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月界に飽きた月の姫は人間界に遊びに行く〜魔法学園に入学したら隣の公爵子息にだけ勝てない件〜  作者: おもち
第一章

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第4話 学園生活一年目 ②



授業が始まると、私は教科書を開く。今日のこの時間はとても楽しみにしていたもので、さっきまでの悔しさやら僅かな怒りなどはすっかり忘れてしまった。


「今日は自分の得意属性について把握してもらう。一人一人前に来て、この水晶に手をかざし、得意属性を知るんだ」


お手本として担任であるアーレン先生が水晶に手をかざすと、水晶は青く光った。


「得意属性を知ることにより、魔法の修練を正しく行える」


得意属性とは魔法使いが最も自分の力を引き出せる魔法属性のこと。属性には炎、水、風、地、雷があり、それぞれ相性が存在する。


「ここ一ヶ月ほど魔法の基礎については学んでいるだろうから、早速測定を開始するぞ。まずは───」


前にいる生徒から順番に教壇のところに行き、水晶に手をかざしていく。一人目の生徒は水晶が淡く緑に光ったから風属性が得意属性となるのだろう。ちなみに、光の強さは本人の魔力量に比例するそうだ。


基礎を固めてから実技に入るということで、ずっと机に齧り付いての勉強だったが、今日からは違う。ちゃんと魔法を学べるのだ。これを楽しみと言わず、なんと言おう。


けれど、ここで私の場合はひとつ懸念事項がある。それは私の得意属性はどうなるのかというものだ。


今の私は人の身ではあるが、本質を辿れば《月の姫》である。《月の姫》たる私に得意属性なんてあるのだろうか。


それに《月の姫》が使う不思議な力と魔法との正確な違いはなんなのか、私はよくわかっていない。私は特に意識したことなく、こうしたい、ああしたいと思うだけでそれを実現させることができる。


けれど、魔法はそうはいかない。魔法について学んでみて、魔法を使うには詠唱に魔力を乗せる必要がある。そうすることで自然の力を生み出すことができるのだ。


大魔法士と呼ばれるくらい優秀な魔法使いならば詠唱がなくとも魔法が使えるようだが、それでもどこか私の使う《月の姫》としての力とはどこか違うように思える。


人の文明の発展に伴って編み出されたものだと魔法を考えてしまえば、もうなんでもいいような気がするけど。


そんな風に色々と考えていると、隣から小さな声が聞こえてきた。


「何ひとりで百面相なんてしてるの。ああ、顔芸の練習か。上手いね」

「顔芸なんてしてないし。考えごとしてただけだから」

「へえ、君に考えるようなことなんてあるんだね」

「む、それって遠回しにばかだって言いたいの?」

「まさか。誰もそんなこと言ってないよ。下手に解釈するのは良くないと思うんだけど」


呆れたように肩を竦めながらそう発言するエルヴァレンだが、先に話しかけてきたのは間違いなくそっちだ。なのになんで私が聞き分けのない子どもみたいな反応をされなければならないのか。


けれどここで反応をすると、余計におちょくられることは間違いない。ここは大人な私が大人な対応をしてあげようじゃないか。


「ふん、そういうことにして置いてあげるよ。私は大人だからね」


ふふん、とエルヴァレンを見つめると、なぜかエルヴァレンは半目になった。


「……やっぱり、君はお子さまだね」

「なっ、なんでそうなるの!」


寸前のところで声のボリュームは落としたが、私は思わずエルヴァレンに詰め寄った。一体今のどこがお子さまだというのか。大人みたいに振る舞えていたでしょ!


「ちょっと、近いんだけど」

「それよりも! どこがお子さまだって言うの!」


グイッと更に近づくと、エルヴァレンは顔を背けた。まるでこちらと目を合わせたくないみたいじゃないか。失礼すぎる。


そう思っていると、エルヴァレンの前に座っているレオン殿下が振り向き、呆れたように口を開いた。


「そろそろ落ち着け。授業中だろ」

「うっ、でもエルヴァレンが先に……」

「それは知っている。ユリウス、お前も揶揄いすぎだ」


完全にとばっちりの私だったが、レオン殿下に注意されてしまえば何も言えない。それについさっきの休み時間でも言われたばかりなのだ。


「すみません、殿下。あまりにも珍獣のような表情をしていたので」

「だーれが珍獣なの!」

「君以外にいないでしょ。今まで会話していたのは僕と君なんだから。それとも僕との会話を忘れてしまうほど、君の記憶力は残念だったのかな」

「そんなことないから!」


素直を謝罪したかと思ったら、謝罪相手はレオン殿下で、私に対しては珍獣ときた。《月界》じゃ、珍獣なんて呼ばれたことないのに!


……いやでも、《月の姫》は見方によれば珍獣なのかな? 珍しいし。でもそれは自分が珍獣だと認めているようなものだし。こんなこと言われるのは新鮮だけど、この新鮮さは違う気がする。


ううん、と僅かに唸っていると、またしてもポンポンと頭を撫でられた。


「はいはい、ごめんね。流石に女の子に珍獣は良くなかったよ。これは反省してる」

「それ以外も反省してよ」


テストだけでなく、こうして口喧嘩のような何かが起きるたびに毎回エルヴァレンは頭を撫でて、話を紛らわすのだ。もちろん初めは抵抗していたが、なんでかエルヴァレンの頭の撫で方は上手い。


撫でられすぎているせいで、さっきも休み時間のときに反応が遅れてしまうくらいには上手い。


くそぅっと思いつつも、すっかり怒りを鎮められた私は手を払い除け、エルヴァレンをちょっとだけ睨んでから前を向き直した。


ちなみにレオン殿下は「またか」という表情をすると、いつの間にか前を向いていた。



エルヴァレンと話しているうちに順番はみるみるうちに進んでおり、ミラは炎属性、エリナは風属性だということが分かった。ちなみにレオン殿下は雷属性だった。なんか3人に合ってるなぁと思いながら順番を待っていると、私の隣にいるエルヴァレンの順番が回ってきた。


彼が席を立つと、教室中の貴族令嬢の視線が集まった。比喩でもなんでもなく、言葉の通り、引き寄せられるように視線が集まったのだ。


まあ、その理由は何となくわかる。レオン殿下は王族特有であるらしい金髪に紫の瞳を持つが、エルヴァレンは耳の辺りで切られている手触りの良さそうな黒髪と煌々と光る赤い瞳を持っている。同じ年だからまだ性差はないけれど、だとしても成長した彼は中性的な美しさを持つのだろうと今でもわかる。


おまけに公爵子息という身分を持つのだ。令嬢たちが視線を向け、あわよくばと願い込めているのだろう。


私には分からない感情だけど。それにエルヴァレンの人のおちょくり具合はイラッすることがあるほどだ。言葉の言い回しが問題なのかもしれない。


それなのに貴族令嬢たちはあんなにも熱い視線を向けているのだ。いつかエルヴァレンのこの性格を知ってもらいたい。


……いや、知ってもエルヴァレンの場合は顔が良いから意味ないのかも? だって今も貴族令嬢たちはエルヴァレンの顔を見て視線を向けているみたいだし。


なんかそう考えると、エルヴァレンは顔だけの男ということだ。なんだか無性に可哀想になってきた。


そんな哀れみの視線を私は向けつつ、彼は教壇の水晶へ手をかざす。その瞬間、今までどの生徒にも起きなかった魔力発露が起きた。


水晶では受け止めきれないほど膨大な魔力を秘めていることが分かる。彼の得意属性である炎が水晶から溢れ出し、教室の天井まで届く勢いで燃え上がった。


教室内は騒ぎになるが、どちらかと言えば貴族令嬢たちのエルヴァレンに向けての黄色い悲鳴が主だった気がする。熱気が私のところにまで伝わってきて、エルヴァレンを見ると得意げに私を見ていた。


けれど私はそれよりも、この魔法が、炎が美しいと感じた。


《月界》でも人間界でも初めて見たこれほどまでに大きな炎の力。お父さんも炎が得意属性だったけど、ここまで大きなものではなかった。


人の生命の強さを垣間見た気がして、私は思わず手を伸ばしそうになる。けれど、その前にエルヴァレンは水晶から手を離したため、私の右手は机の上から少しだけ浮いた状態で留まった。


「流石だな、エルヴァレン。次はエルシアの番だ」


名前を呼ばれ、私は席を立つ。教壇に向かうために階段を降りていると、エルヴァレンとすれ違った。そのとき、さっきのエルヴァレンの炎を見て私はあんな炎を出せるのかと思ってしまった。


あれは人の、彼の生きる強さを体現したようなものだ。私にはそれがあるのか。


そんなことを思ってしまったら、一瞬だけど足が止まってしまった。それをエルヴァレンは何を思ったのか、私の耳元に口を寄せ、こんなことを言ってきた。


「もしかして、ビビってる?」

「!? そんなことないから!」


私はエルヴァレンにそう反論して、先程までの足取りが嘘のように素早く教壇へと辿り着いた。アーレン先生に水晶に手をかざすように言われ、私は水晶へと手を伸ばした。


何がビビってる? だ。ビビってないし。そんなこと言うのなら、《月の姫》の力の一端を見せてやるんだから!


そう意気込むと、私は水晶に手をかざした。その途端、水晶がパァーっと光り、教室中を明るく照らした。前が見えないほどに光り、思わず目を瞑ると、目の前の水晶が爆発した。そう、爆発したのだ。


「……え?」


意味がわからなかった。《月の姫》の力を見せてやる! と意気込んではいたが、爆発はさすがに望んでない。どういう事なのか分からず、私は自分の手のひらを見てしまう。


教室内も不思議と静かで、そっと視線を同級生に向けるとみんなこっちを見て目を丸くしていた。あのエルヴァレンですら、私を見て心底驚いたような顔をしている。


もうどうしたらいいのか分からず、私は助けを求めるようにアーレン先生を見上げた。


「……いやぁ、エルシアは魔力量が多いんだな。水晶が爆発してしまうくらい。まあエルシアの前はエルヴァレンだったし、ガタが来ていたのかもしれないが、それでも十分な魔力を持っているんだな。こんなこともあろうかと予備はあるから心配するな」


先生、なんですかこんなこともあろうかとって。普通ないですよ。


素でそう思った私は悪くない。というか、普通に意気込みすぎたんだ、私が。《月の姫》としての力が軽々と水晶の許容範囲を上回ってしまったんだ。


爆発は望んでないけど、爆発させてしまうほど、無意識に力を注ぎすぎていたんだろう。アーレン先生、ごめんなさい。


そう思っていると、アーレン先生はいつの間にか爆発した水晶を魔法で片付けていて、予備の水晶を私の前に置いた。


「多分次は大丈夫だろうから、もう一度手をかざしてみろ」


私はゆっくりと水晶に手をかざした。爆発の後のせいか、みんな私が水晶に手をかざすのを恐る恐る見ている。こんな状態でエルヴァレンの言ったような珍獣扱いはいやなのに、爆発させてしまったのは間違いない事実だから何も言えない。


次は爆発させないようにと《月の姫》の力を先程よりも抑えつつ、けれどエルヴァレンにばかにされないように意識する。すると、水晶は私の意志を反映したかのように鮮やかな水色の光を放ち、やがてそれは氷の結晶となって水晶外へと顕現した。


先程のエルヴァレンのときと同じだ。


魔力発露として顕現した氷の結晶は私の周りを取り巻き、冷気を発している。流石に寒くなって水晶から手を離すと、氷の結晶は瞬く間に消えた。


これは得意属性はエルヴァレンの炎に負けないような属性がいいと願ったもので、その結果が今の氷の結晶だ。けれど、氷なんて属性はなかったはずだ。


学年2位になるまで勉強した私はそう記憶している。あ、いやでも、属性じゃなくて───。


思い出しかかっていると、アーレン先生は珍しいものを見たかのように息をもらした。


「水の上位である氷まで扱えるのか。珍しいな」


その一言に私は思い出した。水には上位属性と言われる氷が存在することを。


確か水属性を扱える魔法使いの中で魔力が多くて、魔法使いとしての素質が高いほど氷を扱うことができると本には書いてあった気がする。ということは、私はそのどちらもあると証明して見せたということになる。


んー、これはちょっと願いすぎたかもしれない。


私は思わず遠い目をしてしまった。






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