漆配信目『喉仏終焉』
それから、一日が経った。
部屋は静かだ。
機材も。
モニターも。
すべて、準備は整っている。
「……ついに……明日かぁ……」
永和は、椅子に深く座り。
天井を見上げた。
初配信。
明日。
緊張は。
正直。
ずっと、あった。
「……ちょっと……予習でも……しとくか……」
そう思い。
パソコンを操作する。
初配信の空気。
どんな感じなのか。
見ておきたかった。
選んだのは。
【まじまんじ】から。
直近でデビューしていたユニット。
前科持ち系ユニット《BTS》。
その中の一人。
惨殺ヤマダ。
「……名前……強ぇな……」
アーカイブを再生する。
画面が切り替わり。
『ど……どーも〜……!』
ぎこちない声。
明らかに、緊張している。
『【まじまんじ】所属……のぉ……
アンチコメントする奴は全員〇〇○……!!!』
「……伏せられてる……」
『惨殺ヤマダで……だぁ!!』
「……だぁ!!」
永和は、思わず吹き出した。
「トゥフフフフ……」
だが。
笑ったのも、最初だけだった。
その後の雑談は。
正直。
見ていて、つらい。
話が続かない。
コメントを拾えない。
間が、長い。
(……うわぁ……)
戌亥や。
トイキの配信と比べると。
どうしても。
見劣りする。
「……まぁ……初配信だし……」
自分に。
言い聞かせる。
調べてみると。
どうやら。
人気ライバーであっても。
初配信は。
緊張で。
うまく話せないことが多いらしい。
ちなみに。
残念なことに。
BTSのメンバーは。
全員。
不適切発言。
または。
再犯。
もしくは。
逮捕。
その結果。
垢BAN。
事務所解雇。
「……まぁ……」
永和は。
肩をすくめた。
「……気楽に……やるかぁ……」
トゥフフフフ。
笑って。
一息つく。
その時だった。
ピコン。
部屋に。
通知音が。
やけに、大きく響いた。
「……っ……」
嫌な。
予感がした。
画面を見る。
送り主。
戌亥 三頭地獄番犬
「……戌亥さん……?」
奴さんじゃない。
ということは。
何か。
あった。
永和は。
息を呑み。
DMを開いた。
『大変だ、永和くん。
トイキくんが、動いたみたいなんだ』
「……っ……」
画面を。
さらに。
読み進める。
『取り敢えず、
彼のYを見てみて』
「……あの……吐息厨……」
小さく。
悪態をつく。
マウスを。
素早くスライド。
Yを立ち上げる。
表示されたのは。
見慣れた名前。
喉仏終焉花火トイキ
そして。
数分前。
たった今。
投稿された。
一件の呟き。
『明日の夜8時から、
俺の卒業ライブを行います!!!』
「……っ……」
目を、見開く。
『突然のお別れ、とても悲しいけど、
明日のライブは絶対に盛り上げるから、
皆んなも絶対見に来てくれよな!!』
「……っじかよ……」
声が。
かすれた。
時間。
明日の夜8時。
俺の。
初配信と。
全く同じ時間。
偶然?
そんなわけがない。
「……アイツ……」
画面を。
握りしめる。
「……俺のっ……
俺の初配信を……
潰す気だ……」
間違いない。
トイキは。
【まじまんじ】の大黒柱。
その卒業ライブとなれば。
人は。
間違いなく。
そっちに流れる。
少なくとも。
トイキのファンは。
全員。
卒業ライブを見る。
同接は。
ごっそり。
持っていかれる。
初配信で。
これは。
致命的。
「……くそ……」
一瞬。
胃が。
きゅっと。
縮んだ。
だが。
次の瞬間。
「……トゥフフフフ……」
笑いが。
漏れた。
自分でも。
驚くほど。
自然に。
「……面白く……
なってきたぜ……」
逃げ場は。
もう。
ない。
初配信。
対。
卒業ライブ。
しかも。
相手は。
事務所トップクラスのライバー。
最悪だ。
でも。
どこか。
胸の奥が。
熱い。
「……やるしか……
ないよなぁ……」
永和は。
モニターを。
見据えた。
明日。
夜8時。
世界は。
俺を。
見ないかもしれない。
それでも。
俺は。
配信する。
そう。
決めた。
嵐は。
もう。
すぐそこまで。
来ている。




