第32話『七夕祭り④-願いごと-』
チョコバナナを食べた後も屋台を廻っていると、気付けば、待ち合わせ時間の午後8時が近づいてきていた。楽しい時間はあっという間に過ぎていくなぁ。
千弦と俺は待ち合わせ場所である短冊コーナーの近くまで向かう。すると、そこには既に結菜や星野さん達6人全員が集まっており、
「お兄ちゃんと千弦さんも来ましたよ!」
結菜がそう言い、6人が俺達に手を振ってきた。6人に向かって手を振りながら、千弦と俺は6人のところへ。
「お待たせしました。俺達が最後でしたね」
「お待たせしました」
「千弦と白石はデート楽しかったかしら?」
「ああ、凄く楽しかったぞ」
「楽しかったよ! 色々な屋台を廻って。それに、洋平君が射的の屋台でペンギンのぬいぐるみを取ってくれたし。しかも100円でね」
千弦がそう言うので、俺は持っている紙の手提げからペンギンのぬいぐるみを取り出した。すると、結菜達は「おぉ」と声を上げた。
「可愛いわね、そのぬいぐるみ! やるじゃない、白石!」
「射的で景品をゲットできるなんて凄いよ、白石君! ぬいぐるみを取ってくれて良かったね、千弦ちゃん」
「うんっ!」
千弦は嬉しそうに返事をして、しっかりと首肯する。こうして嬉しそうにしていると、このぬいぐるみを取れて本当に良かったなって思うよ。今後も射的の屋台で千弦がほしいものがあったら俺が取りたいと思う。
「さすがはお兄ちゃんだね。射的が凄く上手だから、あたしも何回も取ってもらったっけ」
「俺も洋平に何回か取ってもらったことあるな。さすがだぜ、洋平」
「去年のお祭りでも白石君は射的で景品ゲットしてたね。凄いなぁ」
「100円でそのぬいぐるみを取れるなんて凄いわ。射的がとても得意なのね、白石君は」
「どうもです」
みんなから射的の腕を褒めてもらえて嬉しいな。
「琢磨と吉岡さんはデートどうだった?」
「凄く楽しかったぜ! 色々な屋台を食べ歩きしたぜ!」
「たくさん食べたよね! 凄く楽しかったよ!」
琢磨と吉岡さんは満面の笑顔で言った。屋台を食べ歩きして本当に楽しかったことが窺える。琢磨はもちろん、吉岡さんも食べるのが好きだからな。2人らしい。
そういえば、去年も、琢磨と吉岡さんはデートでは屋台の食べ歩きをして楽しかったと言っていたな。
「そうか。良かったよ」
「良かったね、早希ちゃん、坂井君!」
俺達がそう言うと、琢磨と吉岡さんは満面の笑顔のまま頷いた。2人にとっても楽しいデートになって良かった。
「彩葉ちゃん達はどうでした?」
「食べ物系中心に廻って楽しかったよ」
「そうだったわね、彩葉。みんな一口交換もしたし」
「色々食べましたね。あと、輪投げの屋台で遊んで。飛鳥さんが景品をゲットしました!」
「久しぶりやったんだけどね。運良くゲットできたわ」
山本先生は嬉しそうに言うと、巾着袋から猫のミニフィギュアを取り出した。
「可愛い猫ちゃんですねっ」
「可愛いですね」
「ええ。家に飾るわ」
「ふふっ。彩葉ちゃん達も楽しい時間になって良かったです」
「良かったです」
千弦と俺がそう言うと、星野さん達4人は「うんっ」と頷いた。4人の中で年齢が同じなのは星野さんと神崎さんだけだけど、楽しい時間になって何よりだ。
「全員集まったので、短冊コーナーの列に並びましょうか」
吉岡さんのその言葉に、俺達は賛成した。
俺達は短冊コーナーの列の最後尾に並ぶ。2列で並ぶことになっているので、琢磨&吉岡さん、神崎さん&結菜、俺&千弦、山本先生&星野さん、という順番で並ぶ。ちなみに、俺の前には結菜がいる。
こうしてみんなで並ぶとパークランドのアトラクションの列に並んだことを思い出すな。あそこは2列で並ぶところが多かったし、そのときは千弦と隣同士で並んでいたから。
短冊コーナーの列は結構長い。このお祭りのメインだし、短冊に願い事を書いて笹に飾るのは七夕らしいことなのでみんなやりたいのかも。あとは、俺もそうだけど、このお祭りに来たら必ず短冊を書く人もいるだろう。短冊コーナーは人気があり、毎年今のような長い列ができている。
「洋平君は短冊に何を書くか決まってる?」
「ああ、決まってる。七夕祭りに行くことになってからすぐの時期に決まったよ」
「そうなんだ。どんな願いごとを書くのか楽しみだな」
「書いたら見せるよ。千弦は決まってるのか?」
「うん、決まってるよ。書いたら見せるね」
「ああ。楽しみしてる」
千弦はどんな願いごとを短冊に書くだろうか。短冊コーナーでこんなに楽しみな気持ちになるのは初めてだ。
千弦は夜空を見上げる。
「どうしたんだ、千弦。空を見上げて」
「願いごとの話をしたから、夜空を見たくなってね。……あっ、あのあたり……いくつも星が見えるよ」
千弦は夜空に向かって指をさしながらそう言う。
千弦が指さす方向に夜空を見上げると……そこは雲の切れ間になっており、星がいくつも見えている。
「おっ、本当だ。星が見える。いくつもあるから、あのあたりは天の川だったりして」
「そうかもしれないね。今日は一日中曇りの予報だったから……こうして星空が見えると願いごとが叶いそうな気がする」
「そうだな」
とても運がいいなって思うよ。
「千弦ちゃんの言う通り、星が見えますね、飛鳥先生」
「そうね、星野さん。綺麗だわ」
千弦と俺の後ろに並んでいる星野さんと山本先生も星空を見ているのか。チラッと後ろを見ると、2人は笑顔になって夜空を見上げていた。
「星が見えるんですか?」
「見えるよ、結菜ちゃん。あそこに」
結菜と千弦のそんな会話が聞こえたので前を向くと、結菜と神崎さん、琢磨、吉岡さんが千弦が指さす方向を見上げていた。
「あっ、星見えますね! 綺麗ですね!」
「そうね! 綺麗だわ!」
「星が見られるなんて嬉しいね! 今日はずっと曇り予報だし」
「そうだな、早希!」
結菜達4人は星空を見ながらそう言っている。今日はずっと曇っていたのもあって、みんな嬉しそうにしている。
その後はみんなと一緒にこの七夕祭りのことや、ゴールデンウィークに行ったパークランドのことで話が盛り上がった。それもあって、俺達の番になるまであっという間だった。
短冊コーナーには複数の長机があり、そこに赤や青、黄色、水色、緑、ピンクなど様々な色の短冊とサインペンが用意されている。
俺は千弦と隣同士で願いごとを書くことに。
俺はサインペンと好きな色である青の短冊を一枚取って、
『大好きな千弦とずっと一緒にいられますように。 白石洋平』
という願いごとを短冊に書いた。
去年までとは違って、今年は恋人の千弦がいる。だから、短冊コーナーでどんな願いごとを書こうか考えたら、すぐにこの願いごとが思い浮かんだのだ。
「よし、これでOK」
千弦の方をチラッと見ると……千弦はまだ書いているか。今も列ができているからここから離れた方がいいな。
「千弦。まだ列もあるし、俺は机の端のところにいるよ」
「分かった」
俺は長机の端のところまで移動して、千弦が来るのを待つ。
笹の方を見ると……お祭りが始まってだいぶ時間が経っているから、たくさんの短冊が飾られており、カラフルに彩られている。とても綺麗だと思ったので、スマホで笹の写真を撮った。
「お待たせ、洋平君。書き終わったよ」
写真を撮った直後、水色の短冊を持った千弦がやってきた。
「おっ、書き終わったか。もう見せるか?」
「う~ん……笹に飾るから、飾った後に短冊を見ることにしない?」
「おっ、それはいいな。風情も感じられそうだし」
「決まりだね。じゃあ、笹に飾りに行こうか」
「ああ」
千弦と一緒に笹のあるところへ向かう。
笹の前まで行くと6人みんな短冊を持って待っていた。また、吉岡さんや神崎さんの提案で、みんなで近いところに短冊を飾ることになった。
みんなで短冊を笹に飾り、俺は千弦達の短冊を見る。
『大好きな洋平君とずっと一緒にいられますように。
17歳の1年間もいい1年になりますように。 藤原千弦』
『家族や友達と一緒に、素敵な1年を過ごしたい! 星野彩葉』
『テニスを頑張る! 友達や家族と楽しく過ごしたい! 神崎玲央』
『バスケを頑張るぜ! 早希とラブラブな時間を過ごしたい! 坂井琢磨』
『バスケを頑張る! 琢磨君とラブラブな時間を過ごしたい! 吉岡早希』
『家族や友達と一緒に楽しい時間を過ごしたい! バドミントン頑張る! 白石結菜』
『素敵な日々を過ごし、その中で素敵な物語に出会えますように。 山本飛鳥』
みんなの願い事……らしさを感じるなぁ。あと、千弦の願いごとの一つが俺と見事に同じなのがとても嬉しい。どうか、みんなの願いが叶いますように。
「洋平君と願いごとが一緒で嬉しい」
千弦はニコニコとした笑顔でそう言ってくる。願いごとが一緒で嬉しいという気持ちも一緒か。それが分かって嬉しい気持ちが膨らむ。
「俺も嬉しいよ、千弦」
「うんっ。誕生日が近いから、いつもは2つ目の願いごとだけを書いているんだけど、今回は洋平君っていう恋人ができたから、1つ目の願いごとも書いたの。ずっと一緒にいたいから」
「そうだったんだ。去年までは違う願いごとを書いていたんだけど、今年は千弦っていう恋人がいるから、ずっと一緒にいたいっていう願いごとを書いたんだ」
「そうだったんだね! ずっと一緒にいられるように頑張ろうね」
「ああ」
千弦のことを大切にして、千弦と一緒に毎日を楽しく過ごしていきたい。勉強やバイトを頑張りながら。
みんなの短冊の写真を撮りたい、と神崎さんと吉岡さんがお願いしたので、俺達は快諾した。神崎さんと吉岡さんが短冊の写真を撮り、グループトークに上げてくれた。
短冊コーナーを後にして、みんなで屋台を少し廻った後、帰宅することに。
調津駅に行き、みんなの最寄り駅がある下り方面の各駅停車の電車に乗る。
各駅停車なのもあってか、電車の中は空いており、空席もあった。なので、行きと同じく千弦や結菜など女性陣が座った。ちなみに、千弦も座り、千弦が「ぬいぐるみ持つよ」と言ってくれたので、ペンギンのぬいぐるみの入った紙の手提げを千弦に渡した。
今日のお祭りについてみんなと喋りながら、電車の時間を過ごす。
「今日はとても楽しかったです! みんなと行くのは初めてでしたけど、本当に楽しかったです。結菜ちゃんや千弦達の可愛い浴衣姿も見られて満足です。また明日。結菜ちゃん、また遊ぼうね!」
「凄く楽しいお祭りでした! 今年も琢磨君とデートできましたし。また明日です! 結菜ちゃんともまた近いうちに会いたいな」
途中の藤田給駅では神崎さんと、武蔵原台駅は吉岡さんと別れた。吉岡さんが別れる際は琢磨にキスをして。楽しいと言っていただけあって、2人とも笑顔で電車から降りていった。
2人が降りてからも、お祭りのことなどについて話しながら洲中駅までの時間を過ごした。
定刻通りに洲中駅に到着し、俺達6人は電車から降りて、改札口へと向かう。
「じゃあ、ここで別れましょうか」
改札口を出て、夕方の待ち合わせ場所である改札前に着いたとき、山本先生はそう言った。そのことに俺達は賛成する。
「今日は本当に楽しかったです。千弦とデートもできましたから、今までで一番楽しい七夕祭りでした」
「私も洋平君とデートができたので、今まで一番楽しい七夕祭りになりました!」
「今年も凄く楽しい七夕祭りになったっす! 早希とデートもできたんで満足っす!」
「千弦ちゃん以外とは初めて行きましたけど、今年もとても楽しい七夕祭りでした」
「あたしも今年も楽しい七夕祭りでした! 今回のメンバーでまたどこかに遊びに行きたいですね!」
「そうね、結菜ちゃん。先生は調津の七夕祭りは初めてだったけど、遊園地に行ったメンバーだったのもあってとても楽しかったわ。ありがとう」
千弦達はみんな笑顔で七夕祭りの感想を言っていた。みんなにとっても楽しい七夕祭りになったようで良かった。
「ねえ、洋平君。帰る前に……キスしていい? さっきの早希ちゃんみたいに」
「ああ、いいぞ」
「ありがとう」
千弦は嬉しそうにお礼を言い、俺にキスしてきた。
今日も千弦と何回かキスしたけど、千弦とのキスは何度してもいいなって思える。
少しして、千弦の方から唇を離した。すると、目の前には満足そうにしている千弦の笑顔がある。頬を中心にほんのりと赤らめているのを含めて可愛い。
また明日、と言って千弦と星野さんと改札前で別れ、南口を出て少ししたところで琢磨と山本先生とも別れた。
「お祭り楽しかったね、お兄ちゃん!」
「楽しかったな、結菜。千弦とデートもできたし最高だった」
「良かったね!」
「ああ」
とても楽しかったから、来年以降も千弦達と一緒に七夕祭りに行きたいな。
それからも、今日の七夕祭りについて結菜と話しながら、自宅に向かって歩いていった。




