盗賊
――翌朝
町に着く前にスキルを覚えておきたかったので、今日はこのあたりでオオカミを倒すことにしよう。
山は越えたので、ここから見える林を進み、川へ向かい、ある程度歩けば町だろう。
……で、人に出会ってしまった。
オオカミを追いながら、順調に倒していると突然、3人組の男にでくわしてしまったのだ。
その男達は、薄汚い装備に身を包み、錆びた剣を手にしている。
山賊か何かだろうか。
頭もぼさぼさで、へんな臭いもする、正直近寄りたくない。
男たちは、げらげらと笑いながらこちらに歩いてくる。
3人のうち1人は、すぐに何処かへ行ってしまったようだが、仲間を呼びに行ったのかもしれない。
もしそうなら、早くこの場を離れなければ、しかしすぐに来るわけでもないだろう。
盗賊のアジトに戻った男が、大将に報告する。
「ぐへへ、裸の女がいやすぜ大将」
「まさか、おめぇよ。 最近、いい女が手に入らないからって寝ぼけてんじゃねぇよ」
「ほんとなんですって大将」
「信じられないってんならきてくだせぇ、むこうでさぁ」
何処かへ行った1人が大柄な男を連れて戻ってきた。
早すぎる、ついさっき呼びに行ったばかりだろうに。
「……ぬぅ? ほんとうだ……、裸の女が3人? いや、1人は魔物か。 男もいるな。
どうなってるんだありゃ」
大柄な男は手に、一片の錆びのない業物っぽい槍を手にしている。
「ぃ、ぃゃ……」
松崎さんは、視線を向けられただけで、おびえだしてしまった。
「……」
夕見さんは、なんとか取り乱さずにいるようだが、相当恥ずかしいようだ。
ハッピィと僕だけが堂々と、盗賊達を見据えていた。
くっ、油断していた。
人と会うのはもう少し先だと思っていたし、こういう奴らがいることを失念していた。
何の準備もしていない。
せめて、武器を購入してから出会いたかった。
この短剣では心もとない。
それに、だ。
まずいぞ、まずい、奴らを倒したとしても服や装備が残ってしまうじゃないか。
服があれば、たとえ、あんなものでも着られてしまうだろう。
どうする? 逃げるか?
いや、逃げたとしても……奴らは盗賊だ、どこまでも追ってきかねない。
倒すしか、ないか。
だが、服や装備はどうする。
倒した後はなぜか裸?
……あり得ない。
まず、あんなやつらの服を脱がさないといけないなんて最悪だ。
考えろ、考えるんだ。
奴らを倒し、服や装備も失わせる方法を。
とりあえず、今は逃げたほうがいいか。
「とりあえず、逃げよう」
「……ええ」
「……うん」
僕達は、盗賊に背を向けて走り出した。
「逃がすと思ってんのか?」
げらげらと笑いながら追ってくる盗賊達。
夕見さんと松崎さんは、今まで慣れていたが、僕以外の人に裸を見られるのはダメらしい。
夕見さんでさえも、目に涙を浮かべている。
「早いな。 そっちの女を追え、とろいぞ」
大将は松崎さんを見つけ、捕まえられそうだと笑い、指示を出した。
「おう」
バラバラに追う盗賊達の行動が、大将の言葉で整い始める。
僕と夕見さんは、身体能力強化があるので走れば逃げ切れるだろう。
ハッピィも大丈夫だろう。
しかし、松崎さんは取得していないのと、足が遅いのとで、逃げ切れそうにない。
僕は、横に並んで飛ぶハッピィに合図する。
「ハッピィ、爪が刺さらない様に気を付けて松崎さんを掴んでくるんだ」
「ギャウッィィィ」
ハッピィは、一言鳴くと松崎さんのほうへと飛び出した。
「ぃゃ……、こないでっ」
盗賊が松崎さんの目の前まで迫っている。
「ぐへへ、つ~かまえ~たっ!」
盗賊の1人が気味の悪い笑いで、松崎さんに迫る。
「……ハッピィ!」
寸前でかすめ取っていくハッピィ。
松崎さんはハーピィに掴まれて飛んでいく。
寸前で獲物を取られた盗賊達は悔しそうだ。
そのまま僕達は、しばらく走っていった。
もういいだろうと思い、後ろを振り向く。
ん、追ってはきていないようだな。
だが、僕達は町へ着くまでのレベル上げを、この周囲でしようとしていたのだ。
オオカミは、ハッピィが倒してくれるから楽なのだ。
盗賊達にはいずれまた、かち合うかもしれない。
対策が必要だな。
昼過ぎ、僕は1人、隠蔽スキルで姿を隠し、盗賊と出会った場所に来ていた。
初めに出会った3人のうち、1人が何処かへ行ったかと思ったら、すぐさま大将を呼んできた。
いくらなんでも早すぎる。
もしかしたら、あのあたりにアジトがあるのかもしれない。
アジトを見つけることができれば、夜中、寝ているときに奇襲をかけることができる。
もし寝ている時だったのなら、労せず倒すことができるかもしれない。
出会った場所の近くを探すと、数多くの葉っぱが実る木に囲まれた、一軒の小屋があった。
周囲からは、葉っぱが遮断して、小屋が隠れているので発見は難しい。
……ここか。
中をそっと覗くと、さっきの盗賊達がなにやら話し込んでいるようだった。
槍を盗んで帰ろうかとも思ったが、バレそうだと思いなおしてその場を後にする。
場所を確認できたから戻るとしよう。
今夜、盗賊達を狩る。
僕は、帰り道、心の中で誓った。
山道に戻って、夕見さん達と合流する。
夜に備えて、僕達は早い眠りについた。
夜、僕達はご飯を食べて、歩きだした。
三人で隠蔽スキルを発動して、盗賊のアジトに近付いていく。
ハッピィには遅れてきてもらうことにした。
早く行って姿を見られたまずいからな。
姿を隠すことのできないハッピィは、準備が整ってから来てもらったほうがいい。
風上の小屋が見える位置まで到達し、木の陰に腰を下ろす。
僕は、火魔法で火をおこし始めた。
なかなか火が付いてくれないが、この時間を考えてハッピィには遅れてきてもらうのだ。
やや太めの木の枝に、火が移ったところでハッピィがやってきた。
よし、いいこだ。
タイミングバッチリな、ハッピィのあごを撫で作業に取り掛かる。
夕見さんと、松崎さんに運んでもらった、大量の木の枝や葉っぱに火を移していく。
昨日、松崎さんと夕見さんには、燃えそうなものを探してもらっていたのだ。
火が大きくなってきたところで選手交代だ。
「ハッピィ、頼むな」
僕は小声でハッピィに促す。
「ギャス」
ハッピィは、わかったと言わんばかりに小さく鳴いた。
ハッピィが翼を羽ばたき、風を送る。
初めはやさしく。
しだいに送る風を強くしていく。
足は地面に固定し、自分が飛んでしまわない様に気を付けている。
目の前の木は、すでに火に覆われていた。
飛ぶ火の粉なども、風で盗賊のアジトへと流れていく。
僕の体は、若干火に触れているのだが、熱くはない。
火をつけた時に、どうやら火耐性がLV2に上がったみたいだった。
すると、火に触れても熱くなくなったのだ。
火を受け続けているとLVが上がるのかもしれないと思い、こうしているわけだ。
次の木へ、次の木へと火が移り、火の勢いはどんどん増している。
ハッピィの送る風と、自然発生の風が合わさり、盗賊達のアジトへと向かっていった。
盗賊達のアジトの周辺は特に、葉っぱの実りが良い木が多い。
送られてくる風が、火を運び、盗賊のアジトは火の海と化した。
ハッピィはつかれたようで、ぐったりと眠る。
「おつかれさま」
僕は小さく声をかけた。
ステータスを見ると、面白いようにレベルが上がっている。
盗賊達が倒れていっているのだろう。
特に槍をもった大将は強そうだった。
だが! 人間であることに変わりはない。
寝ているときに、火で覆われてしまえば、どんな男でも生きてはいまい。
僕は敏捷強化、夕見さんは筋力強化、松崎さんはアイテムボックスを覚えた。
そろそろいいかな?
槍を拾ってくるとしようか。
僕が、盗賊のアジトに向けて歩きだそうとしたところで、周囲の葉っぱがざわついた。
「ウゥゥオォォォン」
大きな獣の声が、暗闇の中、林に響いた。




