第3話 聖女リリー
上級悪魔が討伐され、その支配から解放された広大な地域には、未だ人の統治が及ばぬ場所がある。そういった空白地域は、灰色領域と呼ばれ、無法地帯となっていた。
灰色にも、色の濃淡で差は生まれる。魔族の力が色濃く残る地もあれば、人間の支配に塗り替えられた土地もある。だが、統治者のいなくなったこの地では、色の濃さなど関係なく、同族同士の争いも日々絶えることはない。
その中の灰白色の各地を巡る、一人の修道女がここにいる。
彼女は、傷ついた者には手を差し伸べ、飢えた者には糧を分け与え、悪しき争いを戒める。大教会から不浄の地へと派遣された身でありながら、苦しみと共にあることを選び、決してその使命に傲ることなく、ただ献身のままに在り続ける。
その慈愛に満ちた清らかな立ち振る舞いから、信徒は次第に、彼女をこう呼ぶようになった──『グラールの聖女』と。
◆◇◆◇◆◇
「では、皆さん。本日も、祈りましょう。」
柔らかな声でそう語ると、彼女は両の手を胸元でそっと重ね、静かにまぶたを閉じた。決して荘厳とは言えぬ、粗末な板張りと歪んだ石壁のあり合わせの礼拝堂にて、集まる信徒は彼女の所作をまねて祈る。
その空間は、ここが灰色領域であるとは信じられないほど、厳かな重々しい空気で静まりかえっていた。
そして、さらに信じられないことが、もう一つ。
──彼女の祈りは、奇跡を顕現する──
皆が祈りに膝をつく中、聖女は両の腕に余るほどの大きな聖典を開き持ち、その一節を読み聞かせる。
”פרק 15, פסוק 5 נֹשֵׂא בְּיָדוֹ אֶת מַכְאוֹב הַנִּפְגָּע וּמְכַסֵּהוּ בְּחִיּוּךְ
הַסֵּבֶל יַעֲלֶה שָׁמַיְמָה, וְהַשִּׂמְחָה תִּשָּׁאֵר בָּאָרֶץ
(第15章第5節 傷つく者の痛みをその手に受け、微笑みをもってこれを包む。
苦しみは空へと昇り、幸せのみが地に残る)”
すると、聖典は輝き出し、その光のヴェールは周囲へと広がってゆく。祈る聖女の両手から溢れるその神光は、信徒ひとりひとりへと分け与えるように注がれた。
ある信徒は、魔族の呪いに蝕まれていた。その証として顔に広がる黒痕のただれは、治癒の魔法では癒せなかった。しかし、光がその顔を優しく拭うと、その祝福は呪いの黒痕を跡すら残さず消し去った。
ある信徒は、戦火のなかで最愛の人を失った。光はその中に、死者の魂を映し出した。そのかりそめの邂逅は、最期の別れを告げるひとときを与え、また静かに安らぎの中へ還っていった。
それは癒しではなく、赦し。慰めではなく、救済だった。
その力は、この世の理に反しながらも、一縷の光で現世を繋ぐ。まさに神の顕現。奇跡そのものだった。
「「聖女様…、リリー様……」」
信徒たちは、祈りが終わると我先にと、彼女を取り囲み頭を垂れる。聖女リリーは、ただ沈黙と、慈愛の微笑みをもって彼らに応えた。
◆◇◆◇◆◇
──……彼女は、戦火の中で両親を失った孤児だった。
人魔が果てなき争いを繰り返すこの荒れた世界で、飢えと暴力は、孤児の彼女には日常だった。
”この世に、救いなど無い”
子供ながらそう確信していた彼女を、ある司祭の手が拾い上げた。それは彼女には幸運だった。だが、それは彼女の”救い”では無かった。
大教会が孤児を集めるのは、救済のためではなかった。信徒の心を掴む虚栄のため、そして、なによりも『聖印』の聖女を探すことが目的だった。
聖印とは、神の御使いたる天使の声を受け取るため、天より託された伝令箱。
その聖印を身に宿すことが許されるのは、星辰の導きにより定められし宿命の乙女ただひとり──
孤児たちは皆、その一つの席を巡って競わされた。少しの衣と食を餌に、信仰を強いられ、振る舞いを修正され、生活を監視された。その檻に入れられた孤児は、誰一人として、神など信じていなかった。
だが、彼女は違った。
誰に命じられるまでもなく、祈りを捧げ、祝詞を諳んじ、他の孤児に対しても優しく接した。信徒としての振る舞いを、ただ、当然のようにこなしていた。
そして、彼女の歌声は、誰よりも透き通って清らかだった。それを、神は気に入った。
そして、数多くの孤児の中から、彼女は聖印を宿す資格を持つ聖女として選ばれた。だが、それは彼女には幸運では無かった。それは彼女の”救い”だった。
神の道具となり、神託を授かる者として、この声を捧げることは喜びだった。
──救いとは、与えられるものではなく、差し出すものだった。
大教会からの任命により、リリーは灰色領域へと派遣された、と表向きはそうなっている。しかし、事実は少し異なる。その決定は、大教会の司祭によるものではなく、本人の意志でもない。
その意思は、彼女が持つ聖印の神託によってもたらされた。
何人もその神託を疑うことなく、まして逆らうなどあろうはずもなく、神託に従いて、リリーは一人灰色領域へと赴いた。
◆◇◆◇◆◇
それは、神が与えた試練だった。
リリーが最初に訪れた地では、誰一人として、彼女の言葉をまともに取り合おうとはしなかった。
「はぁ?! 神の遣いだぁ? ここがどこだか分かってんのか? ここは、神も悪魔も見捨てた地、グラールだぜ?」
男の笑い声は、乾いた風に消えていく。周囲の人々も、彼女の存在を無視した。この地では、祈りの言葉はまるで空虚で、無価値だった。
荒れ果てた荒野の片隅で、答えのない祈りを、それでも彼女は捧げ続けた。
次の地で、腹を空かせた母子にであった。痩せた母と、疲れ果てた幼子に、リリーはパンを取り出し、そっと差し出した。だが母親は、その手を払い、決して受け取ろうとしなかった。
「私には、その見返りに差し出せるものが、この子しかありません。それは絶対にできません。」
リリーは何度も、「これは神の御慈悲です」と告げた。それでも母は頑なに背を向け、子の肩を抱いて離れていった。
リリーの手の中に残ったパンは、自らの無力を象徴するように冷たく硬くなっていた。
また次に訪れた地は、終わりを迎えつつある村だった。
その村は、魔族の瘴気がもたらした呪いにも似た不浄の病が蔓延し、村人たちは皆、死に怯えて暮らしていた。その病に苦しむ人々に、少しでも安らぎを与えようと近づくリリーを、村人たちは苦しげに首を振り、恐怖に震えながらも懸命に彼女を遠ざけた。
「……来てはならん。あんたまで道連れにするわけにはいかん……」
そして、彼らは自ら家に火を放ち、病と共に村を焼き払った。
焼け落ちた村を前にして、リリーは村人たちの慈悲にその身を救われた。
そして最後に辿り着いた地で、ようやくリリーは、たった一人の理解者と出会った。
その青年は町を守る自警団の一員だった。人々の中では珍しく、彼はリリーの言葉に耳を傾けてくれた。信仰を嘲らず、尊敬をもって接し、共に神の教えを説いて回ってくれた。
その日々は、灰色領域にまるで明るい陽の光が差したかのようだった。だが、その日々は短く儚かった。
ある日、野盗の襲撃を受け、青年は毒矢を受けて倒れた。激しい戦いの末、何とか野盗を退けることはできたが、もう青年は手遅れだった。
リリーは彼を抱きかかえ、何度も救いの言葉を口にしながら、彼の命の灯がゆっくりと消えていくのを感じていた。
リリーの腕の中で、血を吐いて召された彼は最後に、神を呪う言葉を残した。
──すべては、神託の名において定められた試練だった──
神の試練をその身に受け、それでも祈りの言葉を捧げたその時、リリーに再び神託が降りた。
──かくして、彼女の祈りは、奇跡を顕現するに至る。
この奇跡の力を、大教会は欲した。歴代の聖女の中でも破格の力を、ただの修道女に預けておくつもりなど、彼らにはなかった。
教会は、自らの権威の証とするべく策を巡らせた。だが、その奇跡をもたらす聖印は、もはやその手を離れ、神託と共に、聖女リリーの胸の内にある。
彼女には、奇跡の力を渡す意思もなければ、取り引きも、妥協もない。ただ、神託があるのみ。
もし、神託が「聖印を戻せ」と命じれば応じ、「絶滅せよ」と命じれば、彼女はその奇跡の力をもって、躊躇いも迷いもなく、教会を打ち滅ぼすだろう。その奇跡の本質は、聖女のみに授けられた懺悔の審判である。
ただ一つ、大教会ですら知りえぬ幸運を、彼らは神から、すでに与えられていた。
──リリーの起こす奇跡の力は、灰色領域のみで発揮される──
リリーと大教会の関係は、神託という『かみだのみ』で、その均衡を保っている。
◆◇◆◇◆◇
灰色領域の教会にて、リリーは、いつもと変わりなく、聖務を執り行っていた。
そして、その日、信徒を前にした祈りの中で、前触れなどなにもなく、神託を授かった。それには、一切の疑問を挟む余地など無く、全てが必然としてあった。
神託にて、定められた時、定められた場所、そして、定められた使命を全うする。
それが、リリーの全て、であった。
彼の刻、彼の地に待ち人来る。
奉る聖女は、いつもの様に、両の腕に余るほどの大きな聖典を開き掲げる。
対峙するのは、聖剣を携えた光の勇者。
この戦いに『なぜ』は存在しない。ただ、『ある』のみだった。
彼女の祈りは聖典を輝かせる。光は彼女を包み込む繭を成し、そして開いた。
“פרק 1, פסוק 1 בְּהִנָּתֵן בֹּקֶר חָדָשׁ מֵאֵת יְיָ שַׂשֵּׂה פָנֶיךָ וְקַבֵּל אֶת רֵעֶךָ בִּדְבַר שָׁלוֹם
(第1章第1節 主が新しき朝を授けたとき、汝は顔に喜びをたたえ、隣人に平安の言葉をもって迎えるべし)”
彼女が聖典の一節を読み聞かせると、光はその声のように柔らかく周囲に広がり、勇者へと分け与えられる。
光に触れた勇者は、わずかな逡巡もなく、否、許されず、リリーへと一礼し、深く頭を垂れた。
だが、勇者は力づくで従わされたのではない。意志を奪われたのでも、心を縛られたのでもない。ただ、光に照らされた瞬間、跡形もなく掻き消えたのだ、疑問も恐怖も。それは、曖昧で、得体のしれない、言葉にできない感触だった。
たとえ勇者といえど、この神光からは逃れることも、背くことも、叶わない。
勇者の一礼が終わると、聖典のページは天使の羽根が羽ばたくようにめくれ、新たな聖句を選び出す。
”פרק 11, פסוק 6 הַשְׁקֵט זָהָב הוּא, וּדְבָרִים מוֹבִילִים לְעָוֹן הִשְׁכֵּן קוֹלְךָ בְּתַחְתִּיּוֹת נַפְשְׁךָ
(第11章第6節 沈黙は金なり。言葉は罪に通じる。今こそ、おのれの声を、魂の底へと沈めよ)”
その祈りによって、勇者は再び光に包まれる。光は聖剣から光を奪い、力を封じた──
聖女リリーの手にある『乙女の聖典』とは、古の聖女たちが綴ったとされる『清浄なる乙女の礼節』の結晶にして、神意を示す聖なる教本である。全三十九章から成るその聖典には、乙女が歩むべき日々の所作から、聖女としての優美なる規範、果ては清浄たる信仰の色かたちまでもが、まるで天より刻まれた戒律のように記されている。
そして今、聖女リリーの祈りとともに、聖典に眠る聖句は目を醒ます。彼女がその口を開き、聖句を謳えば、その響きは祝福となって聖典を輝かせ、聴衆の心を照らし出す。
彼女の祈りは、もはや言葉ではない。それは天意を形にする奇跡であり、その神の威光から、誰も抗うことは叶わない。
リリーは、次なる聖句を教え説く。
”פרק 35, פסוק 2 פְּרֹשׂ יָדֶיךָ בַּתְּפִלָּה וְקַבֵּץ כֹּחַ בַּכֹּחַ טַהֵר אֶת הַחֵטְא נְעוּת יָדְךָ יִהְיֶה לְמִשְׁפַּט אֱלֹהִים
(第35章第2節 祈りと共に手を伸ばし、力を集めよ。その力で罪を清める。その手の一振りが神の裁きとなるだろう)”
天が裂けたのは、まさに聖句が読まれたその瞬間だった。
聖女の祈りが天に届き、天が、彼女の声に応えた。青天を割って、迅雷が咆哮を上げる。
そして、一本の稲妻が、天から真っすぐに勇者へと落ちた。技を封じられてもなお、その刹那に勇者は剣を掲げ、上段で受け構える。だがそれでも、神の雷撃は容赦なくその身を貫いた。
勇者の体は、その衝撃に耐え切った。しかし、勇者は攻撃に転ずることなく、防御の構えを未だ解かない。
──否、解けない。
天よりの稲妻はなお、勇者の剣に刺さりつづけている。
それはもはや雷光ではない。形を得た雷電、質量を持った雷刃が、天意を持って勇者を押し潰さんとしていた。
勇者の腕は軋み、足は大地にめり込み、ひび割れる。天の膂力は、勇者を確実に追い詰める。
”פרק 8, פסוק 1 צַדִּיק יַבִּיט בְּרַגְלוֹ וִידַע אֶת צְעָדוֹ וְהַמַּכְסֶה שְׁמוֹ יִשְׁכַּח וְיִכָּשֵׁל בְּחַצֵּר אֱלֹהִים
הֲרַגְלְךָ נְכוֹנוֹת הֵן
(第8章第1節 正しき者は足もと見つめ、一歩を慎む。されど覆う者は、名を忘れ、庭より足を踏み外れる。
汝のつま先は、果たして真か)”
聖典は慈悲深く、今の勇者にさらなる聖句を分け与える。
その聖なる響きは、勇者の足元のひび割れをさらに大きく裂き広げた。
その裂け目から現れたのは、翡翠のように輝く蔦の芽だった。それは瞬く間に成長を遂げ、しなやかな動きで勇者の足に絡みつき、その動きを封じた。だが、それだけでは終わらない。
幾重にも伸びた蔦は、逆巻く水柱のように湧き上がり、勇者の体を取り囲む。そして体に巻き付くと、動きのとれぬ勇者の体を締め付けた。
さらに蔦には、棘がある。
美しくも鋭利な棘は、勇者の肉に突き刺さる。その痛みは、逃走を許さぬ絶対の意志を伝播する。勇者の体に棘は食い込み、血の赤がじわりと滲んだ。
即ちこれは、進むべき道を見極めさせる聖樹の棘牢、神の園から踏み外さぬための拘束具──
その剣が封じられ、全身を雷が焼き、蔦の棘が肉を裂いてなお、それでも勇者は目を閉じなかった。
腕は天刃を受け続け、足は大地に捕らえられ、もはや勇者に打つ手はない。
だがそれでも、心は折れていなかった。
勇者に祈りはいらない、奇跡も必要ない。ただ──、絶対に諦めない。
その勇者の核心は、どれだけの神罰が降りかかろうと、どれほどの苦難に苛まれようと、焼き尽くせはしない。
なぜならば、神も、奇跡も、本当の永遠にはまだ……遠い──
勇者は、その天刃を受けながら、左の腕を剣から放し、剣を構える右の腕へと近づける。そして、腕に絡まる聖樹の蔦に、ただ単純に力を込めた。
蔦は、ただの植物ではない。天界に咲く神木の具現であり、その一本一本が意志を持つ。抵抗する勇者をさらに締め付け、その棘は、肉のさらに深くへ突き立てる。
だがしかし、勇者の中指が微かに沈む。勇者の拳は、蔦の締めより強く絞め上げる。蔦の棘より深く握り込む。蔦は音を立てて軋み、裂け、中の繊維が樹液とともに流れ出す。勇者は肉に棘を刺されたまま、構わずそれごと、絡む蔦を引き千切る。その拘束を力ずくで破壊する。左手の甲には血が流れ、滴となって地に落ちる。
それを何度も繰り返し、左手が掴む蔦を失うと、右手はついに解き放たれた。
そして、勇者は、攻撃に転じる。
それに一切の技はなく、ただ純粋に、その一撃に力を込めた。
雷刃を受ける勇者の聖剣は、雷撃に屈することなく、徐々に上へと押し上げられてゆく。その刃はじりじりと押し進み、力が飽和した瞬間、天からの稲妻を、雷轟引き裂き逆さに返した。
その刹那、続けざまの二撃目が振るわれる。
勇者の体を縛る蔦は、聖剣に貫かれ、一瞬にして音もなく断ち切られた。
そして、次なる三撃目。その切っ先を真っすぐに、リリーへ向けた。
それは次なる聖句より速く、勇者の剣は間合いを詰める。そのひと振りを打ち下ろす。
しかし、その刃が狙う一点は、リリーではなく、彼女が持つ聖典だった。
勇者の破天の一撃に、聖女リリーは聖典をかばい、その身を投げ出した。無謀にも、奇跡をまとわぬただ身一つで、勇者の聖剣を受けようとした。
──だが、救いは来なかった。
その直前で、聖剣は静止した。まるで、そうある事が定められていたかのように。
風と音だけが、リリーを通り抜け、彼方へと遠ざかる。その果てに、勇者の剣は静かに下りた。
戦いの残滓が霧散し、聖典からも光が消える。それを奪い取るように、勇者の聖剣に光が戻る。
天より下された奇跡が剥がれ落ち、全ての祈りは大地に還る。
その後を追うように、力の抜けたリリーの体が膝をつき、地に崩れた──
この戦いに『なぜ』は存在しない。ただ、『ある』のみだった。
◆◇◆◇◆◇
この戦いの末、聖典を守ったリリーの胸の内にあるのは安堵ではなかった。
そこにあるのは、神を裏切った背徳だった。最後のリリーの行動は、神託に背いたものだった。
リリーは震える指先で、そっと聖典の背に触れる。その重みを確認するように、愛おしげに耳をなぞる。その温もりとは裏腹に、リリーの胸には、信仰の花が枯れ落ちたような空虚だけが広がった。
その行いを断罪するかのように、以降、リリーに神託が降りてくることは無かった。
毎朝の祈り、毎夜の懺悔を、リリーは欠かさずに続けた。
しかし、花は枯れたまま、再び咲き誇る奇跡は訪れなかった。
そして、リリーは理解する。
”神託は降りてこない。──でも、絶望はしない。なぜなら、まだ神託は生きているのだから。”
聖女リリーは、乙女の聖典を開き聖句と向き合い、沈黙のうちに、その最初から一言一句と対話を重ねる。
そして、最後の聖句に辿り着き、その終わりに奉り、その証となる新たなる四十章を書き加えた。
花は枯れど、まだ生きている──……
”勇者ヘリオス──ええ、あなたは、私が、必ず殺して差し上げます──”