第4話『バイト先にやってきた。-恋人と友人編-』
放課後。
午後の授業もあっという間に過ぎていったな。千弦と付き合い始めてから初めての学校生活だし、朝に千弦とキスしたのもあって、今日の学校はとても頑張れた。
これから、俺はゾソールというチェーンの喫茶店でバイトがある。
俺のバイト中に、千弦と星野さんが来店してくれる予定だ。セントラル洲中というショッピングセンターに行った後に来てくれるとのこと。その際に、今日の授業で出た課題をするつもりだという。2人が来てくれるし、
「バイト頑張ってね、洋平君!」
「頑張ってね」
と、バイト先の前まで来たときに2人からエールを送ってくれて。2人のおかげで、今日のバイトはいつも以上に頑張れそうだ。
千弦と星野さんと別れて、従業員用の出入口から店内に入る。
スタッフ専用の部屋に行き、休憩しているスタッフの方々に挨拶して、タイムカードを押す。
男性用の更衣室に行き、俺は学校の制服からゾソールの店員の制服に着替える。個人的にはこのタイミングで、今日もバイトを頑張ろうという気持ちになれる。
制服に着替え終わって、俺はフロアに出る。
平日だけど夕方の時間帯なので、カウンター席やテーブル席には既に多くのお客様が座っている。今日も店は繁盛しているようで何より。
空いているカウンターに行き、カウンターに置かれている『CLOSE』の札を動かす。
「こちらのカウンターにもどうぞ」
そう言い、今日の仕事が始まった。シフトは午後7時までだ。
俺の担当はカウンターでの接客を中心としたフロアの仕事だ。ここでのバイトも1年以上が経ったので、フロアの仕事は一通りこなせるようになってきた。
平日の夕方なのもあり、来店されるお客様はうちの高校を含め制服姿の方が多い。
また、お客様から冷たいドリンクを注文されることが多い。最近は今日のように晴れた日を中心に暑い日が増えてきたからか、冷たいドリンクを注文されることが多くなってきた。こういうところでも、季節が夏になったのだと実感する。
カウンターでの接客を中心に仕事をし、バイトを始めてから1時間近く経ったとき、
「洋平君、来ました! お疲れ様!」
「お疲れ様、白石君」
千弦と星野さんが来店してくれた。2人は笑顔で俺に手を振ってきてくれる。2人とも可愛いな。千弦は特に。これだけでも、今日の学校やバイトでの疲れがちょっと取れた感じがする。そう思いながら、俺は2人に小さく手を振った。
今はカウンターの前にいる人の数は落ち着いているから、千弦と星野さんと少し話しても大丈夫そうかな。
「いらっしゃいませ。2人ともありがとう」
「いえいえ。……セントラルにあるアニメイクに行って、大好きな少女漫画の最新刊を買えたよ」
「嬉しそうだったよね、千弦ちゃん。私も好きなラノベの新刊を買えて嬉しかった」
「そうなんだ。2人とも買えて良かったな」
俺がそう言うと、千弦と星野さんは「うんっ」と笑顔で首肯した。俺も漫画やラノベは大好きなので、好きな作品の最新刊を買えて嬉しい気持ちは分かる。
ちなみに、2人が行ったアニメイクとはアニメショップのこと。漫画やラノベ、アニメなどに関連した商品を幅広く取り扱っている。俺も放課後や休日によく行くお店の一つだ。千弦や星野さんとも一緒に行ったことがある。
「今日も店員さんの制服姿の洋平君かっこいいなぁ。洋平君の恋人になったからか、今まで以上にかっこよく見えるよ……」
甘い声色でそう言い、千弦はうっとりとした様子で俺を見てくる。千弦からこの制服姿がかっこいいと言ってもらえて、恋人として嬉しい限りだ。恋人になったから今まで以上にかっこいいと言ってくれることも。あと、今の千弦の言葉で今日の疲れが吹っ飛んだ気がする。
また、星野さんは「ふふっ」と楽しそうに笑っている。
「ありがとう。千弦にかっこいいって言ってもらえて凄く嬉しいよ」
「いえいえ。……そろそろ注文しようか、彩葉ちゃん」
「そうだね。千弦ちゃんから注文していいよ」
「うんっ」
千弦から注文するとのことで、星野さんは一歩下がる。
これから、千弦と星野さんが注文するから、店員としてちゃんと接客しないとな。
「店内でのご利用ですか?」
「はい」
「かしこまりました。ご注文お伺いします」
「アイスコーヒーのSサイズを1つお願いします」
「アイスコーヒーのSサイズですね。ガムシロップやミルクはいりますか?」
「ガムシロップを1つお願いします。ミルクはいりません」
「ガムシロップをお一つですね。他にご注文はありますか?」
「以上でお願いします」
「かしこまりました。250円になります」
その後、千弦から300円を受け取ったので、おつりの50円とレシートを渡した。
千弦から注文されたSサイズのアイスコーヒーを用意する。コーヒーとガムシロップ、ストローをトレーに乗せて、千弦に手渡した。
「お待たせしました。アイスコーヒーのSサイズになります」
「ありがとう。彩葉ちゃんと課題をやって、洋平君のバイトが終わるまでいる予定だよ。確か、7時までだよね?」
「ああ、そうだよ」
「分かった。この後もバイト頑張ってね!」
千弦はニッコリとした笑顔でそう言ってくれる。仕事中に恋人から笑顔で頑張ってと言われるなんて。幸せ者だ。
「ありがとう、千弦。千弦も星野さんと一緒に課題頑張って」
「ありがとう。コーヒー飲みながら頑張るよ」
「ごゆっくり」
「うん。……彩葉ちゃん、2人用のテーブル席確保しておくね」
「ありがとう」
千弦はテーブル席のある方へと向かい、空いている2人用のテーブル席の中からカウンターに一番近い席を確保した。ここで接客する俺の姿をはっきりと見たいからかもしれない。
星野さんはカウンターの前に立つ。
「じゃあ、私も注文するね」
「はい。ご注文をお伺いします」
「アイスティーのSサイズをお願いします」
「アイスティーのSサイズですね。ガムシロップやミルクはいりますか?」
「ガムシロップを1つください。ミルクはいらないです」
「かしこまりました。ガムシロップをお一つですね。他に何かご注文はありますか?」
「以上で」
「かしこまりました。250円になります」
その後、星野さんから250円ちょうどを受け取ったので、レシートを渡した。
星野さんから注文を受けたアイスティーのSサイズを用意する。
アイスティーとガムシロップ、ストローをトレーに乗せ、星野さんに手渡した。
「お待たせしました。アイスティーのSサイズになります」
「ありがとう、白石君。この後もバイト頑張ってね」
「ありがとう。星野さんも千弦と一緒に課題頑張って」
「うん、ありがとう。あと……千弦ちゃんの恋人になってくれてありがとう。千弦ちゃんはいっぱい笑顔に見せてくれているし。私と2人でいるときは、白石君とのことをとても楽しそうに話していたから」
星野さんはとても嬉しそうな笑顔で言ってくれた。千弦のことで俺に感謝の気持ちを伝えるなんて。本当に千弦が好きで大切なんだな。とてもいい親友だなと思うよ。
今日一日を振り返ると……星野さんの言う通り、千弦はいっぱい笑顔を見せてくれたな。
そして、俺の知らないところでは星野さんに俺のことを楽しそうに話しているんだ。それを知って嬉しい気持ちになる。
「いえいえ。これからも千弦がたくさん笑顔になれるように付き合っていくよ」
「うん。千弦ちゃんのことをよろしくね」
「ああ」
「じゃあ、千弦ちゃんのところに行くね」
星野さんは俺に向けて小さく手を振り、千弦が待っている2人用のテーブル席へ向かった。
星野さんが席に座ると、2人はさっそく自分が購入したドリンクを飲んでいた。冷たくて美味しいのか、2人とも爽やかな笑顔になっている。恋人や友人としてはもちろんのこと、2人に接客して、ドリンクを提供したスタッフとしても嬉しい気持ちになる。
千弦と星野さんはテーブルに勉強道具などを出し、課題を取り組み始めた。2人が課題を頑張っているし、俺も引き続き仕事を頑張ろう。
それからも、カウンターでの接客を中心にバイトをしていく。たまに千弦と星野さんと目が合って軽く手を振ったり、10分ほどの休憩のときに2人とメッセージでやり取りしたりすることに癒やされながら。
また、課題が全て終わったのか、俺のバイトが終盤になった頃には2人で談笑していた。その姿にも癒やされた。
午後7時になり、今日の俺のバイトはシフト通りに終わらせることができた。
従業員用の休憩室でタイムカードを押し、男性用の更衣室に行く。
学校の制服に着替える際に、千弦と星野さんとのグループトークでバイトが終わったとメッセージを送った。するとすぐに、お店の出入口の近くで待っていると返信をくれた。
俺は学校の制服に着替え終わり、休憩室にいるスタッフのみなさんに挨拶して、俺は従業員用の出入口からお店の外に出た。
お店の出入口の方へ行くと……出入口近くに千弦と星野さんがいた。
「千弦、星野さん」
千弦と星野さんのことを呼ぶと、2人は笑顔でこちらに振り向く。
「洋平君、お疲れ様」
「お疲れ様、白石君」
「ありがとう。2人も課題お疲れ様。終盤には談笑していたから、課題は終わったのか?」
「うん、終わったよ。そこまで難しくなかったし」
「そうだったね、千弦ちゃん」
「それに、美味しいコーヒーを飲みながらだったから頑張れたよ。ここのコーヒーは好きだし」
「私も。好きなアイスティーを飲みながらだったから頑張れた」
「そっか。課題お疲れ様。あと、うちのコーヒーや紅茶を美味しいとか好きだと言ってもらえて嬉しいよ」
そう言い、千弦の頭を優しく撫でる。
俺に撫でられるのが気持ちいいのか、千弦はとても柔らかい笑顔になる。可愛いなぁ。あと、こうして千弦に触れることで、今日の学校やバイトの疲れが段々と取れていく。
「ねえ、洋平君」
「うん?」
「……バイトを頑張って、私達に接客してくれた洋平君にキスしたいな」
千弦は俺を見つめながらそう言ってくる。魅力的なお願いだ。
もしかしたら、俺にキスしたいのも、千弦が星野さんと一緒に俺がバイトを終わるまでお店にいた理由かもしれない。
「ああ、いいぞ」
「ありがとう!」
嬉しそうにお礼を言うと、千弦は俺にキスしてきた。
千弦の唇の柔らかさや温もり、ほんのりと感じる甘い匂いがとても心地良くて。千弦の頭を撫でたとき以上に体の疲れが取れていく感じがした。
屋外だし、俺達のキスが視界に入った人が何人もいるのだろう。男女問わず「きゃっ」とか「おっ」といった声が聞こえてきた。
少しして、千弦の方から唇を離す。目の前にはニコッと笑っている可愛い千弦がいた。
「千弦のキス……良かったよ。今日のバイト代は千弦のキスで十分だって思えるほどだ」
「良かった。私もキスが良かったなって思ったよ」
「そっか」
「本当にラブラブだね」
ふふっ、と星野さんは楽しそうに笑う。
ラブラブだと言われて照れくさいのか、千弦は頬を紅潮させて「えへへっ」と笑った。可愛いな。
「……じゃあ、そろそろ帰ろうか、彩葉ちゃん」
「そうだね」
「2人ともまた明日な。気をつけて帰れよ」
「うん! また明日、洋平君!」
「白石君、また明日」
千弦と星野さんと別れて、俺は帰路に就いた。
バイト中に千弦と星野さんが来てくれて、バイトが終わった直後に千弦がキスしてくれたからだろうか。いつものバイト後に比べて、足取りはとても軽かった。




