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伍配信目『前代未聞』

会議室の空気は。


いつの間にか、張り詰めていた。


 


俺と奴さんは。


ただ、黙って座っている。


口を挟める雰囲気じゃない。


 


何故なら。


 


目の前で交わされているのは。


Vtuberとして。


世界の頂点に近い二人の会話だったからだ。


 


未経験の俺は、言うまでもない。


奴さんだって。


事務所の顔であり。


大人気ライバーなのに。


今は完全に、聞き役に回っている。


 


それほどの。


圧。


 


「俺がァ……気にしてんのはさァ……」


 


トイキが。


いつも以上に。


吐息を絡めて、言った。


 


「ユニットの事なのよォ……分かるゥ〜??」


 


「……ユニット?」


 


思わず。


声が漏れた。


 


何だ。


ユニットって。


 


奴さんが。


すぐに、補足してくれる。


 


「ユニットっていうのは……

アイドルで言うところの、グループみたいなものです……」


 


「Vtuberは一般的に……

テーマの決まったグループで、

デビューすることが多いんですよ……」


 


「……あぁ……」


 


なるほど。


 


確かに。


学園系。


ファンタジー系。


ケモノ系。


 


似たような雰囲気のVtuberが。


何人も並んで描かれた。


あの、よく見るイラスト。


 


「そーそォ……」


 


トイキが。


俺を一瞥する。


 


「俺がァ……懸念してるのはなァ……」


 


一瞬。


部屋が、静まり返った。


 


空気が。


重くなる。


 


「何の経験もないィ……

ぽっと出のコイツがァ……」


 


吐息。


そして。


 


「オーディションを勝ち抜いてきた

正規ルート組のォ……

足を引っ張らないかどうかってェェ事だよォォ……?」


 


正論だった。


 


反論できない。


 


俺が。


オーディションを受けて。


何百人。


何千人の中から。


勝ち上がってきた側だったら。


 


きっと。


同じことを思う。


 


(……そりゃ……そうだよな……)


 


胸の奥が。


きゅっと、締まる。


 


自分が。


特別扱いされているのは。


嫌というほど。


分かっている。


 


社長直々のスカウト。


オーディション無し。


いきなりデビュー。


 


そりゃ。


反感も買う。


 


「……」


 


俺は。


何も言えなかった。


 


トゥフフフフ。


笑う余裕もない。


 


その時。


 


「その件だが」


 


戌亥が。


静かに。


口を開いた。


 


その一言で。


全員が。


息を呑んだ。


 


「……」


 


彼女は。


トイキを。


真っ直ぐに見据える。


 


「永和くんには」


 


一拍。


 


「ソロで、デビューしてもらおうと思っているんだ」


 


「……ん?」


 


「はァ……?」


 


「え」


 


三人分の。


驚きの声が。


綺麗に重なった。


 


え。


ソロ。


 


「……え……?」


 


思考が。


追いつかない。


 


ユニットじゃない。


グループじゃない。


 


俺。


一人。


 


「そんなのよォ……」


 


トイキが。


眉をひそめる。


 


「前代未聞じゃねぇかァ……」


 


(……俺が……初……?)


 


そんな。


負の称号。


嬉しくない。


 


「俺はァ……」


 


トイキの声が。


少し、荒くなる。


 


「俺はァ……

認めねェからなァ……」


 


会議室の温度が。


ぐっと、下がった気がした。


 


そこから。


しばらく。


激しい口論が続いた。


 


内容は。


正直。


半分も理解できなかった。


 


でも。


事務所の未来。


Vtuber業界の前例。


そういう。


重たい話をしているのは。


伝わってくる。


 


そして。


 


「……チッ……」


 


トイキが。


舌打ちをした。


 


「…仕方ねェ……」


 


深く。


息を吐く。


 


「ここは……折れてやるよォ……」


 


そう言って。


こちらを。


ぎろりと睨む。


 


「……だがなァ…俺は認めねェ……絶対ェだァ…」


 


そのまま。


彼は。


会議室を出て行った。


 


バタン。


 


ドアが閉まる。


 


「……」


 


数秒。


誰も。


何も言わなかった。


 


そして。


 


「……はぁ……」


 


奴さんが。


小さく。


息を吐いた。


 


空気が。


少しだけ。


緩む。


 


「……ひとまず……」


 


「……終わりましたね……」


 


「……ですね……」


 


俺も。


つられて。


息を吐いた。


 


「……トゥフフフフ……」


 


いつもの笑いが。


やっと。


出た。


 


だが。


 


「……いや……」


 


ふと。


何かが。


引っかかる。


 


「……いや……ちょっと待てよ……?」


 


全員が。


俺を見る。


 


頭の中で。


今までの話を。


整理する。


 


初ソロ。


 


本名。


 


生顔モデル。


 


設定無し。


 


「……え……?」


 


これ。


冷静に考えて。


 


「……俺……」


 


かなり。


詰んでないか。


 


戌亥は。


いつもの。


明るい笑顔に戻っていた。


 


「大丈夫、大丈夫!」


 


軽い。


 


「永和くんなら、いけるよ」


 


「……根拠は……?」


 


「勘!」


 


天才怖い。


 


「……コレって……」


 


俺は。


自分の腹を。


さすりながら。


思った。


 


「……俺……

ほんとに……

大丈夫かなぁ……?」


 


トゥフフフフ。


笑いは出たが。


心は。


まったく。


落ち着いていなかった。


 


こうして。


デビュー準備編は。


一段落した。


 


だが。


代わりに。


 


逃げ場のない舞台が。


俺の目の前に。


しっかりと。


用意されてしまったのだった。

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