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クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。  作者: 桜庭かなめ
続編

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第6話『いつもよりも近くにいる』

 今日も千弦と隣同士の席で学校生活を送っていく。それはとても幸せで。授業中に千弦と目が合い、千弦が笑いかけてくれるときは特にそう思う。

 登校するときに千弦とおはようのキスをしたから、今日も頑張って授業に取り組めている。最後の授業まで頑張っていこう。




「あれ……」


 2時間目の授業が終わり、10分間の休憩時間になったときのこと。

 千弦は困った様子で自分のスクールバッグの中を見ていた。


「どうしたんだ、千弦」

「……現代文の教科書とノートを忘れちゃった」

「そうか……」


 だから、千弦は困った様子になっていたのか。あと、千弦が忘れ物をするのは、俺の記憶の限りでは初めてだ。もちろん、2年でクラスメイトになってからのことだ。


「ねえ、洋平君。次の現代文の授業のときに教科書を見せてもらってもいいかな?」 


 千弦は俺のことを見つめながらそんなお願いをしてきた。隣同士の席だから、俺に教科書を見せてもらいたいと思うのは自然なことだろう。


「ああ、いいぞ」

「ありがとう!」


 千弦はとても嬉しそうにお礼を言った。


「じゃあ、机をくっつけるか」

「うんっ!」


 俺と千弦は机をくっつける。

 昼休みにお弁当を食べるときは千弦と机をくっつけるけど、授業でくっつけるのは初めてだから新鮮だ。あと、中学以降は授業で隣の席の生徒と席をくっつけないから、ちょっと懐かしい感覚もある。

 俺達の会話や机を動かすときの音が聞こえたのか、千弦の前の席に座っている星野さんはもちろん、琢磨や吉岡さんや神崎さんなど多くのクラスメイトがこちらを見ている。


「千弦ちゃんと白石君……どうしたの? 机をくっつけて」

「私が現代文の教科書とノートを忘れちゃって。それで、洋平君に教科書を見せてもらうために机をくっつけたの」

「なるほどね。千弦ちゃんが忘れ物をするなんて珍しいね。2年生になってからは初めてじゃない?」

「うん、2年生になってからはたぶん初めて。……昨日の夜に今日の授業の予習をしたから忘れちゃったんだと思う。バッグに入れたつもりだったんだけどね。うっかりしちゃった」


 千弦は苦笑いをしながらそう言った。うっかりしちゃうことってあるよな。

 あと、千弦が忘れ物をするのは初めてだと思ったけど、どうやらそれは合っていたようだ。

 千弦と俺が机をくっつけた理由が分かったからか、俺達に集まっていたクラスメイトからの視線が散らばっていく。ただ、琢磨と吉岡さんと神崎さんは俺達のところにやってきた。


「千弦、教科書を忘れちゃったのね」

「そういうことってあるよな。俺、何回か忘れたことあるし」

「去年は何度かあたしに教科書を借りに来てたもんね」

「そうだったなぁ」


 そのときのことを思い出しているのか、琢磨と吉岡さんは優しい笑顔になっている。去年、2人は別々のクラスだったし、2人が付き合い始めてからは、琢磨は教科書を忘れると吉岡さんに借りに行っていたっけ。


「何だか、こうして机をくっつけているとちょっと懐かしい気持ちになるよ。中学では今みたいに普段は一人一人離れていたし。小学校では隣の児童とくっつけていたけど」


 千弦は微笑みながらそう言った。小学校と中学校が同じの星野さんは穏やかな笑顔で千弦を見ながら「そうだったね」と言う。


「俺もさっき、机をくっつけたときに懐かしいなって思ったよ。俺の卒業した小学校と中学校も、席の並べ方は2人が卒業した小学校と中学校と同じだったから」

「そうなんだね」


 千弦はちょっと嬉しそうに言った。自分と同じ気持ちだからだろうか。


「そういや、中学も席の並べ方は今と同じだったな、洋平」

「ああ。授業中に机をくっつけたのは、班単位で取り組むときくらいだったな」

「……えっ、もしかして、中学って机を一人一人離れている学校の方が多いの? あたしの卒業した中学は普段から隣の生徒と机をくっつけてたよ」

「あたしの卒業した中学もくっつけていたわ、早希」

「そうなんだ!」


 吉岡さんは嬉しそうに言うと、神崎さんのことを横から抱きしめていた。この6人の中で、自分以外にも同じだった人がいて嬉しいのかもしれない。

 吉岡さんに抱きしめられた神崎さんは「ふふっ」と楽しそうに笑っていた。

 俺と琢磨が卒業した中学と、千弦と星野さんが卒業した中学では席が一人一人離れていて、吉岡さんが卒業した中学と、神崎さんが卒業した中学では隣の人と席をくっつけていた。俺達6人の中では席の並べ方の割合は半々だけど、一般的にはどうなのだろうか。

 その後も中学のことで雑談していると、


 ――キーンコーンカーンコーン。

「はい、みんな。席に着いてね」


 3時間目の授業を知らせるチャイムが鳴り、現代文を担当する担任の山本先生が教室に入ってきた。星野さんは前を向き、琢磨と吉岡さんと神崎さんはそれぞれの席へと戻る。

 バッグから現代文の教科書とノートを出し、教科書は千弦と俺の机をまたぐ場所に置いた。

 教室の様子を見ている山本先生は、千弦と俺の方に視線を向けると、


「あら、白石君に藤原さん……机をくっつけているけどどうかした?」


 山本先生は俺達に向かってそう問いかけてくる。俺達だけ机をくっつけているから、そりゃ理由を訊くよな。


「私が教科書を忘れてしまいまして。洋平君にお願いして、教科書を見せてもらうためにくっつけました」

「そうなのね。分かったわ。次から気をつけてね」


 山本先生は微笑みながら千弦に言った。これで済むのは、きっと千弦は普段はしっかりしているからなのだろう。


「教科書……よろしくお願いします、洋平君」


 千弦は俺にしか聞こえないような小さな声でそう言った。

 分かった、と小さな声で返事すると、千弦はニコッと笑いかけてきて。いつもよりも近くにいるのもありドキッとする。

 3時間目の現代文の授業が始まる。

 いつもと違って千弦と机をくっつけているから、授業中でも千弦の甘い匂いがほのかに感じて。

 千弦がいつもよりも近くにいるから、いつも以上に千弦が気になってチラッと見ることが多い。千弦も同じなのか千弦と目が合うことが何度もあって。千弦……俺と席をくっつけているからなのかいつも以上に機嫌がいいな。凄く可愛い。

 また、教科書のページをめくるときなどに千弦の腕に触れてしまうことも。


「ごめん、千弦」

「気にしないで。むしろ、授業中も洋平君に触れられて嬉しいよ」


 と、千弦は俺に耳打ちしてくれた。そのことにドキッとさせられる。

 いつもよりも千弦と近くにいられることに幸せを感じながら、現代文の授業を受けていった。

 現代文では千弦と初めて机をくっつけて授業を受けたのもあり、4時間目以降の授業もとてもよく頑張れた。

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