着衣
ここは人通りのすくない裏道。
服屋からはあまり離れていない場所だ。
すぐ近くの広場では、数々の露店が賑わいをみせている。
「このあたりでいいわよね」
「早く着よっ」
二人とも購入した衣類に袖を通したくてうずうずしているようだ。
「まぁ、いいんじゃないか」
ここまできたら覚悟を決める。
僕たちは隠蔽を解除し、姿を現した。
ふぅ~。
腕を回しコリを和らげる。
裏道だというのに、太陽の日差しは僕たちを照らしている。
あいかわらず人の声は建物の向こうから聞こえてくるが、左右の道から人が出てくる気配はない。
今、町人に見つかれば僕たちの姿をみられてしまうだろう。
もしそうなったら、どうなってしまうのだろうか。
しかしこれは何だろうか。
ある服は2着。
一つは、はっぴのようなもの。
そして、そのズボンと思われるもの。
二つ目は腹巻のようだが長くよくわからなかった。
はっぴのようなものとズボンと思われるものを別に考えるなら、3着といってもいいだろう。
この中で僕が着れそうなのは……ズボンだろうな。
床に並べた衣類からズボンをさっと拾う。
「僕はこれかな?」
「あっ」
大事なぬいぐるみを取られたかのような声が聞こえる。
ズボンを手に取り、履いてみる。
ふむ、ふむふむ。
紐が通っていて、調節出来るようだ。
腰より少し位置が低いが、大事なところは隠れている。
残された衣類は2種類。
誰がどっちを着るのだろうか。
僕は行く末を見守ることにした。
「めぐみ、先に選んでいいわよ」
松崎さんからみたいだな。
「いいの? 遥ちゃんが買ってくれたのに」
「いいわよ。 めぐみが一番頑張ったんだもの」
「ありがとう」
松崎さんは少し悩んだ後、長めの腹巻を手に取った。
そっち行っちゃう?
未知の衣類へと進む松崎さん。
あれはなんだ?
どうやって着るんだ?
だまって見ていると、足を通している。
まぁ、それしかないか。
上にたくりよせるようだ。
素材は少し伸びるみたいで、松崎さんはんーんー言いながら引っ張っている。
着てみるとサイズが小さいのか、締め付けられ、胸部はつぶれてしまっている。
胸元は半分くらいが治まっているが、一番上まで上げられず断念したらしい。
着てみると、胸からあそこまでの長い腹巻だった。
また背中部分が大胆に開いているものらしく、サイズのせいで脇あたりまで開いていた。
「めぐみ、この服はあなたには小さいんじゃないかしら」
「あはははは、そみたいだね」
松崎さんが服を脱ごうとしたとき、布を裂くような音がした。
ミシミシミシ、パチン。
その豊満な胸が露わになった。
グッジョブ田中。
田中ってだれだ。
「ふぇ」
「やぶ、れた?」
松崎さんが来ていた腹巻は、上部で分断され、前に垂れてしまっている。
もう腹巻としての役目しか果たさなくなったそれを、ゆっくりと脱いだ。
きれいにたたみ、はっぴのようなものに手を伸ばそうとして止められた。
「めーぐーみぃ~」
「ひゃぁぁぁぁ、ごめんなさい。 ごめんなさい」
「こっちは遥ちゃんが着ていいから、ぐすん」
夕見さんがはっぴを手にとる。
背丈的に小さくはないのだろうか。
バサッっといい音が鳴り羽織ると、やはりサイズに問題があるらしく、おなか当たりまでしか隠せていなかった。
やっぱり。
そしてそのままの格好で腹巻を手に取る。
「どうするのよ、これ。 そうだめぐみ、矢だしてくれる?」
「うん? いいけどどうするの」
本当にその一言につきる。
ん、どうするんだ?
「こうすれば、着れるはずっ」
見ていると半分で切り裂いているようだ。
引き裂くと松崎さんに手渡した。
「着てみて」
「うん、着てみるね」
さっきと同じように足を通す。
上の方は後ろで結ぶようだ。
二つに分ければ、お腹が見えるがこれで上と下が隠せるみたいだ。
よくみると、松崎さんの胸が若干透けている。
うむ、下の方は問題なさそうだ。
「とりあえず服は着れたわね」
「そだね」
「うん、これで堂々と町を歩けるね」
僕が先頭を歩き、二人は後からついてくる。
そして広場前の角に差し掛かったところで後ろから衝撃を受けた。
ぬっ。
夕見さんが飛びかかってきたらしい。
一瞬でズボンを下ろされ、剥かれてしまう。
夕見さんは丈が足りないはっぴにズボンを穿き、完全体となった。
「ごめん、これもらうね」
「あっ、遥ちゃんずるーい」
夕見さんはそう言って、にっと笑い、はにかんだ。
ずるい。
ほんとうにずるい。
僕は仕方なく隠蔽で隠れるのであった。
こうして僕は、服を着た女性達を全裸でストーキングすることとなり、楽しげに笑う後姿を眺めることとなった。
歩いていると腹巻が上がってくるようで、松崎さんの手でなおしている姿が見えた。
さて、どう脱がそうか。




