第45話『楽しくて盛りだくさんな2日間だった。』
ゆっくりと入浴したのもあり、お風呂を出たときには果穂さんが起きていた。2人でお風呂に入ったことを伝えると、
「一緒に入ったのね。お泊まりして2人はもっとラブラブになったのねっ」
と、果穂さんはニコニコとした笑顔で言った。昨日の夜は別々にお風呂に入ったから、果穂さんが「もっとラブラブになった」と言うのも納得だ。
「うんっ。洋平君と一緒に楽しくて素敵な夜を過ごして、もっとラブラブになったよ」
千弦は頬をほんのりと赤らめつつも、ニッコリとした笑顔でそう言った。
「そうだな、千弦。千弦と一緒に楽しくて素敵な時間を過ごせました。そのおかげで、今まで以上にラブラブになれました」
と、千弦と同じことを言った。
「そうなのね。良かったわ」
と、果穂さんは嬉しそうに言った。
どんな風に過ごしたのか詳しく訊かれるかもしれないと思ったけど、果穂さんは何も訊いてこなかった。楽しくて素敵な夜を過ごせたと分かったから、詳しい内容までは訊かないのだろうか。今朝は一緒にお風呂に入ったり、今まで以上にラブラブになれたと言ったりしたことで、俺達が昨日の夜に何をしていたのか気付いているかもしれないけど。果穂さん、とてもいい笑顔で俺達のことを見ているし。
「恋人とお風呂かぁ。私も高校時代にお父さんとお泊まりしたときは、お父さんと一緒にお風呂に入ったわぁ。今でもたまに一緒に入るけどね」
うふふっ、と果穂さんは声に出して笑う。孝史さんと一緒にお風呂に入ったときのことを思い出しているのか、果穂さんはうっとりとした笑顔になっていて。孝史さんのことが大好きなのがよく伝わってくる。
「さてと、お母さんはこれから朝ご飯を作るわ。できたら呼ぶね」
「うん、分かった」
「分かりました」
その後、千弦と俺は千弦の部屋に戻る。ドライヤーで髪を乾かしたり、千弦はスキンケアもしたりした。
30分ほどして、果穂さんから「朝ご飯できたよ」と呼ばれたので、朝ご飯を食べることに。孝史さんも起きていたので、果穂さんが作ってくれた朝ご飯を4人で一緒にいただいた。和風の朝ご飯でとても美味しかった。
朝食を食べて少し食休みした後に、誕生日パーティー仕様にしていたリビングの後片付けをした。4人でやるし、ソファーを動かすなどの力仕事は俺と孝史さん、飾りを外すのは千弦と果穂さんと役割分担したのもあり、元のリビングに戻すまではそこまで時間はかからなかった。
後片付けが終わり、俺と千弦は千弦の部屋でゆっくりと過ごすことに。千弦の提案で、昨日、千弦の誕生日プレゼントで俺の両親からもらったインスタントのアイスコーヒーを飲みながら。
「あぁ、美味しい。ゾソールのアイスコーヒーは美味しいね!」
「美味しいよな。俺の分までインスタントコーヒーを淹れてくれてありがとう」
「いえいえ。大好きなコーヒーを洋平君と一緒に飲みたかったから」
千弦は明るい笑顔でそう言ってくれる。本当に千弦は優しい恋人だな。そう思いながらコーヒーをもう一口飲むと、さっきよりも美味しく感じられた。
千弦は笑顔で俺のことを見ているけど、視線が俺の顔よりも下の方に向いている。おそらく、俺が付けているペアネックレスを見ているのだろう。ちなみに、千弦もペアネックレスを付けている。よく似合っているな。ノースリーブの縦ニットとも合っているし。……あと、千弦に腋が好きだと指摘されたのもあり、たまに見える千弦の腋を見てしまう。綺麗でいいな、うん。
「洋平君。ペアネックレスよく似合ってるよ」
「ありがとう。千弦もよく似合っているよ」
「ありがとう! 本当に素敵なペアネックレスだよね。それに、洋平君とお揃いのものを身につけられるのって嬉しい。今後も、休日のデートやお泊まりのときには付けるね」
「ああ。俺も付ける」
「うんっ」
千弦はとても嬉しそうに頷いた。
「改めて、ペアネックレスをプレゼントしてくれてありがとう!」
千弦は満面の笑顔でお礼を言った。
ペアネックレスをこんなに喜んでくれるとは。本当に嬉しい。ペアネックレスを誕生日プレゼントに選んで本当に良かった。あと、今から来年の18歳の誕生日プレゼントを何にするか考えたくなるよ。
「洋平君。コーヒーを飲みながら、昨日の夜に録画したアニメを観ようよ」
「ああ、観ようぜ」
「うんっ。昨日リアルタイムで観たアニメもまた観たいな。かなり面白かったし」
「おっ、いいな。俺も面白い話は何度も観るし」
「私もだよ。じゃあ、観よっか!」
「ああ」
それからは千弦と一緒に昨日放送されたアニメを観た。2作品あったけど、どちらもとても面白かった。
その後は2人とも好きなアニメや、猫のドキュメンタリー番組を観て、夕方まで一緒に過ごした。お昼ご飯に、果穂さんと孝史さんが作ってくださった醤油ラーメンを食べて。ラーメン、美味しかったな。
とても楽しかったのもあり、夕方になるまではあっという間だった。
「じゃあ、俺はこれで帰ります。昨日の朝からずっと楽しく過ごせました。お世話になりました」
午後6時過ぎ。
帰宅するので、俺は玄関で藤原家のみなさんにそう挨拶した。
「洋平君と一緒にいられて楽しかったし、嬉しかったよ。誕生日パーティーをして、初めてお泊まりもできたし」
「千弦、本当に楽しそうだったものね。お母さんも楽しかったわ。白石君、またいつでもお家デートに来たり、お泊まりしに来たりしてね」
「父さんも楽しかったよ。白石君、いつでもデートで来たり、泊まりに来たりしていいよ。歓迎するよ」
千弦だけでなく、果穂さんと孝史さんも笑顔でそう言ってくださる。そのことがとても嬉しいし、そう言ってもらえるような時間を藤原家で過ごせて良かったなって思う。
「ありがとうございます。デートやお泊まりでまた来ますね。これで失礼します」
「途中まで送っていくよ、洋平君」
「ありがとう。じゃあ、洲中駅の北口まで送ってもらおうかな」
「うんっ」
俺は千弦と一緒に藤原家を後にする。
今も雨が降っているので、洲中駅の北口までは俺の傘で相合い傘をすることになった。いつもの通り、傘の柄を掴む俺の手を千弦が握って。
「昨日の朝からずっと楽しかったよ、洋平君」
「俺もだ。お家デートしたり、千弦の誕生日パーティーの準備をしたり、パーティーしたり、お泊まりしたり。お泊まり中は……千弦と恋人としての段階を先に進められたし」
「そうだね。楽しくて盛りだくさんな2日間だったね」
「ああ。楽しくて盛りだくさんだったから、昨日の午前中に千弦の家にお邪魔したのが結構前のことのように思える」
「分かる。そういった2日間を洋平君と一緒に過ごせて本当に嬉しいよ」
「俺もだ」
盛りだくさんだったのはもちろん、初めて千弦の誕生日を祝って、初めてお泊まりして、初めて最後までして、初めて一緒にお風呂に入って……と、初めてづくしだったのもあり、思い出深い2日間になった。
それからも昨日や今日のことを話しながら千弦と一緒に洲中駅の北口に向かって歩いていく。ただ、話すのが楽しいから、北口に到着するまではあっという間だった。
「送ってくれてありがとう、千弦」
「いえいえ。送ることができて嬉しいよ。少しでも長く一緒にいたかったし、相合い傘をしたかったからね」
「そうか。俺も相合い傘をして、ここまで千弦と一緒に来られて嬉しかったよ」
「良かった。……別れる前にキスをしてもいい?」
「いいぞ」
「ありがとう」
千弦はニコッとした笑顔でお礼を言うと、俺にキスしてきた。
昨日、千弦の家に行ってから数え切れないほどにたくさんした。それも、千弦とするキスはとても心地良くて、幸せな気持ちをもたらしてくれる。
数秒ほどして、千弦の方から唇を離した。目の前には千弦の可愛らしい笑顔があって。
「ありがとう、洋平君」
「いえいえ。じゃあ、またな、千弦」
「うんっ。明日はバイトなんだよね」
「ああ。明日は午前10時から午後6時まで長めにシフトを入る予定になってる」
「そっか。分かった。明日、彩葉ちゃんと一緒に行こうかな」
「ああ、いいぞ。ご来店をお待ちしています」
「うんっ。じゃあ、またね」
「またな」
俺は千弦と別れて、一人で自宅に向かって歩いていく。
一人で帰るのはちょっと寂しく感じた。ただ、それは昨日の午前中からずっと千弦と一緒にいて、楽しい時間を過ごせたからだろう。そう思うと、この寂しい感覚も悪くないと思えた。
帰宅すると、すぐに両親と結菜から「お泊まり楽しかった?」と訊かれた。凄く楽しかったよ、と伝えると3人とも「良かったね」と言ってくれて。
千弦と一緒に誕生日のアイスコーヒーを美味しく飲んだと伝えると、両親はとても嬉しそうにしていた。その姿を見て俺も嬉しい気持ちになった。
夜にはパーティーに参加した8人がメンバーのグループトークに、星野さんや神崎さん、吉岡さん、琢磨、山本先生から「お泊まりどうだった?」とメッセージが届いて。みんな、パーティーから変えるときに「お泊まり楽しんで」と言っていたので、どうだったのか気になったのだろう。
千弦と俺が「凄く楽しかった!」と返信すると、みんなは「それは良かった!」と返信してくれて。そのことがとても嬉しかった。
翌日はシフト通りに午前10時から午後6時まで、ゾソールでバイトをした。
いつもの休日よりも長めのシフトだけど、土日は千弦の家で楽しい時間を過ごせたし、昼過ぎには、
「洋平君、来たよ! バイトお疲れ様!」
「バイトお疲れ様、白石君」
と、千弦と星野さんが来てくれたし。それもあり、8時間のバイトを難なくこなせたのであった。