第5話『夏休みの始まり』
7月20日、土曜日。
今日から高校2年生の夏休みがスタートした。
去年までとは違い、今年は千弦という恋人がいる中で夏休みを迎えた。去年の夏休みには想像できなかったことだ。当時の俺に今の状況を伝えたらどう思われるだろうか。千弦のことは王子様系の女子として知っていたし、バイト先で何度も接客したことはあったけど。友人ならまだしも、恋人だと信じてくれないかもしれない。
今年の夏休みはどんな夏休みになるだろうか。
ちなみに、去年の夏休みはバイトをしたり、アニメや漫画やラノベなどの趣味を謳歌したり、琢磨など男の友人達と一緒に海などへ遊びに行ったりした。楽しい夏休みだった。
ただ、今年は……千弦という恋人の存在もあって、今年の夏休みは今までで一番楽しい夏休みになりそうな気がする。実際にそうなるように頑張っていきたい。
「千弦のことを考えたら、千弦に会いたくなってきたな……」
今日はバイトや千弦とのデートなどの予定は特にないけど、千弦とデートに誘いたくなってきた。今は午前10時半過ぎだし、晴れて暑いから、午後からお家デートがいいだろうか。もし、お家デートになって、千弦も夏休み序盤から課題をやるタイプだったら、一緒に課題をやるのもいいかも。これまで、休日に一緒に課題をしたこともあるし。あとは、去年の夏休み、琢磨と吉岡さんは2人とも部活が休みのときに一緒に課題をした日もあったと言っていたから、千弦と一緒にやってみたいのもある。
千弦からは今日は予定が入っているとは聞いていないけど、まずは確認してみよう。
ローテーブルに置いてあるスマホを手に取り、
『おはよう、千弦。千弦って、今日の午後は何か予定ってある?』
LIMEで千弦に向けてそういったメッセージを送った。もし、予定がないと返信が来たらデートに誘おう。
俺が送信したメッセージは15秒ほどして『既読』のマークが付き、
『おはよう、洋平君。今日の午後は特に予定ないよ』
千弦からそんな返信が届いた。
今日の午後は特に予定はないか。それを知って、ちょっと胸が躍る。「特に予定ないよ」という文言が輝いて見えてきた。
『千弦に会いたくなってさ。今日の午後にデートしたいなって。晴れて暑いから、どっちかの家でお家デートをするのはどうかなって思ってて』
『ふふっ、そっか。会いたいって言ってくれて嬉しい。お家デートいいね!』
『じゃあ、午後にお家デートしようか』
『うんっ』
デートのお誘いを受けてくれて嬉しいな。
『千弦の家か俺の家、どっちにする?』
『洋平君のお家がいいな。最近は私の家でお泊まりしたり、お家デートしたりすることが多かったから、洋平君のお家に行きたい気分です』
『そっか。分かった。俺の家でお家デートしよう』
『うんっ、ありがとう!』
というメッセージの後に、『ありがとう!』という文字付きの笑顔の猫のイラストスタンプが送られてきた。可愛いな。
文字や猫のイラストスタンプだけど、ニコニコしている千弦の笑顔が頭に思い浮かぶよ。
『あのさ、千弦。訊きたいことがあるんだけど、いい?』
『うん、どんなこと?』
『千弦って夏休みの課題って序盤からやるタイプ?』
千弦は普段から授業の予習復習をしているし、授業で出た課題もしっかりこなす。だから、夏休みの課題も序盤からやるイメージがある。
『うん、序盤からやるタイプだよ。日記系以外は、だいたいお盆までには終わるかな。今日は特に予定なかったから、課題をやっていこうかなって思っていたんだ』
『そうなんだ』
『洋平君は課題はどう取り組んでる?』
『俺も千弦と同じで、序盤からやるタイプだよ。日記系以外は8月の上旬からお盆くらいまでには終わるよ』
『そうなんだね! ……ところで、課題の取り組み方なんて訊いてどうしたの?』
『もし、千弦も序盤からやるタイプなら、一緒に夏休みの課題をするのも良さそうだなと思って。あと、去年の夏休みに琢磨と吉岡さんが一緒に課題をしたって言っていたから、俺も千弦と一緒に課題をやってみたい気持ちもある』
『ふふっ、なるほどね。そういうこと』
『ああ。……千弦さえ良ければ、一緒に課題やるか?』
千弦にそう訊いてみる。1学期の間に、休日に課題を一緒にやったことはあるけど……どうだろうか。
『一緒にやるのいいね! 洋平君と一緒なら、一人でやるよりも頑張れそうだし、捗りそう。それに、理系科目はまあまあの成績を取れたけど、不安なところもあるし、課題で詰まっちゃうことがあるかもしれないし。そういうときにすぐに訊けるから。洋平君、分かりやすく教えてくれるし』
『そう言ってくれて嬉しいな。じゃあ、今日のお家デートでは課題を一緒にやろうか』
『うんっ! 賛成!』
『ありがとう』
一緒に課題ができることになって嬉しいな。課題をやりたいって言ってみて良かった。
『千弦は何か一緒にやりたい科目はある?』
『そうだね……数学Bがいいな。一番不安な科目だから』
『了解。午後は数学Bの課題を一緒にやろう』
『うんっ、ありがとう! じゃあ、午後に洋平君の家に行くね!』
『ああ。楽しみにしてる』
『うん。私も楽しみ』
その後も少しメッセージをやり取りして、午後2時頃に千弦が家に来ることに決まった。
午後に千弦と会える予定ができた。会いたいなと思って誘ったのもあり、とても嬉しい。今日のことだけど、カレンダーアプリの今日のところに『千弦とお家デート』という予定を入れた。
休日にいつも昼食を食べる時刻まではまだ時間があるし、昼食までに数学B以外に何か課題をやるか。何の課題をやろうかちょっと迷ったけど、担任の山本先生の科目からやろうと決め、現代文の課題をやり始めた。