第三話 初めてのガッコウ
朝。
俺はいつも通りに階段を降りて台所に向かった。
そこには髪の長い金髪の美女がいた。
思わず見とれてしまうほどだ。
そんな彼女は、
血だらけの包丁を手にしていた。
そしてその包丁を俺に向けてこう言った。
「おはよう。今日もいい天気だな。」
いや。
雨だ。
それも雷が鳴っている。
決していい天気とは言えないだろう。
こいつが何を思ってそう言ってるのかは俺には解らない。
なぜか。
女神だから。
どうやら女神の常識というのは少しズレてるらしい。
この状況でそれよりも気になる事が一つ。
「まな板に乗ってるそれは何だ?」
そう。
何かが乗っているのだ。
おそらく死骸。
それもとてつもなく大きい犬の。
大体予想はついてはいる。
俺はその予想が外れるていることを願った。
「ああ。これは昨日のガルバスの肉だ。」
当たった。
完璧に当たってしまった。
ああ。
どうして神は私に味方してくれないのだろうか。
あ……………神は俺の目の前にいました。
「んなもん食えるか!捨てろ!」
「なっ!ガルバスの肉は旨いのだぞ!捨てるなぞ勿体ない!」
「旨いか不味いかじゃねぇ!そんな気持ち悪いもん食えるか!」
「気持ち悪いとは………これでも一応神の手下だぞ!殺したなら食わなきゃならんだろう!」
「殺したのはお前だ!俺は食わねぇ。」
「こんな不味い物を私一人で食べれる訳ないだろ!」
「不味いのかよ!」
と、朝から変な事で争っていた。
そうしてる内に時間は過ぎていった。
「あっ、やべぇ!遅刻する!」
「おい、どこ行くんだ?」
「あ?学校だよ。」
「ガッコウ…………?」
「んじゃ、行ってくるから。大人しくしとけよ。」
この時は急いでいた。
だからそんなに頭が回ってはいなかった。
そう。
こいつが大人しくできる訳がないだろう。
そして俺は何も考えずとにかく走った。
もちろん遅刻した。
生活指導の先生に、
『家に神がいるんです!』
という言い訳が通用するはずもなく、冷ややかな目に見送られながら教室に向かった。
え?
本当にそんな事言ったのかって?
言った。
結構本気で。
俺は人生初の遅刻に肩を落としながらも教室のドアを開けた。
「……………です。よろしくお願いする。」
誰かが自己紹介していたらしい。
シチュエーション的に恐らく転校生でも来たのだろう。
なんか日本語がオカシイ気がするのは気のせいか。
しかし今はそれどころではない。
急いで席に着くと隣の女子が話し掛けてきた。
「幸人が遅刻なんて珍しいね?初めてじゃない?何かあったの?」
こいつの名前は斎藤由理。
俺の幼なじみというやつだ。
女子の中で唯一心を開いて話せる相手だ。
だがしかし。
この案件についてはさすがに話せないだろう。
なんかマズイ気がする。
「んー………まあ、ちょっと寝坊してな。」
「むーっ………なんか怪しいなぁ………この私に隠し事をするの?」
どの私だよ。
隠し事くらいするだろ。
「してねぇよ。」
「………まあいいか。そういう事にしておいてあげる。」
「おう。サンキュな。」
ん?
なぜ俺があやまるんだ?
そうか。
どうやら俺は由理には逆らえないらしい。
笑えない話だな。
これが幼なじみというやつか。
「じゃあ斎藤。月野の学校案内頼んだぞ。」
「はーい!」
担任の命令に素直に従う由理。
どうやら転校生は月野というらしい。
こうして朝のホームルームが終わった。
するとタタタッという元気な足音が聞こえた。
どうやら転校生が由理の元に来たようだ。
俺は転校生の顔を拝もうと、足音の鳴る方を見た。
転校生は綺麗な人だった。
どちらかというとカッコいいの方が当てはまるかもしれない。
普通の男子高校生なら一目惚れでもするのだろう。
普通じゃないこの俺がしそうになったほどだ。
だが俺はすぐに失敗を悟った。
その転校生は俺を見てこう言ったのだ。
「幸人!来てやったぞ!ガッコウに!」
もう分かっただろう。
なぜ俺が一目惚れしないか。
転校生は俺のよく知っている人だった。
あ、"人"じゃないか。
そう。
セレナである。
クラス中がざわついた。
由理なんかは困惑の表情で俺を見ている。
「幸人、知り合いなの?」
「あ、あぁ。まあな。」
どうしよう。
どうしよう。
同居してます。
って言うわけにはいかないし……
「ふっ、実は私と幸人は一緒にくら……もがぁっ!」
馬鹿だ。
やっぱり馬鹿だ。
俺は一緒に暮らしてると言いそうになっていたこの馬鹿の口を押さえる。
「一緒にくら……何?」
「いや、えっと……そう!クラゲ!一緒にクラゲを見たんだよ。」
「クラゲ?何で?」
「なんかこいつが水族館で迷ってた所を助けて、その後にクラゲを見たんだよ。」
やっちまった。
我ながら小学生の様な嘘だ。
由理なら嘘だと分かるだろう。
そして俺は今日から学校中の男子を敵にまわして生活していくのだろう。
案の定、由理は嘘だと分かっているかのように俺を睨んでいる。
俺は死を覚悟した。
………すいません。やっぱそこまでは覚悟できてないです。
しかし由理の口から出た言葉は俺の予想と大きく異なるものだった。
「………へぇ。そうなんだ!クラゲかぁ……」
「ああ!そうなんだよ!てことで少しセレ……月野と話してきてもいいか?」
「うん!どうぞどうぞー!」
俺は内心ホッとしつつ、セレナと屋上に向かった。
しかし由理は嘘だと分からなかったのだろうか。
まあ今は喜んでおこう。
そして屋上に到着してから、周りに誰もいないことを確認した。
「おい。なぜセレナがここにいるんだ。」
「ここではセレナではない。月野巫女だ。」
「そんなことどうでもいいから答えろ。何でここにいる。」
「そんなの決まっているだろう。お前を護るためだ。幸人がガッコウに行ってる間に狙われたらおしまいだしな。」
「まあそうだよな。それはいいとして、クラスメートの前では俺達が同居してるなんて言うなよ。変な誤解を生むからな。」
「そうか。では私はどう接すればいいのだ?」
「ん、まあ適当に友達って感じでいいんじゃないか?」
「分かった。ところでガッコウとは何なのだ!?」
「はあ?知らないで来たのかよ。……学校は勉強する場所だよ。」
「なるほと……学校では勉強をするのか………。」
そこで俺は一つ疑問を感じた。
「ん?そういやお前どうやってうちの学校に入ったんだ?偽名とか使ったらバレるし、何より入学試験とかはどうしたんだ?」
そう。
うちの学校。
明瞭高校はそこそこレベルの高い高校である。
そして入学、編入の際には決して簡単ではないようなテストが行われる。
それを馬鹿のこいつがクリアできる訳がないのだ。
「ああ。まあ神だからな。そこら辺はなんとかなる。」
「そうなのか……それともう一つ。どうやって俺より早く学校に着いたんだ?」
「えーと、まあ神だからな。」
なんだ。
その便利な言葉は。
"神だから"の一言で何でも説明がついてしまう。
いいなぁ。神。
「そ、そうか。あとくれぐれも学校の連中には神だとか言うなよ。」
「もちろんだ。」
そして俺とセレ……巫女は教室に戻った。
「やー、幸人。話は終わった?」
「ああ。」
「そうかそうか。あっ、改めまして。私は斎藤由理。よろしくね!えーと………巫女ちゃん!」
「あ、ああ。私は月野巫女だ。よろしく頼む。」
こうして由理と巫女は友達になった。
その後俺達三人で学校の中を巫女に説明した。
それにしても。
やはり巫女は容姿が良いからだろうか。
一緒にいるとかなり視線が集まる。
俺にも視線が集まった。
………恐い目線が。
とりあえず一通り回った後、俺達は食堂に行って昼食を食べることにした。
「幸人。何を食べればいい?」
「ん?自分の好きなもの食べればいいんじゃないか?」
「とは言っても……訳の分からん食べ物ばっかでな……幸人は何を食べるんだ?」
「んー………牛丼かな?」
「ん、じゃあ私もそれにしよう。」
どうやら巫女は地球についてあまり知らないらしい。
後で聞いた話だが女神は地球に感心が無く、お仕事は全てアイラル様がやっているそうだ。
創世神すげぇ。
「これがギュウドン………!これは何の肉だ?見たところガルバスでは無さそうだが………」
「ガルバスな訳ねぇだろ。牛だよ。牛。」
「ウシ……聞いたことあるぞ!確か家畜だな!毛がモコモコのやつだろう!」
………それは羊だよな?
「いや、白黒の体だよ。」
「ああ!そっちか!」
そこにサンドイッチを持った由理が来た。
「おお!由理は何を食べるんだ?」
「私はサンドイッチだよー。」
「さ、さんどいっち?」
「あれ?知らないの?野菜とかお肉をパンで挟んだやつ。」
「なるほど。これがサンドイッチ………」
「サンドイッチ知らないなんて珍しいねー。まるで異世界から来たみたーい」
確かにそいつは異世界から来てる。
凄いな由理。
勘が良いにも程があるぞ。
俺は変な緊張感を持ちつつ、牛丼を食い終えた。
この日は四時間だったので、昼食すぐに下校になった。
由理は先生に呼ばれてるとか何とかで遅くなるらしいから巫女と帰ることにした。
「学校というのは楽しいな!いい人間ばっかだ。」
「………俺は疲れたよ。お前が何も知らなすぎる。」
「私が馬鹿だとでもいうのか!?」
「当たり前だろ。」
「(´・ω・`)」
「何だその顔。」
てゆーか死神来ねぇな………
結構神経尖らせてたのに………
俺ってホントに狙われてんのか?
まぁ襲われないに越したことはないか。
こうして巫女の学校生活初日は幕を閉じた。
〈プロフィール〉
名前:セレナ/月野巫女
性別:女
容姿:金髪。カッコカワイイ系
性格:少し大雑把
悩み:ない