第17話『球技大会-後編-』
「初戦突破できたよ!」
女子バスケットボールの試合が終わってすぐ、吉岡さんはチームメイトと一緒にギャラリーに戻ってきた。初戦を勝利したのもあってか、吉岡さんはもちろん、チームメイトもみんないい笑顔になっている。
「みんなおめでとう! 早希、凄かったぞ!」
琢磨は満面の笑顔でそう言うと、吉岡さんの方に向かって歩いていき、吉岡さんのことを抱きしめる。
「ありがとう、琢磨君!」
吉岡さんも満面の笑顔でそう言い、琢磨の背中に両手を回した。本当にこの2人はラブラブなバスケカップルだよ。
吉岡さんは琢磨の体の横からひょっこりと顔を出して、
「白石君達の応援のおかげでもあるよ。本当にありがとう!」
ニッコリとした笑顔でお礼を言ってくれた。去年の球技大会でも吉岡さんは女子バスケで勝利したけど、去年以上に喜んでいるな。きっと、琢磨との仲が良くなって、藤原さん達も応援してくれているからだろう。
「いえいえ。凄い活躍だったね、吉岡さん。とてもいい試合だったよ。みんなおめでとう」
「早希は何本もシュートを決めていたね。凄かったよ。初戦突破おめでとう」
「おめでとう! 早希ちゃんはチームの雰囲気作りもしていたし、活躍が本当に凄かったよ」
「さすがはバスケ部員ね、早希! みんなおめでとう! お疲れ様!」
「吉岡さんの活躍もあって、凄く安定したいい試合だったね。みんな、まずは1回戦勝利おめでとう」
俺達も、吉岡さんをはじめとした女子バスケに出場したクラスメイトに祝福の言葉を送る。吉岡さん達は嬉しそうな様子で「ありがとう」と言った。
この後も、時間が合えば女子バスケの応援をしていきたい。
「彩葉、玲央。そろそろ校庭に出ない? ドッジボールの初戦がもうすぐだから」
「そうだね。校庭に移動しなきゃいけないし」
「行きましょう」
女子ドッジボールの初戦はもうすぐなのか。ドッジボールの会場は校庭なので、今すぐに移動した方がいいか。
「じゃあ、俺達もドッジボールの応援しに行くか」
「そうだな! 2回戦までまだ時間あるし」
「行こっか」
「先生も行くよ」
俺達7人は体育館を後にして、校庭へ向かう。また、女子ドッジボールには藤原さんも出場するからか、ギャラリーにいた他のクラスメイトの多くも一緒に。
教室A棟の昇降口で上履きから屋外での体育用のシューズに履き替えて、俺達はドッジボールの会場である校庭に向かう。
バスケットボールと同じく、ドッジボールも男女別で試合が同時並行で行なわれている。試合中なのもあり、なかなか盛り上がっている。
近くにトーナメント表の紙が貼られたホワイトボードがあるので、女子のトーナメント表を見てみると――。
「2年3組あった。初戦の相手は3年1組か」
「俺達や早希達とは違って上級生が相手か」
「厳しいかもしれないけど、上級生が相手だから燃えてくるわ」
「分かるよ、その気持ち! 強そうな相手だと特にやる気になるよね!」
吉岡さんは快活な笑顔でそう言うと、神崎さんと頷き合う。吉岡さんと手を繋いでいる琢磨も「分かるなぁ」と呟く。スポーツをやっている3人らしいと思う。
「3年生相手だけど、千弦ちゃんなら結構倒せると思うよ。去年の球技大会でも、上級生相手に何人もボールを当ててたから」
「そうだったね。中にはわざと当たりに来たんじゃないかっていう人もいたけど。今年も頑張るよ」
「うんっ」
星野さんは笑顔で頷く。さすがに小学校からの親友だけなあって、藤原さんのドッジボールの実力に信頼を置いているようだ。
あと、藤原さんはドッジボールが強いんだ。運動神経がいいと聞いたことがあるし、それも納得かな。それと、わざとボールに当たったんじゃないかっていう人もいるのか。かなり人気があるから、中には藤原さんに当てられたいって考えるファンの生徒もいるか。
それから程なくして、試合が終わる。試合スペースにいる生徒達はスペースから出て行く。
「よし。次が私達だね。頑張ろう」
「頑張りましょうね! 千弦、彩葉!」
「そうだね! まあ、私は逃げるのが中心になると思うけど。当てられないように頑張るよ」
3人とも初戦を前に意気込んでいるな。
「ここから応援しているよ」
「俺達のときに応援してくれたし、一生懸命応援するぜ!」
「みんな頑張ってね!」
「バスケの勢いに乗って勝てるように頑張ってね」
俺達からエールを送ると、藤原さん達は「はいっ」と元気良く答えた。
藤原さん達など、ドッジボールに出場する女子達は試合スペースの内野に入る。全部で10人いるのか。結構多いな。また、スタッフと思われる生徒から青色のゼッケンを受け取って身につける。ちなみに、相手の3年1組は赤色のゼッケンだ。
うちのクラスは何やら話し合っている。作戦を考えているのかな。
「そういえば、球技大会でのドッジボールってどういうルールなんだろう?」
「どうだったかなぁ。出場するバスケしか分かんねえな……」
「あたしも」
「生徒ならそれで仕方ないよ。……確か、試合時間はバスケと同じ5分間。5分以内に内野を0人になったら、その時点で試合終了。0人にしたチームの勝利。試合終了まで両チームの内野に人がいたら、残っている人数が多いチームの勝利だね。もし同じ人数だったら、代表者によるじゃんけんで勝った方が勝利だったかな」
「そうですか。教えてくれてありがとうございます、先生」
ドッジボールもバスケと同じ5分間か。全クラスのトーナメント戦でいっぱい試合するもんな。
ただ、ドッジボールの場合は、全滅してしまったらその時点で試合が終了になる。だから、相手にボールを当てるだけじゃなくて、いかに相手からのボールをかわすかも勝負のカギになってきそうだ。
審判と思われる女性教師が、フィールドのセンターライン付近に立つ。その直後、両チームの生徒達もセンターライン付近に並ぶ。
「これより、3年1組対2年3組の試合を始めます!」
女性教師がそう言い、両チームの選手が「よろしくお願いします」と言った。
うちのクラスの生徒2人が内野から出て、相手の内野よりも奥の方へ向かった。どうやら、あの2人は元外野のようだ。藤原さん、神崎さん、星野さんは内野に残っている。
また、藤原さんと相手チームのゼッケン2番の生徒が、センターラインを挟んで向かい合う形で立つ。おそらく、最初のジャンプボールをするためだろう。相手チームの生徒も藤原さんと同じくらいに背が高いな。
女性教師はボールを持って2人の近くまで行き、
――ピーッ!
と、笛を鳴らして、ボールを上方向に高く投げた。いよいよ、女子ドッジボールの初戦が始まった。
藤原さんと相手チームの生徒はボールにめがけてジャンプする。
ただ、藤原さんの方がより高くジャンプし、
「玲央!」
ボールに触れて、神崎さんの方に向けて弾き飛ばす。その瞬間、琢磨と神崎さんは「おおっ」と声を漏らす。
「オッケー! 千弦!」
神崎さんはボールをすぐに拾い、勢い良くセンターラインに向かって走っていく。その勢いに身を任せて、神崎さんは相手の内野に向けてボールを投げる。
神崎さんが投げたボールは、相手チームのゼッケン6番の生徒に向かって結構なスピードで飛んでいく。
相手のゼッケン6番の生徒は逃げようとするが、ボールが脚に当たった。ボールはその場で落ちる。そのため、ゼッケン6番の生徒はアウトになった。
「ナイス、玲央!」
「凄いね、玲央ちゃん!」
「ええ! やったわ!」
神崎さんは嬉しそうな様子で、近くにいる藤原さんと星野さんとハイタッチする。
「玲央凄い!」
「凄えよな! 幸先いいじゃねえか!」
一投目で相手をアウトにできたのもあってか、吉岡さんと琢磨は興奮している。あと、吉岡さんは琢磨の腕を抱きしめているので、微笑ましい光景だ。
「藤原さんも神崎さんも凄いね」
「そうですね。もしかしたら、ジャンプボールをする際は、神崎さんがボールを受け取ることを決めていたのかもしれません」
「試合前にみんな集まっていたもんね」
2人の運動神経の良さはもちろん、事前に打ち合わせをしたから、スムーズに神崎さんが攻撃でき、相手をアウトにできたのだと思う。
ボールは相手チームの内野に残っている。そのボールを、さっきジャンプボールをしたゼッケン2番の生徒が拾う。
「ジャンプボールはダメだったけど、今度はっ!」
そう言うと、ゼッケン2番の生徒は藤原さん達に向けてボールを勢い良く投げる。そのボールはさっきの神崎さん並みのスピードがある。ジャンプボールの失敗をここで晴らそうと思っているのかも。
ボールを投げる前に言葉を発したのもあり、藤原さん達はすぐに相手チームの方に体を向ける。
ボールは藤原さんに向かって勢い良く飛ぶ。ただ、
――ボンッ。
藤原さんは抱きしめるようにしてボールを受け止めた。音がしたので、今のボールの威力はなかなかあったんじゃないだろうか。
藤原さんはすぐにセンターラインに向かって走り、
「それっ!」
真剣な様子で、右手でボールを勢い良く投げる。
藤原さんが投げたボールは、さっきの神崎さんや相手のゼッケン2番の生徒が投げたとき以上にスピードがある。入っている部活が手芸部なのが信じられないほどの勢いだ。ボールはゼッケン2番の生徒に向かって飛んでいく。
さっきのゼッケン6番の生徒とは違って、2番の生徒は逃げようとはしない。どうやら、受け止めるつもりのようだ。
――ボンッ!
と、ボールがゼッケン2番の生徒の左胸に当たる。ただ、威力がかなりあるからなのか、胸に当たったボールははじき飛ぶ。周りにいる相手チームの生徒が取ろうとボールに向かって走るけど、誰もキャッチできずに地面に落ちた。
「おっ、今度は藤原がやったぞ!」
「2番の生徒もアウトにしたね!」
「藤原さんも凄いな……」
「凄いねぇ」
2連続で相手チームの生徒をアウトにするとは。これなら、3年生相手でも勝利できるんじゃないだろうか。
うちのチームの内野を見ると、藤原さんは神崎さんと星野さんとハイタッチしていた。また、藤原さんはこちらをチラッと見て、爽やかな笑顔でピースサインした。その姿はまさに王子様と言えるかっこよさだ。そんな藤原さんに俺は右手でサムズアップした。
その後もドッジボールの試合が進んでいく。
主に攻撃をするのは藤原さんと神崎さんで、星野さんなど他の生徒達は逃げることに徹している。
藤原さんと神崎さんの投げるボールの勢いは凄く、3年生だけど相手チームの生徒をどんどんアウトにしていく。その度に、
「よーしいいぞぉ!」
「ナイスだよ!」
琢磨や吉岡さん中心に称賛の声が上がって。
また、藤原さんのファンなのか、藤原さんが投げたボールにわざと当たったんじゃないかと思われる生徒も1人いて。勢いのあるボールに当たったら痛いだろうに、その生徒は喜んでいて。きっと、去年の球技大会でもこういうシーンがあったんだろうな。
また、藤原さんがアウトにしたときには、試合を見ている女子生徒達から、
「私も当てられたーい!」
「何かの間違いでこっちに投げてー!」
などという黄色い声が聞かれて。藤原さんの人気の凄まじさを実感する。
藤原さんと神崎さんの活躍は攻撃だけでない。星野さん達に向かって投げられたボールをキャッチして守るという場面が何度もある。味方を守るその姿は凄くかっこよかった。
星野さんも相手に狙われる場面が何度もあった。藤原さんと神崎さんの守りがないときも頑張ってボールをよけていた。
藤原さんと神崎さんが大活躍したのもあり、常にこちらが内野の人数が多い状態で試合時間が終了した。
試合時間が終わり、主審の先生が両チームの内野に残っている人数を確認する。
「3年1組、残り2人。2年3組、残り6人。よって、2年3組の勝利です!」
主審の先生がそう言うと、藤原さん達は笑顔になりチームメイトとハイタッチする。その光景を見て嬉しい気持ちになるな。
相手を全員アウトにすることはできなかったけど、常にうちのクラスがリードしていたし、4人差での勝利だから快勝と言えるじゃないだろうか。
「やったぜ! 女子ドッジボールも初戦突破だぜ!」
「そうだね、琢磨君!」
「3年生相手に凄かったな」
「見事だね。快勝だ。女子ドッジボールも勝ったから先生も嬉しいよ」
琢磨と吉岡さんはもちろんのこと、山本先生も嬉しそうに言う。男子バスケ、女子バスケに続いて、女子ドッジボールも勝ったから嬉しくなるよな。
その後、試合開始のようにセンターラインに両チームの生徒達が整列し、
「これにて、3年1組対2年3組の試合を終わります!」
審判の女性教師がそう言い、女子ドッジボールの初戦が終わった。快勝したのもあって、うちのクラスを応援している生徒を中心に拍手が送られた。
勝利したのもあり、女子ドッジボールメンバーはみんなとても嬉しそうな様子でこちらに向かってやってきた。
藤原さん、星野さん、神崎さんは俺、琢磨、吉岡さん、山本先生とハイタッチする。
「3年相手に勝てたわ!」
「玲央と一緒に攻撃しまくったから勝てたよ。まあ、自分から当たりに来た感じの人が1人いたけどね。もちろん、みんなの応援も力になったよ」
「千弦ちゃんと玲央ちゃんが守ってくれたのもあって、一度も当たらずに終われたよ」
神崎さんは嬉しそうな笑みを、藤原さんは楽しそうな笑みを、星野さんは安堵の笑みをそれぞれ浮かべながらそう言った。
「お疲れ様。藤原さんと神崎さんの攻撃は凄かったし、星野さんもよく逃げ切ったな」
「みんな凄かったぜ! 3年相手にリードし続けて勝てるなんてよ!」
「そうだね! 千弦と玲央が相手をどんどんアウトにするのは見ていて気持ち良かったよ!」
「みんな凄かったよ。女子ドッジボールもいいスタートを切られて良かったよ。まずは初戦お疲れ様」
俺達4人は初戦の労いや称賛の言葉を送る。それを受けて、藤原さんも星野さんも神崎さんはもちろん、他の女子ドッジボールメンバーも嬉しそうな笑顔になる。
3年生相手に常にリードし続け、最終的には4人差で勝てたのだから、女子ドッジボールは結構いいところまでいけるんじゃないだろうか。
「それにしても、藤原さん凄いな。神崎さんよりもボールが速かったし」
「ありがとう」
「運動系の部活には入っていないけど、日頃から何か運動をしているのか?」
「運動してるって言えるかは分からないけど……結構前から体型維持を目的にストレッチを毎日やってるよ。たまに筋トレもしてる」
「そうなんだ。あと、俺的には運動してるって思うよ」
「そう言ってくれると……何だか嬉しいな」
藤原さんはニコッと笑う。
ストレッチや筋トレか。どのようなメニューなのかは分からないけど、それらを習慣にしていることで体力や筋力が付いたのだと思う。そのことが、ドッジボールでの活躍に繋がった理由の一つだろう。
「女子ドッジボールも勝ったし、この6人が出場する種目は全部初戦突破か」
「そうだね、琢磨君!」
「みんないいスタートを切れたわね! この調子で頑張っていくわよ!」
神崎さんが元気良く言ったその言葉に、俺達6人は声を揃えて『おー!』と言った。神崎さんと琢磨と吉岡さんは右手を拳にした状態で突き上げて。
男子バスケだけでなく、女子バスケ、女子ドッジボールも初戦突破して確実にいい流れがきている。この流れに乗って、トーナメントを一つでも勝ち上がっていきたい。
その後も、俺達はそれぞれの出場種目で奮闘し、時間に余裕があれば他の種目を精一杯応援した。
俺と琢磨が出場する男子バスケットボールは去年よりも好成績のベスト8。吉岡さんが出場する女子バスケットボールもベスト8。藤原さんと星野さんと神崎さんが出場する女子ドッジボールは準決勝で敗れたけど、3位決定戦へと進み、
「3年4組……残り3人。2年3組……残り5人。よって、3位決定戦は2年3組の勝利です!」
「勝ったわ! 千弦、彩葉、みんな!」
「そうだね、玲央ちゃん! やったね!」
「ああ! 勝って終われたね!」
3位決定戦で勝利して第3位になった。これが、うちのクラスの最高成績という結果になった。




