肆配信目『爆弾投下』
会議は、想像以上に真面目だった。
配信ジャンル。
配信頻度。
初配信の構成。
炎上リスク。
永和は、途中から何度も頷く係になっていた。
「……なるほど……」
「……確かに……」
「……トゥフフフフ……」
数学以外はあまり得意じゃないが。
話を聞く姿勢だけは、ある。
そして。
一通り話し終えたところで。
戌亥が、ふっと顔を上げた。
「じゃあさ」
その声は、やけに軽かった。
「永和くんは、やっぱり本名で活動しよう」
「…………ん?」
一瞬。
言葉の意味が、頭に入ってこなかった。
「……え?」
奴が、ペンを落とす。
カラン、と小さな音。
永和は、ゆっくりと瞬きをした。
「……本名……ですか……?」
「うん」
戌亥は、にこにこしている。
悪びれもなく。
「村上永和。
いい名前じゃん」
(……爆弾……)
永和の脳内で。
何かが、弾けた。
「……まさかの……」
天才って。
やっぱり。
どこか、頭おかしい。
追い打ちをかけるように。
戌亥は、さらに言った。
「ビジュアルも、私は大好きだからさ」
「……はい?」
「永和くんの顔を、そのままモデルにしよう!」
奴が、息を呑む。
「そうすりゃ、
設定もそのまま永和くんでいけばいいし。
リアリティ、めっちゃ出るよね?」
「…………」
永和は。
数秒、沈黙した。
そして。
意を決して。
「んーっと……すいません、戌亥さん」
「なに?」
「……Vtuberって、知ってますか?」
室内の空気が、凍った。
奴が、目を見開く。
「……えぐい……」
大先輩。
それも。
世界的偉人に。
放っていい質問ではない。
だが。
言わずにはいられなかった。
「いや……その……」
「顔出さない……バーチャル……」
「そういう……」
戌亥は、きょとんとした顔で。
すぐに、笑った。
「あー」
「知ってるよ?」
「……じゃあ……」
「でもさ」
彼女の目が。
少しだけ、細くなる。
「永和くんの場合、
隠す意味、ある?」
「……え……」
「その腹。
その笑い方。
その空気感」
戌亥は、指を一本立てる。
「全部、本物じゃん」
(……圧が……)
話し合いは。
そこから、少しだけ続いた。
だが。
結果は。
本名。
モデル本人。
設定、ほぼ無し。
取り返しのつかない形で。
話は、固まりつつあった。
「トゥフフフフ……」
「……俺……大丈夫かなぁ……」
永和の笑いは。
だいぶ、乾いていた。
その時だった。
バンッ!!
勢いよく。
ドアが、開け放たれた。
「ちょっ……ちょっと!?
今は……会議中なんで……え」
奴が、慌てて対応する。
だが。
途中で、言葉が止まった。
「あのすゥあァ……」
室内に。
やけに、湿った声が流れ込む。
「オーディション無しでェ……?
新人デビューゥ??」
永和は、そちらを見た。
立っていたのは。
長身。
細身。
黒基調の服。
髪は整えられ。
表情は、余裕たっぷり。
そして。
一言ごとに。
吐息が、混じる。
「こんなイレギュラーァ……
認めて良いんすかァ……?」
「……トイキくん……?」
奴が、小さく呟いた。
「何で……ここに……?」
永和は、首を傾げる。
「……え、この人……事務所の人なんですか?」
奴は、一瞬、視線を伏せ。
「……あぁ……」
「彼は……
ウチの大黒柱の一人……」
男は、ゆっくりと笑った。
「どーもォ……」
喉仏が、大きく動く。
「喉仏終焉花火……トイキさァァ……」
その名前に。
戌亥と奴が、目配せをする。
(……なるほど……)
永和は、悟った。
自分のデビューは。
公認のものではない。
社長自らの。
直々の勧誘。
そりゃ。
面白くない人も。
出てくる。
「……なんか……」
永和は、小さく笑った。
「……色々……まずいことに……なってきたなぁ……」
トゥフフフフ。
その笑いは。
いつもより。
ほんの少しだけ。
重かった。




