第18話『水着を買いに行こう-前編-』
6月19日、水曜日。
放課後に千弦と俺の水着を買いに行く予定があるからだろうか。今日は放課後になるまであっという間だった気がする。
担任の山本先生と掃除当番である吉岡さんとは教室で、部活のある琢磨とは昇降口の前で別れ、
「じゃあ、水着を買いに行こうか、洋平君、彩葉ちゃん、玲央ちゃん」
これから千弦と星野さんと神崎さんと一緒に、洲中駅前にあるセントラル洲中という大型の商業施設へ水着を買いに行く。
4人で一緒に行くことになったきっかけは、今日になって神崎さんが、
「雨が降っていたり、放課後に顧問の先生が用事で早退したりするから、今日の放課後の部活はオフになったの。だから、2人さえ良ければ、2人の水着を買うのについて行きたいわ!」
と、目を輝かせてお願いしてきたからだ。きっと、ついて行きたい一番の理由は水着を試着した千弦を見たいからだと思う。以前、結菜がスクール水着を買った際、試着した結菜を見られて幸せだと言ったほどだし。
友達の神崎さんなら同行してもいいと思った。千弦もいいと思ったようで、2人で快諾した。その流れで、
「じゃあ、私もついて行ってもいいかな? 今日の放課後は特に予定ないし。2人の水着選びに協力できるかもしれないから」
と、星野さんもついて行きたいと言ったのだ。星野さんについても千弦も俺も快諾し、4人で行くことになった。
昇降口を出ると……外は今も雨が降っている。登校したときよりも蒸し暑い。
俺達は傘を差して校舎を後にする。その際、俺と千弦は相合い傘をすることに。
「水着を買うの楽しみだな。男の子の水着を選ぶのは初めてだし」
「そうなんだ。俺も同級生の女子の水着を選ぶのは初めてだな。年の近い女子の水着選びに協力したのは妹の結菜くらいだし。それも、俺が小学生の頃だ」
「そうなんだね。同級生の女子は私が初めてなんだ。嬉しい」
今の言葉が本当だと示すかのように、千弦は嬉しそうな笑顔を向けてくれる。もしかしたら、千弦は今までに俺が女子の水着を選ぶのに付き合ったことがあるかどうかが気になっていたのかもしれない。
「俺も、千弦が男子の水着選びをする初めての人が俺で嬉しいよ」
「そっか」
ふふっ、と千弦は声に出して楽しそうに笑った。
「彩葉ちゃんと玲央ちゃんは、男の子の水着を買いに行くのに付き合うのは初めて?」
「私は初めてだよ」
「あたしは小学生のときに、年下の親戚の男の子の水着選びに付き合ったことがあるわ。同級生の男子は初めてよ」
「そうなんだね」
2人も同級生の男子の水着選びは初めてか。
その後も、4人で雑談しながら、セントラル洲中に向かって歩いていく。洲中高校から徒歩で数分ほどの場所なので、到着するまではあっという間だった。
衣服を取り扱うフロアは3階だ。なので、3階まではエスカレーターで向かうことに。その間に、まずは千弦の水着から買うことに決めた。
3階に到着して、女性向けの水着を取り扱うエリアへ向かい始める。女性向けの衣服やアパレルショップの横を通って。
服や下着を買いにこのフロアに来ることはあるけど、女性向けのものを扱うエリアに来るのは久しぶりだ。だから新鮮さも感じられた。
「ここだよ」
千弦がそう言い、俺達は歩みを止める。
すると、俺達の目の前にビキニやワンピースなど、レジャー用の女性向けの水着がたくさん陳列されている。ここから見るだけでも、様々なデザインや色の水着があるのだと分かる。千弦は可愛くて美人だし、スタイルがとてもいいからどんな水着も似合いそうだ。
女性向けの水着売り場の中にお客さんが何人かいるけど、男性は20代くらいと思われる人だけ。その男性も恋人や奥さんと思われる女性と一緒だ。
「水着がいっぱいあるな」
「そうだね、洋平君。品揃えが凄くいいから、洲中に引っ越してきてからは、水着は毎年ここで買うの」
「私と一緒に買うときもここだもんね」
「あたしも水着を新調するときはここで買おうかしら」
「きっといい水着を買えるよ。……洋平君。どんな水着を買ってほしいか希望はある? 昨日、参考にここ2,3年の私の水着姿の写真を送ったけど」
そう。昨日の夜に、千弦から『水着選びの参考に』と中2から去年までの千弦の水着姿の写真をLIMEで送ってくれたのだ。その写真はすぐにスマホに保存した。
ちなみに、中2のときは赤い三角ビキニ、中3のときは白い三角ビキニ、去年は青いホルターネックのビキニの水着だった。3着とも無地のデザインだ。どれもよく似合っていて。あと、過去の写真でも水着姿の千弦を見るのは初めてだったのでドキドキもした。
「ビキニがいいな。送ってくれた写真に写ってた水着姿の千弦はどれも似合っていたし、可愛かったから」
「ふふっ、そっか。嬉しいな」
「うん。去年のホルターネックビキニは特に」
「そっか。じゃあ、ビキニの種類はホルターネックにしよう。ホルターネックビキニが陳列されているところへ行こうか」
「ああ」
俺達は女性向けの水着売り場の中に入り、ホルターネックビキニが陳列されているところへと向かう。
外にいるときも思ったけど、女性向けの水着って色やデザインや柄が色々とあるなぁ。
「ここだね」
ホルターネックビキニが陳列されているところに辿り着いた。
目の前には、ホルターネックのビキニがハンガーラックにたくさん掛けられている。人気なのか、同じようなデザインで様々な色がある。無地のものが多いけど、ドット柄や花柄といった柄物もある。
「いっぱいあるな」
「どれも千弦に似合いそうだわ!」
「そうだね、玲央ちゃん」
「俺もそう思う」
「ふふっ。洋平君、色とかデザインとか希望はある?」
「色は青と白とピンクと水色が良さそうだなって思った。爽やかさとか可愛さを感じられる色がいいなって。ごめん、4つも候補を出しちゃって」
「ううん、いいんだよ。たくさん希望を言ってもらえるのは嬉しいし」
千弦は嬉しそうな笑顔でそう言ってくれる。良さそうだと思った色を全部言ってみたけど、正直に言ってみて良かった。
「デザインは……無地がいいかな。送ってくれた写真の水着は全部無地だったし、どれも良かったから」
「分かった。じゃあ、無地の青、白、ピンク、水色を試着しよう」
その後、千弦はハンガーラックを見ていく。
幸いにも、千弦に合うサイズの無地の青、白、ピンク、水色のホルターネックビキニはどれもあった。俺と星野さんと神崎さんで千弦からビキニを受け取る。
「どれもあって良かった。これから試着するけど、みんな試着室の前で待って直接見る? それともお店の外で待って、自撮りした写真を見る? 彩葉ちゃんは一緒に水着を買いに行くと、試着した姿を直接見せ合うけど」
「今回も直接見たいな」
「あたしも直接見たいわ!」
星野さんと神崎さんは直接見るか。特に神崎さんは直接見るって言うと思ったよ。
「洋平君はどうする? 水着だから、男の子が試着室の前で待っていても大丈夫だと思うけど」
「プールや海で水着姿になるもんな。……俺も水着を試着した千弦を直接見たい」
恋人の水着姿だ。試着した姿も当然直接見たい。
今は星野さんと神崎さんという女の子2人と一緒だから、俺が試着室の前で待っていても周りにいる人達から不審者だとは思われないだろう。
「うん、分かった!」
千弦はニコッとした笑顔でそう言った。俺も直接見たいと言ったのが嬉しかったのかもしれない。
俺達は試着室の前まで向かう。
試着室は4つ連続で並んでおり、今はどれも空いているようだ。
「向かって一番右の試着室で試着するね」
「ああ。3人で待ってるよ」
俺と星野さんと神崎さんからビキニを受け取ると、千弦は向かって一番右側の試着室に入った。
千弦の水着姿は写真では見たことがあるけど、直接見るのは一度もないから楽しみだ。ちょっとドキドキもするけど。あと、4色あるから、どの色の水着を着るのかも楽しみだ。
「どの色の水着を着るのか楽しみねっ」
神崎さんはワクワクとした様子でそう言ってくる。
「そうだな。俺もどの色を着るか楽しみだよ」
「4色あるもんね。どの色も千弦ちゃんに似合いそうだから楽しみだよ」
「そうだな。あと、水着姿の千弦を直接見たことはないから、試着した姿を見ること自体が楽しみだ」
「そうねっ。……あのさ、白石。参考にって送ってもらった千弦の水着姿の写真を見たいわ」
「千弦さえ良ければいいけど。……千弦、昨日送ってくれた写真を神崎さんに見せてもいいか?」
「いいよ~」
「ありがとう、千弦!」
神崎さんは嬉しそうにお礼を言った。すると、試着室の中から千弦の「ふふっ」という可愛い笑い声が聞こえてきた。
俺はスマホを取り出し、千弦が送ってくれた青いビキニ姿の写真を表示させる。その状態で神崎さんにスマホを渡した。
「わぁっ、可愛いわ! よく似合ってる!」
「去年の青いビキニだね。千弦ちゃんや友達と一緒にスイムブルーへ遊びに行ったよ。楽しかったなぁ」
「そうだったのね」
「スライドすれば他の千弦の写真を見られるよ」
「分かったわ」
その後も、千弦が送ってくれたこれまでの千弦の水着姿の写真を3人で見ていく。
神崎さんは写真を見る度に「可愛いわっ」とはしゃいでいて。
当時の千弦と遊んだことのある星野さんの思い出話も聞く。これまで、星野さんと千弦は友達と一緒にプールや海で楽しく遊んだとのこと。
千弦の写真や思い出話を楽しんだのもあり、
「着替え終わったよ」
気付けば、試着室の中から千弦のそんな声が聞こえてきた。
「分かった。じゃあ、見せてくれ」
「はーい」
千弦はそう返事をすると、試着室の扉をゆっくりと開けた。
すると、目の前に青いホルターネックビキニを試着した千弦が姿を現す。
青だから涼しげで、爽やかさと落ち着いた雰囲気が感じられる。大人っぽさもあって。去年と同じ色で、デザインも似ているけど、実際に見るといいな。水着姿なので、千弦のスタイルの良さがよく分かって。肌が白くてとても綺麗で。トップスもボトムスも布地はそこまで小さくないけど、谷間を含めて大きな胸が見え、セクシーさも感じられてドキッとする。ほんのりと千弦の甘い匂いが香ってくるし。
後ろ姿を見せるためか、千弦はゆっくりとその場で一回転。後ろ姿もセクシーだ。
「まずは去年と同じ青色のビキニを着ました。どうかな?」
はにかみながらそう訊く千弦。
「よく似合っているよ、千弦。涼しげだし、爽やかで落ち着いた雰囲気もあって素敵だよ。セクシーな感じもして。去年も青いホルターネックビキニを着ていたから写真で見ていたけど、実際に見るとよりいいなって思えるよ」
「洋平君にそう言ってもらえて嬉しいよ。青だから、落ち着いた雰囲気の色合いがいいなって思ったよ」
えへへっ、と声に出して千弦は嬉しそうに笑う。それもあって、より水着が似合う印象になる。
「とても似合っているよ、千弦ちゃん」
「青い水着素敵よ、千弦! 実際に見られて感激だわ……!」
星野さんと神崎さんも青いビキニを好評価。特に神崎さんは。目をキラキラさせて見ているし。
「2人にもそう言ってもらえて良かったよ」
「ちなみに、サイズは大丈夫か? 見た感じではちょうど良さそうだけど」
「うん。ちょうどいいよ」
「そうか。良かった」
「千弦ちゃん、白石君、見比べるためにもスマホで写真を撮るのはどうかな?」
「それがいいね、彩葉ちゃん」
「そうだな」
「じゃあ、あたしが写真を撮るわ! LIMEで3人に送るわ」
「分かった。お願いするよ、神崎さん」
男の俺が写真を撮ったら不審者だと勘違いされる可能性もありそうだし。女性の神崎さんが撮った方がいいだろう。
神崎さんは自分のスマホで試着した千弦を撮影する。神崎さん……凄く幸せそうだ。
あと、水着姿の千弦を目の前にして欲が出たのか、
「ピースとかしてほしい……」
と神崎さんは千弦にポーズを要望して。千弦は神崎さんの要望に快諾して、笑顔でピースサインしていた。
神崎さんの撮った写真は、LIMEの以前作った4人のグループトークに送信された。どれもいい写真だ。その写真はさっそくスマホに保存した。
「あぁ……水着を試着した千弦を生で見られて、写真も撮れて嬉しいわ。ついてくるのを許可してくれてありがとう。マジ感謝だわ!」
とてもいい笑顔でお礼を言うと、神崎さんは千弦と俺に向かって頭を下げた。千弦の水着姿を生で見られたことや写真を撮れたことが凄く嬉しいのがひしひしと伝わってくる。
千弦と星野さんは今の神崎さんを見て「ふふっ」と楽しそうに笑った。
「いえいえ。玲央ちゃんが楽しそうで嬉しいよ」
「そうだな。あと、千弦の写真を撮ってくれてありがとう。2着目以降もよろしくな」
「ええ!」
神崎さんはニッコリと笑いながら返事した。
「じゃあ、次の色を試着するね」
そう言い、千弦は試着室の扉を閉めた。
「次はどんな色の水着か楽しみねっ!」
「そうだな。青の水着はとても似合っていたし」
「楽しみだね」
その後も千弦の水着の感想を中心に雑談しながら、千弦が着替えるのを待つ。
「2着目着たよ」
「分かった」
千弦は試着室の扉を開ける。今度は何色かな。
扉が開くと、そこには水色のホルターネックビキニを着た千弦が立っていた。
青と同じく涼しげで爽やかな雰囲気がある。ただ、水色だから可愛らしさや明るさも感じられる。水色もかなりいいな。よく似合っている。
先ほど同じく、後ろ姿を見せるためか、千弦はその場で一回転した。
「今度は水色を着てみました。どうかな?」
「水色もかなりいいよ。よく似合っているよ。爽やかだけど、可愛らしさや明るさもあって」
「そう言ってもらえて嬉しいよ、ありがとう! 水色は可愛さもあっていいなって思うよ」
千弦は嬉しそうな笑顔でそう言う。
「青とはまた違った良さがあるわね! 可愛くてとても素敵よ、千弦!」
「そうだねっ。同じ寒色系だけど、水色だと可愛らしさがあるね。よく似合っているよ、千弦ちゃん」
水色のビキニも神崎さんと星野さんから好評価か。
先ほどと同じく、神崎さんがスマホで水色のホルターネックビキニを撮影した。
その後もピンク、白の順番で千弦はホルターネックビキニを試着していく。ピンクは4着の中で一番可愛らしく、白は明るくて清楚な雰囲気が感じられるのでどちらもいい。4色とも似合うとはさすがは千弦だ。
「これで4色全部着たけど、この中から決める? それとも、他にも着てほしい色はある? あるなら遠慮なく言っていいよ」
白いビキニを試着した千弦がそう問いかけてくる。
「もしあるなら私が取りに行くよ」
「あたしも取りに行くわ」
「ありがとう。ただ、試着した4色は全部良かったから、4色の中から選ぶよ」
「分かった。じゃあ、制服に着替えるね」
「ああ」
そう言い、千弦は試着室の中に入った。
神崎さんが撮影して、LIMEで送ってくれた千弦の水着姿の写真を見比べながら、俺は4色の中からどれを千弦に買ってほしいか考える。
「あぁ、千弦の水着姿をいっぱい見られたし、スマホでいっぱい写真を撮れて幸せ」
神崎さんは多幸感に満ちた笑顔でそう言う。試着した千弦を見たり、写真で撮ったりしたときはとても楽しそうだったもんな。千弦の恋人として嬉しい気持ちになる。
「私も水着を試着した千弦ちゃんを見られて楽しかったよ」
「あたしも楽しかったわ!」
「そうか。俺も楽しかったよ」
「私も色々試着して楽しかったよ」
試着室の中から千弦がそう言ってくれた。みんな楽しかったと分かってか、4人は笑いに包まれた。
さてと、どの色にするか決めないとな。
写真を見比べながら考え……一つに決めた。
「着替え終わったよ」
試着室の扉が開き、洲中高校の制服姿の千弦が姿を現した。
「どの色にするか決めた?」
「ああ。……どの色も良かったけど、水色にするよ。爽やかさと可愛らしさが感じられて一番いいなって思った。水色だから涼しい感じもするからいいなって」
千弦の目をしっかりと見ながら、俺は水色に決めたこととその理由を言った。今の俺の言葉を聞いて、千弦はどう思うだろうか。
「水色だね! 分かった! 水色は涼しげで爽やかだけど、可愛らしさもあっていいよね。水色は結構好きな色の一つだよ」
「素敵だよね、水色」
「いいチョイスじゃない。白石の言う通り、どの色も良かったけど」
「うんっ。水色のビキニを買って、プールデートで着るね!」
「ああ」
その後、青、ピンク、白のビキニは陳列されていた場所に戻して、千弦は俺が選んだ水色のビキニを購入した。俺達の様子を見ていたのか、会計を担当した女性の店員さんは楽しげな笑顔で接客していた。
「無事に買えたよ。洋平君、選んでくれてありがとう!」
千弦はニッコリとした笑顔でお礼を言ってくれた。
「白石君に素敵な水着を選んでもらえて良かったね、千弦ちゃん」
「良かったわね、千弦」
「うんっ!」
依然として、千弦はニッコリとした笑顔で首肯した。
ビキニを試着した千弦の姿を見て。俺が選んだ水色のビキニを買ってくれて。日曜日のプールデートがより楽しみになった。




