグニーが答える。その横で様子を見ていたケイリーやニコラは苦笑いでいるし、ウォーに至っては頭を抱える始末、それもそうだろう、その事については計画を建てた時点で決定していたのだから、今更だろうと、皆呆れて居るのだ。とりあえず俺はいまだに頭を抱えるウォーがいたたまれないので、ウォーの肩に手を置いた。


「セルゲイツ殿?何ですかな?その手は…」


 ウォーは猛禽類独特の大きな鋭い目を俺と、肩に置かれた手を見ながら問い掛ける。


「ん?なんだかウォーが一番不憫に見えたから慰めようかと…」


俺の答えを聞いたウォーは更に頭を抑え、軽くかぶりを振った。


(わたくし)は今、止めを刺された気持ちですぞ」

「違ったのか?あれ?ん〜、ごめん」


 可笑しい、気を使ったつもりだったのだけれど、何を間違ってしまったのか解らないが、

それでも何か間違ったのだろう…

 ウォーの肩に置いていた手を離し、謝ったもののなんだか腑に落ちない面持ちで先程までウォーの肩に載せていた手を眺める俺に追い討ちを掛けるようにニコラとケイリーが(たしな)めてくる。


「無理をしなくて良いんですよ?ベイト君」「フフッ、そうだぞセル、まあお前にしては上出来だけどな」


 ケイリーはともかく、ニコラはどうも本気で心配しているようだが、今はむしろその優しさが痛い。


「ケイリーならまだしも、ニコラまでそんな事を言わなくても…」

「だってベイト君、人間出来ない事はしない方が良いんですよ」

「っ!!……。」


 ニコラの言葉に絶句している俺を余所にケイリーは「クククッハハハッ」とそれはもう愉しそうに笑っている。普段のケイリーならこんな笑いかたはしないだろうが、それは取り繕う必要のない俺達だからこそ、平然と人を貶め、冷笑を浴びせるのだが、

ケイリーのつぼを突いた当のニコラは全く悪気は無くキョトンと、笑い出したケイリーを見ていた。




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