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なんとここから出ていく前にシルヴィーの婚約が決まってしまう。

婚約者はロラン・ベージス。ベージス子爵の次男だった。

父がシルヴィーをレンログ伯爵家の跡取りと決めたのは、想定外の出来事だった。


それと同時に、今までやってきたことが父に認められたのではないかと思い嬉しかった。

久しぶりの期待感。もしかしたら心を入れ替えてくれたのではないか……。

しかしそんなことはありえないのだと、シルヴィーは再び地獄に突き落とされることとなる。


シルヴィーを選んだのは屋敷の使用人や領民たちに支持を得ているシルヴィーをここに縛りつけるためだった。

そして自分は金を搾取して自分は遊ぶため。

屋敷の仕事をシルヴィーとロランに押し付けて、借金を肩代わりさせようとしたのだ。


(やっぱり……。一瞬でも信じたわたしが馬鹿だった。もう何度も裏切られてきたのに)


少しでも期待した自分が悪かったのだ。シルヴィーはギュッと手のひらを握る。

どれだけ犠牲になったとしても報われることはないのに、こうして人のために動いてしまう自分の甘さが嫌でたまらない。

涙は出てこなかったが、この選択を後悔していた。


社交界に出ておらず、知り合いもいないためロランがどんな人物なのかはわからないまま初めての顔合わせの日を迎えた。

彼は父や義母やミリアムの前では好青年だったが、シルヴィーと二人きりになると彼は一気に豹変した。


『そんな地味な姿でよく生きていられるな。レースばかり編んでいる根暗が!』

『令嬢として価値がない。役立たず』

『黙ってばかりいないで少しは己を磨いたらどうなんだ』


婚約者であるロランがいい人だったら、少しは考えが変わっただろうがそれもない。

彼の発言から見目の美しさに執着していることがわかる。確かにシルヴィーは地味だ。

イエローゴールドの髪も手入れしていないためボロボロになっていた。

母譲りのラベンダー色の瞳も顔色が悪いせいで台無しだ。くたびれたワンピースもそう思わせる原因だろうか。

シルヴィーのものはほとんどミリアムに燃やされているし、屋敷や領地の管理に加えて暇な時間はレース作りや刺繍に当てていた。

そのため寝不足続きで自身の手入れどころではなかった。


ロランのシルヴィーを道具のように見る目が父を彷彿とさせる。

美しい手や髪はまったく苦労することなく、ミリアム同様に大切に育てられてきたのだろう。

彼のことは好きでも嫌いでもなかったが、こうも一方的に嫌われると清々しいくらいだ。


一方、ミリアムとロランの気は合うようで、屋敷内で仲睦まじく話す姿を度々見かけていた。

彼女のライトゴールドの髪とアメジストのような瞳をシルヴィーと比べては誉め称えていた。


ロランはミリアムをよく思っていて、よくプレゼントを持ってきていた。

彼は明らかにミリアムに気があるようだ。

シルヴィーから見たら、互いに猫を被り騙しあっているところが滑稽に思えた。


そして待ち望んでいた日はあっさりとやってきた。


『俺はミリアムと結婚して、レンログ伯爵家を継ぐ』

『婚約破棄だ。今すぐに伯爵邸から出て行ってくれ』


ミリアムたちは知らないだろうが、むしろそうなってくれて喜ばしいのはシルヴィーの方だ。

唯一予想外のことがあるとするならば、彼らは大して調べることく物的証拠も揃えずに状況証拠という曖昧なものだけでシルヴィーを問い詰めたこと。

婚約者をあてがわれて一時はどうなるかと思ったが、心配せずとももうすぐシルヴィーの居場所はなくなりそうだ。

今度こそ間違えないようにシルヴィーは覚悟を決めて動くことを決めた。


執事や侍女、領民たちのことが心配だったが、彼らはなんと自分たちからシルヴィーに協力すると申し出てくれたのだ。

シルヴィーも彼らがすぐに動けるように、いざという時に貯めていたお金を配ることに決めた。

自分がいなくなれば、彼女たちの矛先がどこにいくのかすぐにわかっていたからだ。


前もって彼らに別れと感謝を伝えられたのはよかったと思うべきか。

みんなに感謝しつつ、シルヴィーは屋敷を出る準備を進めていく。


父が納得するか疑問だったが、彼はシルヴィーをあっさりと切り捨てた。

ロランとの婚約により多くの金を得たことで、シルヴィーでなくてもミリアムが結婚してもいいと考えが変わったらしい。

この浪費速度ならば金は使えばなくなってしまう。彼らの行先がすぐに見えるような気がした。


シルヴィーや執事がいなくなれば、今まで見えていなかった恐ろしい現実が一気に押し寄せてくるだろう。

もう彼に対して未練も後悔もない。

彼らに何があろうとも、シルヴィーが手を差し伸べることは二度とないのだから。

そう決意して顔を上げる。


領民たちが苦しむことだけが心残りだったが、今のシルヴィーにはなんの権限もない。

申し訳なさでいっぱいだったが、シルヴィーは執事や侍女たちに別れを告げて荷物をまとめていた。

本来ならば、落ち込み絶望するところではあるが下準備はバッチリである。


準備が完璧だったことや母と新しい暮らしができることにシルヴィーは明るい気持ちで屋敷を出た。


(やっとここから解放される。わたしの新しい人生が始まるんだわ!)


けれどシルヴィーには平民になる前にひとつだけしてみたいことがあった。



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