第8話『バイト先にやってきた。-水着購入報告編-』
7月22日、日曜日。
今日は午前10時から午後6時まで、ゾソールというチェーンの喫茶店でバイトのシフトに入っている。夏休みになってから初めてのバイトだ。
朝からよく晴れているからだろうか。たくさんのお客様が来店される。そして、涼しい店内でゆっくりされるお客様もたくさんいる。
シフトに入った直後から、ほぼ休みなく接客している。そのことに大変さを感じるときもあるけど、時間があっという間に過ぎていくのでこういう日もいいと思える。
何度か休憩を挟んで、お昼過ぎのこと。
「こんにちは、白石君。バイトお疲れ様」
山本先生が来店された。
山本先生は俺と目が合うと、優しい笑顔を見せる。休日なのもあってか、学校にいるときよりも柔らかい雰囲気だ。
「ありがとうございます。先生はいつものように、コーヒーか紅茶を飲みながら読書しに来たんですか?」
「ええ、そうよ。私の好きな時間だから。あと、ここに来る前にセントラル洲中で水着を買ってきたわ。来週の海水浴に向けてね。家には大学時代に買った水着があるけど、新調したの」
山本先生は明るい笑顔でそう言った。終業式の日に海水浴が楽しみだと言っていたし、これを機に水着を新調したのかも。
ちなみに、セントラル洲中というのは、このお店の近くにあるショッピングセンターのことだ。そこの水着売り場は水着の種類が豊富だ。先月、プールデートのために千弦も俺も水着を新調した際、新しい水着をセントラル洲中で購入した。
「そうでしたか。気に入った水着を買えましたか?」
「ええ。海水浴がより楽しみになったわ」
山本先生はそう言うと、ニコッとした笑顔を見せてくれる。それもあって幼さも感じられて可愛らしい。
「それは良かったです」
俺がそう言うと、山本先生は可愛い笑顔のまま「ええ」と頷いた。
その後、山本先生はアイスコーヒーのSサイズを注文した。
山本先生はカウンター席に座って本を読み始める。サイズ的に文庫本だろう。先生はBL小説が特に好きだから、今日もBLかな。俺が接客したときの先生は可愛らしい雰囲気だったけど、本を読む先生はとても美しい。
たまに、本を読む山本先生の姿を見ながら、俺は接客の仕事を続けていく。
そして、午後4時過ぎ。
「おう、洋平。バイトお疲れさん!」
「バイトお疲れ様、白石君」
琢磨と吉岡さんが来店してきた。手を繋ぎながら、仲睦まじい様子で。そんな2人を見るだけでバイトの疲れが取れていくよ。
「2人ともありがとう。今日は……デートかな」
「そうだ! 今日は早希も俺も部活が休みだからな!」
「あたしが誘ったの」
「そうか」
やはりデートだったか。
今までも、こうしてデート中の琢磨と吉岡さんが来店してきたことが何度もある。
「デートしたいのはもちろんだけど、来週の海水浴に向けて水着を新調したいから、琢磨君に選んでほしくて。去年の海水浴デートでは当日のお楽しみだったんだけど、白石君と千弦が水着を新調した話を聞いたら、今年は琢磨君がいいなって思う水着を買いたくて」
「その話を早希に聞いたら、俺も早希に選んでほしくなってな。さっき、セントラル洲中で水着を買ってきたんだ!」
「そうだったのか」
山本先生に続いて、琢磨と吉岡さんもセントラル洲中で水着を購入したか。まあ、琢磨は地元民だし、千弦と俺がセントラル洲中で水着を買ったって話したからな。その影響があるのかもしれない。
「色々な水着を試着する早希を見られて幸せだったぜ。可愛かったし、綺麗だからな!」
「もう琢磨君ったら。あたしも色々な水着姿の琢磨君を見られて良かったよ。かっこよかったから」
そのときのことを思い出しているのか、琢磨も吉岡さんも幸せそうな笑顔になっている。今の2人を見ていると微笑ましい気分になるよ。
「水着を買うのが楽しかったようで何よりだ」
「おう! 早希がいいって言ってくれた水着を買ったぜ!」
「あたしもね!」
「そっか。それは良かった」
「おう! で、今日は洋平がシフトに入っているって終業式の日に言っていたから来たんだ」
「冷たいものを飲んだり、スイーツ食べたりしながらゆっくりできるからね」
「そうか。来てくれて嬉しいよ」
俺がそう言うと、琢磨と吉岡さんは持ち前の明るい笑顔を見せてくれた。
その後、琢磨はアイスコーヒーのMサイズにチーズケーキ、吉岡さんはアイスティーのMサイズにミルクレープを注文した。また、商品を渡す際に山本先生が来ていると教えた。
琢磨と吉岡さんは席に向かう途中で、カウンター席で読書している山本先生に声をかけていた。3人の笑い声が聞こえる。
少し話した後、琢磨と吉岡さんは山本先生のいるカウンター席から離れた場所にある2人用のテーブル席に座った。2人はデート中だし、先生は読書中だからかな。
その後は山本先生だけでなく、琢磨と吉岡さんの姿をたまに見ながら接客していく。
琢磨と吉岡さんは、お互いにスイーツを一口食べさせ合うなどラブラブな様子で。琢磨の親友として、吉岡さんの友人として本当に嬉しい限りだ。
山本先生、琢磨&吉岡さんの来店もあり、この日のバイトは最後まで難なくこなすことができた。
翌日の月曜日も、同じ時間でシフトを組んでいた。
平日だけど、夏休みの期間なのもあって、普段の土日くらいのお客様が来店されている。
また、今日は夕方に千弦と星野さんと神崎さんと結菜が来てくれる予定になっている。午後4時頃に神崎さんと結菜がそれぞれの部活が終わるから、その後に星野さんと神崎さんと結菜が海水浴に向けてセントラル洲中で水着を購入し、その流れでここに来てくれるとのことだ。海水浴に一緒に行くメンバーが全員来店するから、水着を買ったら俺のところに来る決まりでもあるのかと思ってしまうよ。
千弦達が来店するのを楽しみに、今日もバイトを頑張っていく。
何度か休憩を挟んで、今日のバイトも残り1時間ほどになった午後5時過ぎ。
「洋平君、来たよ。バイトお疲れ様」
「バイトお疲れ様、白石君」
「お疲れ、白石」
「お連れ様、お兄ちゃん!」
約束通り、千弦と星野さんと神崎さんと結菜が来店してくれた。
千弦と星野さんは私服姿で、神崎さんと結菜は部活帰りなのもあって学校の制服姿だ。また、千弦は俺からの誕生日プレゼントのペアネックレスを付けてくれている。
千弦達が来てくれて、お疲れ様と労いの言葉を言ってくれて嬉しい。7時間ほどバイトをしてきた疲れが取れていくよ。
「いらっしゃいませ。みんなありがとう。結菜と神崎さんは部活お疲れ様。星野さんと結菜と神崎さんは水着を買ったんだよな。いいなって思えた水着は買えたか?」
「うん、買えたよ。千弦ちゃん達と一緒に見て、可愛い水着を買えたよ」
「あたしも買えたわ。セントラルは水着の種類が豊富だから迷ったわ。3人が一緒だったから選べたわ」
「いい水着がいっぱいありましたもんね。あたしも買えたよ、お兄ちゃん! どんな水着か楽しみにしててね!」
「ああ、楽しみにしているよ、結菜。3人ともいい水着を買えて良かった」
俺がそう言うと、星野さんと結菜と神崎さんは笑顔で頷いた。
「私は3人の水着を買うのに付き合っただけだけど楽しかったな。色々な水着を試着した3人を見られたし」
「そっか。楽しめて良かったな」
「うんっ」
「あたしも楽しかったわ! 結菜ちゃんと彩葉の水着姿をたくさん見られたし! スマホで写真も撮れたし!」
とってもいい笑顔でそう言う神崎さん。本当に楽しかったのだと分かる。そんな神崎さんに、千弦と星野さんと結菜は声に出して笑っている。あと、心なしか神崎さんのお肌のツヤが普段よりもいいような。
「玲央ちゃん……自分のときよりも、結菜ちゃんやあたしの水着を選ぶときの方が張り切っていたもんね。特に結菜ちゃんには」
「そうでしたね。色々と候補の水着を渡してくれましたし」
「凄く楽しそうだったよね」
「結菜ちゃんも彩葉も可愛いから色々な水着が似合いそうだと思って。それに、試着した姿を見たかったし」
神崎さんはそう言うけど、水着を試着した姿を見たかったのが一番の理由に思えるのは俺だけだろうか。あと、候補の水着を張り切って選ぶ神崎さんの姿が容易に思い浮かぶ。
「神崎さんらしいね」
「そうだね、洋平君。……そろそろ注文しようか」
その後、千弦はアイスコーヒーSサイズ、星野さんはアイスティーSサイズ、神崎さんはタピオカミルクティー、結菜はタピオカ抹茶ラテを購入した。
千弦達は4人用のテーブル席に行った。俺のシフトが午後6時までなので、4人はシフトが終わるまでいてくれるという。
談笑する千弦達の姿を時々見て癒やされながら、俺はシフトが終わるまでバイトを頑張った。
シフト通りにバイトが終わってお店を出ると、
「バイトお疲れ様。昨日もバイトだったんだよね。本当にお疲れ様、洋平君」
と、千弦がキスをしてくれた。昨日と今日のバイト代はこのキスで十分だと思えるくらいにいいキスだった。