捌配信目『配信開始』
初配信まで、あと三十分。
パソコンの画面には。
すでに。
待機画面が映っている。
「……」
クリック一つ。
それだけで。
すべてが始まる。
「……」
心臓の音が。
うるさい。
ドクン。
ドクン。
鼓膜を。
内側から。
叩いてくる。
冷や汗が。
背中を。
つぅっと。
伝った。
「……トゥ……」
笑おうとして。
やめた。
今は。
無理だ。
初配信。
二十分前。
ピコン。
通知音。
「……っ……」
反射的に。
肩が跳ねる。
画面を見る。
事務所アカウント。
「……戌亥さん……奴さん……」
開く。
『いよいよだね!
永和くんらしく、いこ!』
『緊張すると思いますが……
私たちは、味方です……!』
「……」
画面を。
じっと。
見つめる。
「……よし……」
深呼吸。
「……がんばるぞー……」
小さく。
呟いた。
その直後。
ピコン。
もう一つ。
通知。
「……?」
差出人。
奴 隷
「……個別……?」
さっきのは。
事務所経由。
これは。
個人。
「……何だろ……」
少しだけ。
指が。
震えた。
恐る恐る。
開く。
『個人DM失礼致します。』
「……改まってるな……」
嫌な。
予感が。
する。
文章は。
続く。
『今夜の初配信、
とても楽しみにしています。
奴隷こと、
裏切敵子より。』
「……」
一瞬。
時間が。
止まった。
「……え……」
裏切。
「……名字……強くない……?」
敵子。
「……下の名前は……
まぁ……んー…
いそう……か……?」
だが。
すごく。
不安だ。
「……めちゃくちゃ……
裏切りそう……」
苗字が。
すべてを。
台無しにしている。
「……いや……」
首を振る。
「……考え過ぎ……だよな……」
奴さんは。
優しかった。
仕事も。
できる。
きっと。
偶然だ。
「……うん……」
多少の。
不安は。
胸に残ったが。
今は。
それどころじゃない。
初配信。
十分前。
ピコン。
「……また……?」
画面を見る。
差出人。
喉仏終焉花火トイキ
「……お前かよ……」
開く。
内容は。
短い。
だが。
はっきりしていた。
宣戦布告。
「……」
「……まぁ……」
嫌味な奴だ。
でも。
ちゃんと。
直接。
言ってくる。
それだけは。
認める。
「……流石……成功者……」
だが。
「……初配信……
被せんのは……
違ぇだろ……」
画面に向かって。
小さく。
「……カス……」
ついでに。
「……ふざけんな……ブス……トゥフッ……」
言って。
少しだけ。
スッとした。
初配信まで。
あと。
一分。
「……」
部屋が。
静まり返る。
時計の音だけが。
やけに。
大きい。
カチ。
カチ。
秒針が。
進むたびに。
胸が。
締め付けられる。
「……」
パソコンの。
待機画面。
その向こうには。
まだ。
誰もいない。
でも。
見られている。
そんな。
感覚が。
あった。
カチ。
カチ。
指先が。
冷たい。
喉が。
渇く。
呼吸が。
浅くなる。
「……」
逃げたい。
でも。
逃げられない。
ここまで。
来た。
カチ。
カチ。
あと。
三秒。
二秒。
一秒。
「……」
カチッ。
時計の針が。
動いた。
同時に。
画面が。
切り替わる。
配信が、始まった。




