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第2話『何を奢ってほしい?』

 4月24日、水曜日。

 今日も学校生活を送っていく。

 ただ、今日は放課後に、藤原さんにナンパから助けてもらったお礼という名目で美味しいものを奢ってもらう約束がある。だから、今日はいつもよりも時間の進みが早く感じられた。ちなみに、何を奢ってもらうかはもう決めている。


「では、これで終礼を終わります。みなさん、また明日」


 山本先生がそう言い、委員長による号令で、今日の学校はこれにて終了した。

 藤原さんは終礼が終わった瞬間に席から立ち上がり、スクールバッグを持って俺のところにやってくる。これから俺と一緒に駅前の方に行くからか、藤原さんの顔には楽しげな笑みが浮かんでいる。


「白石君。さっそく行こうか」

「そうだな」


 俺も自分の席から立ち上がって、スクールバッグを持つ。


「そういや、洋平は藤原に美味いものを奢ってもらう約束をしてたな」


 俺の前の席に座っている琢磨はこちらに振り返ってそう言ってくる。


「ああ、そうだ」

「ナンパから助けたお礼なのが理由でも、千弦に奢ってもらえるなんて羨ましいわ」

「ふふっ、玲央ちゃんらしいかも。白石君、美味しいものを奢ってもらってね」

「残さず食べるのよ。千弦に奢ってもらうんだから」

「白石君はちゃんと完食すると思うよ。いつもお弁当を綺麗に全部食べてるし。白石君、美味しいものを食べてきてね」


 気付けば、荷物を持った神崎さん、星野さん、吉岡さんが俺達のところにやってきていた。3人とも笑顔だけど、羨ましいと言った神崎さんは俺に羨望の眼差しを向けている。奢ってもらった話をしたら今以上の眼差しを向けてきそうだ。


「ああ。藤原さんに美味しいものを奢ってもらうよ。ちゃんと食べてくる。行こうか、藤原さん」

「そうだね」


 その後、6人一緒に教室を出て、掃除当番のある友達と遊ぶ星野さんとは教室前の廊下で、部活がある琢磨、吉岡さん、神崎さんとは昇降口のある1階で別れた。3人とも怪我には気をつけて部活を頑張ってほしい。

 ちなみに、神崎さんは女子テニス部に入っているとのこと。なので、神崎さんはスクールバッグだけでなく、テニスバッグを持っていた。神崎さん曰く、テニスバッグにはラケットや練習着やタオルなど部活に必要なものが入っているそうだ。

 2人きりになった俺と藤原さんは、昇降口で上履きからローファーに履き替える。校舎を出ると、


「王子様と変人が並んで歩いてるぞ」

「2人一緒だとオーラが凄いな」


「白石君と藤原さんが一緒にいるよ! デートかな? 2人ともかっこいい……」

「絵になるよね。あたし、2人の間に挟まって深呼吸してみたい……」


 などと、周りにいる生徒から様々な言葉が聞こえる。一部、変態な感じの言葉もあるけど。俺一人だけだとこんなに言われることはない。藤原さんの人気さや有名さを実感する。

 藤原さんは……いつもの落ち着いた王子様スマイルを浮かべている。きっと、注目されたり、色々言われたりすることに慣れているのだろう。


「色々と言われてるな、俺達」

「そうだね、王子様」

「そこは変人だろ」

「……まあ、白石君がそう称されているのは知っているけどね。ただ、昨日、私を助けてくれたときは王子様のようにかっこよかったよ」


 爽やかな笑顔で藤原さんはそう言ってくれる。そのことに頬が緩む。


「藤原さんがそう言ってくれて嬉しいよ。あと、笑顔でさらりと言えるところが王子様だなって思う」

「ははっ、そっか。本当に思っていることだから言えるんだよ」


 凛々しい笑顔になって藤原さんはそう言う。そんなところもかっこよくて。女子中心に生徒達から王子様って言われるのも納得だ。


「ただ……気にならないかい? 変人とか言われて。シスコンとも言う人もいたか」

「特に気にならないな。直接嫌なことをされていないし。友達がそのことで離れたこともないから」

「そっか。……強いね、白石君は」


 そう言う藤原さんは顔に笑みを浮かべていたけど、さっきまでとは違って静かなものに変わっていた。


「強い……か。どうなんだろうな。俺の性格もあるのかもしれないけど、琢磨とか友達のおかげなのは確かだな」

「そうなんだね」


 藤原さんは納得した様子でそう言った。

 藤原さんと話していたのもあり、気付けば校門を出ていた。ただ、学校のすぐ近くなので、今も周りには洲中高校の生徒が多く、視線が集まっている。


「今日は私のお願いに付き合ってくれてありがとう」

「いえいえ。俺は奢ってもらうんだし」

「ふふっ。火曜と金曜は手芸部の活動があってさ。それで、今日か明日は予定が空いているかって訊いたんだ」

「そうだったんだ。あと、藤原さんは手芸部だったんだ」

「うん。彩葉と一緒にね。ぬいぐるみとか小物が好きでさ」

「そうなんだ」


 可愛い感じのものが好きなんだな。いつもの藤原さんを見ていると、何だか意外に思える。

 あと、藤原さんは部活でも星野さんと一緒なんだ。さすがは小学校からの親友だ。きっと、星野さんが一番藤原さんと一緒にいる人だろう。


「ところで、私に何を奢ってほしいか決めた?」

「ああ、決めたぞ。……アイスがいいなって。最近は今日みたいに晴れると暖かくなってきたし。駅前に美味しいアイス屋さんがあるから。アイスが好きだし。藤原さんってアイスは好き?」

「好きだよ」

「そっか。良かった。奢ってもらうけど、藤原さんも一緒に楽しめたらいいなと思っているから」

「そういうことか。白石君は優しいね」

「そうかな? 藤原さんと一緒に美味しく食べたいのもある」

「ふふっ、嬉しいね。じゃあ、この後アイスを奢るよ」

「ああ。ありがとう。セントラル洲中っていうところのフードコートに、美味しいアイス屋さんがあるんだ。そこで奢ってもらおうかな」

「分かった」


 俺達はセントラル洲中に向かって歩いて行く。

 セントラル洲中というのは、洲中駅南口の近くにある大型の商業施設のことだ。飲食系やファッション系から、アニメショップや生活雑貨まで様々なジャンルの専門店が入っている。食料品や衣料品などの直営スペースもあり、大抵のものならここに行けば買える。

 徒歩圏内の地元民なので、俺はこれまでに数え切れないほどに行ったけど、駅の北側に住んでいる藤原さんもたくさん行ったことがあるそうだ。一人で行くこともあれば、家族や星野さんなどの友達と一緒に行くらしい。

 洲中高校からも近いし、セントラル洲中の話題に花を咲かせたので、あっという間に到着した。アイス屋さんがあるフードコートは1階にあるので、セントラル洲中に入って少し歩くとすぐに着いた。

 今は午後3時台なのもあってか、フードコートは人が多くて賑わっている。ただ、たくさん席が用意されており、空席がいくつもあるので、ここで問題なく食べられそうだ。あと、うちの生徒を含め、女性中心にこちらを見てくる人が多い。

 アイス屋さんに行くと、お店の前には列ができていた。俺達のように今日は晴れて暖かいからアイスを食べようという人が多いのかもしれない。俺達は列の最後尾に並んだ。藤原さん、俺という順番で。


「列ができているね。この長さだと、順番が来るまで5分くらいかな」

「そうだな。このお店は美味しいアイスがいっぱいあるし、何にしようか考えるのにちょうどいい」

「ははっ、そっか。確かに、ここのお店は美味しいアイスがいっぱいあるよね。暖かい時期を中心にこのお店によく来るよ」

「そうなんだ。暖かい日に食べるアイスって特に美味しいもんな」


 俺がそう言うと、藤原さんは落ち着いた笑顔で「うん」と首肯する。その反応が可愛く思えた。

 今日も暖かかったから、きっとこの後食べるアイスは美味しいことだろう。藤原さんに奢ってもらうし。

 並んでいる場所からメニュー表が見える。なので、メニュー表を見て何のアイスを食べようか考える。奢ってもらうから、特に好きなアイスがいいかな。


「……よし、決めた。俺はチョコミントにするよ」

「チョコミントか。美味しいし、爽やかでいいよね」

「ああ。特に好きなアイスなんだ」

「そうなんだ。私も特に好きな……ラムレーズンにしようかな」

「ラムレーズンか。美味しいよな」

「そうだね」


 ニコッとした笑顔で藤原さんはそう言った。自分の好きなアイスが美味しいと言ってもらえて嬉しいのかもしれない。

 それから程なくして、俺達の順番になる。

 さっき話していたように、俺はチョコミント、藤原さんはラムレーズンをカップで注文。約束通り、藤原さんに奢ってもらった。

 アイスを買った俺達は、フードコート内にある2人用のテーブル席を確保。向かい合う形で椅子に座った。

 ここのアイス屋さんのチョコミントは何度も食べたことがあるけど、クラスメイトの女子に奢ってもらうのは初めてだ。なので、記念にスマホで写真を撮った。俺を真似してか、藤原さんもラムレーズンをスマホで撮っていた。


「これでOKだね」

「……じゃあ、チョコミントを有り難くいただくよ」

「うん。一昨日はナンパから助けてくれてありがとう。どうぞ、召し上がれ」

「どういたしまして。いただきます」


 俺は藤原さんに見られながら、チョコミントアイスを一口食べる。

 口の中に入れた瞬間、ミントの爽やかな香りが口の中に広がっていって。その後にミルクとチョコの甘みが感じられて。


「チョコミント美味しいなぁ」

「良かった」

「藤原さんに奢ってもらったから、いつも以上に美味しいよ」

「ふふっ、嬉しいね。じゃあ、私もラムレーズンいただきます」


 藤原さんはラムレーズンを一口食べる。

 ラムレーズンが結構好きだからだろうか。食べた瞬間に藤原さんの笑顔が柔らかいものになって。可愛いのはもちろん、学校ではあまり見ない感じの笑顔だから何だか新鮮で。


「ラムレーズン美味しい」

「良かったな」

「うん。コンビニやスーパーで売っているラムレーズンも美味しいけど、ここのアイス屋さんのラムレーズンは特に美味しいよ」

「そっか。美味しい市販のアイスはいっぱいあるけど、こういうお店のアイスって特別美味しいよな」

「そうだね」


 と言って、藤原さんはラムレーズンをもう一口。とても美味しいからか、「うんっ」と可愛い声を漏らして。そんな藤原さんを見ながらチョコミントを食べると、さっきよりも甘みが強く感じられた。


「ねえ、白石君」

「うん?」

「……ラムレーズン、一口食べてみる? 並んでいるとき、白石君……ラムレーズンも美味しいって言っていたし。色々なアイスを食べられた方が嬉しいだろうし。お礼の一環として、一口……どう?」


 藤原さんは視線をちらつかせながらそう言ってくる。まさか、一口食べてみるかと言われるとは思わなかった。


「ラムレーズンも食べられたら嬉しいけど……いいのか? 自分の口を付けたものを俺が食べても」

「……うん。彩葉とか玲央とか女子の友達と一緒に何か食べに行くときは、一口交換することが多いから。それに、私を助けてくれた白石君だったらいいって思ってる」


 それまでは散漫だった視線を俺の方に定め、藤原さんはそう言った。落ち着いた笑顔を見せているものの、頬はほんのりと赤くなっていて。ちょっと緊張しているようにも見えて。きっと、間接キスを意識しているのだろう。

 妹の結菜や、年齢の近い親戚の女の子と一口交換することはよくある。だから、異性と間接キスをしてしまうことにはそこまで抵抗感はない。

 一口どうかと藤原さんが申し出てくれたんだ。お礼の一環とも言ってくれているし、ここは藤原さんのご厚意に甘えるか。藤原さんに言ったように、ラムレーズンを食べられたら嬉しいし。


「じゃあ、ラムレーズンを一口いただくよ」

「うんっ」


 藤原さんは嬉しそうに返事した。


「じゃあ、食べさせてあげるよ」

「そこまでしてくれるのか」

「これもお礼の一環だよ」

「……そういうことなら。分かった」


 まあ、妹達と一口交換するときは食べさせてもらうことが多いからな。周りに人もいるけど、藤原さんに食べさせてもらおう。

 藤原さんはスプーンでラムレーズンアイスを一口分掬い、俺の口元まで運ぶ。


「はい、白石君。あ~ん」


 とても優しい声色で藤原さんはそう言ってきた。食べさせてくれるのもあり、今の藤原さんはいつもよりも大人っぽく見える。

 俺は藤原さんにラムレーズンアイスを食べさせてもらう。そのとき、周りから「きゃあっ」と女性達の黄色い声が聞こえてきたけど気にするな。

 バニラアイスに入っているラムの風味が香るレーズンがアクセントになっていて。美味しいな。ただ、チョコミントを食べた後だからなのか。それとも、藤原さんの口の付けたスプーンで食べさせてもらったからなのか。今までに食べたラムレーズンよりも甘く感じられる。


「ラムレーズンも美味しいな」

「美味しいよね」

「ああ。ありがとう。……もしよければ、ラムレーズンを一口くれたお礼に俺のチョコミントもどうだ? 家族や友達から一口もらったときは、俺もお礼に一口あげるし」

「そういうことなら……有り難く一口もらおうかな」

「分かった」


 俺はスプーンで自分のチョコミントを一口分掬い、藤原さんの口元まで運ぶ。


「はい、藤原さん。あーん」

「あ~ん」


 藤原さんにチョコミントを食べさせる。その瞬間、先ほどと同じように「きゃあっ」と女性達の黄色い声が聞こえてきた。

 俺に食べさせてもらったからなのか。それとも、間接キスをしたからなのか。さっきよりも藤原さんの頬の赤みが強くなっている。ただ、チョコミントの美味しさもあってか、藤原さんの顔にはやんわりとした笑みが浮かぶ。


「チョコミントも美味しいね。とても爽やかで」

「チョコミントも美味しいよな」

「うん。2種類食べられて嬉しいよ。ありがとう、白石君」

「いえいえ」


 2種類食べられて嬉しい、か。チョコミントを一口あげると言ってみて良かった。

 その後も、アイスを中心に甘い食べ物の話に花を咲かせながら、アイスを食べていく。藤原さんは甘い物が好きで、放課後や休日に甘いものを食べに行くことがあるのだそうだ。

 好きなアイスを食べているからか、藤原さんは学校にいるときよりも明るい笑顔を見せていて。それが可愛いと思った。

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