プロローグ
憧れは強烈だ。その放つ光の大きさ故に、誰もが自分の足元に落とされた陰の濃さと大きさに気付けないまま、時に道を誤る。
「大丈夫かい?」
「……うん」
良平の脳裏に浮かぶのは、幼き日の火事の記憶。
何者かの放火が原因の火事は計画された物だけに火の周りも早く、良平の住むアパートは消防団が到着する頃には既に手の打ちようがないぐらいに燃え上がり、脱出など考えられないほどの火の手を上げていた。
誰もがただ延焼を防ぐことを第一に考え、焼け跡からは何人かの黒く焼け焦げた死体が見つかるだろうと考え始めたその瞬間、アパートを囲うように吹き抜けた一陣の突風が奇跡を起こした。
縦に強烈に吹き上げた風が酸素を遮断して火の手を弱めると同時に一人の白い服を着た人物が未だ燃え続けるアパートに突入。ものの数分で中に取り残されていた良平を含む数名を助け出したのだ。
「あの……」
「うん?」
「あ、ありがとうございました!」
「偉いな坊や。ちゃんと『ありがとうございました』って言えるんだな」
そう言って良平の頭に乗せられた手の平は大きく、何より熱気で火照った体にも伝わるぐらいに暖かい。
そしてその大きさと暖かさは、この瞬間から良平にとって何よりの憧れとなった。
「お兄ちゃん、僕もお兄ちゃんみたいに強くなれるかな?」
「……そうだなぁ」
子供特有の短絡的で答えに窮する質問に、白い服の青年は大きく首をかしげた後にこう言った。
「坊やがずっと今日の気持ちを忘れないで、強くなろうとしていれば、いつかきっと強くなれるよ」
「本当に?」
「うん。本当さ。だから……」
そしていつも良平の火事の記憶はそこで終わる。この後であの日のヒーローが何を言いたかったのかは、十年経った今でも思い出せない。思い出せないまま、今は良平が誰かを助けるヒーローとして日々戦っている。




