拾配信目『惨殺百万』
トイキの。
卒業ライブと。
同接が。
並んだ。
その事実を。
受け止めた。
俺は。
一度。
画面から。
目を離し。
大きく。
深呼吸。
「……」
よし。
浮かれるな。
初配信は。
まだ。
終わってない。
「トゥフッ……
まずはそうだな……
えぇと……
トゥフフフフ……」
口を開く。
……が。
言葉が。
出てこない。
頭が。
真っ白。
なのに。
コメントだけは。
止まらない。
流れる。
流れる。
流れる。
「……」
あぁ。
そりゃ。
そうだ。
焦る。
これ。
普通だ。
予習で。
見てきた。
ライバー達も。
みんな。
最初は。
緊張してた。
完璧じゃ。
なかった。
「……」
無理するな。
開き直れ。
俺。
「ちょっと……
話題が出てこないので……
質問タイムにしようと思います。
何か質問ある人いる??」
一瞬。
間。
そして。
ドン。
投げ銭。
投げ銭。
投げ銭。
画面が。
光る。
『何でVtuberになったの??』
「……」
来た。
王道。
少しだけ。
迷う。
だが。
もう。
今更だ。
隠す。
意味はない。
「……あぁ、それは……」
息を。
吸う。
「大学を太り過ぎで退学になったんだよ。
んで、戌亥さんに拾われたってわけ」
一拍。
コメント。
爆発。
『意味不明なリストラで草ァァァァ↑↑WWWWWWW』
『コレに関しては普通に可哀想WWWWWWWWWWWWWW』
『チョマテヨ』
「……!」
お。
ウケてる。
思ったより。
全然。
ウケてる。
「……よし」
流れ。
来てる。
畳み掛けろ。
「そうそう!
しかも最初は普通に働こうと思ってたんだよ!
そしたらまさかの他のところでも体型が原因で全部不採用だったんだよ!
ガチでトゥフフフフ案件過ぎるだろ!!」
渾身の叫び。
コメント。
再点火。
『いや今時どんな職場WWWW』
『人権侵害ですね!!笑』
『あのすいません、トゥフフフフ案件って何ですか。』
「……っ!」
いける。
いけるぞ。
同接。
右上。
55万人。
「……!」
上がってる。
この。
調子だ。
俺。
間違ってない。
「さてさて……
次の質問は……」
視線を。
落とす。
『入社困難とされる【まじまんじ】ですが、
永和さんは何を武器にオーディションを勝ち抜いたのですか??』
「……」
来た。
核心。
何て。
答える。
少し。
考える。
その時。
ピコン。
DM。
差出人。
戌亥。
三頭地獄番犬。
「……なるほど」
見てる。
この配信。
内容。
見なくても。
分かる。
でも。
俺は。
この配信のために。
個人情報。
ほぼ全部。
全裸まで。
晒した。
今更。
今更…。
引き返せるか!!!
「俺……
俺実は……!!!」
大きく。
息を。
吸う。
そして――
「オーディ……っ
ぶふっ……!?」
盛大に。
吹き出した。
視界が。
歪む。
体が。
前に。
倒れ込む。
「あ……
ぇれっ……?」
何が。
起きた。
分からない。
思考が。
追いつかない。
視界の。
端から。
暗闇が。
侵食。
「は……っ……
ぐぶっ……!?」
強烈な。
痛み。
右。
下腹部。
そこから。
ナイフの。
ような。
ものが。
突き出ている。
「……ぶばっ……」
口から。
溢れる。
真紅。
見たことも。
ないほど。
鮮やかな。
赤。
刹那。
背後。
気配。
「だっ……
誰だ……ぁ!?」
振り向こうと。
する。
だが。
体が。
言うことを。
聞かない。
痛みで。
硬直。
その時。
画面。
目に。
飛び込んでくる。
開きっぱなしの。
DM。
戌亥からの。
メッセージ。
『永和くん今すぐそこから逃げて!!!
奴隷が裏切った!!!
永和くんの家に元【まじまんじ】所属の前科持ちライバー、
《BTS》の惨殺ヤマダを送り込んだみたいなの!!!』
「……」
え。
流石にアイツ。
裏切り過ぎやろ。
「……ふざけんな……
くそ……」
意識が。
遠のく。
思考が。
薄れていく。
そんな中。
俺は。
どうでもいい。
ことを。
考えていた。
――あぁ。
初配信。
失敗か。
成功か。
それすら。
判断する前に。
俺。
死ぬんじゃね?
トゥフフフフ。
意識は。
闇へ。
落ちていった。
◇
薄い。
意識の。
底。
どこかで。
歌が。
聞こえる。
「君の事をォ〜……
愛してるゥゥ〜……
君はァァァァ……
独占喉仏ォォ〜〜……」
気色。
悪い。
歌詞。
歌い方。
耳に。
まとわりつく。
「……っ」
まぶたが。
重い。
ゆっくり。
開く。
視界。
揺れる。
部屋。
俺の。
部屋。
そこに。
黒い。
フードを。
深く。
被った。
男。
手には。
ナイフ。
そして。
もう一人。
マイクを。
片手に。
歌いながら。
それと。
対峙している。
「……」
見覚え。
ありすぎる。
「なっ……!?
トイキ……!?
何してんだっ!!?」
喉が。
痛い。
声が。
かすれる。
お前。
卒業ライブ。
中じゃ。
なかったのか。
トイキは。
ナイフを。
かわしながら。
こちらを。
チラと。
見た。
「俺の同接はァァ……
10万人だァァ……」
歌う。
ように。
吐息。
マシマシ。
「一方ゥ……
お前の同接はァ……
90万人を超えつつあったァ……」
「だからよォ……」
ナイフを。
いなす。
「お前のパソコンの前で
勝手に卒業ライブすりゃァ……
90万人は実質俺の同接ゥ〜……
って思って来てみたらよォォ……」
黒フードの。
男が。
一歩。
踏み込む。
「ブチコロス」
低い。
声。
殺意。
濃度。
100%。
トイキ。
一瞬。
引く。
「……なんかァ……
バケモンいるじゃねぇかァァァァ……」
なるほど。
状況。
理解。
俺の。
同接を。
奪いに来た。
トイキ。
俺を。
殺りに来た。
惨殺。
ヤマダ。
偶然。
出会う。
場所。
俺の。
部屋。
「……」
うん。
さっぱり。
分からん。
次の瞬間。
惨殺。
ヤマダが。
俺に。
視線を。
向けた。
「……生きてやがったか」
ヤバい。
本能が。
叫ぶ。
俺。
今。
無防備。
だが。
トイキが。
間に。
入る。
「ちょっと待てェ……
そいつはァ……
今ァ……
俺の獲物だァ……」
目が。
合う。
トイキと。
俺。
一瞬。
意図が。
伝わった。
くそ。
共闘とか。
人生。
何が。
起きるか。
分からん。
「トゥフフッ……
行くぞ……」
立ち上がる。
腹。
痛い。
だが。
今は。
無視。
惨殺。
ヤマダが。
突っ込む。
トイキが。
声を。
張る。
「今だァァ……
イレギュラー君ッ……!!」
「うおおおおおお!!」
体が。
勝手に。
動く。
「トゥフフ……」
「トゥフフチョップ!!!!」
手刀。
脳天。
ガツン。
鈍い。
音。
惨殺。
ヤマダ。
そのまま。
崩れ落ちる。
「……」
静寂。
一瞬。
「……やった……?」
トイキ。
肩で。
息。
「……やるじゃねぇかァ……」
だが。
次。
俺は。
トイキを。
見た。
そう。
ここまで。
来たら。
こいつも。
邪魔。
「……トイキ」
声を。
低く。
「んァ……?」
「卒業ライブ……
続けていいよ」
トイキ。
目を。
見開く。
「えェ……
まじィ……?
ありがとォ……」
完全に。
油断。
マイクを。
握り。
歌い出す。
「君の事をォ〜……」
その。
背後。
俺。
踏み込む。
「トゥフフフフ……」
「トゥフフチョップ!!!!」
一閃。
右。
左。
体が。
分かれる。
音。
床に。
落ちる。
マイク。
静寂。
「トゥフフフフ……」
「……もう誰も……
俺を止められねぇぜ」
ふらつく。
足で。
パソコンの。
前へ。
配信画面。
戻る。
コメント。
止まってない。
同接。
右上。
「……100万人……」
「……突破……?」
画面の。
向こう。
世界。
俺を。
見てる。
胸が。
熱い。
震える。
「……なぁ……」
カメラに。
向かって。
俺は。
ちゃんと。
立つ。
「……色々あったけど……」
「……俺……
まだ……
生きてる……」
トゥフフフ。
震える。
笑い。
「……初配信……」
「……まだ……
終わってねぇよな……?」
コメント。
歓声。
涙。
絵文字。
流れる。
この夜は。
まだ。
終わらない。




