第12話『洋平の部屋』
初対面の俺の家族と藤原さん達の挨拶が済んだので、結菜と一緒に藤原さん達を俺の部屋に案内することに。
リビングを後にして、2階にある俺の部屋へ向かう。
俺の家に来るのが初めてだからか、藤原さん達は周りをキョロキョロと見ながら俺についてきている。可愛いな。
2階に上がり、『ようへい』というドアプレートが掲げられている扉の前まで行く。ドアプレートの通り、この扉の先が俺の部屋だ。
「ここが俺の部屋だ。どうぞ」
そう言って、俺は部屋の扉を開けて、藤原さん達と結菜を自分の部屋に通す。
部屋に入ると、藤原さん達は「おぉ」と声を漏らしながら、俺の部屋を見渡している。みんな、この部屋を見てどう思うだろうか。今日の午前中に掃除や整理整頓をして綺麗にしたけど、ちょっと緊張する。もしかしたら、土曜日に藤原さんの部屋に俺が入ったとき、藤原さんはこういう気持ちだったのかもしれない。
「とても素敵な部屋だね、白石君」
「落ち着いていて、いい雰囲気だなって思うよ」
「広くていい部屋じゃない。結構綺麗にしているのね」
「ありがとう」
藤原さん達に好印象をもってもらえて嬉しいし、ほっとした。もしかしたら、この気持ちも土曜日に藤原さんは感じていたのかもしれない。
そういえば、今までも、俺の友達や結菜の友達が俺の部屋に初めて来たときは、今の3人のような感想を言ってくれたっけ。
「みんなが来るから、掃除したり整理したりしたんだ」
「午前中にしてたね。といっても、お兄ちゃんの部屋はいつも綺麗ですよ。机やローテーブルに本が置いてあるときはありますけど、ゴミが落ちていることはありませんし」
結菜は普段の明るい笑顔でそう言ってくれる。何て素晴らしいフォローをしてくれるのでしょう。本当にいい妹だ。
結菜の言葉に藤原さん達は納得しているようだった。
「白石君。本棚を見てもいいかい? 白石君が私の家に来たとき、私の本棚を見て、持っている本がいっぱいあるって言っていたから、君がどんな本を持っているのか気になってて」
「私も気になるな」
「あたしも!」
「ああ、いいぞ。見てくれ」
「ありがとう」
藤原さんがお礼を言うと、藤原さん達は俺の本棚の前まで行く。神崎さんは分からないけど、藤原さんと星野さんは読んでいたり、好きだったりする本が結構あるんじゃないかと思う。
俺は結菜と一緒に、本棚を見ている藤原さん達のことを後ろから見守る。
「土曜日に白石君が言っていたように、私の部屋の本棚にもある作品が結構あるね」
「そうだね、千弦ちゃん」
藤原さんと星野さんは予想通りの反応をしてくれたな。
「俺も恋愛やラブコメ、日常系の作品が結構好きだからな。そのジャンルの漫画やラノベは結構読むよ。あとはアニメ化した作品中心に異世界ファンタジーとか。あとは、教科書に出てくる文豪の作品とか、文学系の賞やメディア化した作品中心に一般文芸も結構読むよ」
「白石って色々な本を読んでいるのね。あと、少女漫画も何作もあるのが意外だわ」
「アニメやドラマを観て面白かった作品とか、結菜がオススメしてくれる作品くらいだけど、少女漫画も読むよ」
「そうなのね。白石の言うこと分かるわ。あたしも友達がアニメをオススメしてくれたのがきっかけで、原作の少年漫画を買ったし」
「そうなんだ」
神崎さんも俺に似た経験をしたことがあったか。
神崎さんが言ったことのような経験があるのか、藤原さんと星野さん、結菜も「あるある」と言って頷いていた。そのことに神崎さんは嬉しそうにしていた。
「本棚を見ていると、ジャンル問わず妹がヒロインだったり、主人公だったりする作品がそれなりにあるね」
藤原さんがそう指摘する。なので、俺も本棚を見ると……確かに妹がヒロインだったり、主人公だったりする本がいくつもあるな。
「結菜っていう妹がいるからかなぁ。妹キャラがメインになっている作品を見ると興味が湧くんだよな。アニメも観る」
「ふふっ、なるほどね」
まあ、可愛くて魅力的な妹キャラは何人もいるけど、結菜ほどではないかな。
「結菜ちゃんっていう可愛い妹がいるもんね。もし、妹がいたら、妹メインの作品が気になっちゃうかも」
「彩葉の言うこと分かる。私達、一人っ子だもんね」
「白石とは違って妹はいないけど、あたしは大学生の姉がいるから、漫画とかアニメとかに姉キャラが出ると注目することはあるかな」
「そっか」
みんなに共感してもらえて嬉しいな。
あと、藤原さんと星野さんが一人っ子なのは知っていたけど、神崎さんには大学生のお姉さんがいるのか。もしかしたら、妹がいないことも、年下の結菜を可愛く思える理由の一つなのかもしれない。
「ねえねえ、白石」
「うん?」
神崎さんは頬をほんのりと赤くしながら俺に顔を近づけて、
「白石ってさ……え、えっちな本って持ってるの?」
そんなことを耳打ちしてきた。訊く内容が内容なだけに、神崎さんはしおらしくなっていて。いつもと違った雰囲気で可愛らしい。
神崎さんの言う「えっちな本」というのは、おそらく成人向けの本のことを指しているのだろう。年頃だし、男子高校生は持っているイメージがあるのだろうか。男子の友人達の中では持っている奴はいるな。ちなみに、琢磨は持っていない。
「持ってないよ。一般向けのちょっと刺激的な恋愛系の漫画はあるけど」
肌の露出が多かったり、キスより先のシーンをざっくりと描いていたりしている。ちなみに、そういった漫画は藤原さんの部屋の本棚にもあって。だからといって、藤原さんがえっちな子だとは思わない。
「そ、そっか。男子は持っている人が多いって友達から聞いたことがあるから気になっちゃって。親戚以外は男子の家にあまり行かないし。あと、白石は訊きやすいし」
「そうか」
友人の話の真偽を確かめてみたかったのか。ただ、結菜や藤原さん、星野さんがいる場だから、俺に耳打ちしてきたと。神崎さんの性格からして、堂々と訊いてきそうなイメージがあったけど。
あと、もし、俺が成人向けの本を持っていたら神崎さんはどうしていたんだろうな。読むつもりだったのか? まあ、それは訊かないでおこう。
「……そうだ。みんなに何か冷たいものを用意するよ。もちろん、結菜にもな。何がいい? コーヒーとか紅茶、麦茶なら出せるよ」
「じゃあ、私はコーヒーをお願いするよ。ブラックで」
「私は紅茶で」
「あたしも紅茶がいいな。ガムシロップを入れてくれると嬉しいわ」
「あたしはコーヒーがいいな。ガムシロップと牛乳を入れてカフェオレにしてくれると嬉しいな、お兄ちゃん」
「了解」
こうして色々な飲み物を注文されると、何だかバイト中の気分だ。
「じゃあ、用意してくるよ。みんなは適当にくつろいでいてくれ」
「……あたし、結菜ちゃんの部屋がどんな感じか気になるわ。白石が用意してくれている間に、結菜ちゃんの部屋を見てもいい?」
「いいですよ。千弦さんと彩葉さんも見ますか?」
「ああ。見させてほしい」
「私も見たいな」
「じゃあ、用意できたら呼ぶよ」
『はーい』
4人みんなでしっかりと返事をしてよろしい。
俺は部屋を出て、1階のキッチンに行く。
1階のキッチンに到着し、みんなから注文を受けた冷たい飲み物を用意していく。あと、自分の分のアイスコーヒーも。藤原さんと同じでブラックだ。
飲み物だけじゃなくてお菓子も用意するか。みんな、コーヒーや紅茶を注文したから……クッキーとマシュマロがいいかな。リビングで、ソファーに寄り添いながら学生時代のデートに観た映画を楽しんでいる両親に許可をもらい、クッキーとマシュマロをラタン製のボウルにそれぞれ出した。
5人それぞれの飲み物が入ったマグカップと、クッキーとマシュマロが入ったボウルをトレーに乗せて、自分の部屋に運んでいく。5人分も飲み物があるから、それなりに重量があるな。バイト中でもここまで重いトレーをお客様に渡したり、お客様が待っている席に運んだりすることはあまりない。
2階に上がって自室に戻ると……みんないないか。
トレーをローテーブルに置いて、俺は結菜の部屋へ向かう。
結衣の部屋の前まで前まで行くと、部屋の中からは結菜達の話し声が聞こえる。
――コンコン。
「みんな。飲み物を持ってきたよ。お菓子も持ってきた」
『はーい』
部屋の中から、さっきと同じく4人の声が揃った返事が聞こえた。
それから程なくして、中から扉が開かれる。目の前には結菜がいて、後ろには藤原さん達の姿が。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「ああ。……みんな、結菜の部屋はどうだった?」
「とても可愛い雰囲気の素敵な部屋だったわ!」
「玲央、部屋に入ってからずっと楽しそうだったよね。結菜ちゃんの部屋もとてもいい部屋だと思ったよ」
「そうだね。あと、本棚も見させてもらったけど、結菜ちゃんと好みが結構合うなって思ったよ」
「そっか。兄として嬉しいよ」
部屋を見せて、いい部屋だと言ってもらえて。これで、結菜は藤原さん達とより仲良くなれるんじゃないだろうか。
結菜達と一緒に自室に戻る。
「みんな、好きな場所に座ってくれ」
今日は5人で一緒に過ごすので、事前に結菜の部屋からローテーブルとクッションを持ってきている。俺の部屋にあるローテーブルとくっつけ、その周りにクッションを置いてある。
藤原さんと星野さん、神崎さんと結菜がそれぞれ隣同士に座り、4人は向かい合う。神崎さんはちゃっかりと結菜の隣に座っている。本当に気に入っているんだな。
俺は4人それぞれの前に、先ほど注文された飲み物が入ったマグカップを置き、くっつけたローテーブルの中央にクッキーとマシュマロの入ったボウルを置いた。また、俺のマグカップは、藤原さんと結菜の近くにあるクッションの前に置く。
俺はトレーを勉強机に置き、クッションに座った。左斜め前には藤原さん、右斜め前には結菜がいる。
「みんな、飲み物とお菓子どうぞ」
「ありがとう、お兄ちゃん! じゃあ、いただきます!」
『いただきます』
結菜達はそう言って、俺が作った飲み物を一口飲む。コーヒーはインスタント、紅茶はティーパックで作ったから、ある程度の味であると保証されているけど……それでも藤原さん達に出すのは初めてだからちょっと緊張する。なので、俺はコーヒーを飲まずにみんなのことを見る。
「アイスコーヒー美味しい。ありがとう、白石君」
「アイスティーも美味しいよ」
「あたしの紅茶も美味しい。ガムシロップを入れてくれたから、ほんのりと甘さもあって」
「カフェオレも美味しい! さすがはお兄ちゃん!」
結菜を含めて、みんな俺に笑顔を向けてそう言ってくれた。そのことに心が温まる。
「良かった。美味しいって言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」
インスタントやティーパックを使ったけど、自分で作ったからだろう。今までも結菜や友達にコーヒーや紅茶を作って出したことはあるけど、今回はかなり嬉しかった。土曜日、俺が藤原さんの手作りクッキーを食べたとき、きっと藤原さんはこういう気持ちだったのだろう。
俺も自分のアイスコーヒーを一口飲む。
「……美味しい」
何年も飲んでいるインスタントコーヒーだし、自分が気に入っているいつもの濃さで作っている。だけど、今は特別美味しく感じられた。アイスコーヒーだから、コーヒーの冷たさで体が冷やされていくけど、心にある温もりは強くなっていく。
それからは飲み物やお菓子をつまみながら、学校のことや好きな本や漫画、ラノベ、アニメのことなどで話が盛り上がった。




