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クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。  作者: 桜庭かなめ
本編

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第44話『千弦は壁ドンされたい。』

「このアニメも面白かったね!」

「面白かったな。2度目でも面白かった」


 俺も千弦も見ている金曜夜に放送されるアニメは2作品あり、美少女キャラがたくさん出てくるオリジナルの日常系アニメ、少女漫画が原作のラブコメアニメの順番で観た。

 どちらのアニメも一度観ているけど、とても面白い内容だし、千弦と話しながら観るのは楽しかったから、終わるまであっという間だった。千弦も楽しそうな笑顔を見せることが多かったし、千弦も楽しめていたのなら嬉しい。


「ラブコメのアニメは壁ドンのシーンが良かったな。漫画も読んでいるし、アニメを観るのは2回目だけどキュンときたよ」


 今日観たエピソードでは主人公の女の子が、クラスメイトの王子様系キャラのイケメン男子に壁ドンされているシーンがあった。そのシーンのとき、千弦は「きゃっ」と可愛い声を漏らしていたな。あのシーンが千弦のお気に入りなのかもしれない。もしかしたら、壁ドン自体が好きという可能性も。壁ドンのシーンがある恋愛系の作品はたまにあるし。


「あそこはいいシーンだよな。結菜に原作の漫画を借りて読んだけど、あのシーンは印象に残っていたし」


 漫画でもいいなって思ったけど、アニメではよりいいなと思えた。キャラクター達の動きがあったり、声優さん達の演技が良かったりしたからだろう。


「そういえば、壁ドンって恋愛系の作品では何度も目にするけど、実際にしているところって見たことないな」

「私も見たことはないなぁ」

「そっか」


 千弦も見たことないか。

 壁ドンって、相手を壁に追い詰めて、相手のすぐ側で壁をドンと叩くことだもんな。怖いって思う人もいそうだし、恋愛的なアプローチを目的に壁ドンをする人は実際にはあまりいないのかもしれない。ちなみに、俺もやったことはない。


「まあ、壁ドンをしたことはあるんだけどね」

「あるのかよ」


 思わず食い気味にツッコんでしまった。だからか、千弦はクスッと笑う。


「友達の女の子から壁ドンしてほしいってお願いされてね。何回もあったな。みんな、恋愛漫画やアニメが大好きで」

「なるほどな。まあ、学校での千弦は王子様みたいな雰囲気だし、背も高いから、千弦に壁ドンしてほしいって頼む女子が何人もいるのも納得かな」


 女子に壁ドンしている千弦の姿がパッと頭に思い浮かぶ。きっと、持ち前の落ち着いた王子様スマイルで、壁ドンした相手の女子をキュンとさせる言葉を言ったんだろうな。


「みんな喜んでくれたから、壁ドンしてって頼まれるのは嬉しかったな」

「そうか」

「ちなみに、壁ドンされたこともあるよ」

「されたこともあるのかよ」

「うん。壁ドンしてくれたお礼にってね。ただ、みんな私よりも背の低い女の子だったから、キュンとはならずに可愛いって感じだったな」


 そのときのことを思い出しているのか、千弦はほのぼのとした笑顔になっている。

 まあ、さっき観たアニメを含め、壁ドンは背の高い男子が自分よりも背の低い女子にしていることがほとんどだ。壁ドンしてくるのが自分よりも背が低くて、しかも女子だったら可愛いって思うのも分かるかな。


「ねえ、洋平君」

「うん?」

「……洋平君に壁ドンされたいな」

「へっ?」


 予想外のことを言われたので、間の抜けた声が漏れてしまう。

 まさか、壁ドンされたいって言われるとは思わなかったな。壁ドンの話題を出したのは俺の方だったし。


「今まで壁ドンをしてきた人は自分よりも背の低い女の子だけだから、背の高い男の子から壁ドンされたらどんな感じなのか興味があって。漫画やアニメだと、大抵は男の子が自分よりも背の低い女の子にするし」

「さっき見たアニメの壁ドンシーンもそうだったな」

「うん。も、もちろん、男子なら誰でも良かったわけじゃなくて、洋平君だからお願いしているんだよ」


 頬を中心に顔を赤くしながら、千弦は俺にそう言ってくる。俺のことをチラチラ見ているのを含めて可愛いし、今の言葉は心をくすぐられる。素を見せられるほどの友人だからお願いしたのだろう。嬉しいな。これまで、千弦が女子から壁ドンしてほしいと頼まれてきたときは、こういう気持ちになっていたのだろうか。

 俺に壁ドンしてほしいという千弦からのお願いに、


「分かった。千弦に壁ドンするよ」


 と快諾した。


「ありがとう! 洋平君!」


 千弦は依然として赤くなっている顔に嬉しそうな笑みを浮かべ、俺にお礼を言った。そんな千弦も可愛くて。千弦がいいと思える壁ドンをしたい。


「ただ、壁ドンは未経験だ。何かコツとかはあるか?」

「そうだね……。相手の顔の近くで壁を叩いて、相手の目を見つめながらキュンとなりそうな言葉を言うことかな。私はそれで相手をキュンとさせることができたよ」

「なるほどな」


 千弦が壁ドンをしているところを見たことはないけど、学校では王子様と呼ばれるほどに人気があるから説得力があるな。


「相手の顔の近くで壁を叩くことと、キュンとなりそうな言葉か」

「うん。さっき見たアニメの壁ドンシーンでキュンとなったし、あのシーンみたいな言葉でかまわないよ」

「分かった」


 確か、さっき観たアニメでの壁ドンシーンは、


『あいつよりも、俺のことをもっと見てくれよ』


 って、言っていたっけ。……よし、この言葉を基に千弦がキュンとなりそうな言葉を言ってみるか。


「じゃあ、壁ドンをやってみるか」

「うん。本棚の側の壁でやろうか。そっちは外壁側だから」

「分かった。1階に御両親がいるし、あまり強く叩かないように気をつけよう」

「それがいいね」


 迷惑になってしまうだろうし、ゴキブリを見つけて千弦が悲鳴を上げたときのように、部屋の前まで駆けつけることになるから。

 俺達はクッションから立ち上がり、勉強机の方に向かう。

 本棚の近くの壁で千弦と向かい合うようにして立つ。これから人生初壁ドンなので、こうして向かい合って立つとちょっと緊張するな。少し長めに息を吐いた。


「……よし。じゃあ、壁ドンするぞ」

「うん。お願いします」


 よし。千弦がキュンとなるように壁ドンするぞ。

 俺はゆっくりとした歩みで千弦に近づいていく。それに伴い、千弦も俺と同じくらいの速度で後ずさりしていく。

 そして、千弦の背中が壁に付いたところで、

 ――ドンッ。

 と、音が鳴るくらいの強さで、右手で千弦の顔のすぐ横に壁を叩く。

 顔を少し近づけ、


「俺のことをもっと見てくれよ。千弦」


 と、千弦のことを見つめながらそう言った。


「……ほえっ」


 千弦はそんな可愛い声を漏らすと、頬を中心に顔が見る見るうちに赤くなっていく。千弦に直接触れていないけど、千弦から熱が伝わってきた感じがした。うっとりしているように見えるけど、キュンとなってくれただろうか。

 それにしても、至近距離から千弦と見つめ合っているし、甘い匂いも香ってくるのでドキッとして。壁ドンをするとこういう感覚になるのだろうか。それとも、壁ドンをしている相手が千弦だからだろうか。

 少しの間、無言のまま見つめ合う時間が続き、


「……良かったよ。凄くキュンとしたよ……」


 可愛らしい声でそう言うと、赤くなっている千弦の顔に笑みが浮かぶ。壁ドンは初めてだったので、嬉しい気持ちもあるけど安心した気持ちの方が強い。


「千弦がそう言ってくれて良かった」

「うんっ。顔の近くで壁を叩いたからちょっとビックリしたけど、洋平君のかっこいい顔がすぐ目の前にあるし。洋平君の方が背が高いから洋平君に覆われている感じがするし。それに、洋平君が言った言葉はさっき観たアニメの壁ドンシーンのセリフだけど、『千弦』って言ってくれたから凄くキュンってなったよ」

「セリフは流用だけど、壁ドンをしている相手が千弦だからな。千弦の名前を言ったらキュンってなってもらえそうかなって思ったんだ」

「……見事になったよ。これまで、私に壁ドンされた女の子達はこういう気持ちだったのかなって思ったよ。……ありがとう。満足だよ」

「それは良かった。人生初の壁ドンをしたけど、相手が千弦だからかいいなって思ったよ。それに、こうやって至近距離から見る千弦も可愛いなって」

「ふふっ、そっか。あと、今の言葉にもキュンってなったよ」


 えへへっ、と千弦は声に出しながらへにゃっと笑う。その笑顔もまた可愛らしい。

 千弦がキュンとなって、満足できるような壁ドンができて良かった。そう思いながら壁から手を離して、千弦から2、3歩後ろに下がった。


「ねえ、洋平君。お礼に私が洋平君に壁ドンしようか?」

「いいな。千弦に壁ドンされたらどんな感じか気になるし。それに、壁ドンされるのも初めては千弦がいい」

「うんっ、分かった。素の私と中性的な私のどっちがいい? どっちでもいいよ」

「そうだな……中性的な雰囲気の千弦にやってもらおうかな。今までやってもらった子達はそっちの千弦だろうし。俺も体験してみたい」

「なるほどね。分かったよ」


 そう言うと、千弦は「ふーっ」と息を吐いて、


「じゃあ、この中性的な私で、洋平に壁ドンするよ」


 学校や屋外でよく見る落ち着いた笑顔になり、これまでよりも低めの声でそう言った。中性的な雰囲気の王子様モードになったんだな。その証拠に、俺の名前も「洋平」と呼び捨てに変わったし。こんなにすぐに切り替えられるとは。凄いな。これも数年ほど中性的な雰囲気を演じ続けているからなのだろう。

 入れ替わる形で、俺は壁を背にして、千弦と向かい合う形で立つ。


「洋平。壁ドンするよ」

「ああ、お願いするよ」


 千弦に壁ドンされるとどんな感じか楽しみだな。

 千弦はゆっくりと俺に近づいてくる。それに合わせて俺も後ずさりする。

 そして、俺の背中が壁に付いたところで、

 ――ドンッ。

 千弦は右手で俺の顔のすぐ近くの壁を叩き、


「私のことをもっと見てよ、洋平」


 俺のことを見つめながら、低めの声でそう言った。

 低音ボイスで甘い言葉を言われたし、千弦と至近距離で見つめ合っているし、千弦の甘い匂いが濃く香ってくるのでちょっとキュンとなる。まさに王子様って感じだ。ただ、千弦は俺より背が小さいので、俺を見上げる形。だから、何だか可愛いとも思えて。


「……どう? 私の壁ドン」

「かっこよくてキュンともなったし、同時に可愛いとも思ったよ。今まで千弦に壁ドンされた子達の気持ちも、女の子達に壁ドンされた千弦の気持ちも分かった。もちろん良かったよ」


 正直に壁ドンの感想を言った。ただ、それが良かったようで、千弦は俺にニコッと笑いかけた。


「洋平にそう言ってもらえて嬉しいよ。私も背の高い人や男子に壁ドンするのは初めてだから、新鮮で楽しかった」

「それは良かった」


 お礼に壁ドンしようって話だったけど、もしかしたら、自分より背の高い人や男子相手に壁ドンしたことがないから、俺に壁ドンしてみたい気持ちがあったのかもしれない。

 千弦は壁から手を離して、俺から何歩か後ろに下がる。


「壁ドンさせてくれてありがとう、洋平君」


 可愛くて柔らかな笑顔でそう言った。声も元の高さに戻っているし、呼び方も「洋平君」に戻っているから素のモードに戻ったのだろう。


「いえいえ」

「ふふっ。……今は5時近くだけど、もう少しここにいる?」

「ああ。これまでも6時頃までいたしな。少なくともそのあたりの時間までは千弦と一緒にいたいな」

「うんっ、分かった」


 千弦は嬉しそうな笑顔でそう言った。

 その後は、『名探偵クリス』のテレビアニメを一緒に観る。もちろん、これまでと同様にクッションで隣同士に座りながら。また、今日は土曜で午後6時からは最新話が放送されるので、最新話をリアルタイムで。映画館で一緒に劇場版を観たのもあり、クリスでも千弦と話しながら楽しく観ることができた。

 クリスの最新話を見終わり、俺は千弦の家から帰ることに。


「千弦。今日は楽しいデートだった」

「私も楽しかったよ。いいお家デートだったね。それに、洋平君のおかげで数Bの課題も全部できたし。ありがとう」

「いえいえ。こっちこそ古典を教えてもらってありがとう」

「うんっ。……また月曜日に。……いや、明日になるかな? バイトある?」

「あるよ。正午から午後6時までシフトに入ってる」

「分かった。午後に母の日のプレゼントを買う予定だから、帰りに寄るね」

「ああ。待ってるよ」


 明日は千弦が来てくれるのか。それなら、明日のバイトはいつも以上に頑張れそうだ。


「じゃあ、俺はこれで。また明日」

「うん、また明日ね」


 可愛い笑顔と手を振り合って、俺は千弦の家を後にした。

 星野さんが来られなかったので、結果的に千弦とお家デートになったけど、結構楽しかったな。素の千弦の笑顔をたくさん見られたし。これからも千弦とこういう時間を過ごせたらいいな。そう思いながら、涼しくなった夕暮れの帰り道を歩くのであった。




 千弦からの誘いを断ったのもあってか、夜になると、星野さんが今日の午後はどうだったのかと、千弦と俺とのグループトークに話しかけてきた。

 千弦と俺でお家デートの内容や楽しかったことを伝えると、


『ふふっ。まさにデートだね。キュンってなったよ。2人が楽しくて素敵な時間を過ごせて良かった』


 とメッセージが送られた。星野さんにデートの内容を伝えたことにはちょっと気恥ずかしさはあったけど、千弦が星野さんに楽しかったとメッセージを送ってくれたことには嬉しくなった。

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