第3話『変わらないこと』
――キーンコーンカーンコーン。
「チャイムが鳴ったから、今日はここまで」
4時間目の授業が終わり、昼休みになった。
千弦と付き合い始めてから初めての学校生活だからだろうか。いつもよりも時間の流れが速くて、あっという間に昼休みになった感じがする。
「ねえ、千弦ちゃん、白石君。2人は付き合い始めたけど、お昼はどうする? これまで通り、私達と一緒に食べる? それとも2人きりで食べる?」
千弦の前の席に座っている星野さんは、俺達の方を向いてそんなことを訊いてくる。
これまで、千弦と俺は、星野さんと神崎さんと琢磨と吉岡さんと6人で一緒にお昼を食べていた。千弦と俺が付き合い始めたから、2人きりでお昼を食べたいのかもしれないと思っているのだろう。
「もちろん、2人の気持ちを尊重するよ」
星野さんは優しい笑顔でそう言ってくれる。
「彩葉の言う通りね。まあ……6人で一緒に食べられたらあたしは嬉しいけど」
「玲央らしいね。あたしも白石君と千弦の気持ちを尊重するよ」
「どっちでもかまわないぜ」
星野さんの問いかけが聞こえていたのだろう。琢磨と吉岡さんと神崎さんは俺達のところに来てそう言った。みんな優しいな。
「私はこれまで通り、6人で一緒に食べたいなって思ってる。楽しいからね」
千弦はいつもの可愛い笑顔でそう言う。そのことに星野さん達は嬉しそうな様子に。
「洋平君はどう?」
「俺も6人がいいな。千弦と同じで、6人で食べるのを楽しく思っているから」
千弦と2人きりでお昼を食べるのも魅力的だけど、6人でお昼を食べる楽しい時間をこれからも変わらずに過ごしたい気持ちが強い。それに、6人で食べるときも千弦が一緒だし。
俺も6人がいいと言ったからか、千弦はとても嬉しそうな笑顔を向ける。
星野さん達はより嬉しそうな様子になって、
「6人がいいって言ってくれて嬉しいよ」
「そうね、彩葉! これからも一緒に食べられることもね!」
「あたしも嬉しいよ!」
「嬉しいぜ!」
と言ってくれた。
「じゃあ、これまで通り6人で食べよう」
星野さんはとても可愛い笑顔でそう言った。
その後、いつもの通り、俺、千弦、星野さんの席と、俺達3人のご近所さんの席を借りて6人分の座席をくっつける。
みんなそれぞれお昼と飲み物を机に置いて席に座った。ちなみに、俺と千弦と吉岡さんが同じ列に座り、向かい側に神崎さんと星野さんと琢磨が座っている。俺の右隣に千弦、正面には神崎さんがいる。
「それじゃ、いただきます」
『いただきます!』
星野さんの号令で、俺達は昼食を食べ始める。
弁当包みを開けて、弁当箱の蓋を開けると……今日のおかずは玉子焼きにハンバーグ、唐揚げ、ブロッコリー、ほうれん草とキノコのソテー、プチトマトか。今日のお弁当も美味しそうだ。
まずは何から食べようかな。弁当箱を見ながら考えていると、
「玉子焼き美味しいっ」
千弦のそんな声が聞こえたので千弦の方を見ると……千弦は幸せそうにモグモグと食べていて。可愛いな。あと、千弦のお弁当も美味しそうだ。
美味しそうに食べる千弦を見たらよりお腹が空いてきた。まずは……大好きなハンバーグから食べるか。そう決め、ハンバーグを一つ食べる。
「……美味しい」
冷めていてもジューシーさが感じられてとても美味しい。ハンバーグにかかっているデミグラスソースともよく合っているし。ご飯を一口食べると……うん、ハンバーグとよく合っていて美味しい。
「ふふっ。洋平君は今日も美味しそうにお弁当を食べているね。美味しいってよく言うし。そういうところも好きだよ」
千弦は可愛い笑顔でそう言ってくる。笑顔で言うのもあってキュンとなり、頬が緩んでいくのが分かる。
そういえば、千弦と初めて一緒にお昼を食べたときも、「美味しそうに食べるね」とか「美味しいって言うよね」って言われたっけ。そういうところが好きだって言われたのは今が初めてだけど。
「千弦がそう言ってくれて嬉しいよ。俺も美味しそうに食べる千弦が好きだぞ」
「……嬉しいです」
はにかみながら千弦はそう言った。そんな千弦も可愛くて。
「今の2人のやり取りを聞いて、ちょっとドキドキしたわ」
「私も。2人とも相手の好きなところを言ったもんね」
そう言う神崎さんと星野さんの頬はほんのりと赤くなっている。
「白石君と千弦ちゃんの言うこと分かるなぁ。美味しそうに食べる恋人の姿っていいよね。あたしもお弁当を美味しそうに食べる琢磨君好きだし」
「ははっ、嬉しいなぁ。俺も好きだぜ、早希」
「嬉しい」
琢磨と吉岡さんは明るい笑顔で笑い合う。2人の仲睦まじい光景を見るとほのぼのとした気持ちになる。あと、吉岡さんに共感してもらえるのは嬉しいな。
「美味しく食べる洋平君の姿が好きだなって思ったから、それを言いたくなって」
「そうか。千弦に言われたのが嬉しかったし、俺も美味しく食べる千弦が好きだから言ったんだ」
「そうだったんだね。あと、早希ちゃんに共感してもらえて嬉しいよ」
「俺も嬉しかった」
「そっか。そう言われてあたしも嬉しいよ」
吉岡さんは快活な笑顔で言った。
それからも千弦達と談笑しながらお弁当を食べていく。
「美味しいなぁ」
「ふふっ。美味しそうに食べるから、洋平君のお弁当がとても美味しそうに見えるよ」
「そうか。千弦のお弁当もな。……もしよければ、何かおかずを交換するか?」
「いいねっ。じゃあ、おかずを一つ交換しようか」
「ああ、いいぞ」
「じゃあ……唐揚げを一つもらってもいいかな?」
「いいぞ」
「ありがとう! ……洋平君が食べさせてもらえると嬉しいです」
千弦はニコッと笑いながらそう言ってくる。せっかくもらうのなら、俺に食べさせてほしいのだろう。
「可愛い恋人からの可愛いお願いを叶えさせてあげて、白石」
「そうだよ、白石君」
神崎さんと吉岡さんはニッコリとした笑顔でそう言ってきた。そんな2人に同意なのか、星野さんは笑顔で頷いていて。あと、琢磨は笑いながら弁当をモリモリ食べている。
「ああ。千弦、食べさせるよ」
「ありがとう!」
千弦は嬉しそうな笑顔でお礼を言った。
俺は箸で唐揚げを一つ掴み、千弦の口元まで運ぶ。
「はい、千弦。あーん」
「あ~ん」
千弦に唐揚げを食べさせる。
唐揚げが口に入り、何度か咀嚼すると、千弦は「う~んっ」と可愛らしい声を上げながらモグモグと食べる。美味しいのか幸せそうな笑顔になっていて。凄く可愛い。俺が食べさせたのもあって、小動物のような可愛らしさもある。
「美味しいよ、洋平君」
千弦はニッコリとした笑顔でそう言った。
「それは良かった」
「唐揚げありがとう。じゃあ、私のお弁当からおかずを一つ食べさせてあげるよ。どれがいい?」
「そうだな……」
千弦のお弁当を見る。
おかずは……玉子焼きにミートボール、アスパラのベーコン巻き、きんぴらごぼう、ミニトマトか。どれも美味しそうだ。この中で一番食べたいのは――。
「ミートボールを食べたいな」
「ミートボールだね」
そう言うと、千弦は箸でミートボールを掴んで、俺の口元まで運ぶ。
「はい、洋平君。あ~ん」
「あーん」
俺は千弦にミートボールを食べさせてもらう。
ジューシーなミートボールだなぁ。ウスターソースやケチャップなどを使っていると思われるソースと相性抜群で。
あと、千弦に美味しいおかずを食べさせてもらったことに幸せを感じる。さっき、俺が唐揚げを食べさせたときに千弦が幸せそうな笑顔になっていたけど、もしかしたらこういう気持ちだったのかもしれない。
「ジューシーで美味しいよ。ありがとな」
「いえいえ。お口に合って良かった」
そう言い、千弦はニコッとした笑顔になる。それもあってか、口の中に残っているミートボールの旨味が増した気がした。
「2人とも幸せそうだね」
「そうね、彩葉。見ていてあたしも幸せな気持ちになったわ」
「いい光景だったよ!」
「そうだな、早希。洋平が恋人の藤原と幸せそうにしていて嬉しいぜ」
星野さん達は明るい笑顔でそう言ってくれる。4人の前でおかずを食べさせ合ったけど、幸せそうとかいい光景とか言ってもらえて嬉しいよ。
「今の白石君と千弦を見たら、私も琢磨君とおかずを交換して食べさせたくなったよ」
「ははっ。じゃあ、俺達もやるか」
「うんっ!」
琢磨と吉岡さんはお互いのお弁当のおかずを食べさせ合った。2人とも幸せそうだ。2人がそうなる気持ちがよく分かるよ。
その後、6人で談笑してお昼ご飯を食べていく。それは今までと変わらずとても楽しくて。同じ気持ちなのか、千弦や琢磨達はたくさん笑顔を見せていて。
今までと変わらず6人でお昼を食べたいと言って良かった。これからも、友人達と一緒にいる時間を大切にしていきたい。




