第7話『膝枕をしてみたい』
「……で、これが答えになるんだ」
「なるほどね! 理解できたよ、ありがとう。よしっ、これで私も数B終わったぁ!」
「お疲れ様」
午後5時半過ぎ。
千弦も数学Bの課題が終わった。
ちなみに、俺は30分以上前に数Bの課題が終わった。なので、それ以降は午前中に途中まで手を付けていた現代文の課題を取り組んでいた。
「ありがとう。洋平君もお疲れ様。あと、洋平君と一緒に課題をやって良かったよ。応用問題で分からないところがいくつもあったから。洋平君に質問して分からないのを解決できたからね。本当にありがとう!」
千弦はニコニコとした笑顔でお礼を言ってくれた。俺に質問して分からない問題を解くことができたことや、不安な部分がある数学Bの課題を終えられたのが嬉しいのだろう。
千弦の笑顔を見ていると胸がとても温かくなる。
「いえいえ。俺も千弦に教えて理解が深まったよ。それに、千弦と一緒だから凄く頑張れたし。こちらこそありがとう」
「いえいえ。これからも、こうやって一緒に課題をしようか」
「ああ、そうしよう」
今日は俺から誘ったのもあり、千弦から「一緒に課題をしよう」と言ってもらえるのはとても嬉しい。
「休憩を挟んだけど、長時間も数学Bの課題をやったから疲れたな。もちろん、千弦に教えるのが大変だったわけじゃないぞ」
「ふふっ。まあ、課題をやったから、私もちょっと疲れたな。ただ、洋平君と一緒に課題をしたし、数Bの課題を終わらせられたからこの疲労感は悪くないけどね」
う~んっ、と千弦は可愛らしい声を上げながら体を伸ばす。ノースリーブのブラウスを着ているのもあって、千弦の綺麗な腋がよく見えて。それを含めて、体を伸ばす姿は絵になってそそられるものがある。
「ねえ、洋平君」
「うん?」
「……膝枕しようか? 疲れがあるなら横になった方がいいだろうし。あと、洋平君に膝枕をしたことがないから、膝枕をしてみたい気持ちもあります」
千弦はニコッとした笑顔でそう言ってくる。
膝枕か。考えてみれば、千弦に膝枕をしてもらったことは一度もなかったな。千弦の膝枕がどんな感じなのかは非常に興味がある。
「分かった。千弦のお言葉に甘えて、千弦に膝枕してもらおうかな。で、その後に俺が千弦に膝枕したい」
千弦に膝枕をしたらどんな感じなのかも興味があるからな。
「うん、分かった! ありがとう! じゃあ、まずは私が洋平君に膝枕するね!」
千弦はとても嬉しそうな様子でお礼を言った。
ベッドで横になった方が気持ちいいだろう、という千弦の意見もあり、ベッドの上で膝枕をしてもらうことに。
千弦はベッドの端に腰を下ろして、
「洋平君。どうぞ」
右手で自分の太ももをポンポンと叩きながら、優しい笑顔で俺にそう言ってくれた。その姿はとても大人っぽくて、艶っぽさも感じられた。
俺はベッドに乗り、「失礼します」と言って、頭を千弦の脚に乗せる形でゆっくりと仰向けになった。
膝枕だから、後頭部から千弦の脚の柔らかさや温もりが伝わってきて。呼吸する度に千弦の甘い匂いが感じられて。ベッドの上にいるのも相まって本当に気持ちいい。
あと……仰向けの状態だから、視界には千弦の大きな胸があり、存在感が結構ある。胸が大きいから影ができて。これまでも千弦の胸の大きさを実感するときが何度もあったけど、こういう形で千弦の千弦の胸の大きさを実感できるとは。
「どうかな?」
千弦は俺を覗き込みながらそう問いかけてくる。
「凄く気持ちいいよ」
「そっか。良かった」
「あと、ベッドに横になるのも気持ちいいな」
「でしょう?」
「それと……千弦の胸の存在感があるなと」
「あははっ。胸が目の前にあるもんね。……ただ、胸のことも言うなんて。本当に洋平君は私の胸が大好きだね」
「ああ」
正直にそう答えると、千弦は「ふふっ」と声に出して笑う。
「千弦は俺を膝枕してみてどうだ?」
「気持ちいいよ。脚に洋平君の重みとか温もりが感じられて。あと、こうやって見下ろして洋平君の顔を見るのもいいなって思うよ」
千弦はニコッと笑いながらそう言う。
「そうか。良かった」
俺がそう言うと、千弦は「うんっ」と頷く。
千弦は俺の頭を撫でたり、お腹をポンポンと優しく叩いてくれたりしてくれる。その力加減が絶妙なのもあって、本当に気持ちがいい。
「洋平君って、今まで膝枕をしてもらったことってある?」
「あるよ。ただ、小さい頃に家族や親戚にしてもらったくらいだな。だから、家族や親戚以外だと千弦が初めてだよ」
「そうなんだ。嬉しい」
ニコッと笑う千弦。可愛いな。
「ちなみに、膝枕したのは?」
「結菜くらいだな。だから、家族以外に膝枕するのも千弦が初めてだよ」
「そうなんだね」
「千弦はどうなんだ? これまでの膝枕歴は」
「膝枕歴って。お母さんとお父さんには膝枕してもらったことがあるよ。あと、彩葉ちゃんとか仲のいい女の子の友達とは膝枕し合ったこともあるかな」
「そうなのか。女子同士だとそういうことがあるのかな」
「かもね。あとは、以前は王子様みたいに振る舞っていたのもあるかも。『膝枕して!』ってお願いする友達もいたよ。膝枕したら黄色い声を上げて喜んでたな」
「そうだったんだ」
王子様のように振る舞う千弦はかっこいいからな。そんな千弦に膝枕してほしいと頼んで、膝枕をしてもらったら喜ぶ女子がいるのも納得だ。
「男性に膝枕をするのは洋平君が初めてだよ。お父さん以外の男性に膝枕してもらうのもね」
「そっか。嬉しいな」
こういうことでも、千弦の初めてが自分なのは嬉しいな。嬉しい気持ちもあって、膝枕がより気持ち良く感じられた。
「千弦。膝枕ありがとう。気持ち良かったから、疲れ取れたよ」
「ふふっ、良かった。私も膝枕するの気持ち良かった」
「そっか。良かったよ。……じゃあ、今度は千弦を膝枕しよう」
「うんっ、お願いします」
俺はゆっくりと体を起こす。千弦の膝枕のおかげで、さっき感じていた疲労感もなくなっていてスッキリしている。
千弦がベッドから降りた後、俺は千弦が座っていた場所に腰を下ろす。お尻から千弦の温もりを感じる。この感覚は新鮮でなかなかいい。
千弦はベッドに乗って、「失礼しますっ」と言い俺の脚に頭を乗せた。
脚には千弦の頭の重みと温もりを感じられて。気持ち良くていいな。きっと、千弦も俺を膝枕していたときはこういう感じだったのだろう。
「千弦、どうだ?」
「凄くいいよ。後頭部から洋平君の温もりを感じるし。洋平君のいい匂いがするし。あと、さっきまで洋平君が仰向けになっていたから、首より下も温かくて気持ちいい」
千弦はとても柔らかい笑顔でそう言ってくれる。気持ち良く思っている千弦の気持ちがひしひしと伝わってくるよ。
あと、仰向けで俺を見上げてくる千弦が可愛い。
「それは良かった」
「洋平君は膝枕してみてどう? 重くない?」
「大丈夫。脚に千弦の頭の重みとか温もりとか感じられて気持ちいいよ」
「それなら良かったよ」
先ほどの千弦のように、俺は右手で千弦の頭を優しく撫で、左手でお腹のあたりをポンポンと優しく叩く。
「あぁ……凄く気持ちいい。課題をした疲れが取れていくよ……」
「嬉しい言葉だ」
大好きな恋人を癒やせて何よりである。
それから少しの間、千弦と雑談しながら千弦に膝枕し続けた。
「洋平君。膝枕ありがとう。疲れが取れたよ」
「いえいえ」
「……もう6時近いんだね。そろそろ帰ろうかな」
「分かった。じゃあ、送っていくよ。今日も駅までにする?」
「うん。いつも通り、洲中駅の南口までお願いします」
その後、俺は千弦と一緒に部屋を出る。
帰る前に、千弦はリビングにいる両親に挨拶した。
また、その際に、部活が終わり、友達と駅前のショッピングセンターへ行っていた結菜が帰ってきたので、結菜にも挨拶していた。海水浴へ行く約束をしてから初めて会うので、「海水浴楽しみだね!」ときゃいきゃいとした様子で言葉を交わしていた。
俺の家族と挨拶し終わり、千弦と俺は一緒に家を出る。
午後6時を過ぎて陽もだいぶ傾いてきたけど、なかなか蒸し暑い。これもまた夏本番って感じがする。
「お昼に洋平君の家に行くよりはマシだけど、まだまだ蒸し暑いね」
「そうだな。夏本番の暑さって感じがする」
「そうだね。暑い中歩いていると、みんなで行く海水浴がより楽しみになるよ」
「分かるなぁ。それに、2人で行ったプールは冷たくて気持ち良かったし」
「そうだね。……海水浴ではプールデートで着た水色のビキニを着るからね。洋平君に選んでもらったし」
「おっ、楽しみだ。俺も千弦に選んでもらった黒い水着を着るよ」
「うんっ。楽しみ」
千弦はニコッと笑いながらそう言った。プールデートで着ていた水色のビキニ姿の千弦をまた見られると思うと、海水浴がより待ち遠しくなる。
その後は先月に行ったプールデートのことや、今まで行った海水浴のことを話しながら洲中駅の南口まで向かった。
「ここまでで大丈夫だよ。送ってくれてありがとう」
「いえいえ。……今日はありがとう。課題も捗ったし、アニメを見られたし、膝枕もできたたから
「いえいえ。こちらこそありがとう。数Bの課題を終わらせられたし、アニメを観たり、膝枕をしたりするのは楽しかったし。誘ってくれてありがとう」
千弦はニコッとした笑顔でお礼を言ってくれた。そのことに胸がとても温かくなる。
「誘って良かったよ、千弦」
「うんっ。今日みたいにまた課題しようね。じゃあ、またね、洋平君」
「ああ、またな。……別れる前にキスしていいか?」
「うんっ」
千弦は笑顔で首肯すると、ゆっくりと目を瞑る。
俺は千弦の両肩にそっと手を乗せて、千弦にキスをした。
今も蒸し暑いけど、千弦の唇から伝わる温もりはとても優しくて心地いい。
数秒ほどして、俺から唇を離す。すると、目の前には頬を赤くした笑顔で俺を見つめている千弦がいた。
「じゃあ、またねっ」
「またな。気をつけて帰れよ」
「うんっ」
千弦は明るい笑顔で俺に手を振り、洲中駅の中に入っていく。
千弦の姿が見えなくなるまで、俺はその場で洲中駅の方を見続けた。