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クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。  作者: 桜庭かなめ
続編

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第9話『相合い傘』

 6月10日、月曜日。

 週末の連休が明けて、今日から再び学校生活が始まる。

 ただ、週が明けたことに気が全く重くなっていない。恋人の千弦と一緒に登校して、隣同士の一緒に学校生活を送ることができるから。あとは、今週は毎日午後に三者面談が実施され、お昼に学校が終わるのも理由の一つだ。


「いってきます」

「いってらっしゃい」


 洲中高校に向けて自宅を出発する。

 外に出ると、シトシトと雨が降っている。今日は朝早くから雨が降り続いており、この天気は今日いっぱい続くという。

 ちなみに、朝食を食べた後にテレビで見た週間予報によると、明日以降も雨が降るとのこと。もしかしたら、今日あたりに梅雨入りが発表されるかもしれない。

 晴れた日が多かった昨日までよりは暑くない。ただ、雨が降っているのもあって、少しジメッとしている。

 数分ほど歩き、千弦との待ち合わせ場所である交差点が見えてきた。千弦は来ているだろうか。これまで、千弦と2人で登校するときは千弦が先に来ているけれど。そう思いながら歩くと、


「洋平君!」


 交差点には青い傘を差しながら、笑顔でこちらに手を振ってくる千弦がいた。空には分厚い雨雲が広がっているけど、千弦の笑顔が眩しく見えるよ。

 俺は千弦に向かって手を振りながら、千弦のところまで向かった。


「おはよう、千弦」

「洋平君、おはよう」

「今日も千弦の方が先にいたな」

「そうだね。……もし、そのことで気にしているなら、全然気にしなくていいよ。ここで洋平君を待っているのが楽しいし、洋平君も約束の8時までには来てくれているし」

「そうか。今日も千弦が先にいるかなぁと思っていたらその通りだったから言っただけだよ。あと、ここで俺を待っているのが楽しいって言ってくれて嬉しいよ」


 俺がそう言うと、千弦は「うんっ」と笑顔で返事した。

 今後も、千弦の方が先にこの交差点に来る日が多くなりそうだ。


「じゃあ、学校に行くか」

「うんっ。ただ、その……洋平君にお願いしたいことがあって」

「うん、なんだ?」


 このタイミングで俺にお願いしたいことって何だろう?

 千弦は頬をほんのりと紅潮させ、俺のことを見て、


「洋平君と相合い傘をしたいです」


 と言ってきた。


「相合い傘か……」


 それは予想していなかったな。漫画やアニメとかで相合い傘のエピソードがあるけど、相合い傘をするきっかけは2人いるうちの1人が傘を忘れることだから。

 ただ、相合い傘は魅力的だ。同じ傘に一緒に入るから。それに、今はお互いに傘を差しているから、雨が降っていないときよりも物理的に距離があるし。


「いいな、しようか」

「ありがとう!」


 千弦はとても嬉しそうにお礼を言った。可愛いな。相合い傘をしたい気持ちが強いのが窺える。


「どっちの傘に入る? 大きさを考えると……俺の傘の方が良さそうだけど」

「そうだね。濡れないためにも、洋平君の傘で相合い傘をしよう。洋平君の傘に入りたい気持ちもあるけど」

「ははっ、そうか。じゃあ、俺の傘にどうぞ」

「うんっ。失礼します」


 千弦は自分の傘を閉じて、俺の傘の中に入ってくる。そのことで千弦の甘い匂いがほのかに香ってきた。

 同じ傘の中に千弦がいるの……何だかいいな。周りに人がいるのが見えるけど、まるで2人きりの空間にいるような感じもして。


「おはようのキスしようか」

「ああ、しよう」


 俺達は互いに顔を近づけて、おはようのキスをする。相合い傘の中でするおはようのキス……いいな。

 あと、傘に入っていて見えにくいのか、以前おはようのキスをしたときとは違って、周りから声が聞こえてくることはない。

 少しして、俺から唇を離した。すると、目の前には頬を紅潮させ、ニッコリとした笑顔になっている千弦がいた。


「同じ傘の中でするキスもいいね」

「そうだな。じゃあ、学校に行くか」

「うんっ」


 そう言うと、千弦は傘の持ち手を掴んでいる俺の左手をそっと掴んできた。


「手を繋いで登校するから……こうやって手を掴んでもいい?」

「ああ、もちろんさ」

「ありがとう」


 千弦はニコッと笑ってお礼を言った。

 こうやって手を掴まれるのもいいな。千弦の手は柔らかいし、千弦の温もりに包まれて気持ちがいい。

 高校の方へ向かう横断歩道の信号が青になったので、俺達は学校に向けて歩き始める。


「千弦。制服とか荷物とか濡れてないか?」

「大丈夫だよ。洋平君の傘が結構大きいし」

「良かった」

「うんっ。洋平君の方は大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

「良かった。あと……汗の匂いとか大丈夫かな? ジメッとしてるから、ちょっと汗ばんでて。汗臭く感じてないかなって……」


 そう言うと、千弦は俺をチラチラと見てくる。それまで見せていた笑みが顔から消え、頬をほんのりと赤くさせて。

 汗の匂い……か。恋人の俺にどう思われているか気になるか。今は相合い傘をしているから俺の近くにいるし。それに、これからはより暑くなって汗を掻く季節になっていくから。

 鼻で少し大きめに息を吸ってみる。


「……汗の匂いはほんの少し感じるくらいだ。好きな匂いだよ」

「良かったぁ」


 千弦は安堵の笑みを浮かべる。俺が好きな匂いだと言ったからか嬉しそうにも見えて。可愛いな。

 どうやら、千弦の不安は取れたようだ。

 あと、千弦が汗の匂いの話題を出したから、俺も汗の匂いを千弦にどう思われているか気になってきた。俺もちょっと汗ばんでいるし。


「ちなみに、俺の汗の匂いは大丈夫か? 俺もちょっと汗ばんでてさ」


 俺がそう問いかけると、千弦は俺の方を向いてクンクンと匂いを嗅いでくる。


「……うん、いつもと違って汗の匂いもするね。ただ、私の好きな匂いだよ」

「良かった」


 可愛い笑顔で好きな匂いだと言ってくれたので、安心したと同時に嬉しい気持ちにもなる。さっき、千弦も同じような気持ちになったのだろうか。


「それに、前に風邪を引いた洋平君のお見舞いで汗を拭いたとき、汗臭いとは思わなかったしね。むしろ、ちょっといいなって思ったし……」

「そうだったんだ」


 ゴールデンウィーク明けに風邪を引いて学校を休んだとき、星野さんと一緒にお見舞いに来た千弦が汗を拭いてくれた。あのときの千弦は笑顔だったな。その理由の一つは俺の汗の匂いがいいと思っていたからだったのだろう。

 お互いに相手の汗の匂いが好きだと分かって、何だか嬉しい気持ちになった。


「洋平君。相合い傘をするの……いいね。同じ傘に入っているから、いつも以上に洋平君の近くにいる感じがして」


 そう言うと、千弦の笑顔が嬉しそうなものに変わって。そのことに胸が温かくなっていく。


「千弦のそう言うの……分かるよ。あと、2人きりの空間にいるような感じもする」

「そうだねっ。相合い傘をしたいって言ってみて良かった」

「言ってくれてありがとう。雨が降っている日はこうして相合い傘をして登校するか?」

「いいね! そうしよう」

「決まりだな」


 千弦との相合い傘のおかげで、今までよりも雨の日が好きになれそうだ。

 高校の近くの道なので、周りには傘を差したうちの高校の生徒がたくさん歩いている。ただ、ここから見える範囲では……相合い傘をしているのは俺達だけだ。さっき急に雨が降ってきたわけじゃないもんな。相合い傘をしているのが俺達だけだからか、こちらを見ている生徒達がちらほらと。


「週が明けたけど、今週は毎日お昼で終わるから楽でいいよね。三者面談はあるけど」

「そうだな」


 今週は全て午前中で終わると思うと気持ちが楽だ。

 今週実施される三者面談では、先日実施された中間試験の結果を踏まえて勉強のことや普段の学校生活、中間試験直後の時期に提出した進路希望調査票を基に進路について話すことになっている。

 また、三者面談の順番は基本的には出席番号順だ。今日の放課後に神崎さん、明日に琢磨と俺、木曜日に千弦と星野さん、金曜日に吉岡さんが面談を受ける予定だ。

 あと、今週は木曜日の放課後に俺と母さんが、千弦と果穂さん、星野さんと星野さんの母親の詩織(しおり)さんと会い、お昼ご飯を食べる予定になっている。俺と千弦が付き合い始めたのもあり、母さんと果穂さんが俺と千弦を交えて会いたいと言ったのがきっかけだ。

 今週は学校がお昼に終わるので、今週の放課後に会おうという話になった。ただ、4人とも空いている時間はなかなかなくて。ただ、千弦の面談日の木曜日は千弦の面談の時刻が遅いのもあり、2時間半ほどだけど4人で会える時間を作ることができた。

 また、星野さんの面談が千弦の次と知った母さんは「もし、彩葉ちゃん親子とも会えるなら会いたい」と言った。そのことに星野さんと詩織さんが快諾してくれたので、6人で会うことになったのだ。


「担任は飛鳥先生だし、この前の中間試験では学年上位の一覧だったから……平和な面談になるといいな」

「きっとそうなると思うよ。千弦の生活態度もいいし」

「洋平君にそう言ってもらえると安心できるよ。ちなみに、1年生の頃の面談はどうだった? 洋平君は去年も飛鳥先生が担任だったし、去年も成績が良かったんだよね」


 と、千弦は俺に訊いてくる。2年生になって初めての三者面談だから、心の準備をしておきたいのだろう。


「何回か一覧に載ったことがあったよ。だからか、山本先生は毎回『この調子で勉強を頑張りなさい』って言われたな。特に怒られることはなかった。俺はバイトをしているから、バイトのし過ぎは気をつけてって注意は受けたけど」

「そうだったんだ」

「千弦は成績もいいし、生活態度もいいし、部活も頑張っているし大丈夫だと思うよ」

「そう言ってくれてありがとう」


 俺にお礼を言うと、千弦はほっとした笑顔を見せる。


「勉強と学校生活の他には、進路について話すんだよね」

「ああ。中間試験の後に提出した進路希望調査票を基に話すって前に先生が言ってたな。3年になったら文理選択してクラス分けされるから、きっとそのためだろうな」

「そうだろうね」


 ちなみに、進路希望調査票には卒業後の進路を第1希望から第3希望まで。それと、3年生に進級したときに文系クラスか理系クラスのどちらを希望するのかを書いた。


「私は今のところ、文学部、経済学部、法学部に進学希望って書いたよ。大学は文系で有名な国公立大学で二橋(ふたつばし)大学で。二橋はレベルが高いけど、目標を高くするのはいいかなって。家から通いやすそうなのもあるけど。3年のクラスは文系希望って書いたよ。洋平君は?」

「俺も第1希望に二橋大学の文学部って書いた。第2希望が二橋大学の商学部。あとはIT技術に興味があるから、第3希望に東都科学(とうとかがく)大学の情報科学部って書いた。大学名は千弦と同じ理由だな。文系で有名な国公立の二橋と、理系で有名な国公立の東都科学にした。どっちもレベルが高いけど、家から通いやすそうだし。あと、第1希望と第2希望が文系学部だから、3年の文理選択は文系希望って書いた」

「そうなんだ。進学先の第1希望と3年での文系クラス希望が同じで嬉しいな。洋平君の第2希望も学部は違うけど二橋大学だし。自分の学びたいことが一番大切だけど……洋平君と3年生も同じクラスになれたり、同じ大学に進学できたりしたら嬉しい気持ちもあります」

「そうか。俺も千弦と同じクラスや進学先になったら嬉しいな」


 3年生で同じクラスになったり、同じ大学に進学できたりしたら毎日がより楽しくなって、勉強もより頑張れそうだから。もちろん、千弦の言う通り、自分の学びたいことが一番大切だけども。

 俺も同じ気持ちだと分かったからだろうか。千弦は俺にニコッと可愛い笑顔を向けた。


「三者面談を含めて、今週も学校を頑張ろうね」

「ああ、頑張ろう」


 千弦と隣同士の席だし、今週も学校を頑張れそうだ。あと、先日あった中間試験は成績上位者一覧に載るほどに点数が良かったから、きっと三者面談も乗り越えられるだろう。




 なお、午前中の間に、スマホに「関東地方梅雨入り」という速報ニュースの通知が届いた。今年も梅雨の時期になったか。これまでは梅雨にあまりいい印象がなかったけど、千弦との相合い傘のおかげで、去年までよりも印象が良くなりそうだ。

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