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14/22

①④


『この歳でここまでとは……素晴らしいです!』

『アデラール殿下は天才です! この国の未来は安泰ですな』


本来ならば苦労するものも、少し見ただけで大抵はなんだってできてしまう。

欲しいものは立場上なんでも手に入り、勉強も剣も人間関係ですら、アデラールにとっては簡単な部類になるだろうか。

欲しい、足りない……それらはアデラールにとっては無縁な感情かもしれない。

何か新しいことを探しても心は満たされない。アデラールにとっての天敵は退屈だった。

そんな自分がひどくつまらない存在に思えた。

結局は踏み込む勇気も踏み込まれることも怖いのだ。人の役に立てば、こんな自分でもここにいていいといわれるような気がした。


我慢をしているわけではないが感情を押さえつけているのも確かだ。

リミッターが外れてしまった時、自分がどうなってしまうのかが恐ろしい。

婚約者でもできれば考え方が変わるかと思いきや、肝心の婚約者が見つからない。


(……運命の出会いなど本当にあるのだろうか)


女神が引き合わせてくれる運命の出会い。父によれば出会えばすぐにわかると言うが、今までそんな感覚になったことはなかった。

積極的に令嬢たちと交流しようとしてみるものの、それを許さないのは妹のマリアだ。

彼女は一緒にいる時はアデラールにべったりとくっついて離れない。

好かれているのは嬉しいが、マリアが婚約者候補の令嬢たちを拒絶してしまう。

『わたくしが認めた相手じゃないとお兄様と結婚なんてダメよ! その方はわたくしにとっても救世主なんだからっ』

父はマリアに対して甘かったが、それには理由がある。

それは彼女が未来を見通す特別な力を持っている代償に自由と引き換えだったからだ。

マリアの予知で何度も国を救ってきた。


王家には必ず未来を見通せる王女と、その天災を防ぐ強大な力を持った王太子が生まれてくる。

そして天災を防ぐと、未来を見通せる力は次へと引き継がれてくのだ。

マリアは国にとって必要不可欠な存在だ。

そんな彼女は体が弱い代わりに歴代王女の中でも大きな力を持っていたのだ。


そんなある日のこと、アデラールの運命を変える特別な出会いがあった。

王家主催のパーティーで七歳の令嬢や令息たちの健康や国の発展を祝うものだ。

妹のマリアも七歳となり、いつもより華々しいパーティーが開かれることになる。


令嬢や令息たちと挨拶をしていたマリアだったが、体力的にも限界がきたのだろう。

そこでもマリアはアデラールから離れたがらず、仕方なく裏へと移動して彼女を部屋に戻るように説得していた。


子どもながらに我慢し続けたマリアは『もうこんな人生は嫌……誰か助けてよ』と泣き叫んでいる。

マリアは気が動転したのか大号泣。会場の端に移動したせいか人を呼ぶことも容易ではない。

彼女はこの日を心から楽しみにしていた。だから部屋に戻りたくないだろう。

マリアがここまでわがままを言うのは初めてだった。


そんな彼女をどう宥めて会場に戻るか考えていた。

しかし、たまたまマリアの爪がレースのジャボに引っかかり千切れてしまったのだ。

マリアを休ませなければならず、会場もまとめなければならない。

これ以上、遅れたら王家としても失態を犯してしまう。


(どうしたものか……まずはマリアを泣き止ませて休ませなければ。体調が悪化したら大変だ。着替える時間はないか)


さすがのアデラールも今回ばかりはお手上げ状態。どうすることもできないと思っていた時に現れた令嬢。

『どうかしましたか?』

『わたしに任せてください』

彼女は泣いているマリアに蝶が刺繍されたハンカチを渡して、ジャボを魔法で直してみせたのだ。

真剣な表情で魔法を使っている令嬢に惹かれていく。


お礼を言うも、何故か彼女と目が合うことはない。

キラキラとした瞳で胸元を見つめている不思議な少女だ。

彼女は何故か服に釘付けでアデラールやマリアが王太子や王女だと気づいていないように思えた。

イエローゴールドの癖のある髪とラベンダー色の優しい瞳。

アデラールは魅入られるようにして動けなくなった。


(なんてかわいらしい令嬢なのだろう)


この場で自分のことではなく人のために動ける令嬢がどのくらいいるだろうか。

それだけでも彼女の優しや性格がわかるような気がした。

笑顔を浮かべてはいるものの額には汗が滲んでいて足元が覚束ない。

アデラールは彼女が魔力切れを起こしかけているのだと思った。

少し休んでもらいでお礼をしようと考えていると、彼女は頭を下げてどこかに走り去ってしまう。



『──待ってくれ!』



そう声をかけたとしても彼女の足は止まらなかった。背を向けたまま振り返ることすらなかった。

アデラールの手元には綺麗に修復されたジャボ。マリアの手にはハンカチがある。



『これが……運命?』



マリアの口から漏れた言葉は、アデラールも思ったことだ。

一目見て彼女が特別だと理解できた。見慣れたものと違う彼女だけの特別な力。

いつのまにかマリアの涙も止まり、ハンカチを食い入るように見つめている。

いつもは令嬢をすぐに邪険にするマリアだが、今回の反応は珍しく映った。


そのまま執事たちに呼ばれて、アデラールは無事会場に戻り挨拶することができた。それも彼女のおかげだろう。

あの後、マリアは蝶の刺繍が入ったハンカチを大切に保管していた。

パーティーで崩してしまった体調もよくなり、アデラールが部屋を訪れると……。



『お兄様、わたくしあの方が相応しいと思うの』


『…………え?』


『こんな気持ち初めて……なんだか不思議な感じがするわ』


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