第56話『バイト先にやってきた。-休日編-』
6月2日、日曜日。
この週末から今年の夏がスタートした。
去年、高校最初の夏は趣味を謳歌したり、バイトに励んだり、琢磨や吉岡さんなど友達と遊んだりするなどして楽しい夏を過ごすことができた。
高校2年の今年の夏はどんな夏になるだろうか。去年とは違って、千弦や星野さんや神崎さんと友達になっている。だから、去年以上に楽しい夏になりそうな気がする。実際にそう思えるような夏にしたい。
今日は正午から午後6時までゾソールでバイトのシフトに入っている。
また、午後に、結菜と千弦と星野さんと神崎さんと吉岡さんと山本先生が来店してくれる予定だ。結菜曰く、神崎さん発案でパークランドに行った女性6人で、洲中駅周辺で買い物をしたり、遊んだり、お昼を食べたりしようということになったそうだ。いわゆる女子会である。
吉岡さんが千弦達と遊ぶのもあり、琢磨から駅近くにあるアミューズメント施設で男数人で遊ばないかと誘ってくれた。いわゆる男子会である。今日のバイトは正午からなので、俺は午前中だけ一緒に遊んだ。
ジュースを飲みながら、ボウリングを3ゲームプレイした。
「よしっ、ストライク!」
「やったな、洋平! 今日は結構ストライク取ってるな!」
「琢磨こそ」
今日は調子が良く、平均で150ほどスコアが取れた。だから、とても満足できたし楽しかった。また、琢磨は平均して180ほど取っていたのでさすがだと思った。
琢磨達と別れるときに「バイト頑張れよ」と労ってくれたし、午後に結菜達が来るのを楽しみに今日のバイトを頑張ろう。
日曜日だし、今日はいい天気なので、シフトに入った直後からたくさんのお客様に接客している。
よく晴れており、最高気温が30度近くまで上がる予報なのもあってか、今日はたくさんのお客様から冷たいドリンクが注文される。それに、店内はエアコンがかかっていて涼しいので、今年も夏になったんだなぁと実感する。
休憩を挟みながらバイトをしていく。
そして、午後3時過ぎ。
「お兄ちゃん、来たよ!」
結菜達6人が来店してくれた。来たよと言ってくれた結菜はもちろん、千弦達も笑顔で手を振ってくれる。そんな彼女達に俺も小さく手を振った。
結菜はキュロットスカートに半袖のパーカー。千弦はノースリーブの襟付きワンピース。星野さんはフレンチスリーブのフリル付きのワンピース。神崎さんはロングスカートに半袖のTシャツ。吉岡さんはスラックスにノースリーブの縦ニット。山本先生はジーンズパンツに半袖のブラウスという格好だ。今日は晴れて暑いからか、みんな夏らしい装いでよく似合っている。
「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。みんな夏らしい装いで、よく似合っていますね」
素直に感想を言うと、結菜達は笑顔で「ありがとう」とお礼を言ってくれた。特に千弦は嬉しそうだ。笑顔になったのもあり、みんなの服装がより似合う印象に。
綺麗で可愛い女性6人が一緒に来たからか、男女問わず多くのお客様が結菜達に視線を向けている。ただ、当の本人達は気にしていない様子だ。
今はカウンターの前にいるお客様の数も落ち着いているから、ちょっと話しても大丈夫かな。
「みなさん、女子会を楽しめていますか?」
「うんっ! 楽しめてるよ、お兄ちゃん! みんなで服とかを見て。その中で、中学の水泳の授業で使うスクール水着を買ったよ。玲央さん中心に何がいいか考えてくれたの」
「そうなのか。中学では6月から水泳の授業があるもんな。みんなに選んでもらえて良かったな」
「うんっ!」
「スクール水着を試着した結菜ちゃんを見られて幸せだったわっ」
ちょっと興奮気味に話す神崎さん。それもあってか、結菜達は声に出して笑っている。
神崎さんは結菜のことを気に入っているからなぁ。スクール水着を選んで楽しんだり、試着した結菜を見て興奮したりする神崎さんの姿が容易に思い浮かぶ。
「アニメイクにも行ったよ。今日も美麗な表紙のBL小説を買えたし、吉岡さん中心にBLやGLの楽しさを伝えられて満足だよ」
「楽しそうに話す飛鳥先生可愛かったですよ!」
吉岡さんがそう言うと、千弦と星野さんと神崎さんと結菜がうんうんと頷いていた。好きなことを語るときの先生は、ちょっと幼げな雰囲気になるからな。吉岡さんが可愛いと言ったり、みんなが頷いたりするのも納得だ。
当の本人である山本先生は、ほんのりと頬を赤くしながらも笑みを浮かべていた。そんな今の先生も可愛らしい。
「あたし、飛鳥先生がオススメしてくれたガールズラブの漫画を買ったんだ。家に帰ったら読みますね」
「きっと、吉岡さんも楽しめると思うわ」
「ふふっ。パスタ屋さんでお昼ご飯を食べて。さっきまでは、洋平君とも一緒に行った猫カフェにいたんだよ」
「みんな猫が好きだし、玲央ちゃんと早希ちゃんと飛鳥先生とはまだ一度も一緒に行ったことがなかったからね」
「そうなんだ」
「猫がとっても可愛かったわ! 猫耳カチューシャを付けたみんなも可愛かったわ!」
神崎さん、とてもワクワクとした様子になっている。きっと、猫カフェでもこういう感じだったんだろうなぁ。
千弦と星野さんと結菜は可愛かったし、吉岡さんは以前に本人と琢磨から猫耳カチューシャを付けた写真を見せてもらったけど可愛かった。神崎さんと山本先生は見たことがないけど、きっと可愛いのだろう。
「玲央ちゃんも可愛かったよ」
「ありがとう。千弦は特に可愛かったわ。一緒に写真も撮ったのよ」
ほら、と神崎さんは俺にスマホを見せてくれる。画面には猫耳カチューシャを付けた神崎さんと千弦が、笑顔で猫の手ポーズをしていて。2人とも似合っているし可愛いな。あと、以前猫カフェに行ったときは王子様モードだったので、素のモードで猫耳を付けている千弦は新鮮だ。
「2人とも可愛いな」
「でしょう? ありがとう、白石」
「あ、ありがとうっ。洋平君に可愛いって言ってもらえて嬉しいな……」
えへへっ、と千弦は声に出しながら嬉しそうに笑った。
結菜や星野さん達みんなから「良かったね」と言われ、千弦は可愛い笑顔で「うんっ」と首肯する。俺に可愛いって言われたのがよほど嬉しかったのだろう。
猫耳の写真もそうだし、今も千弦と神崎さんは笑い合っている。一時は神崎さんが千弦に距離を取っていたのもあり、2人が以前のようにまた楽しそうにしている様子を見られて嬉しいよ。
「LIMEで、洋平君に猫耳写真送っておくよ」
「ありがとう」
「いえいえ」
「さあ、そろそろ注文をしましょうか」
山本先生がそう言うと、結菜達は『はーい』と返事する。
その後、結菜達はドリンクとフードメニューをそれぞれ注文していった。晴れて暑い中歩いてきたからか、みんなドリンクは冷たいものを注文した。
運良く壁側のテーブル席が連続していくつか空いていた。最初に注文した山本先生がテーブルをくっつけて6人席にしていいかどうか尋ねてきたので、許可を出した。先生は注文を終えると、空いているテーブル席に行って6人席を作っていた。
「お待たせしました。アイスコーヒーのSサイズとモンブランになります」
「ありがとう、洋平君」
6人の中で最後に注文した千弦に、アイスコーヒーとモンブランが乗ったトレーを手渡した。その瞬間、千弦はニコッと笑いかける。
「洋平君。この後もバイトを頑張ってね!」
「ありがとう。結菜達とゆっくり過ごしてね」
「うんっ」
千弦は俺に小さく手を振ると、結菜達が待っているテーブル席へと向かった。
千弦が神崎さんの隣の椅子に座ると、6人はドリンクやスイーツを楽しみ始める。美味しいのかみんないい笑顔になっていて。それもあってか、6人を見ているお客様は結構多い。何かあったら俺が守らなければ。
千弦は素の可愛い笑顔でみんなと談笑していて。外でもそうしていられるのは、千弦が勇気を出して素を明かしたからだろう。隣に座っている神崎さんとも楽しく話して、スイーツを食べさせ合って。本当に良かったって思う。心温まるとてもいい光景だ。
それからも、たまに千弦達の様子を見て癒やされながらバイトをしていく。
また、午後5時近くになると、千弦達は席から立ち上がって、
「お兄ちゃん、残りのバイト頑張ってね」
「白石君、頑張ってね。あと、バイトが終わったらゆっくり休むんだよ。午前中に琢磨君達とボウリングで遊んだんだから」
「前に過労で体調を崩したものね。無理せずにね、白石。また明日」
「吉岡さんと神崎さんの言う通りね。無理せずに頑張りなさい、白石君」
「バイト頑張ってね、白石君。また明日会おうね」
「残りのバイトを頑張ってね、洋平君。また明日、学校で会おうね」
俺の担当するカウンターの前まで来て、そんな労いの言葉を掛けてくれた。
「ありがとうございます。無理せずに残りのバイトを頑張ります。バイトが終わったらすぐに帰るよ、結菜。千弦達はまた明日……学校で」
俺がそう返事をすると、千弦達は笑顔で手を振りながら店を後にした。
午前中は琢磨達とボウリングで遊んだし、正午から5時間近くバイトをしたから、さすがに疲れを感じている。ただ、みんなが労いの言葉を掛けてくれたおかげで疲れも少し取れた。だから、残りのバイトは難なくこなせたのであった。




