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第13話『波打ち際で追いかけっこ』

 体の前面に日焼け止めを塗り終わったときには、千弦は神崎さんの脚に日焼け止めを塗り終えていた。なので、千弦と一緒にレジャーシートを出て、プールデートのときと同じように軽く準備運動をする。

 プールデートのときにも思ったけど、水着姿で準備運動をしている千弦は時折セクシーな雰囲気になるからドキドキさせられる。あと、日なたで準備運動をしているから、プールデートのとき以上に美しく見える。

 琢磨や吉岡さん、山本先生、星野さん、結菜は俺と千弦よりも前から体を伸ばしている。

 俺と千弦が準備運動を始めた直後、日焼け止めを塗り終わった神崎さんも準備運動を始める。

 準備運動の内容は違うけど、みんな一緒に準備運動をしているし、山本先生という教師がいるので、まるで体育の授業のように思えた。


「よし、このくらいでいいかな。あたし、持ってきた遊具をポンプで膨らませるよ」

「あたしも持ってきた遊具を膨らませるわ」


 吉岡さんと神崎さんはそう言った。

 数日前にグループトークで話し合い、海水浴に必要なものを学生7人で分担して持ってくることになったのだ。その際、吉岡さんと神崎さんが遊具担当になった。ちなみに、山本先生はレンタカー代を出してくれ、行き帰りで運転してくれるので持ち物分担からは除外している。

 吉岡さんはバッグからビーチボールやフロートマット、水鉄砲、膨らますためのポンプを取り出す。

 神崎さんはバッグから浮き輪とフロートマット、ビーチボール、膨らますためのポンプを取り出した。2人とも海水浴で定番の遊具を持ってきたんだな。

 遊具担当の神崎さんと吉岡さんを中心に、みんなで2人が持ってきた遊具をポンプで膨らませていった。


「全部膨らませられましたね。遊具がいっぱいますし、何か使って遊びたいです」

「それなら、あたしが持ってきたこのフロートマットがオススメよ! フロートマットに乗るのは気持ちいいし。それに、これは2人一緒に乗れるサイズだから、結菜ちゃんと一緒に乗りたいわ!」


 ニコニコとした笑顔でそう言い、神崎さんは持参して膨らませた大きいフロートマットを持ってくる。結菜をはじめとした女性陣と一緒に乗りたいからこのフロートマットを持ってきた感じがする。


「いいですね! 一緒に乗りましょう!」


 結菜はいつもの明るい笑顔で快諾する。


「ありがとう、結菜ちゃん……!」


 とっても嬉しそうな笑顔でお礼を言う神崎さん。良かったね、神崎さん。


「ふふっ。じゃあ、私は2人の近くで、玲央ちゃんが持ってきてくれたこの浮き輪に座ろうかな。浮き輪に座るの好きだから」

「彩葉ちゃんはよく浮き輪に座るもんね」


 千弦がそう言うと、星野さんは「うんっ」と頷いた。

 神崎さんと結菜はフロートマットを、星野さんは浮き輪を持って楽しげな様子で海へと向かっていった。


「ねえ、琢磨君。ビーチボールを使って一緒に遊ぼう!」

「おう、いいぞ!」


 琢磨と吉岡さんははしゃいだ様子で、吉岡さんが持ってきたビーチボールを持って波打ち際へと向かった。そういえば、去年も琢磨と吉岡さんは海水浴デートでビーチボールを使って遊んだって言っていたな。あと、2人とも部活でバスケをやっているので、ボールを使って遊ぶのは2人らしさを感じる。


「私はとりあえずレジャーシートの中でゆっくりしているよ。久しぶりに運転したから、ちょっと疲れがあって。それに、みんなが遊んでいるのを眺めたいから」


 山本先生はそう言うと、レジャーシートの中に入り、海の方に向かってうつ伏せの状態になる。両手で頬杖をして。その姿は大人っぽさもあれば可愛らしさも感じられた。

 遊ぶのはもちろん、山本先生のようにゆっくりするのも海水浴の楽しみ方の一つだろう。


「千弦。俺達はどうしようか? 何かやりたいことはある?」

「うん、あるよ。洋平君と一緒に海でやりたいことが」

「どんなことだ?」

「波打ち際で洋平君に追いかけられたいな。それで、洋平君に抱きしめられるの。恋愛系の漫画やアニメやドラマでそういったシーンを何回か観たことがあるからやってみたくて」


 千弦は笑顔でそう言ってくる。やりたいことが可愛らしいな。


「波打ち際で追いかける……か。俺もアニメとかでカップルがそういうことをするシーンを見たことあるな。やってみようか」

「うんっ! ありがとう!」


 千弦は嬉しそうにお礼を言った。

 俺は千弦と一緒に波打ち際まで向かう。

 波が押し寄せるので、定期的に海水が足元にかかって。ちょっと冷たさが感じられて気持ちがいい。


「海水、ちょっと冷たくて気持ちいいね」

「そうだな。……追いかけるから、ちょっと離れた方がいいな」

「ふふっ、そうだね」


 千弦は海水浴場の端の方に向かって歩いていく。千弦が離れていくから、千弦を捕まえたい気持ちが膨らんできたぞ。

 5、6m離れたところで千弦は立ち止まり、俺の方に振り返った。


「じゃあ、私のことを捕まえてー!」

「ああ、分かった」


 そう返事をすると、千弦は小走りで海水浴場の端に向かっていく。

 周りにあまり人がいないのを確認して、俺は千弦よりも少し速い速度で千弦のことを追いかけ始める。


「千弦、待て待てー」

「ふふっ。捕まえてみてー」


 千弦はこちらに笑顔を向けながらそう言ってくる。……可愛いぞ。捕まえたい気持ちがもっと膨らんできた。

 ゆっくりとした速度で千弦を追いかけるだけなのに凄く楽しい。カップルが波打ち際で追いかけるシーンがあるのも納得かも。

 千弦よりも速く走っているので、段々と千弦に近づいていって、


「捕まえた」


 千弦のことを後ろからそっと抱きしめた。水着姿なので千弦の肌が直接触れて、とても抱き心地がいい。ゆっくりとした速度だけど、千弦を捕まえられたことに達成感がある。

 千弦は俺の方に振り返って、


「ふふっ、捕まっちゃった」


 可愛い笑顔で俺のことを見つめながらそう言った。物凄く可愛い。それもあって、千弦を抱きしめる力が自然と強くなる。


「洋平君に追いかけられて、捕まえられるの楽しかった」

「そっか。良かったよ。……俺も千弦を追いかけて捕まえるのが楽しかった。ゆっくりだけと千弦が逃げるから『捕まえたい!』って気持ちになったな。それが良かった」

「ふふっ、そっか。私も洋平君が段々と近づいてくるのが良かったな。洋平君も楽しんでくれて良かった。洋平君、ありがとう」

「いえいえ。こちらこそありがとう」


 千弦の頭をポンポンと優しく叩くと、千弦は柔らかい笑顔になり「えへへっ」と声に出して笑った。……可愛すぎるんですけど。それもあって、俺は千弦にキスをした。

 千弦にキスした瞬間、千弦は体をピクッと震わせた。また、「きゃあっ」という女性の黄色い声や「おおっ」という男性の声や、


「ふふっ、2人ともラブラブだね!」

「……おっ、そうだな」


 という吉岡さんと琢磨の声が聞こえた。2人にも見ているのか。

 数秒ほどして、俺から唇を離した。すると、目の前には頬をほんのりと赤くした千弦の笑顔があって。


「いきなりキスされたからビックリしちゃった」

「体がピクッと震えてたもんな。頭を撫でたときの千弦が可愛くてつい」

「ふふっ、そっか。……ねえ、洋平君。今度は洋平君を追いかけてもいい? 洋平君の話を聞いたら、私も追いかけたくなってきた」

「ああ、いいぞ」

「ありがとう!」


 俺は千弦への抱擁を解いて、砂浜の端の方へ5、6mほど移動する。


「じゃあ、追いかけてきてくれ」

「うんっ!」


 俺は砂浜の端の方に向かってゆっくりと走り始める。


「洋平君、待って~」


 千弦はいつもより緩い声色でそう言ってきた。

 千弦の方を振り返ると、千弦はとっても楽しそうな笑顔で俺のことを追いかけてきている。千弦が可愛いので今すぐにでも進路変更をして千弦の方に向かいたいけど、その気持ちを抑えて逃げることに徹する。ゆっくりだけど。

 時々、千弦の方に振り返りながら俺は逃げていく。

 段々と千弦が近づいてくる。千弦の言う通りそれがいいなって思える。


「捕まえたっ!」


 千弦は後ろから俺のことをそっと抱きしめてきた。この抱きしめられる感覚もいいな。


「捕まっちゃったな」


 そう言い、千弦の方に振り返ると、目の前には笑顔の千弦がいた。俺と目が合うと千弦はニコッと笑いかけてきて。そのことにキュンとなる。捕まって良かったなって思える。


「追いかけるのも楽しかった。洋平君が『捕まえたい気持ちになる』って言っていたのが分かったよ」

「嬉しいな。俺も千弦が段々近づいてくるのがいいなって思ったよ。追いかけられるのもいいな」

「そう言ってくれて嬉しい。追いかけっこしてくれてありがとう」


 笑顔でお礼を言うと、千弦は俺にキスしてきた。千弦に追いかけられて楽しかった流れでするキスだからとてもいいなって思えた。

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