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図書館

作者: Shina Kuroe

やられた。碧が彼女を連れてきたとき真っ先にそう思った。

「碧、その子は?!」

「・・・・俺の彼女。1か月前からつきあってる。」

なななな、なんと、まさか。碧に彼女ができるなんて。しかもよりによってあの図書館の君とは。



その子はいつも昼休みにやってきては毎日一冊ずつ本を借りていく。

別に図書館の常連女子なんていくらでもいるし、俺だって最初は気付いてもいなかった。貸出カウンターから見えるソファに座っているのを、あの日偶然見たんだ。

その時は土曜日の午前授業の後とあって、初めは割合人が多かった。しかしその後は借りにきただけの人はもう帰ったし、残りは自習室に入っていたので、そんな所に座って本を読んでいる奴は彼女だけだった。

こんな日に最終下校まで図書委員の仕事なんてうんざりだ。そう思ってカウンターでさして興味も無い画集を眺めていた。

小一時間ほどして目をあげると、例の女子はまだ座っていて本を読んでいる。全然動かない。

そんなにはっきり見えるほど近くではなかったが、顔に対してやたらとでかい眼鏡が目立っていた。顔は良くわからないがさぞかしダサい奴だろうと勝手に想像しつつ、画集を置いてそろそろ本の整理に取り掛かろうと腰を上げた。






気付けば,館内には彼女と俺だけになっていた。自習室にはもっと残っていると思っていたが、良く考えたら今日は期末テストの直後の昼だ。わざわざ残って勉強する物好きはそういない。


本を大雑把に分けた後、最初のひと山を抱えて本棚に向かった。

あぁ、こんな日になんで当番が入るんだ。本当なら女の子を誘って遊びに繰り出していたはずなのに。

それもこれも全部碧が悪いのだ。あいつが用事があるから来られないとか言うから、俺が一人で仕事をするはめに・・・・・・。

と、独り心の中で毒づきながらソファの前を通りすぎると、足音で集中力が途切れたのか、女子が顔をあげた。

そのまま彼女は小さく伸びをして眼鏡を外した。疲れた目をマッサージするように眉間を指でもんでいる。

なんとなしに本棚の間からそれを見ていて、俺は少し驚いた。

眼鏡を外した彼女は、とんでもない美少女だったからだ。大きな目がパシパシと瞬いて、次の瞬間、クシュン、となんとも可愛らしい仕草でくしゃみをした。

やっぱりこの日に当番でラッキーだったかもしれない・・・。さっそく俺は近付いていって話しかけた。

「熱心に読んでたね。本が好きなの?」

彼女はおもむろに顔をあげた。

「はあ・・・嫌いじゃないですけど。」

彼女は突然話しかけられて少し戸惑い気味に間をおいてから答えた。

「ここ、今日はあと30分くらいで閉めるから、借りておきたい本があればお早めにどうぞ。」

嘘。最終下校まで開けてるから本当はあと4時間以上ある。

でも、俺はこの美少女と2人で邪魔されない作戦を瞬時に立てていた。それに、本当に閉めたってもう今日は誰が来るはずもない。

「そうなんですか。すみません、閉館の準備にはお邪魔でしたか。」

彼女は困った顔で首をかしげて立ち上がろうとする。そこで俺はすかさず言葉を続ける。

「いや、全然そんなことないよ!それに閉めはするけど、俺は図書委員の仕事でまだ最終下校近くまでいるから、別に閉館後もいてもらって構わない。少し照明は暗くなっちゃうけど。」

「でも、悪いので、やっぱりもう帰りますね。わざわざありがとうございました。」

俺の“極上スマイル優しい言葉つき攻撃”にも態度を変えずなおも立ち去ろうとする彼女に、俺は少しペースを崩された。これじゃあ本当に独り寂しく図書館業務になってしまう。

「あのさ、もし・・・。」

か、可愛い・・・。「もし?」

よし、なんとか引きとめた。

「もしこの後予定が自由だったら、少し本の整理を手伝ってもらえないかな?終わったらまた本読んでていてもらってもいいからさ。どう?今日図書委員俺だけなんだよね~・・・」

「はあ。私で良ければ、暇なのでいくらでもお手伝いしますが。」

顔も可愛ければ声まで可愛い。キンキンしない高めのトーンで、多分地でこういう声なんだろう。かわいこぶってる女子と違い、安定した話し方がそう思わせた。なんだか焦点の会わないような眼で見上げてくるのがまた愛らしい。

「ありがとう。じゃあ、本を棚に戻すのを手伝ってもらっていいかな?」

「はい。」

と、まだ名前も聞いていないのに気がついた。

「あ、名前。聞いてもいい?俺は佐々垣計。計算の計。」

「遠山穂豆実です。」

「ほずみちゃん?」

「はい。稲穂の穂に、“ず”が・・・で、“み”は植物とかの実です。」

「え、ごめん。ず、がなんだっけ。」

「・・・・豆、です。」

彼女は少し不満気に繰り返した。

「豆。かわいいね。」

「小さいからじゃないですからね!」

いきなりかみつくように穂豆実ちゃんは声をあげた。そしてはっとした表情でうつむいてしまった。

「いや、何も言ってないけど・・・。」

突然のことに俺も笑いを押さえられず横を向いて返事した。確かに彼女は女子高生としては平均より小さめかもしれない。

「す、すみません。よく小さいって言われるもので、つい。」

「そんなに気にするほど小さくはないと思うけどね。」

思わず手を伸ばして小さなあごを支えてこちらを向かせてみる。さっきの失言のためか頬が真っ赤になって

「あの。」

穂豆実ちゃんは不思議そうにこちらを見つめる。すこしからかってみることにして、顔を近付けた。

「ん?」

「手を、話していただけませんか。眼鏡が無くてお顔が良く見えないのです。私、ど近眼で。」

それで焦点の定まらないような目つきをしていたのか。俺の攻撃にも動じなかったのはよく見えてなかったせいらしい。

「あ、でもこれなら見えます。もうちょっと。」

逆にこっちが驚いた。彼女はそう言うなりずいっと顔をさらに近づけてきたのだ。

その距離10㎝ほど。アーモンド型の目がじっとこちらを見ている。

「・・・・・。あ、3年生の方でしたか。失礼しました。てっきり司書さんかと・・・。」

彼女はやっと離れてくれた。

なんだ、俺がどきどきしてどうする。

穂豆実ちゃんは「あはは」と笑って眼鏡をかけた。

「俺が3年生だって、よく知ってたね。」

ふと気付いて聞いてみた。穂豆実ちゃんはうなづいた。

「はい。折田志摩子先輩の恋人の方だって、お聞きしていましたから。」

「誰に?」

折田さん?彼女とは数カ月前に告白されて断った、というだけで、つきあってはいないのだが。

「さぁ・・・ずいぶん前のことで、そんなに親しくもない同級生だったもので・・・。」

なぜか焦って話を濁そうとする彼女の様子が、余計に俺に火をつけた。

もうここまで来たら夢中にさせるまで諦めない、というのが俺の信条だ。しかし、

「それより、早く本を片付けてしまいましょう!あれ、これからする分ですか?」

そう言ってこちらが話す間も与えず立ちあがってカウンターへ歩いて行ってしまった。

「そうだね・・・。」

まぁ、後でも良いか。俺も頭を切り替えてやりかけだった仕事へ戻った。


まだまだ続くよ

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