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プロローグ『お姉ちゃんって呼んでみてほしい』

特別編2




 7月30日、火曜日。

 俺・白石洋平(しらいしようへい)は、お昼過ぎから恋人の藤原千弦(ふじわらちづる)の家で千弦とお家デートをしている。ただ、夏休みが始まってから10日ほどで、夏休みの課題が終わっていないので、課題をやるのが目的だ。千弦の希望もあり、千弦が苦手意識を持っている物理の課題をやっている。今日中に物理の課題を終わらせるのが目標だ。

 物理の課題は1学期の授業でやった範囲の復習プリントだ。基本的な内容がメインなので、教科書や授業のノートを見れば難なく解ける問題が多い。

 また、たまに応用問題もある。応用問題はなかなかの難易度で、俺も教科書やノートを見たり、問題文を読み取って図を描いたりしてようやく解けた問題もある。

 応用問題は難しい問題が多いので、


「洋平君。問5の応用問題を教えてもらえるかな。考えたんだけど、分からなくて」


 と、千弦から質問を受けることが何度もある。

 苦手意識があるとはいえ、基本的な内容はちゃんとできているので、俺が教えると千弦はすんなりと理解してくれる。それに、教え終わると、


「理解できたよ! 洋平君、ありがとう!」


 と、笑顔でお礼を言ってくれるので、教えると嬉しい気持ちになる。

 たまに千弦からの質問を受けながら、物理の課題を進めていく。


「よし、プリントの1枚目終わったぁ」

「お疲れ様。キリのいいところまで終わったから、一旦休憩するか」

「うん、そうしよう」


 千弦はニコッとした笑顔で快諾してくれた。

 夏休みの課題を一緒にするのが目的だけど、お家デートでもあるので、少し長めに休憩を取ろう。これまでも、一緒に夏休みの課題をしたときには、アニメを観て長めに休憩したことがあった。


「ねえ、洋平君」

「うん?」

「洋平君にお願いしたいことがあって。やってみてほしいといいますか」

「やってみてほしいことか。いったいどんなことだ?」


 こういう風にお願いしてくるってことは、やってみてほしい気持ちが強いことが窺える。できるだけ、千弦のお願いを叶えたい。

 千弦は俺を見つめて、


「私のことをお姉ちゃんって呼んでみてほしいな」


 弾んだ声でそんなことを言ってきた。


「お、お姉ちゃん?」


 予想もしないお願いだったので、気付けばそう言っていた。千弦は「うんっ」と頷く。


「昨日読んだ少女漫画がきっかけなんだけどね。主人公の女の子が、付き合っている後輩の男の子に『お姉ちゃんって呼んでみてほしい』ってお願いして。恋人の男の子がそれに応えて、『お姉ちゃん』って呼んで。そのことに女の子が喜んで。そのシーンを読んで、洋平君に私のことをお姉ちゃんって呼んでほしいなって思ったの」

「そういうことか」


 漫画が好きな千弦らしいきっかけだ。そして、可愛らしい。

 千弦はクッションから立ち上がり、本棚へ行く。本棚から本を1冊取り出してペラペラとめくっている。もしかしたら、あれが千弦が昨日読んだ少女漫画なのかな。


「このページにそのシーンが描いてあるよ」


 そう言い、千弦は俺に本を開いた状態で俺に渡してくれる。

 開かれているページを見てみると、


『ねえ、大輔(だいすけ)君。今日は先輩じゃなくてお姉ちゃんって呼んでほしいな』


 と、女子が大輔という名前の男子に向けてお願いしている。そして、


『分かりました。恵実(めぐみ)……お姉ちゃん』


 と、大輔は、ちょっと照れくさそうに恵実という名前の女子にお姉ちゃん呼びをする。

 お姉ちゃん呼びされた恵実は頬を赤くして、


『いつもと違う呼ばれ方……いい……』


 と、ときめいた様子になった。


「なるほど。このシーンを読んで、千弦も俺にお姉ちゃん呼びしてほしくなったのか。いいシーンだしそうなるのも納得だ」

「そう言ってくれて嬉しいよ。あとは、私の方が誕生日が早いし、今は年齢が違うのもあってお姉ちゃん呼びしてほしいのもあります」

「ははっ、なるほどな」


 千弦の誕生日は7月13日で、俺の誕生日は9月6日だ。なので、今日7月30日現在では、千弦の方が1歳年上である。実際に年齢が1歳違うのもあって、俺にお姉ちゃんと呼ばれたい気持ちが強くなったのだろう。


「分かった。じゃあ、千弦のことをお姉ちゃん呼びしてみるか」

「うんっ!」


 俺は千弦から渡された漫画をローテーブルに置き、千弦と向かい合う体勢に。

 これからお姉ちゃんと呼ばれるからか、千弦はとてもワクワクとした様子だ。その姿は俺の3歳下の妹の結菜(ゆいな)と重なる部分があるので、どちらかと言うと姉よりも妹のような雰囲気だ。可愛いな。

 千弦の目を見つめながら、


「千弦お姉ちゃん」


 と、千弦をお姉ちゃん呼びした。

 いつもとは違う言い方なので、ちょっと照れくさい気持ちになるな。あの漫画の大輔君が照れくさそうになっていたのがよく分かる。

 俺にお姉ちゃん呼びされて、千弦はどうだろうか。


「凄くいいね……!」


 千弦はニッコリとした笑顔でそう言ってくれた。興奮しているようにも見えて。その反応に嬉しい気持ちになると同時にほっとした気持ちにもなる。


「そう言ってくれて嬉しいよ」

「うんっ。ギャップがあってキュンってなった! お姉ちゃんって呼ばれると、洋平君がちょっと幼い感じがして。普段の洋平君は落ち着いていて、しっかりもしていて大人っぽいから」

「そっか。恋人をキュンとさせられて何よりだ」

「ふふっ。……お姉ちゃん呼びされるのが凄くいいから、今度は私のことを抱きしめながら『千弦お姉ちゃん、大好き』って言ってほしいな……」


 その想像をしているのか、千弦は頬を赤く染めてうっとりとした様子になっている。恋人だし、いつもと違う呼ばれ方で好きだと言われたい気持ちは分かる。ほんと、可愛いお願いをしてくる恋人だよ。


「ああ、いいぞ」

「ありがとう!」


 嬉しそうな笑顔でお礼を言うと、千弦は俺のことをそっと抱きしめてきた。涼しい部屋の中なのもあり、柔らかさと共に伝わってくる千弦の温もりがとても気持ちいい。千弦の甘い匂いも香ってくるので快適だ。

 俺は千弦のことを抱きしめて、


「千弦お姉ちゃん、大好き」


 千弦の希望通り、お姉ちゃん呼びをして大好きだと言った。千弦のことが大好きなので、いつもと違う呼び方で大好きだと言うのもいいな。


「……お姉ちゃん呼びされて大好きって言われるのもいいねっ。ありがとう、洋平君」


 満足そうな笑顔でお礼を言うと、千弦は俺にキスをしてきた。お姉ちゃん呼びしたり、大好きだと言ったりしたことのお礼のキスかな。

 これまで千弦にたくさんキスされてきたけど、千弦に初めてお姉ちゃん呼びをした直後のキスなので何だか新鮮な感じがした。

 数秒ほどして、千弦から唇を離した。目の前には嬉しそうな千弦の笑顔がある。


「お礼のキスをしました」

「そうか。満足してくれて良かったよ」

「ありがとう、洋平君」

「いえいえ。……俺も千弦に『洋平お兄ちゃん、大好き』って言ってもらいたいな。千弦をお姉ちゃん呼びしてたら、俺もお兄ちゃんって呼ばれたくなってさ。俺の方が誕生日が遅いから変かもしれないけど」

「ふふっ。いいよ。じゃあ、まずはお兄ちゃんって呼んでみるね。……洋平お兄ちゃん」


 千弦は俺を見つめながら俺をお兄ちゃん呼びしてくれた。

 大好きな千弦に呼ばれているし、千弦が笑顔なのもあってキュンとなる。これがさっき、千弦が感じていた感覚なのだろう。


「……いいな、お兄ちゃん呼び。キュンとなった。さっきの千弦の気持ちが分かった」

「ふふっ、良かった。洋平君は結菜ちゃんっていう妹さんがいるし、結菜ちゃんからお兄ちゃんって呼ばれているから、私にお兄ちゃん呼びされるのはどう思うのかなって思っていたの」

「そうだったのか。結菜の友達から『お兄さん』とかって呼ばれてもあまり感じないけど、大好きな千弦からお兄ちゃん呼びされると本当にいいなって思うよ」

「そうなんだね。洋平君がそう言ってくれて嬉しいよ。……じゃあ、大好きって言うね。洋平お兄ちゃん、大好き」


 千弦はニコニコとした笑顔で、俺をお兄ちゃん呼びして大好きだと言ってくれた。大好きって言われたので、さっき以上にキュンとなる。


「凄くいいぞ、千弦。お願いしてみて良かった。ありがとう」

「いえいえ。喜んでくれて良かった」

「……ありがとな」


 再びお礼を言って、俺は千弦にお礼のキスをした。

 先ほどと同じように、千弦にキスをしたことはこれまでにたくさんしてきたけど、千弦に初めてお兄ちゃん呼びされたのもあり新鮮な感じがした。

 数秒ほどキスをして、俺から唇を離す。すると、目の前には千弦のニコニコとした可愛い笑顔があって。


「さっきの千弦お姉ちゃんに倣ってお礼のキスをしたよ」

「なるほどね、洋平お兄ちゃん」


 ふふっ、と千弦は楽しそうに笑った。

 お互いに「お姉ちゃん」「お兄ちゃん」と呼び合うのは新鮮で楽しかったな。千弦にお兄ちゃんって呼ばれてキュンとなったし。もしかしたら、今後も年齢が違う今の時期を中心に、この呼び方をしてみることがあるかもしれない。

新しい特別編がスタートしました! 既に完成しており、全8話でお送りします。

1日1話ずつ公開していく予定です。よろしくお願いします。

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