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プロンプト一行分のミステリ――ChatGPTに「ミステリ小説を書いて」と言っただけの小説  作者: 髙橋P.モンゴメリー


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第2話 消えた同級生の名前

AIが生成した文章は、妙に読みやすかった。




 如月遥が消えたとき、


 ぼくは彼女の正面の席に座っていた。


 放課後の図書室は、いつもと同じように静かだったし、


 誰かの悲鳴も、物音さえもしなかった――




「一人称は僕か」




思わず、苦笑いする。


十年前も今も、


僕はずっと「僕」でやってきた。


AIの紡ぐ「ぼく」は、


どこか安っぽいコピーに見える。




とはいえ、内容は悪くなかった。


図書室の描写も、


窓から射し込む冬の光の感じも、


紙の匂いも、


驚くほど「それっぽく」再現されている。




ただ――




 如月遥が最後に借りていた本は、


 アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』だった。




ここで、僕は首を傾げる。




「違うよな」




遥が最後に読んでいたのは、そんな超メジャー作品じゃない。


もっと地味で、


作者の名前さえ、今は思い出せないくらいの翻訳ミステリだったはずだ。




僕はAIに打ち込む。




僕:


 その本のタイトル、変えたい。


 もっとマイナーな、


 でも“消失”を連想させるようなものにして。




AI:


 了解しました。


 では、仮に『消えゆく図書室の影』という架空のミステリ小説に変更します。


 以後、このタイトルで進めます。




架空のミステリ。


なるほど、その方が都合がいい。




僕はマグカップを飲み干し、


深夜テンションのまま、


AIの文章をコピーしていく。




――ふと、気づく。




十年前の「本当の事件」と、


今書いている「AI小説」の違いは何だろう。




場所も季節もほとんど同じ。


消えた女子生徒の名前も、


残されたメモの文面も、


信じられないくらい似ている。




違うのは、


「僕」が事件の当事者かどうか、だけだ。




AIの中の「ぼく」は、


如月遥の正面に座っていたクラスメイトという設定。


現実の僕はというと――




あのとき、図書室にはいなかった。




事件が起きたのは、放課後の五時前。


僕はミステリ研究会の部室で、


みんなで作っていた「卒業記念のゲームブック」の最後のチャプターを担当していた。


図書室に遥がいたことも、


メモのことも、


すべて後から噂で聞いただけだ。




それなのに、なぜだろう。




AIが書いた「ぼく」の視点を読んでいると、


まるで自分がそこにいたような錯覚に陥る。




――二月の冷たい光。


――ページをめくる音。


――遥が椅子から立ち上がる、わずかな気配。




「……やば」




マウスを置いて、椅子の背にもたれる。




十年前の記憶は、そんなに鮮明じゃない。


ただ、あの日を境に、


ミステリ研究会と図書室と、


「如月遥」という名前の組み合わせを、


意識的に避けてきたのは確かだ。




「ミステリ好きのくせに、現実の失踪は怖い、か」




ひとりごとの温度は、


少しだけ自嘲気味になる。




スマホが震えた。




画面には「黒川由利」の名前。


高校時代のミステリ研究会の後輩で、


今は市立図書館の司書をしている。




「この時間に何だ?」




嫌な予感と好奇心が、


同時に喉元までせり上がる。




通話ボタンを押すと、


少し寝不足気味の声が飛び込んでくる。




「先輩? 起きてます?」




「起きてる。というか、今日も夜勤あがり。どうした、こんな時間に」




「ちょっと、変なことがあって……」




彼女は息を整えてから、続けた。




「さっき、図書館のOPACで蔵書検索してたら、


 “如月遥”って名前で貸出履歴が残ってたんです」




「……は?」




血の気が引く音が聞こえた気がした。




「いや、別人でしょ。よくある名前じゃ――」




「いいえ」


由利の声が、そこでわずかに低くなる。




「カード番号も、住所も、


 十年前に失踪したあの人のままです。


 なのに、貸出日が……先週になってるんですよ」




言葉を失うとは、このことだ。




頭の片隅では、


「図書館システムのバグ」とか


「誰かの悪質ないたずら」とか、


いくつもの合理的な説明が列をなしている。




でも、今の僕には、


さっきのチャットログが生々しく焼きついていた。




――二月の図書室で、如月遥は消えた。




画面越しに、AIが続きの文章を待っている。


スマホ越しに、由利が返事を待っている。




「先輩」


由利が、少しだけためらいながら言う。




「今日の夜、時間ありますか。


 図書館に来てほしいんです。


 ……十年前のこと、ちゃんと話しませんか?」




心臓の鼓動が、耳の内側でやかましく響く。




「……分かった。夜なら行ける」




そう答えた瞬間、


僕はようやく気づいた。




これは「ミステリ小説を書くための資料調査」なんかじゃない。


十年間、棚の奥に押し込んでいたダンボールを、


今さら引きずり出す作業だ。




通話を切ってから、


僕はもう一度、チャット画面を開く。




僕:


 さっきの続き、


 主人公の名前は「成瀬湊」にして。


 舞台は「市立図書館」。


 十年前の失踪事件と、


 最近その人物の名前で貸出があったことが判明する――


 って筋でプロットを組んで。




AI:


 承知しました。


 以下のような長編ミステリのプロット案をご提案します。




AIは、淡々と「物語の骨組み」を提示してくる。




そこには、


十年前の図書室で起きた失踪事件。


現在の図書館システムに残る謎の貸出履歴。


主人公の成瀬湊と司書・黒川由利の再会。


そして、


「匿名ブログ」と「AIの学習データ」をめぐる伏線が並んでいた。




――まるで、僕の人生を、


整理して「読みやすい物語」にしてくれているみたいだ。




問題は、


そのエンディングを決めるのは、


本当にAIなのか、それとも僕なのか、ということだ。

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