第50話『中間試験』
それからも、中間試験が終わるまでの間、バイトがない日は千弦や琢磨達との勉強会に参加した。
中学生の結菜はクラスや部活の友達と一緒に試験勉強をする日もあったけど、俺達の勉強会に参加することもあって。
また、この期間で、俺は初めて星野さんの家と神崎さんの家に行き、それぞれの部屋で勉強会を行なった。
星野さんの部屋も神崎さんの部屋も可愛らしい雰囲気で。ただ、星野さんの部屋は手作りや既製品の動物のぬいぐるみがいくつもあったので、千弦の部屋に似た雰囲気も感じられた。
勉強会はメンバーの家で実施したけど、個人的には環境が変わることで気持ちがリフレッシュできていいなと思えた。
また、夜に自宅で勉強しているときに千弦達から質問のメッセージが来て。だから、充実した試験勉強をする日々になった。時々、千弦と2人や星野さんと3人でメッセージをやり取りし、素で喋る千弦の可愛さに癒やされつつ。
5月21日から中間試験が始まった。
2年生になってからは初めての定期試験だ。なので、始まる前はちょっと緊張感があって。ただ、千弦や琢磨達との勉強会のおかげもあって、どの教科も結構な手応えがある。
千弦と星野さんは結構調子がいいとのこと。
また、結構苦手だったり、赤点の不安があったりする科目がある琢磨と吉岡さんと神崎さんも手応えがあるらしく、苦手科目での赤点の不安はないという。
みんな赤点なく中間試験を乗り越えられたら何よりだ。
――キーンコーンカーンコーン。
5月24日、金曜日。
中間試験最終日。
本日3科目目であり、中間試験の最終科目でもある英語表現Ⅱの試験時間が終了したと知らせるチャイムが鳴った。それもあってか、教室の中の雰囲気が一気に弛緩する。中には「終わった!」と喜ぶ生徒もいて。
「よっしゃー! 終わったぜー!」
俺の目の前にも喜ぶ生徒がいた。その名は坂井琢磨。中間試験が終わったのがよほど嬉しいのか、拳にした両手を高く上げている。後ろ姿だから表情は見えないけど、琢磨を見ていると清々しい気持ちになる。
それぞれの列の一番後ろの席の生徒が答案用紙を回収するように、と試験監督をする先生が言ったので、一番後ろの席である俺は自分の列の生徒の答案用紙を回収する。定期試験は出席番号順に座るので、2年生の間はずっとこの役目をするんだなと回収しながら思った。先生によっては、答案用紙を重ねて前に渡していくパターンもあるけども。
教卓にいる先生に回収した答案用紙を渡して、自分の席に戻っていく。その中で、
「英語表現Ⅱはそれなりにできたわ」
俺と同じ列の一番前の席に座る神崎さんがそう言ってきた。それなりにできたからなのか。それとも、これで定期試験が終わったからなのか。神崎さんはいい笑顔になっていて。
これまでも、一番後ろの生徒が答案用紙を回収した際、神崎さんの答案を回収したときか俺が席に戻ろうとするときに神崎さんが試験の手応えがどうだったか教えてくれていた。
「おぉ、良かったな。俺も手応えあったよ。試験お疲れ様」
「ありがとう。白石もお疲れ様」
「ありがとう」
笑顔の神崎さんと軽くやり取りして、自分の席に向かっていく。その中で一緒に試験勉強をした琢磨、千弦、星野さん、吉岡さんの顔を見ると、みんないい笑顔になっている。席の近い生徒と楽しそうにお喋りしていて。特に席が前後である千弦と星野さんは。試験が終わった解放感に浸っているのだろう。
「洋平、試験終わったな! おつかれー!」
琢磨の前まで来ると、琢磨はとっても明るい笑顔でそう言ってきた。試験が終わったのが凄く嬉しいんだな。あとは、試験が終わったから、今日の放課後から部活ができるのもあるかな。中学時代から琢磨は試験が終わると凄く喜ぶのだ。
「ありがとう。琢磨もお疲れ様」
「おう! 英語表現は不安もあったけど、洋平と早希達と勉強したから何とかなったぜ。赤点はないと思う」
「琢磨は中学時代から英語はちょっと苦手だもんな。今回も何とかなりそうで良かった」
「おう! 今回も洋平のおかげで赤点なしになりそうだ! ありがとな!」
そう言い、琢磨は白い歯を見せて笑いながら、俺の背中をバシッと叩いてくる。3教科試験をやった後だけどパワーが凄い。先週から部活動が禁止されていたので、体力が有り余っているのかもしれない。痛いけど、こうして感謝の気持ちで叩かれるのは中学からだし、琢磨の笑顔を見るとこの痛みは悪くない。
おう、と返事をし、俺は琢磨の左肩をポンポンと叩き、自分の席に座った。
担任の山本先生が来るまでは試験のことなどで琢磨と雑談する。
そんな中で、結菜から「試験終わった! よくできたよ!」とメッセージが届いた。結菜も無事に乗り越えられたか。良かった。
「はーい、みんな。席に着いてね。終礼を始めるよ」
5分ほど雑談すると、山本先生が教室に入ってきた。それもあり、試験が終わって賑わいを見せていた教室内も静かになる。
「みなさん、2年生になってから初めての試験お疲れ様でした。試験の答案はそれぞれの授業で返却される予定です。私が担当する現代文と古典は、次の授業で返却しますよ」
現代文と古典の答案は次の授業で返却されるのか。来週の前半あたりは試験返却と解説の授業になる教科が多くなりそうだ。
「また、試験が終わったので、今日の放課後から部活動が解禁となります。では、来週の月曜日にまた会いましょう。これで終礼を終わります。委員長、号令をお願いします」
その後、クラス委員長の女子生徒の号令により、今日の日程が全て終わった。俺は琢磨や神崎さんと一緒に教室の掃除が残っているが。
中間試験が終わったことや部活動が解禁されたこと、明日と明後日は休みなのもあってか、終礼が終わるととても嬉しそうな様子の生徒が何人もいる。そのうちの3人は琢磨と吉岡さんと神崎さんである。
部活動があるのか、バッグを持ってさっそく教室を出て行く生徒もいた。
千弦と星野さん、神崎さん、吉岡さんが俺達のところにやってくる。その際、6人で試験お疲れ様と互いを労った。
「洋平に教えてもらったのはもちろん、みんなと一緒に勉強したおかげで今回の試験も何とかなったぜ!」
「あたしもだよ、琢磨君! また今日からバスケができるのが嬉しいよ!」
「あたしもよ、早希。みんなと一緒に勉強して良かったわ。白石と千弦と彩葉にいっぱい教えてもらったし。特に白石には。たぶん、赤点はないと思うわ」
「それは良かったよ。今回は洋平達も一緒だったし、洋平や彩葉に教えてもらうこともあったから、そのおかげで1年のときよりも手応えがあったよ」
「私も今回は結構手応えがあったな。座っている場所が近いのもあって、白石君に結構質問できたし。玲央ちゃんや坂井君、早希ちゃん、結菜ちゃんに教えることもあったし。みんな、ありがとう」
千弦や琢磨達はみんなに対してお礼を言った。いい笑顔になっていて。今回の試験対策の勉強会が充実したものになり、それが試験に繋がったのだろう。きっと、結菜も同じような気持ちを抱いているんじゃないだろうか。
「俺も今回の試験は手応えがあったよ。勉強会でみんなの質問に答えたから、そのことで理解が深まったし。みんな、ありがとう」
千弦や琢磨達の目を見ながら、俺はみんなにお礼の言葉を言った。
今年は千弦と星野さんと神崎さんもいたから、去年までよりも充実した勉強会になったな。みんなさえ良ければ、今後の定期試験でも一緒に試験対策の勉強会をしたいなと思う。
「よし。洋平、神崎、今週最後の掃除をするか」
「そうね。今日で掃除当番終わるのね。まあ、今回の当番は火曜日から試験でお昼に終わるから、いつもよりマシだったけど」
今週は俺と琢磨と神崎さんのいる班が掃除当番だ。試験があるとはいえ、お昼に終わるからいつもよりは気楽な感じで掃除できたかな。あと、前回の掃除当番のときとは違って、神崎さんと友達になったのもあるかも。
「掃除頑張るか。……みんなはこの放課後からさっそく部活再開か?」
「おう! いっぱいバスケするぜ!」
「あたしもね!」
「テニス頑張るわ。試験明けだし、昼過ぎからやるからいっぱいテニスできるわ」
「元々活動する金曜日だから手芸部も活動があるよ」
「そうだね。久しぶりの部活だから楽しみだね、千弦ちゃん」
「そっか。みんな、部活頑張れよ」
運動系の琢磨と吉岡さんと神崎さんはもちろん、手芸部の千弦と星野さんも怪我なく部活を頑張ってほしい。
「洋平はバイトあるの? 最近は毎日ずっと私達と勉強していたし」
「今日はないよ。ただ、明日と明後日は日中ずっとバイトある」
「そっか。バイト頑張ってね」
「ありがとう」
中間試験もあったから1週間以上バイトのシフトには入っていないし、明日と明後日のバイトを頑張ろう。
その後、俺は琢磨と神崎さんなど掃除当番の生徒や山本先生と一緒に教室の掃除をした。試験も終わったし、琢磨と神崎さんと山本先生とたまに雑談したので、結構楽しく掃除をすることができた。
みんな部活が始まるまで少し時間があるそうで、千弦と星野さんと吉岡さんが廊下で俺達の掃除が終わるのを待ってくれていた。
みんなで教室を後にして、千弦と星野さんとは、被服室がある特別棟に繋がる渡り廊下のある2階で、琢磨と吉岡さんと神崎さんとは昇降口で別れた。
俺は一人になって、学校を後にする。
最近は毎日、千弦や琢磨達と一緒に勉強会をしていたから、一人になるのが随分と久しぶりな感じがして、ほんの少し寂しい思いを抱いた。
明日と明後日はずっとバイトがあるから、今日は一人の時間をゆっくりと楽しもう。
まずは昼ご飯にしよう。何を食べようかな。ラーメンやうどんといった麺類も好きだし、牛丼や親子丼といった丼物もいいなぁ。そんなことを思いながら、俺は飲食店が集まっている洲中駅の方に向かって歩いていった。




