第1話『オムライスつくってくれました』
放課後に千弦の家で千弦特製のオムライスを食べたり、お家デートをしたりするという楽しみな予定があるからだろうか。お昼に学校が終わるまであっという間に感じられた。
今週は俺も千弦も掃除当番ではない。なので、終礼が終わるとすぐに教室を後にする。
友達と遊ぶ予定がある星野彩葉さんとは教室の前で、部活がある坂井琢磨、吉岡早希さん、神崎玲央さんとは昇降口の近くでそれぞれ別れた。別れる際、みんなは「デート楽しんで」と言ってくれて。それが嬉しかった。いい友人達だ。
千弦と俺は2人で学校を後にする。今も雨が降っているので、俺の傘で相合い傘をして。
今朝言っていたように、途中、千弦の家の近所にあるスーパーでオムライスに使う鶏肉を購入した。あとは、おやつで食べようということで、クッキーやポテトチップスも。
スーパーを後にして3分ほど歩き、千弦の家に到着した。
「ただいま。……さあ、入って」
「ああ。お邪魔します」
千弦の家にお邪魔する。
これまで、誰もいないときにお邪魔したことは一度だけあった。千弦が俺に素を明かしてくれたときだ。ただ、あのときは千弦と付き合う前だったし、星野さんもいた。千弦と2人きりになのは初めてだし今は恋人同士なので、家に入るとちょっとドキッとした。
お昼時なので、千弦はさっそく調理に取りかかるという。なので、俺達は2階にある千弦の部屋に荷物とスーパーで買ったお菓子を置いて、1階のキッチンへ向かった。
キッチンに行くと、千弦は制服の上から赤いエプロンを身につける。
「今日もエプロン姿似合ってるな。可愛い。制服の上にエプロンっていうのもいいな」
「ふふっ、ありがとう。嬉しい」
「……エプロン姿の写真、撮ってもいいか? パーティーの料理やスイーツを作ったときも写真を撮らせてもらったけど、あのときは私服の上だったし」
「そうだったね。撮っていいよ」
「ありがとう」
その後、俺はスマホで制服の上にエプロン姿という千弦を何枚か撮影した。ニコッと笑ってくれたり、ピースしてくれたりするのでとても可愛く撮ることができた。
「撮らせてくれてありがとう、千弦」
「いえいえ。じゃあ、お昼作りをしていくね」
「ああ。……近くで見ていていいか?」
「もちろん!」
「ありがとう」
それからは千弦がオムライスとサラダ作りをする様子を近くで見ていく。
千弦の誕生日パーティーの料理やスイーツを作ったときにも思ったけど、千弦は慣れた感じで上手だ。
俺と話しながらかもしれないけど、千弦はとても楽しそうに料理をしていて。そんな千弦がとても可愛くて、見惚れる。何度か抱きしめたくなったけど、料理の邪魔をしてはいけないと考えて思いとどまった。包丁を使う場面もあるし。
千弦がチキンライスを作っていると、ケチャップのいい匂いがしてきて。朝食以降、水筒の麦茶しか口にしていないのもあり、かなりお腹が空いてきた。
チキンライスが完成すると、千弦はとても上手に卵に包んでいった。だから、俺は自然と拍手を送っていた。そのことに千弦はとても嬉しそうにしていた。
千弦は卵で包んだオムライスをお皿に乗せる。
「ねえ、洋平君。お互いに相手が食べるオムライスにケチャップをかけない? 洋平君の食べるオムライスに、洋平君が希望する文字とか絵を描きたいなって思ってて」
「おっ、いいなそれ。楽しそうだ。俺も描きたい」
「分かった! ありがとう!」
千弦はニコッとした笑顔でお礼を言った。
「じゃあ、まずは私が洋平君のオムライスに描くね。何を描いてほしい?」
「そうだな……『LOVE』って描いてほしいな。その前と後ろにハートマークも」
「『LOVE』と前後にハートマークだね。了解です」
千弦はケチャップでオムライスに『LOVE』という文字と、その前と後ろにハートマークを描いた。ケチャップで描かれているのでとても可愛い印象だ。
「はいっ、完成」
「上手だな、千弦。可愛く描いてくれたな。ありがとう」
「いえいえ」
ニコニコとした笑顔で千弦は言った。
「よし、今度は俺が描くぞ。千弦、描いてほしい?」
「私も『LOVE』っていう文字を描いてほしいな。ただ、『O』はハートマークで」
「『O』がハートか。可愛い感じがする。了解だ」
俺は千弦が食べるオムライスに、ケチャップで『LOVE』と描いていく。『O』はハートマークで。
普段、オムライスを食べるときはケチャップで文字を描くことは全然ないから、ちょっと緊張する。失敗してしまわないように丁寧に描いていった。
「よし、描けた」
丁寧に描いたのもあって、失敗することなく千弦のリクエストした文字を描くことができた。
千弦はオムライスを見ながら「おぉ」と言い、
「上手だね、洋平君! 可愛く描けてるよ! 『O』の部分のハートが特に可愛いよ! ありがとう!」
千弦は満面の笑顔でお礼を言ってくれた。気に入ってくれて嬉しい。あと、ちょっとほっとしている。
「いえいえ。ちゃんと描けて良かった」
「ふふっ。……食べる前にオムライスの写真撮ろっと。私のはもちろん、洋平君のも撮りたいな。いい?」
「ああ、いいぞ。送ってくれ」
「分かった!」
その後、千弦はスマホで自分のオムライスと俺のオムライスを撮影した。その写真はLIMEで送ってもらった。
写真を撮り終わり、千弦は食卓で配膳していった。配膳までしてもらって有り難い。
俺の前にはオムライスと生野菜サラダ、カップで飲むタイプのインスタントのコンソメスープが置かれる。オムライスはもちろん、サラダやコンソメスープも美味しそうだ。もっとお腹が減ってくる。
配膳が終わって、千弦は俺と向かい合う形で食卓の椅子に座る。
「じゃあ、食べようか!」
「そうだな。どれも美味しそうだ」
「お口に合ったら嬉しいです。いただきます!」
「いただきます」
いよいよ昼食の時間が始まった。
まずは……オムライスだな。俺がリクエストしたメニューだし。
スプーンでオムライスを一口分掬い、口の中に入れる。……千弦にじっと見られながら。自分が作ったから、俺に美味しく食べてもらえるか気になるのだろう。ちょっと緊張した様子になっているし。
オムライスを口の中に入れた瞬間、ケチャップの風味が口の中に広がっていく。噛んでいくと……ケチャップ味のチキンライスの味わいも口の中に広がって。凄く美味しくて、気付けば頬が緩んでいた。
「凄く美味しいな! さっそく、オムライスを食べたいって言って良かったって思うよ」
千弦の目を見ながら、俺はオムライスの感想を伝えた。
「ありがとう! 美味しく作れていて良かった」
千弦は顔に嬉しそうな笑みを浮かべてそう言った。ほっとしたようにも見えて。
千弦はオムライスを一口食べる。美味しくできているからか、千弦は「う~んっ」と可愛い声を漏らしてニッコリとした笑顔に。ほんと、千弦の食べる姿は可愛いな。そう思いながらオムライスをもう一口食べると、さっきよりも美味しく感じられた。
「先週、俺の家でお昼を食べたときにも話題になったけど、一緒に家に帰ってきて、千弦と2人きりしかいない中で、千弦の作ったお昼を食べていると同棲している感じがするな」
「ふふっ、そうだね」
千弦はニコニコとした笑顔でそう言ってくれる。頬をほんのりと赤らめていて可愛らしい。
いつかは、千弦と同棲して、こうして一緒に家で食事をすることが日常の一つにしたいな。
「ねえ、洋平君」
「うん?」
「オムライス……一口ずつ食べさせ合いたいです。いいかな?」
千弦はそんなお願いをしてくる。これまでに一口ずつ食べさせ合うことはたくさんしてきたし、お願いされると思っていたよ。
「ああ、いいぞ」
「ありがとう!」
千弦はニコッとした笑顔でお礼を言った。可愛い。
千弦はオムライスのお皿とスプーンを持って椅子から立ち上がり、俺の隣の椅子まで移動した。食べさせ合いをしやすくするためだろう。
「じゃあ、まずは私から食べさせていいかな?」
「ああ、分かった」
俺は千弦の方に体を向ける。
千弦はスプーンで自分のオムライスを一口分掬って、俺の口元まで運ぶ。
「はい、洋平君。あ~ん」
「あーん」
俺は千弦にオムライスを食べさせてもらう。
千弦にオムライスを食べさせてもらったからだろうか。自分で食べたとき以上に美味しい。
「本当に美味しいよ、千弦。食べさせてくれてありがとう」
「いえいえ!」
「じゃあ、今度は俺が食べさせるよ」
俺はスプーンで自分のオムライスを一口分掬い、千弦の口元まで持っていく。
「はい、千弦。あーん」
「あ~ん」
千弦にオムライスを食べさせる。
食べさせた瞬間、千弦はニコッと笑う。その笑顔のままモグモグ食べていって。自分で食べさせたのもあり、さっき食べた姿以上に可愛くて。
「美味しい。洋平君に食べさせてもらったから凄く美味しい。ありがとう!」
「いえいえ」
千弦が作ってくれたオムライスだけど、自分が食べさせたものを美味しく食べてくれるのは嬉しいものだ。
それからも、千弦との昼食を楽しむ。
ちなみに、サニーレタスやブロッコリー、プチトマトなどの生野菜のサラダは好きなドレッシングをかけて食べる形だ。食卓には和風醤油、イタリアン、ごまダレ、オニオンがある。俺はオニオンドレッシングをかけて食べる。サラダも美味しいな。ちなみに、千弦は和風醤油ドレッシングをかけていた。
コンソメスープも美味しい。今は夏だけど、温かいものを飲むのもいいな。
お昼ご飯はどれも美味しくて。千弦と話しながら食べるのは楽しくて。だから、難なく完食することができた。ごちそうさまでした。