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お姉様

 ――翌朝


 今日はウサギの肉の残りを食べる。

 昨日の夜の余りがあったので早く食べてしまわないと腐ってしまう。

 びゃぁ~うまぃい。

 松崎さんは、今日も少し元気がなさそうだ。

 頭に手を当てるとひんやり気持ちよかった。

 風邪ではないのでそっとしておいてあげよう。


 食事の後、ウサギの骨が程よい長さがったので足の骨に付着した肉を綺麗にそぎ落とす。

 何かに使えそうだ。

 洞くつの周りにあった小石や砂を使って落としていく。

 肉を大体落とすと、骨の形が明らかとなった。

 泥だらけのウサギの骨を綺麗に洗い流す。


 おっと、泥だらけといえば昨日、僕と松崎さんもそうだったね。

 僕は水魔法で洗い流して、夕見さんの髪を洗ったんだけど、松崎さんは洗わせてくれなかった。


 幸か不幸か昨日の朝も雨だったので、落ち葉などに少量の雨水がたまっていたのだ。

 それを寄せ集めて泥を落としていったようだ。

 

 ウサギの足の骨は60センチ? いやもうちょっとか、65か66センチくらいかな?

 結構長さがある。

 削って尖らせたら剣に出来るかもしれない。

 

 小石や砂を使って擦って石を削っていく。

 2本あるので、1本は夕見さんにやってもらう。

 小ぶりの胸や頬、お腹に泥がついて削っている姿がかわいいぞ。

 後で洗ってあげよう。

 興味があるのか洞くつの陰から松崎さんがこっちを眺めているような。

 振り向くと隠れているのか姿が見えないのだ。


 昨日のあの石持ってくればよかったかな。 

 でもそれだと変なふうに割れちゃうかもしれないし、食糧が運べなかったか。

 

 お? なんとか剣っぽくなってきた。

 いや、角っぽいと言ったほうがいいかもしれない。

 ただ先を尖らせただけだからね。

 両刃はめんどくさいので、片方が刃になるように削っていく。

 ガタガタだけど斬れないことはない、くらいにはなった。

 これ以上切れ味を良くするには難しそうだ。

 夕見さんと二人で楽しい共同作業を終え、完成した。


 ウサギの骨剣が2本出来たので、夕見さんの髪を切ってあげようとしたんだけど。 

 ためらいがちだった。

 抵抗があるのか、少し考えさせてほしいそうだ。


 僕は少し伸びてきたので髪を切った。

 ちょっと引っかかるが、切れないことはない


 松崎さんは……うん、切らせてもらえなかった。

 まだ少し落ち込んでいるようだ。

 そんなにウサギが怖かったのか。

 

 残ったウサギの骨を整理していたら、どこの骨か知らないがヒモで縛れば固定できそうな骨が見つかった。

 これは……。

 砂で肉を落とし、小石等で尖らせていく。

 洞くつに一本だけあった丈夫な木の枝。

 それの先端に靴ヒモを使って固定する。

 いいかんじに槍ができたぞ。


 そろそろ昼だな。

 だけど朝から肉を食べたので昼はあまりお腹がすかなかった。

 二人も同様らしいので昼は抜きだ。

 

 夕見さんと作業をしていたら、松崎さんが木の実を探しに行くというので、

安全だと思うが念のために出来たばかりの骨剣を渡して探しに行ってもらった。

 

 少し元気になったのかな? 良かった。


 僕は剣よりも槍のほうが使いやすいので、骨剣を夕見さんにもあげることにした。

 

 靴下も臭くて限界だったので洗い、一緒に靴も洗う。

 夕見さんの靴と靴下は外に放置されている。

 洗ってもあれは落ちない。


 僕の靴を夕見さんにあげようと思ったが、靴のサイズが合わなかった。

 背が高いので足もでかいのだ。 

 

 一通り終わったので体を洗うことにする。

 あれ?

 なんだかいつもより水量が多いような気が。

 いつもはスプーン小さじ一杯ほどなのだが、今はスプーン小さじ一杯気持ち大盛りくらいの量だ。


 僕の体はぞんざいにぱっと洗って、夕見さんだ。

 髪を洗っていると臭いがとれたのか、女の子特有のやさしい香りがするようになってきた。

 あれから毎日洗っているからね。

 髪は切らなくても良さそうだ。

 だが、石鹼が欲しい、切実に。

 

 日差しが二人を照らす中、すべすべの背中を指でなぞり水を出していく。

 水量が増えたためか、いつもよりすべりがいい。

 水を含み、少しぬるっとした土が肌を滑り、さわり心地をさらに引きたてる。

 少し冷たい大地が、上昇した体温を吸ってひんやりとした気持ちよさをくれる。


 熱い。

 それでも肌の滑らかさ、外の解放感によって体は火照っていく。

 水のつめたさや肌のぬくもり、感触のすばらしさをしっかりと堪能し、土を落とすついでにあちこち触りまくった。


 洗い終わって夕見さんと楽しげに話していると、松崎さんが返ってきたようだ。

 木の陰から松崎さんが見えた。


 辺りはもう暗くなり始めている。

 ああ、もう夜か。

 今日は武器も作成出来たし、ウサギより強い魔物が出てきてもある程度はいけるだろう。

 ウサギが弱すぎたので参考にならないが。

 明日、昨日みかけた山に登ってみようと思う。

 まぁ登るといっても果物を取りに行って、そのあとで向かうのだが。


 僕たちは木の実をたくさんと、果物を1個ずつ食べて明日に備えた。

 松崎さんは壁を向いて横になっている。

 僕は夕見さんのとなりで横になった。



 

 

 ――翌朝

 

 目をあけると顔の真横に夕見さんの顔がある。

 僕の手はしっかりと夕見さんの背中をとらえている。

 眠っている間に抱き合っていたようだ。

 胸に微かにふれる二つの膨らみが、程よい弾力で非常にくすぐったい。


 さーて今日のご飯はーっと。

 松崎さんと夕見さんに果物を渡して僕は木の実を食べる。

 果物は2つしかなかったので僕の分はない。

 その分付いたらたくさん食べるさ!

 だけど、少しだけ分けてもらえた、二人とも優しいね。

 僕は槍、夕見さんと松崎さんは骨剣を手に持って、3人で果物を目指すことにした。

 やっぱり僕が先頭のようだ。

 反歩遅れて夕見さんが隣を歩く。

 すこし遅れて松崎さんが歩いてきている。


 今日は時間があるので少しスキルの話でもしようかな。

 Lvがまだ1なのでいくつ貰えるのかは分からないが、Lvが上がるとスキルポイントを貰えるのだと思う。

 スキルはいくつもあって、スキルポイントを消費してスキルを覚えていくんだ。

 僕は今、欲しいスキルがある。

 人目を凌ぐのに必須スキルだ。

 これがないと町の中に入ることができないだろう。

 きっとすぐにつかまってしまう。

 どこかにきっとあるだろう、この世界の町にたどり着く前には取っておきたい。

 

 昼過ぎの、日が少し傾いたころ、僕たちは果物のある場所に到着した。

 今日はウサギはいないようだ。

 いても倒せるだろうけどね。

 適当に果物を摘んでいく。

 ウサギが現れても、もう大丈夫だろう。

 ここで頂くとする。


 ああ、おいしい。

 二人も果物を食べている。

 お腹がすいていたので、僕は果物に夢中だ。




 松崎が歩いて何処かへ行く。

 手には、ウサギの骨剣(2人の愛の結晶)が握られている。

 それに気がついて夕見が後を追う。

 もちろん手には2人の愛の結晶を持っている。


 彼女達は何処かへ歩いていくのだが、結原は食事中で気がつかないでいた。

 ああ、果物うまい。




「めぐみ、どこへいくの?」

 夕見は松崎の後を追い声をかけた。


「うん、ちょっとね」

 松崎はぼそりとつぶやき、なおも何処かへ行こうとする。

 やっぱり結原は果物に夢中で気が付いていないようだ。


「まさか、また1人で何処かへ行くつもりじゃないでしょうね」


「……」

 松崎は何も答えない。


「めぐみっ!」

 夕見は怒るようによんだ。

 

「……」

 松崎は立ち止まり、踵を返した。


「さぁ、戻ろう? 結原君が待ってるわ」


「結原くんが待ってる? 結原くんが待ってるのは遥ちゃんだけだよ」

「えっ」

「結原くんが待ってるのは、遥ちゃんなの、私じゃない」

「そんなことないわ、前いなくなった時だって心配していたでしょう?

 ……どうしたの? めぐみ」


「どうも、しないよ? ただね、もう二人を見ていられなくなって、少し距離をおきたくなっただけ……」


「めぐみ、あなた……もしかして」


「そうよ、私も、好きなの」


「めぐみ……。

 それじゃぁ、負けたほうが結原君をあきらめることにしましょう」

 夕見は、松崎の勝手な行動が頭に来ていたのかそんなことを言い放った。

「えっ!?」

「戦いましょう、めぐみ」

 夕見は松崎に当たらない様に気をつけて骨剣を振るう。


「遥ちゃん……やめて、私」

 松崎が両手で骨剣を持って震える。

 

「さぁ、来なさい。 めぐみ」

 このままでは、心の中を晒してくれないと思い、勝負に出る。

 夕見は慎重に狙いを定めて横凪ぎに骨剣を振るった。

 そして、松崎の二の腕に一筋の赤く薄い線ができた。


「……本気、なんだね? 遥ちゃん」

 目を涙で潤ませて骨剣を握りしめ、夕見に近付いていく。

「えぇ」


 松崎の耐えに耐えた感情が沸騰しだした。

 夕見に向けて未熟な剣さばきで骨剣を乱雑に振るっていく。

「私、遥ちゃんがうらやましかった。

 いつも結原くんの側にいられる遥ちゃんが。

 私も好きだったの!

 結原くんのことが!」



「めぐみ……くっ」

 夕見は華麗なステップで大体かわしているが、それでもかわし切れない刃がお腹や肩を少しづつかすめていく。


 松崎は溜め、横払いに骨剣をふるう。

「風邪をひいて、優しくしてもらったあの日からっ」

 夕見はかわしきれずに、骨剣でガードして押し出された。


 松崎はふと立ち止まり天を見上げ語りだす。

「ううん、違う。 それよりもずっと前。

 結原くんは覚えていないかもしれないけれど、

中学校の入学式で道に迷った私に教えてくれたあの日からずっと好きだった……」


 松崎は夕見を見据え、ふたたび骨剣を握りしめた。

「だから! こんなわけのわからないところにきて、くじけそうでも私で居られた。

 怖くなかった!

 さびしくなかった!

 結原君がいてくれて嬉しかった!」

 そういって松崎は骨剣を振り回す。

 

 夕見はまたもや回避するが、かわし切れなくなって、骨剣で受け止め、後ずさる。

「めぐみ……」


 松崎は、ゆっくりと歩きながら再び語り始めた。

「でも結原くんはエッチで正直戸惑ってしまった。

 私の知らない結原君になってしまったんじゃないかって」


 松崎は縦切りと同時に叫ぶ。

「でも変わってなかった」


 横切り。

「また私を助けにきてくれた」


 返し切り。

「あの日と同じ、優しい結原くんだった」


 夕見は骨剣で受け止めるも勢いを止めきれず、横に倒れこんだ。


 松崎は夕見を見下ろし語り始めた。

「私ね。

 遥ちゃんと付き合い始めたって聞いて、どうかなりそうなくらい悔しかった。

 初めて悔しいって思った。

 こんなの、今までなかった……」


 夕見がゆっくりと体を起こす。


「でも遥ちゃんだから、遥ちゃんだから諦めようって思ったの。

 思いを、必死に心の奥に閉じ込めて……。

 結原くんが楽しそうに笑ってたから、幸せそうに笑っていたから。

 だからずっと諦めようとしてた」


 夕見が立ち上がる。


「なのに、どうしてそんなこというの?

 どうしてあんな態度がとれるの?

 私……わかんないよ」


 夕見は剣先が地面を向き隙だらけの松崎のもとへと駆け出した。

「めぐみぃ!」

 隙を突いて夕見が骨剣で松崎の骨剣の腹をたたき、骨剣は回転してはるか後方へと飛んだ。

「きゃぁぁぁ」

 同時に松崎も倒れこんだ。

 

 夕見は両手を広げて言い放つ

「私を好きになりなさい、めぐみ。

 もし結原君が待っていてくれないのなら私が待つわ。

 結原くんの分も、私がめぐみを愛してあげるから……」


「遥ちゃん、を?」

「ええ、私がめぐみのすべてを受け止めてあげるわ」


(結原くんを諦めないといけないけれど、遥ちゃん、遥ちゃんなら、好きになっても、いい、の?)

「遥ちゃん……いい、の?」

「ええ、いらっしゃい、めぐみ」


 松崎がは走り夕見の胸に抱きついた。

「遥ちゃん」

「めぐみ」

「遥ちゃん」

「めぐみ」


 二人は互いに名前を呼び合い、抱き合ったまま唇を重ね、松崎はさらに涙を流した。

 

 ≪ 夕見遥は松崎めぐみのステータス利用権を得ました ≫




 ――4年前


 夕見遥がまだ中学生だったころのお話。

 中等部の1学年、夏の長期休暇を終えた登校初めのころ。

 校舎の裏側にて夕見遥は、陰湿な嫌がらせを受けていた。

 

 夏の長期休暇の際、とあるきっかけで3学年の現お姉さま、高峰奏様に気に居られ、親しくしてもらっていたからだ。


 

「あなた! 高峰様がお優しいからって、調子に乗りすぎなのよ。 いつも高峰様のそばにまったく! うらやましい、ですわ」


 お姉さまはこういう時、どうするか?

 高峰様……高峰奏の声が心の中でこだまする。

 私を好きになりなさい! 私があなたの分まで愛してあげる。 あなたの苦しみも悲しみも、全て。


「私を好きになりなさい! 私が――」

「そのお言葉、お姉さまの……。あなたねっ!」


 お姉さまが現れた。

「あなたたち、そこで何をしているの? あら、遥。

 なかなか菜園に来ないから、どこに行ったのかと心配してたのよ?」

 

 遥は笑顔で高峰様に振りかえりともに歩いて行った。

 そして、夕見遥は次のお姉さま選出権に参加することを決めた。

 その後、努力の甲斐あって高峰奏が卒業した後、2学年になり、次のお姉さまに遥が選ばれることとなる。

 その言葉、その心を引き継いで。





 

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