第22話『ウォータースライダー』
レジャープールで千弦とたっぷり水をかけ合ったので、他のプールやウォータースライダーに行こうという話になった。なので、俺達はレジャープールを出た。
「水をかけるの楽しかったし、気持ち良かったね!」
「そうだな!」
「ねえ、洋平君。次は洋平君の行きたいところがいいな。レジャープールで水をかけ合うのは私の希望だったから」
「そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらうよ」
俺がそう言うと、千弦はニコッと笑って「うんっ」と頷いた。
「次は……ウォータースライダーがいいな。これまでスイムブルーに来ると、必ずウォータースライダーへ行っていたし。それに、ここのウォータースライダーは2人で一緒に滑ることができるからさ」
スイムブルー八神のウォータースライダーは専用の浮き輪に座って滑る形だ。浮き輪は1人用と2人用があるので、一緒に滑ることができるのだ。家族で行ったときも、友達と行ったときも2人用の浮き輪に座って一緒に滑ることが多かった。
「千弦と一緒に滑りたいなって思ってる。千弦……どうかな?」
千弦のことを見つめながらそう問いかける。
ゴールデンウィークに遊園地へ遊びに行ったとき、千弦は絶叫系のアトラクションが好きだと言っていた。実際にジェットコースターやフリーフォールでは楽しそうにしていたし。だから、ウォータースライダーも好きそうだけど……どうだろう。
「もちろんいいよ! ウォータースライダー好きだし、デートでは洋平君と一緒に滑りたいって思っていたんだ」
千弦は嬉しそうな笑顔でそう言ってくれる。快諾してくれるのはもちろん、一緒に滑りたいと考えていたと分かってとても嬉しい。
「ありがとう。じゃあ、ウォータースライダーに行くか」
「うんっ」
俺達は手を繋いでウォータースライダーの入口に向かって歩き始める。
俺達が屋内プールに来たときよりも、お客さんの数がさらに多くなっている。ここは本当に人気のある施設なのだと実感する。
ウォータースライダーの入口が見えてきたとき、
『きゃああっ!』
と、ウォータースライダーのコースから、女性達の黄色い声が聞こえてきた。コースの方に視線を向けると、大学生と思われる女性2人が乗った浮き輪がゴールし、2人がプールに落ちている様子が見えた。
入口近くにいる男性のスタッフさんから、2人用の浮き輪を受け取った。
俺が浮き輪を持って、スタート地点に向かおうとすると……上がりきる前に人の列ができていた。そういえば、これまでスイムブルーに遊びに来たときも、階段の途中から並ぶことが多かったな。
俺達は列の最後尾に並ぶ。
「今でも、ウォータースライダーは人気なんだな」
「そうだね。これまでも、遊びに来たときは階段の途中から並ぶことが多かったよ」
「そうだったんだ。俺もだ。ウォータースライダーって魅力的だもんな」
「スリルがあるし楽しいもんね。あと、ここのウォータースライダーは、1人でも2人一緒でも滑ることができるのも人気な理由の一つかも」
「それはありそうだ。これまでも、ウォータースライダーを滑るときは2人一緒に滑ることが多かったし」
「私もだよ。……そうだ。並んでいる間に座る場所を決めようか」
「そうしよう」
2人用の浮き輪は縦長で、前後で2カ所座る穴が空けられている。
「千弦はどっちがいいとか希望ある?」
「私は……後ろがいいな。洋平君の姿がよく見えるし」
「分かった。じゃあ、俺が前に座るよ」
「ありがとう!」
千弦は嬉しそうにお礼を言った。
その後はプール絡みのことで雑談しながら、俺達の順番を待つ。
千弦と話すのは楽しいし、定期的に前に進んでいく。それもあり、俺達の番が来るまであっという間に感じられた。
「次の方は……お二人一緒ですね」
『はい』
スタート地点にいる女性のスタッフさんの問いかけに、俺達は声を揃えて返事をした。
「仲良く話していたみたいですし、カップルさんですか?」
「はい、そうです」
「デートで来ました」
千弦はニッコリとした笑顔で答える。可愛いな。
「ふふっ、そうですか。デートいいですね!」
女性のスタッフさんは快活な笑顔でそう言ってくれた。営業トークなのかもしれないけど、デートいいですねって言われて嬉しい気持ちになる。
スタート地点に2人用の浮き輪を置き、さっき話した通り、俺が前、千弦が後ろの穴に腰を下ろす。
俺のすぐ両側には千弦の綺麗な脚があって。そのことにドキッとする。
「それでは、ラブラブなカップルさんいってらっしゃーい!」
女性のスタッフさんは元気良く言い、俺達の乗る浮き輪を押した。
千弦との初めてのウォータースライダーがスタートした。
俺達の乗る浮き輪はコースを流れる水に乗って前進し始める。
「始まったな!」
「うんっ!」
後ろから千弦の可愛らしい返事が聞こえてくる。弾んだ声なので、きっと今の千弦はワクワクとした様子になっているのだろう。
俺達の乗る浮き輪は、どんどんスピードが上げながらコースを進んでいく。
「うおおっ! 速くなってきたな! 結構スリル出てきたぞ!」
「そうだね!」
きゃーっ! と、千弦は黄色い声を上げる。楽しいのか何度も。今の声を聞くと、遊園地でジェットコースターやフリーフォールなどの絶叫系アトラクションに乗ったときのことを思い出す。あのときも、千弦はたくさん叫んでいたっけ。当時、千弦は王子様として振る舞っていたけど、黄色い叫び声は今と変わらないな。
その後も浮き輪のスピードは上がり続ける。2年ぶりだし、前に座っているだろうか。かなりスリルを感じるぞ!
スピードが上がる中でカーブしたり、下る角度が急激にキツくなったりする場所を通過して。そのときはスピードが特に上がって、顔に冷たい水がかかるからスリルが倍増し、
「うおおっ!!」
「きゃーっ!!」
と、俺達の叫び声も一段と大きくなる。
その後も俺達はたくさん叫びながらウォータースライダーを滑っていき、スピードがある状態でゴール地点のプールに辿り着いた。
――バシャッ。
勢い良くゴールしたので、プールに到着したときにバランスを崩し、俺達の乗る浮き輪はひっくり返る。俺達はプールに落ちた。そういえば、これまでもゴールしたときに、こうして浮き輪から落ちたことが何度もあったな。
全身が水の中に入っているから結構冷たい。そう思いながら、俺はゆっくりと水面から顔を出した。
その場で立ち上がり、周りを見てみると……俺の近くにはひっくり返った浮き輪がある。浮き輪のすぐ横からプクプクと気泡が弾け、
「ぷはっ」
水面から千弦が顔を出した。
千弦はその場で立ち上がり、両手で顔に付いた水滴を拭う。ウォータースライダーが気持ち良かったのか、千弦は爽やかな笑顔になっていて。そんな千弦がとても可愛くて。美しくて。思わず見惚れてしまう。
「ウォータースライダー楽しいね!」
「ああ、楽しいな!」
「うんっ。スリルあったし、いっぱい叫んだ~!」
「俺も叫んだよ。2年ぶりだし、前に座ったから結構スリル感じた」
「洋平君、結構叫んでたよね。遊園地のジェットコースターとかフリーフォールのときみたいに、一緒に叫んだから気持ち良かったよ」
「俺もだ」
俺がそう言うと、千弦の笑顔はニッコリとした可愛らしいものに変わった。
「ねえ、洋平君。もう一回滑りたい!」
「ああ、いいぞ」
「ありがとう! 今度は前に座ってもいい?」
「もちろん」
「ありがとう!」
千弦は嬉しそうにお礼を言った。
ひっくり返った浮き輪を持って、俺達はプールを出る。
ウォータースライダーの入口へ行き、前回と同じく階段の途中から並ぶ。
千弦と雑談しながら待っていたのもあり、今回も俺達の番になるまではあっという間に感じられた。
今回は千弦が前、俺が後ろに座る。後ろに座ると千弦の後ろ姿が見えるのがいいな。今回も楽しめそうだ。
「それでは、ラブラブなカップルさん、2回目いってらっしゃーい!」
先ほどと同じ女性のスタッフさんによって俺達の乗る浮き輪が押され、2回目のウォータースライダーがスタートした。
つい15分くらい前に滑ったけど、千弦の後ろ姿が見えるから新鮮に感じられる。
「前だとよりスリルあるねっ! いいね!」
きゃーっ!! と千弦は前回よりも大きな声で叫んでいる。
「そうだな! 後ろもなかなかスリルあるな! 千弦の後ろ姿を見られていいぞ!」
「そっか! いいよね! きゃーっ!」
「うおおっ!」
前回と同じく、千弦と一緒に叫びながらウォータースライダーを滑っていく。
後ろに座っても、下る角度がキツくなったり、カーブを曲がったりするところではかなりスリルが感じられて。
スピードがある中でゴールに辿り着いて、
――バシャッ。
今回も浮き輪から落ちた。
水面から顔を出すと、千弦がほぼ同じタイミングで水面から顔を出した。
「前はよりスリルがあったね! 前に座るのも楽しかった!」
「そうか。後ろだと千弦の姿が見えるのが良かった。後ろも楽しかったよ」
「ふふっ、そっか」
「……2年ぶりに滑ったけど、ウォータースライダー本当に楽しいな。もう1回滑りたくなってきた」
そう思えるのは、ウォータースライダーのスリルさはもちろんのこと、千弦と一緒に滑って、一緒にたくさん叫んだからだろう。
「私ももう1回滑りたい」
千弦はニコッとした笑顔でそう言ってくれた。
「嬉しいな。じゃあ、3回目滑りに行くか」
「うんっ!」
その後、俺が前、千弦が後ろに座って3回目のウォータースライダーを滑った。何度も滑ってもスリルを感じられて。千弦と一緒にたくさん叫んだからとても気持ち良くて。3回目もとても楽しかった。




