表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ決定】売られた令嬢は最後の夜にヤリ逃げしました〜平和に子育てしていると、迎えに来たのは激重王子様でした〜  作者: やきいもほくほく
三章 波乱の予感

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/38

②①

「シルヴィア……ホレスのことで気になることがあるんだけど」


「……どうかした?」


「ホレスがね、おもちゃを浮かせていたってうちの子が言っていたのよ。もしかしてホレスはもう魔法が使えるのかしら?」


「…………!?」



シルヴィーの心臓がドクリと脈打つ。

リサがここに来た過去はわからないが彼女も魔法を使うことができた。

ということは元貴族なのだろう。

だからこそすぐにホレスが何らかの魔法を使ったことがわかったのだ。



「最近、おもちゃを投げて飛んだっていうのに、はまっているみたいなの。だからかしら……」



シルヴィーはリサの顔が見ることができなかった。

冷や汗が滲む。ほぼ毎日、一緒にいるためリサの鋭い一言にはドキッとしてしまうことがある。



「ふふっ、そうよね。うちの子たち、ホレスが魔法を使えるって興奮気味に言うからかわいくて」


「そ、そうなのね。今日は本当にありがとう。またわたしが休みの時は二人を預かるわ」


「えぇ、お願いね!」



リサの部屋を出てホレスの手をぎゅっと握りつつ自室に戻る。

ホレスもシルヴィーの様子が違うことに気づいているのだろう。



「ホレス、人の前で力を使ってはダメよ?」



ホレスは首を横に振るだけだ。

幼い彼には絶対にやらないというのは難しいのかもしれない。

ホレスはというと、自分の手をじっと見つめながら何かを考えているように思えた。



「ぎゅっ……ない」


「え……? ホレス、どういうこと?」



手を握りながら泣きそうになるホレス。

だけど言葉の意味がわからずにシルヴィーは眉を寄せる。

ホレスに詳しく話を聞こうとした時だった。



「あっ、ぴょんぴょん」


「ホレス、さっきのことなんだけど……ないって何がないのかしら?」


「ぴょんぴょん!」



しかしすぐにおもちゃに気を取られたのか、うさぎのぬいぐるみの方へと向かってしまう。

その後、何度聞いてみてもホレスは答えてくれることはなかった。

けれどホレスが何か変化を感じていることは確かだ。


母にも相談はしているが、もし本当にホレスが大きな力を持っているのだとしたら、ホレスのためにも王家に相談するべきではないかと言っていた。

リサやリーズには相手がアデラールということまでは話していない。

シルヴィーの中に不安が募っていく。


(もしホレスに何かあったらどうしたらいいの……嫌な予感がする)


母親の勘だろうか。

シルヴィーの頭にチラリとアデラールの顔が思い浮かぶ。

彼は今、どうしているだろうか。

そう考えながらシルヴィーは楽しそうにうさぎのぬいぐるみで遊んでいるホレスを見つめていた。



──それから一週間経った頃。


シルヴィーの嫌な予感が的中することとなる。


ホレスが高熱を出したのだ。

幸い、あれから魔法はまったく発動せずにいたため安心して様子を見ていた。

だが度々、何かを我慢しているような素ぶりを見せていたことはわかっていた。

その度にホレスに聞いてみるものの『ぎゅっ、ない』と繰り返すだけ。

シルヴィーにはその意味が伝わらない。


今は王女のマリアのドレスを仕立てる大事な時期だとはわかっていたが、ホレスのそばにいるために休ませてもらっていた。

代わりにシルヴィーの母が店に朝から晩まで働いている。


今まで元気だったホレスだけに不安が尽きない。

二日経っても三日経ってもホレスの熱は下がらない。

医師にも診せたが『風邪ではないか』と、言われただけ。

薬も効かずに困り果てていた。


体力が落ちて弱っていくホレスを見ていることしかできない。

そんな自分が無力で悔しくてたまらなくなる。



「ホレス……ごめんね。何もできなくてごめんねっ」



変われるなら変わってあげたいと思っていた。


(早くよくなりますように……!)


熱で熱くなっていた小さな手を握りながら必死に祈っていた時だった。



「……ま、まぁ」


「ホレスッ!?」



いつから起きていたのか。

荒く息を吐き出しているホレスのブルーの瞳がこちらを向いている。



「いい、こ……まま、いいこ」


「…………え?」


「まま、だいすき」


「~~っ! ママも大好きよ。ホレス、ごめんねっ」



シルヴィーの不安が伝わってしまったのだろうか。

ホレスの優しさに涙がこぼれそうになってしまうが、ぐっと堪える。

ホレスにこれ以上心配かけてはいけないと無理やり笑みを浮かべた。

彼は安心したのかそのまま眠ってしまう。

ホレスがいない世界などもう考えられない。


(このままじゃダメだわ。どうにかしないと……!)


シルヴィーはホレスの頭を撫でて、彼をシーツで巻いて隠すように歩き出す。


いつの間にか朝日が登っていた。

三日三晩ほとんど寝ずにつきっきりで看病していたせいが、足がフラフラとする。

しかし医師を呼びに行かなければとホレスを抱えて外に出た。

このまま寝てもホレスの体調は悪化するばかり。

ならば朝一番に見てもらった方がいいだろう。


シルヴィーは涙を拭いながらひたすら走っていくが、どんどんと視界がぼやけていく。


──ドンッ


誰かとぶつかってしまい、シルヴィーは顔を上げて謝罪の言葉を口にする。



「す、すみませ……」


「シルヴィー、遅くなってすまない」


「…………え?」



見覚えのあるライトブルーの瞳に泣きぼくろのある左目。

フードの隙間から覗くシルバーホワイトの髪。

優しげな笑みがホレスと重なっていく。

忘れていたはずの記憶が蘇る。


(……まさか、そんな…………どうして?)


シルヴィーの前には夜会の日に助けてもらったアデラールの姿があった。

周囲から姿を隠すためなのかローブをかぶっている。

シルヴィーの心臓部が勢いよく鳴っていく。

名前を呼んだため、アデラールはシルヴィーのことをわかった上で声をかけているのだろう。



「いや、今はシルヴィアと呼んだ方がよかったかな」


「なんで……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ