拾壱配信目『犬及奴隷』
ようやく。
画面が。
落ち着いた。
コメント欄も。
少し。
静まってきた。
「……よし」
もう一度。
配信。
再開しようと。
した。
その瞬間。
ピロン。
DM。
奴さんから。
ほぼ同時に。
戌亥さんからも。
「……ん?」
俺は。
ダブルモニター。
左に。
奴さん。
右に。
戌亥さん。
同時に。
開いた。
奴さんのDM。
そこには。
謎の。
URL。
一つだけ。
一方。
戌亥さんのDM。
『奴の送って来たDMは開かないで。
奴は永和くんの配信に乱入しようとしてる。』
「……」
俺は。
モニターを。
見つめたまま。
小さく。
息を。
吐く。
「……いつもちょっと遅いんだよなぁ……」
肩を。
落とす。
その。
瞬間。
画面が。
切り替わった。
俺の。
配信画面に。
見覚えのある。
立ち絵。
白と黒。
少し。
影のある。
笑顔。
「はいどうも、こんヤツコ〜!
【まじまんじ】所属の奴隷こと!
奴隷でーす!」
大声では。
ない。
だが。
完璧。
滑舌。
間。
プロ。
コメント欄。
一気に。
爆発。
「奴……さん……っ!」
俺の。
声は。
少し。
上ずった。
すぐ。
戌亥さんから。
再び。
DM。
『どうやら遅かったみたいだね。
私も事務所経由で参加する。
奴は二人でどうにかしよう。』
その。
数秒後。
画面。
再び。
切り替わる。
今度は。
戌亥。
三つの首を。
模した。
シルエット。
威圧感。
マシマシ。
立ち絵。
追加。
「……」
これ。
状況。
次第では。
超。
豪華。
コラボ。
だった。
「……勿体ねぇ……」
俺は。
本音を。
漏らした。
「奴……いや」
戌亥が。
一歩。
前に。
出る。
「裏切敵子!!
一体君の目的は何なんだ!!!」
声。
張り上げ。
コメント欄。
さらに。
加速。
だが。
奴。
いや。
敵子は。
少し。
眉を。
ひそめただけ。
「……あぁ、うるさいですね」
淡々。
冷たい。
「そんな本当の犬みたいに
大きな声出さなくても、
こっちはイヤホンしてるんですから
聞こえてますよ……」
「……っ」
戌亥。
一瞬。
言葉を。
詰まらせる。
そして。
俺も。
気づく。
これ。
いつもの。
奴さんじゃない。
気弱。
丁寧。
すぐ。
折れる。
それ。
全部。
無い。
「永和くんの全裸公開に
殺害の依頼……」
戌亥。
声を。
押し殺す。
「君は一体
何がしたいんだ!」
敵子。
小さく。
笑う。
「何がって……
分からないんですか?」
少し。
身を。
乗り出す。
「こんなに長く、
一緒にいたというのに!?」
完全に。
煽り。
コメント。
荒れる。
「前々から思っていたのですが」
敵子。
声。
低く。
「やはり貴方って、
人の上に立てる器じゃないんですよ」
「永和くんの件もそうでしたが、
毎回酷い立ち絵、名前、設定……」
一呼吸。
「……もうこれ以上
被害者を出したくないんですよ」
冷たい。
ナイフの。
ような。
言葉。
「……被害者……?」
戌亥。
明らかに。
動揺。
「それは……
一体どういう……?」
敵子。
少し。
目を。
伏せる。
「だから永和くんには悪いけれど」
声。
強まる。
「犠牲になって、
この悪しき習わしを
消し去ろうとしたのよ!!」
「この、
【まじまんじ】の
絶対戌亥政を!!!」
コメント欄。
割れる。
賛否。
大荒れ。
俺は。
画面を。
見つめながら。
思う。
――あれ。
敵子さん。
案外。
言ってる事。
合ってね?
事実。
戌亥さんの。
プロデュース。
だいぶ。
ひどい。
俺。
拾われた。
とはいえ。
立ち絵。
本人。
モデル。
名前。
本名。
設定。
なし。
しかも。
全裸。
着せ替え。
いや。
冷静に。
おかしい。
敵子さんは。
それを。
晒させた。
つまり。
俺を。
使って。
戌亥の。
悪事を。
世間に。
知らしめようと。
した……?
「私も……
その被害者の一人です」
敵子。
声。
さらに。
落ちる。
「高校を卒業して
大学生になると同時に」
「夢だったVtuberの
大手事務所
【まじまんじ】に入社」
「……幸せの絶頂のはずでした」
一瞬。
間。
「しかし」
声。
震える。
「私の立ち絵は
ボロボロの汚らしい少女」
「設定は
戌亥三頭地獄番犬の奴隷」
「挙げ句の果てには
名前も……
奴隷」
「……」
俺。
言葉。
出ない。
いや。
正直。
俺ほどじゃない。
だが。
それでも。
十分。
ひでぇ。
「それでも最初は楽しかった」
敵子。
少し。
笑う。
でも。
すぐ。
消える。
「でも本当の地獄は」
「Vtuberをやっている事が
大学の人達に
バレた時からでした」
あ。
これ。
きつい。
「奴隷の設定で
Vtuberをしてるって事は」
「こいつ、
奴隷になりたいんじゃないか?
って」
「……男女問わず
酷い扱いを
日常的に
受けるようになりました」
声。
かすれる。
「私の大学生活は……
まさに……
奴隷でした……」
コメント。
静まる。
「……」
俺。
全部。
バレした。
身として。
胸が。
痛い。
「貴方は」
敵子。
叫ぶ。
「人が人生を賭けてなった
Vtuber人生を!」
「後先考えずに
欲望のまま
プロデュースする!!」
「そんな事が……
そんな事が
許されていいはずが
無いんだよっ!!!!」
画面。
揺れる。
コメント欄。
感情。
爆発。
俺は。
マイクを。
握り。
息を。
吸った。
ここから。
何を。
言うかで。
全部。
変わる。
まだ。
終わらせない。
◇
戌亥は。
少し。
間を置いてから。
満を持したように。
口を開いた。
「さっきから黙って聞いてりゃあ、
随分と楽しそうだなぁ……奴」
声。
明らかに。
変わった。
軽さが。
消え。
代わりに。
圧。
威圧感。
正直。
怖い。
「もしそう思うんだったらさ」
戌亥。
鼻で。
笑う。
「最初から
お前が事務所に
入らなければ
よかっただけの話だろ?」
「……っ」
敵子。
言葉を。
詰まらせる。
戌亥は。
畳み掛ける。
「ただ単に」
「お前には才能がなくて」
「私には才能があった」
「だからお前は」
「その才能の
おこぼれを」
「“事務所に入る”
って形で」
「私から
享受させて
頂いてたんだろ?」
言い方。
最悪。
だが。
完全に。
間違いでも。
ない。
「才能の無い奴が
どれだけ喚いても」
「結局
視聴者は
振り向かない」
「“人が見てくれる”
っていうステージに」
「立つことすら」
「才能が無いと
出来やしないんだよ」
最後。
完全に。
トドメ。
「その程度の実力で
Vtuberを
やらせて
もらえてたんだから」
「感謝してほしい
くらいだよ」
「……ッ!!!」
敵子の。
立ち絵。
大きく。
歪む。
カメラの向こうで。
どんな顔を。
しているか。
嫌でも。
想像できた。
戌亥さん。
流石に。
酷い。
「……二人とも」
俺は。
低く。
口を開いた。
「もう
やめて下さいよ……」
「……永和くん」
戌亥。
視線を。
こちらに。
向ける。
「君は
どっち側なわけ?」
すぐ。
敵子も。
被せる。
「そうです」
「永和くんは」
「戌亥に
こんな事されて」
「嫌だったんじゃ
ないんですか?」
「……あのさぁ」
俺は。
深く。
ため息。
「そうやって
自分側に
引き込もうと
すんの」
「辞めて
くんないかな……」
一瞬。
静かに。
なった。
が。
すぐ。
また。
口喧嘩。
始まりかける。
面倒。
くさい。
ほんと。
高校の。
担任みたいだ。
自称。
進学校。
あの。
最低。
人間。
この二人。
なんか。
似てる。
「……」
俺は。
マイクに。
近づいた。
そして。
「ドゥルルルルルッ!!!」
乾いた。
舌音。
ラップ必殺。
――タングドリル。
空気が。
変わる。
「ッ!?」
「……」
二人。
同時に。
黙った。
よし。
「……あの」
俺は。
淡々と。
言う。
「二人とも
うるさいっす」
「正直
めんどいので」
「僕」
一拍。
「独立して
個人勢に
なります」
「……は?」
「……え?」
二人。
完全に。
ポカン。
画面越しに。
“何言ってんだ
こいつ”
が。
伝わる。
「戌亥さん」
「正直」
「貴方はいくら
才能があっても」
「やり方が
無茶苦茶です」
次。
「敵子さん」
「僕の
全裸」
「晒さないで
下さい」
即答。
「はい」
「もう
これより」
「僕」
「【まじまんじ】
じゃないので」
「落としますね」
クリック。
二人の。
立ち絵。
消える。
配信画面。
一人。
コメント欄。
一瞬。
無音。
そして。
爆発。
俺は。
深く。
息を。
吸い。
小さく。
笑った。
「……トゥフフフフ」
やっと。
静かに。
なった。




