第58話『千弦が玉子焼きを作ってきてくれた。』
今日も学校生活を送っていく。
週明けの学校というのは気怠かったり、時間の進みが遅く感じたりすることがあるけど、先週に席替えしたことやエアコンで教室内が涼しくて快適なこともあって、結構集中して授業を受けることができている。
あとは、席替えをして隣に千弦、右斜め前に星野さんがいることも大きい。黒板に書いてあることをノートに写すとき、視界に自然と2人の姿が入ってくるから。たまに、千弦と目が合うと千弦がニコッと笑いかけてくれて。そのことに癒やされる。窓から外を見て気分転換もできるから、本当にいい席を引き当てたと思う。
――キーンコーンカーンコーン。
4時間目の授業が終わり、昼休みになった。月曜の午前中の授業だったけど、あっという間に昼休みになった気がする。
「千弦! 彩葉! 白石! 今日も一緒に食べましょう!」
「一緒に食べようよ」
「一緒に食おうぜ。腹減ったぁ……」
神崎さんと吉岡さんと琢磨がそう言い、それぞれ弁当包みと水筒を持ってこちらにやってくる。俺と千弦と星野さんはそれに快諾し、今日も6人で食べることに。
俺と千弦と星野さんの机とご近所さんの机を使って6人が一緒に食べられるスペースを作る。近くの座席のクラスメイト達はみんな快く座席を貸してくれるので有り難い限りだ。
スペースを作り終わり、俺達は席に座る。
ちなみに、俺、千弦、吉岡さんが同じ列に座り、俺達の向かい側に神崎さんと星野さんと琢磨が座っている。俺の隣には千弦、正面には神崎さんが座っている。先週の金曜日と同じ場所なので、基本的にはこの座り方になりそうだ。
「よし! じゃあ、食うか! いただきまーす!」
『いただきます!』
琢磨の元気な号令で俺達はお昼ご飯を食べ始める。
弁当包みを開き、弁当箱の蓋を開けると……今日のおかずはハンバーグに鶏の照り焼き、玉子焼き、ひじきの煮物、ブロッコリー、ミニトマトか。どれも美味しそうだ。
まずは……この中で一番好きなハンバーグを一口。
「……美味い」
常温だけど、ジューシーさを感じられて。ハンバーグにかかっているデミグラスソースともよく合っている。ごはんも進む。
みんなのことを見ていると……みんなも美味しそうにお弁当を食べている。特に琢磨はモリモリと食べていて。そんな琢磨を見ていると食欲が湧いてくるな。
あと、千弦は笑顔でお弁当を食べているけど、笑顔が何だか硬い気がする。嫌いなおかずでも入っているのか? そんなことを思いながら、俺は玉子焼きを食べる。
「……玉子焼きも美味しいなぁ」
「よ、洋平君」
「うん?」
「わ、私……洋平君のために玉子焼きを作ってきたの。みんなに素を明かしたときとか、玲央ちゃんのことで助けてもらったからそのお礼に」
「おぉ、そうか。嬉しいなぁ」
「うんっ。せっかくなら洋平君の好きなおかずを作ろうと思って。結菜ちゃんに聞いたら、洋平君は甘い玉子焼きが好きだって教えてくれたんだ」
「そうだったのか」
俺の知らないところでそんなやり取りをしていたとは。結菜の言う通り、甘めの玉子焼きが好きだ。
さっき、千弦の笑顔に硬さを感じたけど、それは俺に玉子焼きを作ってきたことにどんな反応をされるのか緊張していたのかもしれない。
千弦は弁当包みから小さめのタッパーを取り出し、俺の弁当箱の横に行く。タッパーの蓋を開けると、中には黄色くてふんわりとした玉子焼きが。
「おおっ、美味しそうな玉子焼きだな」
「本当だね。美味しそう」
「そうだな、早希」
「これまでに千弦ちゃんの作った玉子焼きを何度も食べたことがあるけど、とっても美味しいよ」
「美味しいわよね! この前食べたけどとても良かったわ!」
琢磨達は千弦が作った玉子焼きを見ながらそんなコメントをする。これまでに食べたことがある星野さんと神崎さんは結構いい笑顔になっている。
「お菓子だけど千弦の作ったクッキーは美味しかったし、星野さんと神崎さんのお墨付きならかなり期待できそうだ」
「気に入ってくれると嬉しいな」
「ああ。……いただきます」
箸でタッパーから千弦特製の玉子焼きを一切れ掴み取り、口の中に入れる。ちょっと緊張した様子の千弦にじっと見られながら。
口の中に入れた瞬間、玉子の優しい甘みが感じられて。咀嚼すると、その甘みが口いっぱいに広がっていく。とても美味しい。食感もふんわりとしていて。星野さんと神崎さんが美味しいと言うのも納得だ。
「凄く美味しい玉子焼きだな。甘くてふんわりしているし俺好みだ。作ってくれてありがとう」
千弦のことを見つめながら、俺は玉子焼きの感想とお礼を言った。俺のために千弦が玉子焼きを作ってくれてとても嬉しい。
それまで緊張した様子だった千弦の顔に可愛い笑みがぱあっと咲いて、
「そう言ってくれて嬉しいよ!」
千弦はとても嬉しそうに言った。そんな千弦を見ていると、口の中に残っている玉子焼きの甘みが強くなった気がした。
「良かったね、千弦ちゃん」
「良かったわね、千弦」
「良かったじゃねえか」
「良かったね、千弦。誰かのために作ったものを美味しいって言ってもらえるのって嬉しいよね。あたしも1年の頃に琢磨君に玉子焼きを作ったっけ……」
「あれは美味かったなぁ!」
そのときのことを思い出しているのか、吉岡さんと琢磨はとてもいい笑顔になっている。確かに、これまでに何度か吉岡さんが琢磨の好きなおかずを作ってあげたことがあったな。
星野さん達に「良かったね」と言われたのもあってか、千弦は「うんっ」と嬉しそうに首肯した。
「ねえねえ、千弦」
「うん?」
「せっかくだから、その玉子焼きを白石に食べさせてあげたら? 前にあたしがもらったときは千弦に食べさせてもらったし」
神崎さんはいつもの明るい笑顔でそんな提案をしてくる。
そういえば、神崎さんが千弦特製の玉子焼きをもらったときは千弦に食べさせてもらっていたな。
「それはいい考えだね! 玲央ちゃん!」
「いいと思う!」
「食べさせてもらうのはいいもんだぞ。より美味く感じるからな」
星野さんと吉岡さんと琢磨も笑顔で賛成する。3人とも賛成するとは。まあ、琢磨は吉岡さんが作ってきたおかずを食べさせてもらうと幸せそうにしていたもんな。
「よ、洋平君さえ良ければ私は……いいよ」
千弦は俺のことをチラチラと見ながらそう言ってくる。頬がほんのりと赤くなっているのがとても可愛らしい。
「俺はかまわないぞ。これまでに何回か千弦に食べさせてもらっているし。玉子焼きを食べさせてくれるかな、千弦」
「うんっ。分かった」
千弦はニコッと笑いながら快諾してくれた。
千弦は自分の箸でタッパーから玉子焼きを一切れ掴み、
「はい、洋平君。あ~ん」
今までで一番と言っていいほどの甘い声でそう言い、俺に玉子焼きを食べさせてくれた。星野さん達に注目されながら。
俺がさっき自分で食べた玉子焼きと同じはずなのに、今食べている玉子焼きの方がかなり甘く感じられる。きっと、千弦に食べさせてもらったからだろうな。
「本当に美味しいな。千弦に食べさせてもらったから、もっと美味しいなって思うよ」
千弦のことを見ながら素直に感想を言った。それが良かったのだろうか。
「洋平君に美味しいって言ってもらえて嬉しい」
千弦は頬を中心にほんのりと赤くなった顔に嬉しそうな笑みを浮かべてそう言った。
美味しい玉子焼きを食べさせてもらったり、千弦が俺に笑顔を向けてくれたりするのが嬉しい。自然と頬が緩んでいく。
「ありがとう、千弦」
お礼を言い、千弦の頭を優しく撫でる。
千弦の顔の赤みが強くなるけど、千弦は「えへへっ」と声に出して笑う。そんな千弦がとても可愛くて。
さっきと同じく、星野さん達は千弦に「良かったね」と言う。そのことに千弦は笑顔で「うんっ」と頷いた。そのやり取りに心が温まる。
千弦特製の玉子焼きはまだ残っている。俺からのお願いで、それらは全て千弦に食べさせてもらった。千弦が楽しそうに食べさせてくれるのもあり、本当に美味しかった。ごちそうさまでした。




