プロローグ『お家デートのお誘い』
特別編
7月16日、火曜日。
俺・白石洋平は夕食を食べ終わり、自分の部屋で昨晩放送されたアニメを観ながらゆっくりしている。すると、
――プルルッ。
ローテーブルに置いてあるスマホが鳴った。
スマホを確認すると、LIMEというSNSアプリを通じて、高校のクラスメイトで恋人の藤原千弦からメッセージが送られてきたと通知が。夜に千弦とメッセージをやり取りすることはよくあり、千弦からメッセージが届いたと通知が来ると嬉しい気持ちになる。
通知をタップすると、千弦との個別トークが開き、
『洋平君。明日の放課後って予定空いてる?』
という千弦からのメッセージが表示された。
明日の放課後か。確か、バイトのシフトは入れてないし、予定はなかったと思う。カレンダーアプリで確認すると……明日は特に予定は入ってないな。
『ああ。特に予定はないよ』
と、千弦にメッセージを送った。
千弦もこのトーク画面を開いているようで、俺が送信したメッセージにはすぐに『既読』マークが付く。
『良かった! 明日の放課後、私の家でお家デートしたいなって思ってて』
『千弦の家でお家デートか。いいぞ』
『ありがとう!』
お家デートは俺達の定番のデートだ。千弦も俺もアニメが好きなのでよく一緒に観る。千弦と2人きりの時間を過ごせるし、一緒にアニメを観るのは楽しいからお家デートは結構好きだ。
『実は明日、お母さんが東京に久しぶりに来た学生時代の友達と会うから、お昼前から夕方まで家には誰もいないの。だから、洋平君とお家デートできたら嬉しいなって思って。先週、洋平君の家で、家に私達しかいないときのお家デートも楽しかったし』
『そういうことか』
先週、夕方まで家に誰もいない日に、千弦とお家デートした。俺がお昼にそうめんを作ったり、俺の部屋でアニメを観たりして。あと、千弦が苦手なクモが出たので退治したっけ。あの日のお家デートも楽しかったな。
ただ、家全体で千弦と2人きりで過ごしたからちょっとドキドキもして。お昼を食べているときに「まるで同棲しているみたい」って会話もして。お家デートは定番だけど、あの日のお家デートはちょっと特別な感じがした。
『あの日のお家デートも楽しかったな』
『楽しかったよね! ……あと、明日のお昼ご飯は私が作りたいな』
『それは有り難い。お願いします』
『うんっ! 何が食べたい? 洋平君の食べたい料理を作るよ!』
『ありがとう。ちょっと考えさせて』
『分かった。何でもいいからね!』
何でもいいのか。好きな料理はたくさんあるから迷うなぁ。それに、千弦は料理上手だし。玉子焼きなど一口交換でもらうお弁当のおかずとか、先週末に開催された千弦の誕生日パーティーで出された料理とかも美味しかったし。あと、先月に千弦の家で食べた冷やし中華に入っていた錦糸卵も美味しかったな。
少し考え、
『オムライスを食べたいな』
と、千弦にメッセージを送った。
『オムライスね!』
『ああ。オムライスが好きでさ。あと、これまで千弦に作ってもらったものを思い出したら、特に玉子焼きが美味しかったから。だから、卵を使った料理でオムライスがいいなって思ったんだ』
『なるほどね。じゃあ、明日はオムライスを作るね』
『ありがとう』
千弦特製のオムライス……楽しみだし期待大だ。
『オムライスに関してリクエストはある? 例えば、ケチャップを使ったオーソドックスなオムライスがいいとか、デミグラスソースを使ってほしいとか』
『ケチャップを使ったオーソドックスなオムライスを食べたいな。デミグラスソースがかかっているのも好きだけど』
『そうなんだ。ケチャップを使ったオムライス、了解です!』
そんなメッセージの後に、『分かった!』という文字付きの三毛猫のイラストスランプを送ってきた。可愛いスタンプだ。ちなみに、千弦はたまに、猫やお互いに好きなアニメのスタンプを送ることがある。
『オムライスを作るから、付け合わせに生野菜のサラダを作ろうかな。洋平君って嫌いな野菜はある?』
『特にないよ』
『特になしね。了解です!』
というメッセージの後、再び『分かった!』という文字付きの三毛猫スタンプが送られてきた。可愛いな。
『明日の放課後が物凄く楽しみだ。お家デートするだけじゃなくて、千弦特製のオムライスを食べられるから』
『ふふっ。私も物凄く楽しみだよ。一緒に楽しく過ごそうね!』
『そうだな!』
明日も楽しいお家デートにしたい。それに、夕方までは千弦の家は千弦と俺以外は誰もいないから、千弦と色々なことをしたいなと思っている。
それから少しの間、今日の学校のことや最近読んだ漫画のことなどで、千弦とメッセージし合ったのであった。
「いってきます、母さん」
「いってらっしゃい」
7月17日、水曜日。
午前7時50分。
俺は通っている東京都立洲中高等学校に向けて家を出発する。
今もまだ梅雨で、今日も朝から雨が降っていて蒸し暑い。
ただ、朝ご飯を食べる前に観た天気予報によると、雨が降るのは明日までで、明後日以降は晴れが続くという。これなら、梅雨明けは明後日になりそうかな。
数分ほど歩くと、千弦との待ち合わせ場所である洲中駅前の交差点が見えてきた。そこには――。
「洋平君!」
水色の傘を差す千弦がこちらに向けて手を振ってきた。千弦は待つのが好きで、今のように千弦の方が待っていることが多い。
千弦、と名前を呼んで手を振りながら、俺は千弦のところへ向かった。
「おはよう、洋平君」
「おはよう、千弦」
「うんっ。今日もお邪魔するね」
「どうぞ」
俺がそう言うと、千弦は自分の傘を閉じて、俺の傘の中に入ってくる。その際におはようのキスをしてきて。これが、朝から雨が降っている日に待ち合わせをしたときの恒例の流れだ。個人的にはこの一連の流れが結構好きだ。
数秒ほどして、千弦の方から唇を離す。すると、目の前にはニコッと笑う千弦の可愛い笑顔があって。キスして千弦の笑顔を見られるので幸せな気持ちになれる。
傘の柄を持つ俺の手を千弦が掴んだ直後、学校の方へ向かう信号が青になった。なので、俺達は学校に向かって歩き始めた。
「千弦がお昼を作ってくれて、デートをするから、今日の学校はいつも以上に頑張れそうだ」
「ふふっ。そう言ってくれて嬉しいな。私もいつも以上に頑張れそう」
「そうか。嬉しいよ。……あと、誘ってくれてありがとう」
「いえいえ。洋平君の予定が空いてて良かったよ。あと、うちに帰る途中で、近所のスーパーに寄らせて。オムライスに使う鶏肉を買いたいから」
「了解だ」
それからも千弦と談笑しながら学校に向かって歩いていく。
今日は放課後にお昼ご飯を作って、お家デートをするからだろうか。千弦は上機嫌で。そんな千弦がいつも以上に可愛かった。
初めての特別編がスタートしました! 全15話~20話ほどになる予定です。
1日1話ずつ公開していく予定です。よろしくお願いします。