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山へ続く道(2)

 次の日、僕たちはサルが見えるぎりぎりの岩陰にやってきた。 


 サルは何かを守っている。

 これは変わらない。

 おそらく、これからもずっとこうなのだろうな。

 何かは分からないが、きっと大事なものなんだろう。

 近付いてくるものを問答無用で襲いかかるが、離れれば追ってこない。

 

 いけるといいな。


 サルが遠目に見える崖の岩裏で、僕たちは隠蔽スキルを発動した。


 「「「隠蔽!」」」


 隠蔽は、姿を見られているときには発動しても効果がなく、一度隠れて視線を外してから行わないといけないのだ。


 僕の姿は半透明になり、これで僕の姿は見えなくなった。

 だが手を見ると、骨剣は半透明になっていない。

 夕見さんと松崎さんを見ても同様に骨剣だけが半透明になっていない。

 隠れられるのは本体のみなのか。


 隠蔽スキルは姿を隠してくれるが、手に持つ骨剣までは隠してくれなかったようだ。

 僕達は、丹精込めて作った愛剣を泣く泣く手放した。

 ああ、もっと使ってやりたかった。


 

 僕たちは、そっとサルに近付いていく。

 サルの真横を通る時、ちらっとこっちを見たような気がするが。

 気のせいだろう。

 だが、そうでなかったら?

 サルがこっちを向いているかもしれない。

 ……気のせいであってくれ。


 半場祈りながら額に汗を流して、サルの視線に脅えるように進み、遠ざかって行った。

 

 ふぅ、何とか崖道を通ることができた。

 隠蔽を解除し周囲を見渡す。

 左に行けば、山だな。

 ちなみに、右へ行けば森だ。

 前よりも近くに来たので、山の大きさがよくわかる。

 なにか飛んでいるような気がするが、この世界にもトンビとかいるのかな。

 魔物とかだったり……やめてくれ。

 サルがこんなに強いんだ、奥へ行けばもっと強いに違いない。

 引き返したほうがいいのだろうか?

 いや、弱気になるな。

 進め、進むんだ。


 ほら、サルはきっとあれだ。

 通り道にいる中ボスてきな存在だ。

 通ってしまえば何のことはない、今まで通りの顔ぶれの魔物が現れるはずだ。

 


 力を振り絞って、山に向けて歩きだす。

 あと少し、あと少しで山だ。


 高いところから、景色を見て、この世界がどうなっているか知りたい。


 もしかして周り全体が海、とかかもしれないし……。

 いや、ありえないだろう、川が枯れているんだ。

 きっと内陸部だ。


 

 

 山に到達すると、木の上で何かが光った。

「結原君、なにかいる」

 夕見さんが真っ先に見つける。

「あれは……」

 僕も夕見さんに続けて見つけた。

「何、あれ?」

 遅れて松崎さんもそれに気がついた。 


 何かは、見目麗しい女性の形をしていた。

 トップレス姿で大部分は人間と同じ肌色をしているが決定的に違う箇所もある。

 髪は薄い紫色をしている。

 ワシのような鋭い眼つきに、カギ爪のような鋭い足爪。

 下半身はオオカミの毛のような感じで良く見えないが、きっと素晴らしいのだろう。

 手の部分には腕がなく、かわりに白と灰色の大きな翼が生えている。


「ハーピィだな」

 2体のハーピィがこっちに向かって飛んできている。

「ギャァァァァス」

 ギャースはハーピィの泣き声だ。

 

 翼を羽ばたくとき、体が反り胸が強調されて、なんともそそられるいやらしさを見せている。

 ハリに癖があって外人さんの胸みたいなのが頂けないが、許容範囲内だ。

 翼を動かすたびに大きく揺れる胸。

 空気抵抗を受けているのか、何かに当たるようにふわふわしている。

 ばゆん、ばゆん。

 あれは……松崎さんと同等か、それ以上だろうか。

 この魔物に倒される冒険者は本望だろう。




 っとっとっと、ちょっとまて、それは僕たちのことじゃないか。

 僕たちがその冒険者側だ。

 揺れる大きな胸が襲いかかってきた。


「結原くん!」

「よし、骨剣で……ぁ」


 あぁぁぁぁあ。

 剣を置いてきていた。

 

 やばい、いま丸腰じゃないか。


 ハーピィが肉薄する。

 爪で掴まれたらきっと、いろんなところがすりむけちゃうよ。



 寸前で横に飛んで、ぎりぎりかわした。


 まっ、惑わされるな、あれは魔物だ。

 襲ってくるなら倒すしかないんだ。


 だが、武器がない。

 こんなとき骨剣があればどうにかなったかもしれないのに。

「とりあえず逃げよう、さっきのところまで引き返すんだ」

「わかったわ」

「うん」

 慌てて僕たちは引き返した。


 ふぅ、追ってこないか。

 まぁ怒らせなければ、この位置で安全だろう。

 僕たちは、山と崖の中間地点へと引き返していた。

 だが、どうしよう。

 進めば山でハーピィが、戻れば崖で、サルがいる。

 これは……挟み撃ちになってしまったぞ。






「結原くん戻りましょう」

「そだね」

「いや、サルが何かを守っているのなら、偶然ハーピィが近くを通れば襲うかもしれない」


 僕は二人に作戦を説明した。

 簡単に言うと、ハーピィをわざと怒らせて逃げる。

 逃げる方向はサルがいる崖だ。

 サルがハーピィに気がつく距離まで近づいたら、森へ入り、木の陰にでも隠れて隠蔽スキルを発動させる。

 サルには気付かれてしまうかもしれないが、おそらくハーピィに手いっぱいで僕達にかまっている暇はないだろう。

 

 今日はそのための準備だ。


 松崎さんと夕見さんに頼んで、山からサルがいる崖までの最短ルートを見つけてもらう。

 僕がルートを見て来ようと思ったんだけど、夕見さんが行きたいというので任せた。

 そして松崎さんはついて行った。


 僕はサルを観察して他の魔物が通ったら、襲いかかるのかどうかを見ることにした。


 ――30分後。


 ――1時間後。

 ……、来ないな。

 他に魔物がいなかったらどうしよう。

 ――2時間後。


 松崎さんと、夕見さんが戻ってきた。

 案外早い。

 二人ともルートは見つけられたようだ。


 ――3時間後。

 ようやく、魔物が現れてくれた。

 森から出てきたオオカミのような魔物がサルに襲われている。

 

 魔物でも襲うんだな。


 よし、明日はハーピィをけしかけてやろう。




 ――翌朝。


 まずはハーピィをまとめて怒らせて狙いを引きつけるとするか。 


 隠蔽!


 姿を隠してハーピィの巣に近づき、何かを持ってくれば怒り狂うだろう。

 後は、サルにそれをパスすればいい。


 どうやらハーピィにも気付かれないで、山のふもとと山頂の中間へ来ることができた。

 あんがいいけるもんだな。

 

 

 隣でハーピィが寝ているようなんだが、まぁ見ているだけなら襲ってこないだろう。 


 側を通り過ぎる、と目が開いた。


 あれ? なんで気がついた。

 寝ているため、耳が地面にあり、隠蔽では足音までは消せない。

 足音で気付かれてしまったようだ。


 寝起きは機嫌が悪く、怒っているようだ。

 隠蔽は見破られてしまったことで効力は失われ、他のハーピィ達も僕達に気が付き始める。


 狙った方法とは違うが……結果としては悪くない。

 そのまま僕たちはふもとまで一目散に走り、道中増えるハーピィの数に驚きながら最短ルートで崖へ向かった。


 はぁはぁ。

 

 もう少しで森だ、サルは相変わらず何かを守っているようだ。

 

 後ろには、ハーピィが2、4、6、8、10……うん、10体より多い。

 そのまま、ハーピィが後を追ってきているのを確認しながらサルの視界内へ入った。

 

 サルは依然僕達を睨み続けているが襲ってこない、ハーピィに気がついて警戒しているようだ。


 今ならいけるか。

 僕は隠れる合図を出しながら、小声でつぶやいた。

「いまだ、木の陰に」

「ええ」

「うん」


 木の陰に入って、ハーピィ達の視界から消える。

 そして、隠蔽スキルを発動させる。


 隠蔽!


 僕達の姿は、木に遮られたことで一瞬見えなくなり、半透明になったことでハーピィ達の視界から完全に消えた。


 動いてしまうと、足音で気が付いてバレてしまうかもしれないので、その場でじっと待つことにする。


「ギャァァァァス」

「ウボォォォォ」


 木の陰から出て、どうなっているのか非常に気になるが、今出ていくわけには行かない。


 何分? 何時間? どのくらい時間がたったか分からないが、うるさかった泣き声が止んだ。


 そろそろ様子を見に行ってみるか。

 僕はジェスチャーで一人で様子を見てくる旨を伝える。

 夕見さんと松崎さんをその場に残し、僕は様子を見に出かけた。


 森の出口付近にある、木の陰からそっと覗く。

 そこには、ハーピィの亡骸が山のように連なり、サルが座って嬉しそうに亡骸を撫でている姿があった。

 

 やはりサルは強かった。

 20体はいたんじゃないかっていう数のハーピィを、サルは一体で倒してしまったようだ。


 僕は確信した。

 あれと戦おうなんて思っちゃだめなんだということが。


 サルを横目に、僕はさっさと山に向かってしまおうと思った。

 夕見さんと松崎さんと合流して山を目指した。

 

 山道はハーピィがいなくなったためか、魔物の姿はなく、すんなり頂上まで来ることができた。


 やっと山に来ることができた。


 景色を見渡す。

 思った通り内陸部のようで海は見えなかった。


 おぉー。 川だ。 川が見える。

 山を下りて少し行ったところに川があった。

 そして、川の向こうには町まで見える。


 今後の方針が決まったな、川で水浴びをした後、町へ向かうとしよう。


 山頂で、不思議な果物――桃のような果物のなる木――があったので、食べることにした。


 やや遅めの昼食を取りながら、なんとなくステータスを開くと、LVが8も上がってLV12になっていた。

 もしかして、ハーピィの大群から得られた経験値なのだろうか。


 魔物同士戦わせて経験値を得られるといのは素晴らしい。

 倒したのはサルなのだが、ラッキーだ。

 得たスキルポイントは80ポイント。


 足音で気付かれるのが、隠蔽スキルの弱点だということが分かったので、弱点を補うスキルを習得する。

 戦闘用のスキルも習得しておいたほうがいいだろう。

 

 僕達は新しいスキルを習得した。


 結原。

 サイレントウォーク(15)――ゆっくりと歩くと、どんなに音が響く床でも音がしなくなる。

 身体能力強化(60)――体のしくみを変え、丈夫にする。 運動性能が大幅に向上する。


 夕見。

 サイレントウォーク(15)――ゆっくりと歩くと、どんなに音が響く床でも音がしなくなる。 

 身体能力強化(60)――体のしくみを変え、丈夫にする。 運動性能が大幅に向上する。


 松崎。

 サイレントウォーク(15)――ゆっくりと歩くと、どんなに音が響く床でも音がしなくなる。


 

 ポイントがたまったら、僕は敏捷強化(30)、夕見さんは筋力強化(30)、松崎さんはアイテムボックス(100)を習得することにしよう。


 桃の木を折って、突きさせそうな感じの、よくしなる木の枝を手に入れた。

 何もないよりかは、気休めになるかな。

 これで魔物が出てきても、なんとかなるかもしれない。

 Lvもあがったからね。


 今日は山頂で寝ることにする。

 ハーピィがいなくなったので、たぶん安全だろう。

 松崎さんが夕見さんと抱き合って寝ているの横目に、僕は寝た。



 



明日はお休み。普段は思いつかないのに、夜寝ようとするとアイデアが湧いてきてなかなか寝られない。

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