陸配信目『準備万端』
あれから、数日後。
村上永和は、自宅のワンルームで段ボールに囲まれていた。
「……おぉ……」
床に並ぶのは。
パソコン。
マイク。
カメラ。
ライト。
配線。
「……ほんとに……届いちゃったなぁ……」
事務所から手配された機材一式。
箱を開けるたびに。
現実味が、少しずつ増していく。
「トゥフフフフ……」
笑いながら。
だが。
手は、真剣に動かしていた。
バスケ部時代に鍛えた腕で。
モニターを机に乗せ。
配線をまとめ。
何度も説明書を読み返す。
「……こう……かな……」
電源。
オン。
パソコンが、静かに唸り始める。
「……よし……」
画面が立ち上がり。
事務所から渡された、自分専用のアカウントでログインする。
すると。
ピコン。
「……ん?」
早速。
通知。
「……奴さんから……?」
DMを開く。
『機材、届きましたか……?
こちら、立ち絵や諸々が完成しましたので……!』
「……もう……?」
仕事が早い。
というか。
早過ぎる。
「どれどれ……」
画面に並ぶリンク。
その中の一つ。
立ち絵【村上永和】
「……」
クリックする直前。
一瞬。
指が止まった。
「……いや……今更だけど……」
小さく呟く。
「……ガチで……名前なんだよな……」
クリック。
「……お、おぉ……」
思わず。
声が出た。
画面に映ったのは。
見覚えのあり過ぎる顔。
俺だ。
そっくり。
というか。
写真。
髪のクセ。
目の形。
口元。
「……いや……」
近づいて。
じっと見る。
「……これ……」
Vtuber。
だよな。
「……許されるんか……?」
思わず。
画面に問いかける。
「……おいおい……」
立ち絵は。
表情差分も完璧で。
笑えば。
ちゃんと。
あの。
笑いになる。
「トゥフフフフ……」
試しに。
小さく笑うと。
画面の中の村上永和も。
同じように笑った。
「……リアル過ぎるだろ……」
冷や汗が。
背中を伝う。
その時。
また、通知。
「……ん?」
別のDM。
呟きアプリYの件だった。
『宣伝、予想以上に反応が良いです……!
イイねも再投稿も多くて……
初配信、皆さん楽しみにされていますよ……』
「……え……」
思わず。
スマホでも。
確認する。
本当に。
数字が伸びている。
「……もう……逃げられないなぁ……」
ちなみに。
初配信。
二日後。
「……早過ぎだろ……」
思わず。
天井を見る。
トゥフフフフ。
笑うしかない。
◇
気を取り直して。
次は。
動作確認。
カメラを起動。
自分の顔が。
画面に映る。
「……うわ……」
それに合わせて。
立ち絵も。
同じように動く。
顔を傾ければ。
画面の中も傾く。
眉を上げれば。
同じ。
「……すげぇ……」
ここまで来ると。
純粋に。
技術が凄い。
ふと。
画面の端に。
ある項目が目に入った。
服装変更
「……へぇ……」
クリックする前に。
独り言。
「……もしかして……
他にも……衣装あるのか……?」
クリック。
一瞬。
ロード。
そして。
「……何でやねん」
画面の中の村上永和は。
全裸だった。
「……は……?」
固まる。
「……いや……」
二度見。
三度見。
「……ナメてるやん……」
だが。
リアルだ。
骨格。
筋肉のつき方。
「……ちょっと待て……」
よく見ると。
「……ほくろの位置まで……
完全再現……?」
ぞっとした。
「……おい……これはあかんやろ……」
流石に。
やば過ぎる。
凄い事務所なのは。
分かっている。
過激なユーモアも。
ある程度なら。
許容できる。
だが。
「……これは……あかんやろぉ〜……」
不安になる。
トゥフフフフ。
乾いた笑いしか出ない。
◇
椅子に座り。
部屋を見渡す。
機材。
モニター。
立ち絵。
数字。
デビューまで。
残り二日。
「……やっぱ……」
不安は。
消えない。
というか。
増えている。
本名。
生顔モデル。
設定無し。
初ソロ。
「……俺……」
腹をさする。
「……ほんとに……
これで……いいのかなぁ……」
トゥフフフフ。
笑いは出た。
だが。
その音は。
部屋に。
虚しく響くだけだった。
真面目に。
準備しているのに。
やっていることは。
どこか。
おかしい。
そのズレが。
逆に。
俺を。
追い詰めていく。
デビューは。
もう。
すぐそこだ。
逃げ場は。
ない。
それでも。
「……やるしか……ないよなぁ……」
そう呟いた。
その声は。
少しだけ。
震えていた。




