表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主従な関係  作者: 鰤金団
7/8

第七回 ミッツーと強引な約束

 それはミッツーの部屋での事だったという。

 ある日突然代高さんが彼の部屋に押しかけてきたそうだ。

「ミッツー、私達高校では幼馴染って事は秘密にしましょう」

「いきなり押しかけてきてなんだよそれ。意味解んねーよ。理由は何だよ、理由は」

 唐突過ぎて同意も否定も出来ないとミッツーは、秘密にしようとする意味を尋ねたらしい。

私も同じ事を言われたら、当然同じように尋ねただろう。

 彼女はこう言ったらしい。

「気づいたのよ、この歳まで成長した幼馴染の怖さに!!」

 答えになっていない答えに、頭を抱えたミッツーは

「えーっと、飲み物持ってくるからそれまで待って」

「あ、私オレンジジュースで良いから」

 飲み物を用意して話を聞く事にしたという。

「で、何で急にそんな事言い出したんだよ」

 改めて尋ねるミッツーに、代高さんは自分の理論を話し始める。

「小学生までなら仲が良い友達までで済ませられるじゃない?」

「そうなのか? まあそれで良いや」

 どの道代高さんの超理論にはついていけないと、細かい突っ込みをせずに彼は話を進めたそ

うだ。

「中学になったら色気付いてくる頃なのよ。思春期なのよ」

「だな。保健でやったから知ってる」

 ここで代高さんは、この先が本題だからと

「高校で一緒だったらもうね、こいつら出来てるとか、絶対狙ってるよね? っていう風に見

られるようになるのよ!!」

 かなり本気な目で断言したそうだ。

 話を聞いたミッツーは、その呆れた理由に頭を掻きつつ

「そんときゃそんときにちゃんと説明したら良いんじゃないの?」

 そう適当に返したそうだ。

「だからその説明を省きたいんじゃないの!!」

 ミッツーは代高さんに両肩を痛いくらい掴まれて言われたらしい。

「それにほら、あいつら否定してるけど裏では――とか言われるわ。絶対にね。それが高校で

好きになった人の耳に入ったらチャンスが無くなるじゃない。嫌、そんなの嫌よ、絶対にね」

 ミッツーは腕が痛かったし、自分はどっちでも困らないからという理由で承諾したそうだ。



「で、一方的な要求を呑んだのさ。いやあ、あの時は本当に痛かった。後で見たら痕付いてた

し」

 話し終えると、彼には今の話が笑い話らしく、笑っていた。

 私は、代高さんの時々ある物凄い勢いは知っていたけど、ここまで無茶苦茶な事をするとは

思っていなかったので、ポカンとしてしまっていた。

「えっとね、それじゃあ二人は幼馴染っていうだけで、それだけの間柄って事なの?」

 にわかには信じ難い話なため、もう何度目かも分からない確認をした。

「そう。何度も言ってるけれど、私達は幼馴染よ。それにね、私は年上が好きなの。今はサッ

カー部二年の宗田先輩ラブなんだから」

 乙女っぽい動きで打ち明けられ、私は若干引いてしまった。

 こんな乙女チックな彼女を見た事が無かったのもあるし、本当にキュンキュンっていう効果

音が鳴りそうな動きをしていたから。

「はっ! それはともかく、話の続きといきましょう」

 私の引いている視線に気づいた代高さんは正気に戻ると、今度は私が怪我をしてからの二人

の行動について説明を始めた。

「最初はね、今月の二日の夜にかかって来たミッツーから電話ね。『清澄さんを怪我させたー』

ってそりゃもう情けない声で、録音してれば聞かせたいくらいな面白音声だったわよ」

 そんなミッツーの声も聞いてみたかったと私は惜しい気持ちで一杯になった。

「いや、思い悩んだ声だから。情けなくは無かったから。清澄さんの前で変な事言うなよ」

 すかさず事実の訂正に入るミッツー。

「何言ってんの。私に頼った時点で情けないっての。話を聞いてみると、学校まで一緒に行く

事になったっていうじゃない。こりゃもう好都合って思って、一策講じたのさ」

 思い出しながら話す彼女の様子に、女子会議時の楽しそうな様子が蘇る。話は事前に聞いて

いたから、もう前日から楽しみで楽しみで仕方なかったのだろう。遠足前日の子どもより質が

悪い。

「それで、その一策っていうのが主従関係?」

「そう。子分根性が染み付いてるから丁度良いかなって。実際、背負ったり、甲斐甲斐しかっ

たでしょ?」

 甲斐甲斐しいよりも逞しいって思ったけれど、後々の事を思い出して私は恥ずかしくなり

「ま、まあまあね」

 弱めの強がりで答えた。

「私的にはもっとビシバシこき使ってたら面白かったんだけどね。律はそこら辺優しいから」

「いや、清澄さんは普通だから。アキちゃんがおかしいだけだからな」

「何失礼な事言ってるのさ。あれか、律の前だから強気なのか?」

「ば、違うし。そういうんじゃねーし」

 なんか前にもこんなやり取りを見たなと思うと笑ってしまった。

「おっといけない。脱線してたわ。私的に一番ピンチだったのは文房具店でこいつがしたうっ

かり発言だわ。いやー、聞いた時は焦ったわー」

 話を戻した彼女は、キッとミッツーを睨みつけ、文房具店での事を口にした。

(そういえばあの時、話をしたらなんだか代高さんの様子も変になってたっけ)

「もしかしてそれも事前にミッツーから聞いてたの?」

「聞いてたよ。でも知らないふりしとけばどうにかなるかもって思ったんだけど、やっぱり駄

目だったわ。律が噂の本人に相談して来るんだから超焦ったわ。不自然に見られないように誤

魔化すのに必死だった。あ、一応言っておくけど、私が一部始終を知ろうとしてこいつに聞い

てるんじゃないからね。こいつが困って連絡してくる以外では、秘密がばれそうになった時の

内容しか聞いてないからね。いくらドロドロ話が好きでも、流石に盗聴まがいな事はしないか

ら」

「うん。そこは信じるよ。前に私が落ち込んでた時も強引に聞こうとはしなかったしね」

勘違い出来る状況だったとはいえ、さっきは随分と酷い事を考えていたなぁと自己嫌悪してし

まった。

 それにしても、代高さん達の隠し事の話じゃないけれど、悩みを相談出来る相手が異性だっ

てなれば確かに勘繰りたくもなるなぁと、話を聞いていて思った。

 大体の話を聞いて、色々と理解は出来たけれど、一つだけ分からない事がある。

 これを聞かないと、私をここまで走らせた気持ちが宙ぶらりんになってしまう。だから絶対

これだけは聞かなくちゃいけない。

「引っかかってるんだけど、何で学校の人気の無い所で話をしてたの? 二人の関係を疑われ

たくないんだったらさ、あんな所で話すのって無用心すぎない?」

 勘違いをされる危険をかなり心配していたというのに、あまりにもそこだけ抜けている。

「そりゃあそうなんだけどさ。もうね、あんたを見てられなくなったのさ」

 ズビシッと私を指差す代高さん。

「わ、私!?」

「そうよ、あんたよ。もうね、何やっても取れないしつこい汚れくらい何時までもうじうじし

てるんだもの。そんなのが回りに二人も居てみなさい。ストレスが限界突破でお肌と髪の毛が

警鐘鳴らしまくりよ」

 思い出しただけで叫び出したくなると、暴れる代高さん。

 規格外の巨大タコとかイカが陸に挙げられたくないともがくような暴れっぷりに、私達はど

うする事も出来なかった。

「落ち着いて。落ち着いて代高さん。私は分かったけど、もう一人って誰なの?」

 これはもう意識を何かで逸らすしかないと、問いかける。

「もう会話の流れで気づくでしょ。そいつよそいつ」

そう言って私の後ろを指差す代高さん。

「み、ミッツーが!?」

「そう、こいつ。あんたに嫌われたって思って、排水溝に詰まった髪の毛みたいに何時まで経

ってもうっとうしかったんだから」

 代高さんのミッツーに対しての鬱憤が、私へのものと合わさり、晴らそうとばかりに地団太

を踏み出した。

(だ、駄目だわ。こんな代高さん、止められない!!)

 幸いと言って良いのか分からないけれど、彼女は地面を踏みつけるのに夢中だったため、こ

ちらには一応被害は無い。

 だから私はその隙に、誤解を解こうと顔を彼に向けた。

「わ、私はね、ミッツーの事嫌ってないよ!! 私、ミッツーが迷惑してるんじゃないかなっ

て思って、早くしようって思ったの」

 私の話を聞いた彼は驚いた顔をしていた。

「お、俺は清澄さんが俺と一緒に居るのが嫌だと思ったんだ。背負ったせいで学校で噂になっ

ちゃたしさ。ずっと男と一緒に居るのも嫌がってるんじゃないかって思ってた」

「そんな事無いよ。噂になってたのは、それは恥ずかしかったけど、私、嫌じゃなかったもん。

私、ミッツーの事、嫌ってないよ」

「き、清澄さん……。俺も、俺も清澄さんの事嫌ってないからな」

 お互い気遣いと遠慮が行き過ぎて、すれ違っていたと知る私達。

「ああもうじれったい。いい加減はっきりさせなさいな。ミッツー、あんたからもう言っちゃ

いなさいよ」

 いつの間にかすっかり冷静さを取り戻していた代高さんがミッツーを急かす。

「ちょ、タイミングってのがあるだろ!! 言うけど少し待てよ」

 途端に慌て出すミッツー。何だろうと様子を窺っていると、彼は三回深呼吸して私の名前を

呼んだ。

「清澄さん。清澄律子さん」

「は、はいっ」

 改まってフルネームで呼ばれ、只事じゃない雰囲気に声が裏返る。でも彼が真剣な目で私を

見つめるからそんな事を気にしている余裕は無かった。

「俺……。俺、律子さんが好きだ、付き合ってくれ!!」

「喜んでぇ!! あ、待って、ちょっと待って」

 イメトレが済んでいた訳じゃない。告白の言葉を聞いた瞬間、待ち望んでいたからか脊髄反

射的に返事をしてしまったのだ。そして、自分の返事に対して、違う、そうじゃないとあまり

の酷さに心の中で突っ込んだ。

(私も、私もちゃんとこの気持ちを彼に伝えなくちゃ……)

 今度は失敗しないようにと彼に習って三回深呼吸をし、心を落ち着ける。

「嬉しい。私も、私もミッツーが大好き!!」

 ちゃんとはっきり気持ちを口にすると

「清澄さんっ!!」

「きゃっ」

 彼は告白の成功に喜び、ギュッと私を背後から抱きしめた。この好きな人に抱きしめられて

いる温もりが心地良くて、このまま空を飛んでしまいそうな気分。

 けどそんな夢心地を壊すように、代高さんが割って入ってきた。

「オッケーイ。よくやった二人とも。でもそろそろ離れなさい」

 良い所だというのに邪魔をする彼女に、私達は息の在ったブーイングで抗議した。

「ちょっと代高さん、せっかく喜びを分かち合ってるのに邪魔しないで」

「そうだぞ。邪魔する奴は馬に蹴られるんだからな」

 私達の抗議に、漫画印の怒りマークが込み上げているんだろうなと想像出来る反応をする代

高さん。

「……あんたら、地域的にもバカップル認定されたいの?」

 今まで聞いた事無いくらい静かな声で言う代高さん。その静かな怒りで私達は冷静さを取り

戻し、自分達が浮かれすぎていた事に気づかされた。

「それとミッツー。あんた律を抱きしめすぎ。私が来た時からずっと抱きしめてるじゃない」

「へ? あれ?」

 彼女に言われるまで全然気づかなかったけど、考えてみたらさっき抱きしめられた時も両側

からガバッとされた感じは無くて、既に抱きしめられている状態からギュッと力を込められた

ような感じだった。

「ば、ばっか、これは律子さんがトラックに轢かれそうなったのを引き止めて、それからその

ままだったからで……。やましい事は全く無いんだからな!!」

 文房具店の時みたいに凄く動揺している様子を見せるミッツー。

「へぇー、その割には胸の感触とかけっこう堪能してたんじゃない? 右腕が何度も、何度も

感触を楽しむように胸を押してるように見えたけど」

 代高さんの話を聞いて、急にカァーッと顔の温度が上がっていくのを感じて、私は彼から目

を逸らした。

「違うって。違うからね、律子さん」

 誤解だからと繰り返しながらミッツーは私から離れた。

 後ろに引っ張られて、訳が分からずキョトンとしていたのに併せて、背後にミッツーが居て、

そこからずっとドキドキしすぎてて全然気がつかなかった。

 それにしても必死に取り繕うその素振りが、ちっちゃい子が慌ててるみたいで可愛い。つい

つい笑っちゃった。

「り、律子さん?」

 急に笑い出したから彼が心配しちゃってる。

「へぇー、律子さんねぇー。二回も律子さん。へぇー」

 ニヤニヤしながら代高さんがミッツーを見る。

 彼女の玩具を見つけたような反応で気づいた私は、さっきとは別の恥ずかしさで顔を赤らめ

た。

「いや、あの、うんと、その……」

 私と代高さんとの間に挟まれ、テンパるミッツー。

「ごめんごめん。なんかおかしくて。それに“律子さん”っていうから……。でもなんだか新

鮮」

「あ、いや、その……。いきなりすぎたかな?」

 後頭部を掻きながら恥ずかしそうに尋ねるミッツー。

「んーん。私、嬉しい。新しい二人って感じで。私はそしたらみっ君って呼ぼうかな。どう?」

「もちろんオッケーだよ。律子さん」

「みっ君」

「律子さん」

「みっ君」

 私達は何度も新しい呼び方を繰り返し、完全に二人の世界に入っていた。

 そうしたらそれを良く思わない人物に再び邪魔されてしまった。

「あー、もう、うっとうしい。公共の場所でいちゃついてんじゃないの!! ほら鞄持って。

帰るよ、二人とも」

 自分の分は自分で持ちなさいと、持って来た鞄を押し付けると、代高さんは「付き合ってら

んない。らんないわー」と繰り返して歩き出した。

 その行動を見た私達はついついおかしくなって噴出した。

「待ってー、アキちゃん!!」

「先行くなよ、アキちゃん」

 二人で下の名前で呼び止めると、ビクッとして物凄く嫌そうな顔で振り向いた。

「ちょっと、二人で私を巻き込まないで。っていうか下の名前で呼ばないで」

「えー、良いじゃない。紛らわしい事したからささやかな仕返しだよ、アキちゃん」

「何言ってるのさ。っていうか盗み聞きした上に勝手に勘違いしただけじゃない。自業自得よ、

自業自得」

「そんな事無いよ。真実を知った私は、途中とっても酷い事を考えてたなーって反省してたん

だから」

「酷い事って何さ?」

「私が傷つくのを楽しんで、みっ君の愛を試してる悪女って思った」

「何勝手に人を悪女認定してるのよっ!!」

 戻ってきて私の肩を掴み、揺さぶる代高さん。

「だから全部勘違いで悪かったなって反省してるからー」

 揺さぶられながら宥めていると、ミッツーも私を手伝い、宥めようとしてくれた。

「まあまあ。秘密を共有出来る仲間が増えて良かったじゃないか、アキちゃん」

「秘密ってのはね、知ってる相手が多いほど意味が無いのよー!!」

 私からミッツーにターゲットが代わり、代高さんは彼を羽交い絞めして膝で背中を押しだし

た。

「あーもう。落ちついて。アキちゃん、そんな事しないでー」

 彼氏が大変な事になっちゃうと止めに入る私。

「だからアキちゃんって言うなぁー」

 この後、代高さんの叫びとミッツーの悲鳴とが共鳴し、周辺に響く事となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ