山へ続く道(1)
もぐもぐ。
あれ? 夕見さんと松崎さんの姿がない。
トイレにでもいったのかな?
骨剣を渡してあるからウサギが出てもきっと大丈夫だろう。
ああ、果物うまい。
……ゲフ。
ふぅ、おいしかった。
そろそろ探しに行ったほうがいいかな?
だんだん心配になってきたところで、2人がやってきた。
どこいってたんだろう。
あれ? 手をつないでいるぞ?
なんだか松崎さんの目が赤い気がするがどうしたんだろうか。
夕見さんはなんだかボロボロだし……。
でも、まっ、二人してなんだか楽しそうに話しているし、いいか。
果物を持てるだけ持って山へ向かおう。
果物を採取して、分かれ道まで戻って木の陰に入る。
今日はここで夜を明けることにする。
僕たちは、夕見さんを挟んで川の字に寝た。
――翌朝
目をあけると、ん? あれ?
夕見さんと抱き合って――ないぞ?
夕見さんを見やると、松崎さんと抱き合って寝ていた……。
夕見さん、うぅ……。
……松崎さんの顔はなんだか幸せそうだ。
気を取り直して、分かれ道の左を通って歩いていく。
「今日は山を目指そう」
「そうね」
「近くに何があるんだろうね」
崖の底は干上がった川のようで、曲がりくねった道が続いてきている。
水は一滴もなく乾いた砂が風でこちらに飛んでくる。
ちなみに迂回している崖は、枯れた湖のような場所で崖から向こう――洞くつ方面――へと続いている。
この辺は人が住んでいる気配すらないのか、橋はかかっていないようだった。
崖の迂回道を歩いていると、サルの魔物があらわれた。
「ウボォォォォォ」
「ふっ、ウサギが余裕で倒せたんだ、きっといける」
「めぐみ、さがってて。私も手伝うわ」
僕は、サルめがけて駆け出した。
後ろから夕見さんも付いてくる。
槍で当てやすい腹をめがけて突く。
「えぃっ」
サルは容易く右に、僕の攻撃をよける。
なんだこのサル!
ウサギと違ってすばしっこいぞ。
もう一度だ、今度は狙いを左腹を突くと見せかけて左払いだ。
左腹……僕から見て右側だ。
そこを突けばヤツは右――僕から見て左――に回避するだろう。
そしてその回避したところを左に払い、傷を負わせるという寸法だ。
槍では心もとないが、先端で何処かを斬ることができるはずだ。
「とぅ、ひやぁ」
ガシッ。
なん、だと。
右手で掴まれてしまった。
バリバリバリ。
ガツン!
ああ、しかもがんばって作った槍を……二人の愛の結晶を折られてしまった。
どうなっているんだ。
わけがわからないよ。
夕見さんはサルが槍を掴んでいるとき、後ろから骨剣で攻撃をしたのだが、左腕でガードされてしまったようだ。
ガツン! って硬いものを叩いた音もしたからね。
攻撃が全然当たらず、効かず、倒すことができない。
いや、ダメージを与えることができない、といったほうがいいだろうか。
僕と夕見さんはさっと後ろへ下がる。
その後、夕見さんがいた場所へ一呼吸遅れて、サルのラリアットが素通りした。
ふぅ、間一髪ってとこだな。
そしてサルは半分になった槍の残骸を、夕見さんに向けて放った。
ヒュン。
槍の残骸といっても木の部分だけなので、夕見さんは骨剣でガッ、と弾く。
そして僕たちは動くこともできず、サルはその場で動かずに、僕たちを睨んでいる。
あれ? なんでこんな急に強くなってんの。
このサル、強すぎやしないか?
ゲーム的にいえば……何処か先によるべき場所があり、そこをクリアしてから来てね、と言わんばかりの通過を見越して設定されている感じだ。
つまりは、通せんぼの中ボス的な?
「夕見さん一旦引こう」
「そうね、この猿強いわ」
と、なれば山を目指すのは現段階では不可能だ。
こんな調子では進むことはできない。
サルがその場から動かないので、目を離さない様にして後ろ向きに少しずつ撤退する。
「松崎さん」
「めぐみ、戻るわよ」
「うんっ!」
僕のではなく夕見さんの掛け声で松崎さんが付いてくる。
あれ? なんかおかしくない? ねぇ。
サルはこの先の何かを守っているようで、近付くと襲ってくるが離れると追ってこないみたいだ。
山に行きたかったが、僕たちはしぶしぶ分かれ道へと戻った。
RPG的にいえば、そう、LVが足りない、だ。
おそらくウサギを倒してレベルを上げ、なにかしらのスキルを習得してからでないと、倒すことはできないのだろう。
しかし、生半可なスキルを習得したくらいでは、倒せるとは思えないのだが。
「このままだと山には登れないわね」
「そうだねー、困ったねー」
「ステータスを見るとLvってのがあるから、Lvを上げたら倒せるようになるかもしれないよ」
「レベル?ステータス? なんなの、それ」
「えっと、僕は自分のと夕見さんのステータスが見えるんだけど。どちらもLv1って表示されているんだ。ステータスは目をつぶってイメージすると浮かんでくるんだ」
「遥ちゃんのも見えるんだ? 私のも見えているの?」
「いや、松崎さんのは見えないみたいだ」
「そっか」
その後、ステータスやスキルポイントのことを二人に話した。
「あれ? 私、めぐみのステータス?というのも見えるわよ」
「ふぇ?」
「む?」
なぜか夕見さんがステータスのことを知っていて驚いた。
なんでも、「めぐみのステータス利用権」とかいうのが見えたそうだ。
ん? ステータス利用権?
僕のほうに来ないと思ったら、夕見さんが手に入れていたのか。
あのときか? あのときなのか。
二人して手をつないで、少しおかしいな、とは思ってたんだ。
でも、元気がなかった松崎さんが、笑うようになったから、放っておいてあげたのに……。
こんなことになるなら、強引に行っておけばよかったか。
はぁ。
しかもなんだかあれからみょーに仲がいいし、今もほら、手、つないでるし……何があった? 何があったんだ!
「めぐみもLv1みたいね」
「えへへ、みんな一緒だね」
「そうだね、うさぎを倒してLvを上げよう」
「わかったわ」
「うん」
僕たちはウサギを探しに出かけた。
もちろんLV上げをするためにだ。
果物のある場所へ到着し、ウサギを探す。
いつきてもここには、おいしそうな果物がたくさん実っているな。
あれ? 前に摘んだ場所にも果物が……。
まぁいいか。
今日もごちそうになります。
たしか初めてウサギにあったのは、このあたりだったかな。
大きな植物が生い茂っている。
ここには、成長促進装置でもあるのか、ここに来る前――地球――の見慣れた植物っぽいものが巨大化して生えている。
植物に詳しくないので名前まではわからないが。
シソみたいな葉っぱが生えた花の近くで、ウサギを見つけた。
何をしているのかは知らないが、チャンスだ。
槍で突こうと右手の槍を構えるが、左手に感触がない。
そこでふと思い出す。
槍は折られてしまっていたのだということを。
これでは突くことはできない。
かつて槍だったものをその場にそっと置いた。
松崎さんに骨剣を貸して貰って、真後ろからそっと近付いていく。
よぉし、気が付いていないぞ。
頭に一撃、そのあと倒れたところで胸に一突きした。
オーバーキルである。
ウサギはおそらく、僕に気がつくことなく云っただろう。
ウサギだと楽なのになー。
ステータスにLVとあるのだから、きっと魔物を倒すと、経験値てきなものが得られてLVアップするのだろう。
違っていたらすごく気まずい。
もう一体、草の陰にいたので、倒すとLVが2になった。
やったね。
僕たちはそのあともウサギを倒し続け、Lvを上げた。
僕はLv4になった。
スキルポイントは今、30ポイントある。
LV1アップでスキルポイントは、10ポイント貰えるみたいだ。
夕見さんのステータスを見てもLv4になっていた。
同じくスキルポイントは30だ。
松崎さんも、たぶんLv4になっているだろう。
まずはこのスキルを習得しようか。
隠蔽(30)
隠蔽は、自分の姿を隠して見えなくするスキルだ。
これで堂々と町へ入れる。
他にも必須スキルはあるんだが、それはスキルポイントがたまってからにしよう。
今日はもう遅いので明日習得だ。
――翌朝
今日は、夕見さんを勝ち取ることができた。
なんだかあれから僕は、松崎さんと、夕見さんの取りあいをしているような気がする。
今日の目覚めは良かったから気にしないであげるけど、僕から夕見さんを取らないでほしいな。
目を覚ますと夕見さんの腕の中だった。
しっかりと両手を背中にまわし、がっちりホールドされている。
意外と力が強いのか、動けない。
顔を上に向けると、夕見さんの顔がある。
うん、なかったりしたら怖い。
横向きで寝ていて、僕の顔はちょうど胸のあたりだ。
夕見さんの足が僕の足をからみ、柔らかく、つるつるのお肌が、僕の心を駆りたてる。
おしつけられた、二つのふくらみが頬に幸せな心地をくれる。
顔を左右に動かすと、ふわんと優しい気持ちになる。
やや猫背っぽく抱えられているので、胸は寄せられ、通常よりも大きく感じるのだ。
動けないし、せっかくなので舐めてみた。
ああ、舌が幸せだ。
濃厚で甘く、僕の意識を刈りとるのには十分だった。
つまりは2度寝だ。
心地よい腕の中で、僕は惰眠をむさぼった。
ゆっくりと起きて、朝ごはんを食べる。
朝から肉はやっぱりきつい。
閑話休題――それはともかくとか、いったん話をやめる、といった言葉だそうだ。
僕たちは、隠蔽スキルを習得した。
松崎さんのLvも4になっていたようで安心した。
町に行った時に隠れるため、って言うわけにもいかないから、サルから隠れるためだよって言っておいた。
サル、あいつはダメだ。
強すぎる。
LVが上がっても、太刀打ちできそうにない。
朝の時間は槍が折られてしまったので、骨剣をもう一つ作ることにした。
完成度は、他の二つよりもいいんじゃないか?
結構な自信作ができた。
借りたままだった松崎さんの骨剣を返して、僕は新しく作った骨剣を手に持った。
しっかりと磨き上げ、斬れ味は良さそうだ。
磨くのに手頃の岩があったんだ。
調子に乗ってピカピカにしてしまった。
今日もウサギを狩って、明日、隠蔽スキルでサルのところへ行ってみよう。
気付かないでくれよ……。
その後、昼すぎからウサギを何体も狩った。
斬れ味が上がっていて嬉しかった。
だが今日は、Lvアップしなかった。
必要経験値が大きく増えたのか、ウサギの取得経験値が減ったのかだと思うが。
おそらく両方だろう。
食糧が果物に変化したことにより、僕たちの食生活が改善されたわけなのだが、弊害もある。
僕が水魔法で水を出す機会が、減ってしまったのだ。
食糧が豊かになるのも考え物だな。
今日は体を洗った。
夕見さんも、松崎さんもだ。
松崎さんは嫌がっていたが、夕見さんと少し話をした後、夕見さんと一緒ならと承諾した。
何を話していたんだろうね。
そして今、ふたりは手をつないでいる。
まずは夕見さんからだ。
水魔法で、手のひらに水を発生させる。
手で触れると、もう我慢する必要がなくなったためか、色っぽい声をだしている。
僕は、つるつるの肌をしっかりと堪能した。
次は松崎さんだ。
夕見さんよりもさらに柔らかい。
つるつるというより、もっちりといった感じだ。
自然と手首に力が入ってしまうのを、深呼吸してほぐす。
僕の手の平がぬるぬるのねんどようにスライドし、沈み込んでいく。
幸せな感触を十分に楽しみながら体を洗い終えた。
洗っている間、二人は離すこともなく手を絡め、今は抱き合って横たわっている。
明日こそ、山に向かえるといいな。
僕は抱き合う二人に乱入した。
僕達は夕見さんを挟んで横になる。
何度も奪い合い、取りあった結果。
左から僕が、右から松崎さんが、夕見さんに抱き付いて寝た。
いつか、完全に取られてしまいそうだ。